あなたの傍に……

麻沙綺

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本編

41話 挨拶文

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  自分の部屋で、卒業式の在校生祝辞を考える。
  どうしようかな…。
   長文は、苦手なんだよね。
  でも、感動できる台詞があった方がいいよね。
  うーん。

  “在校生祝辞
  卒業生の皆さん、ご卒業おめでとうございます。
  高校生活の中で、色々な事があったと思います。
  私達在校生一同は、卒業生の皆様が築き上げた集積を残しつつ、新たな集積を築き上げていきたいと思います。
  卒業生の皆様が、これから羽ばたかれるの事を願いつつ、祝辞とさせて頂きます。
  在校生代表 水沢詩織“

  こんなんでいいのかな……。
  私が悩んでると。

  コンコン。

  ドアが、ノックされる。
「はい。」
  私が返事をすると、ドアが開く。
「詩織、何してるんだ?」
  優兄が、覗き込んでくる。
  私は、慌てて隠したが。
「何を隠したんだ?」
  って、怪訝そうに言う、優兄。
「何でも無いってば。それより、何か用?」
「あぁ、母さんが、風呂に入っちゃえってさ。」
「わかった。」
  私は、椅子から立ち上がると、入浴の準備をしだした。
  その間に優兄が、私が隠していたのを見いっていた。
「あっ!」
  私は、慌てて隠したが遅かった。
「見たよね……。」
  私は、恐る恐る優兄を見る。
「ああ、在校生代表の挨拶するの詩織なんだな。」
「これでも、生徒会長ですからね。考えなきゃいけないんだけど、今書いたのに修正しながら、清書に持って行くつもりなんだけど……。」
  私が言うと。
「ふーん、お前さ。情緒をもう少し入れないと、親達を感動させられないぞ。」
  優兄が言う。
「そんな事、わかってる。何となく書き出しただけだから……。これから、足したり引いたりしてくって、さっきも言ったよ!」
「そうだっけ?」
  惚けるように言う。
  人の話聞いてないんだから……。
「ならいいが……。」
  そう言って、部屋を出て行った。
  やっぱり、変だよ。

  お風呂に入って、さっぱりしてから、考えよう。

  私は、着替えを持って、風呂場に向かった。



  私が、脱衣所に入ると既に誰かが入っていた。
  誰だろう?
  私は、磨りガラスの入り口をノックする。
  コンコン……。
「はい?」
  中からは、護の声が……。
  エッ……。
  嘘……。
  何で、護が入ってるの?

  優兄に言われて来てみたら、護が入ってるなんて……。
  私は、慌てて着替えを持って、脱衣所を出た。

  ハァー…。

  ビックリした。
  流石に一緒に入るわけにはいかないもんね。
  とりあえず、その場を離れる。
  少し時間をずらして、入る事にした。



  お風呂から上がると、自分の部屋で改めて、文章を考える。

  “在校生祝辞
  卒業生の皆様、ご卒業おめでとうございます。
  高校生活の中で、様々な出来事があったと思います。
  それは、一つの通過点として、新たな道筋がこれから開かれようとしている今、桜の蕾と共に、希望への道へ続いていることでしょう。
  在校生一同、先輩方が築き上げてきた歴史に恥じぬよう、精一杯頑張って行きます。
  在校生代表 水沢詩織“

  こんな感じかな?

  そうだ、お母さんに相談してみよう。
  私は、今書き上げたのを手にして下におりた。
  そこで、護に出くわして。
「わーっ。」
  私は、慌てて原稿を隠す。
  流石に、今は見せられない。
「今、何か隠さなかったか?」
「何でもないよ。」
  私は、慌ててごまかす。
「嘘だ!」
  護が、無理矢理腕を掴んで取ろうとする。
  私は、素直に話す事にした。
「ごめん。実は、在校生挨拶を考えてたんだ。だから、今護に見せるわけにはいかないよ。」
「エッ……。詩織が、代表なのか?」
  護が、驚いている。
  さっきの優兄と同じ反応。
  あれ、挨拶って、毎年生徒会長がするんだよね。
  確か、申し送りにも書いてあったよ。
「うん。毎年、生徒会長が行っているみたいだよ。」
  そう言うと。
「それじゃあ……、仕方ないか……。じゃあ、お休み。」
  護の顔色が、曇っていくのがわかった。

  どうかしたのかな?

「お休み。」
  私は、護の背中を見送って、リビングに行く。
「お母さん。これ見て欲しいんだけど……。」
  リビングで寛いでいたお母さんに、さっき書き出した挨拶文を見てもらう。
「そっか。在校生代表挨拶か……。懐かしいなぁ……。お母さんもやったわ。」
  そう言いながら、お母さんが私の書いた原稿に目を通す。
「そうだね。長くもなく短くもなくていいんじゃないかな。けど、もう少し言葉を捻ってみたら…。例えば “様々な出来事を“ のところを “喜び、怒り、悲しみ、楽しみがあったと思います“ に変えるだけで、印象が違うでしょ。そこに “また、様々な壁を乗り越えてきた皆様にとっても、力になったことでしょう“ と付け足してみたらどう?」
  私は、お母さんに指摘されたところを変えて読んでみる。
「本当だ。さっきより優しくなって、より一層喜びが増した。」
  私が、感動してる横でお母さんが。
「でしょ。詩織の写真も撮らないと。」
  って、嬉しそうに言う。
「何で? 主役は、優兄じゃんか。」
  私が聞くと。
「そうだけど、詩織は、ステージに上がって挨拶するんだから、記念に撮っておかないとね。」
  笑顔のまま言うお母さんに。
「どうして?」
「いい思いでになるからね。」
  お母さんの意味深な言葉。
「そうかな……。」
「そうだよ。お母さんもあるんだよ。おばあちゃんが撮ってくれたんだ。それを見る度に “ああ、私もこんな事やってたんだなぁ“ って振り返ることが出来るからね。」
  お母さんが、優しく言う。
「だから、撮っておくね。せっかくの晴れ舞台なんだからね。」
「ありがとう。」
「さぁ、もう寝なさい。清書は明日にすればいいでしょ。」
「うん。お休みなさい。」
  私は、お母さんに挨拶すると自分の部屋に戻って、寝る事にした。









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