あなたの傍に……

麻沙綺

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本編

42話 優兄の悩み

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  翌朝。
  私は、朝からバタバタと慌ただしくしていた。
  昨日の夜送辞の言葉を考えていたら、寝るのが遅くなっちゃった。それと  昨日、バイトに入って無かった分、今日は朝から一日入らないといけないのをすっかり忘れていたのだ。
「詩織。朝御飯食べてから、行きなさい。」
  お母さんに言われて、時間もないのにご飯を食べる。
  そこへ護が入って来た。
「何慌ててるんだ?」
「おはよう。うん、バイトの時間に遅れそうなの。それより、足は大丈夫?」
「なんとか、腫れは引いたんだがなぁ、痛みがとれないんだ。」
  それは、おかしいのでは?
「護君もご飯食べる?」
「はい、頂きます。」
「詩織。ゆっくり食べてる時間無いでしょ。」
  お母さんに言われて、時計に目をやる。
  八時半を回っていた。
  九時からなのに……。
  もう、どうしてこうなっちゃうかなぁ。
「ごちそうさま。」
  私は、手を合わせてから、食器を流しに片付ける。
  横に置いておいた鞄を掴む。
「行ってきまーす。」
  お母さんと護に言う。

  玄関を出ると、ダッシュでお店に向かった。


  何とか間に合い、制服に着替えて、髪を纏めて、フロアーに出る。
「おはようございます。」
「おはよう。今日もよろしくな。」
  店長に言われて。
「はい、頑張ります!」
  気合いをいれて、返事を返した。

  ホールに出ると、流石に日曜日って事もあって、朝から家族連れが多い。

  店の入り口が開く。

「いらっしゃいませ、何名様ですか?」
  営業スマイルで、しっかり対応する。
「三人です。」
「お煙草は吸われますか?」
「はい」

  私は、目で喫煙席を見る。
  一ヶ所だけ空いているのが見えたので。
「お席にご案内します」
  席に案内する。
「ご注文が決まりましたら、ブザーでお知らせ下さい。」
  私は、言い終わってから頭を下げて、席を離れる。
  それからは、引きりなしにお客が入れ替わって、一日動き回った。

  今日は、昨日入らなかった事で、時間は遅めに終わる事になる。
  19時にバイトを終えて、帰り支度を始めた。
  そこに店長が入ってきて。
「水沢さん。悪いけど平日も二時間ぐらいは入れないかなぁ。」
  って言われて。
「少し、考えさせてください。」
  って、答える事しか出来なかった。
「いい結果を期待してるよ。」
  店長に言われるが、私は困った。
  三月末までの期間だし……。
  あと一ヶ月を平日に二時間入るとなると……。

  私の体、もつのかなぁ……。

  考えながら歩いていたから。
「おーい、詩織。どうしたんだ? オレにも気付かないなんて、珍しいな。」
  護の声が背後からして私は、振り返った。
  護の存在に気付かずに通り過ぎていたようだ。
「護。どうしよう?」
  って、口にしていた。
「何があった?」
  護が優しく聞いてくれる。
「店長が “平日も二時間でいいから、入って欲しい“ って言われたの。」
  私が言うと。
「そっか……。多分、詩織が頑張ってくれてるから、入れたいのと、捌くのが上手いからだと思うけど……。」
  護は、納得しているみだけど。
「でも、春休み中ならいざ知らず、学校のある時は厳しいよ」
  私の戸惑いに。
「学校を早く出ても七時から九時だよなぁ。」
  護も一緒になって考えてくれる。
  生徒会の仕事が、その時間に終わるとは限らない。

  ハァ~…。
「やってみればいいじゃん。それから答えを出せば。」
  って、護が言う。
「でも……。」
  言い淀む私に。
「自信がないのか?」
  護が煽るように言う。
「そうじゃないの。何かあった時に、迷惑かけちゃわないかが心配なわけ。」
「詩織は、心配しすぎ。やってみないとわからないって。」
  護が、私の背中を押すように言う。
「そうだね……。何事にも挑戦しないとね。」
  私が、吹っ切れたように言うと。
「そうだぞ。挑戦せずに悩んでるなんて、もったいない。やってから、考えたっていいんだからな。」
  護のたきつけるような言葉に、私は。
「じゃあ、明日から、やってみようかな。」
  私は、決意を固めた。
「送り迎えは、オレがしてやるから安心しなさい。」
  護が、私の頭を撫でる。
「ところで、今日は優兄が迎えに来るはずだったんじゃ?」
  私が言うと。
「オレが、変わってもらったんだ。」
  護が言うから。
「足、怪我してるのに? 無理して此処まで来たんじゃないでしょうね。」
  私が疑念を持った目で訴えるように言うと。
「無理はしてない。今は、痛み止が効いてるから大丈夫だ。」
  って、笑ってるけど……。
「あんまり、無理しないでね。私は、サッカーしてる護が凄く好きなんだからね。これ以上、足に負担かけないでよね。」
「わかってる。オレもサッカーは好きだしな。」
  護の大きくて、暖かい手が私の手を握る。
「迎えに来てくれて、ありがとう。」
「それが、オレの役目だからな。…役目じゃなくて、オレが一緒に居たいから……。」
  照れながら、言う護。
「うん。私も、一緒だよ。護と、少しでも一緒に居たいって思う。」
  私は、護の顔を覗き込む。
「よかった…。」
  ホットしてる護が居る。
「どうかしたの?」
「実は、昨日。珍しく優基が、オレに相談してきたんだ。」
  エッ…。
  優兄が?
  人に相談するなんて珍しい。
「里沙ちゃんの事でさ。」
  里沙の事?
  一体どう言う事なんだろう?
「詩織は、知ってるかな?  優基の夢」
  唐突に言い出す護。
「夢?」
  私は、首を振って知らないと伝える。
  私は、聞いた事無いけど……。
「うん。あいつ、シンガーソングライターを目指してるんだよ。だから、大学も音大にしてて、そこで四年間勉強するつもりで頑張ってきたんだが、学校が遠いからって、一人暮らしするんだと。で、勉強に打ち込みたいからって、里沙ちゃんと話し合いしてるんだけど、彼女が納得してくれないみたいでさ。詩織からも里沙ちゃんに言って欲しいんだ。」
  護の口から、初めて優兄の夢を聞いた。
  だけどこれは、当人同士で決めないといけない事だから、私が口を出す必要ないと思う。
  でも、今一言だけ言える。
「今は、そっとしておこう。里沙は、優兄の事一番考えてるはずだから……。優兄の夢を応援してる筈だし、今はどうしたらいいのか、模索中だと思う。」
「何で、そんなに冷たく言えるんだ?」
  私が他人事のように言うからか、苛立ってるのがわかる。
「だって、里沙も夢を持ってるもの。だから、優兄の気持ちは一番わかってる筈だよ。だから、今、葛藤してると思う。それに、どうしても無理な時は、私に相談しに来るから……。」
「そうなのか? ほっといても大丈夫なのか?」
  護の心配そうな声に。
「うん、大丈夫だよ。私と里沙の間には、目に見えない絆があるからね。」
  安心させるように言う。
  里沙は基本的に何でも話してくれるから、パンクする前には相談してくると思うんだ。
「そうか。なら優基には、何て言えばいいんだ?」
  ホッとした顔をしながら聞いてくる。
「時間が、解決してくれるって言っておけば。」
「そうだな。」

  手を繋ぎながら、歩く帰り道。

  春の気配が、そこまで来ていた。










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