あなたの傍に……

麻沙綺

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本編

35話 彼の優しさ

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  暫くして、護が生徒会室まで、迎えに来てくれた。
「どうした? そんな所に座り込んで。」
  護が、心配そうに屈み込んでくる。
「何でも……。」
  顔を上げようとし、気が付いた。
  自分の頬を伝う、涙。
  私は、それを見られたくなくて、慌てて涙を拭おうとしたが、その腕を護に遮られる。
「どうしたんだ? 何があった?」
  私の涙を見て、護が慌てる。
「何でも……無い……。」
  そう言って、無理に笑顔を作る。
  彼に心配させたくなくてそう口にしたのだけど……。
「何でもないって顔じゃない。オレに言えない事か?」
  護の優しい声音と少し苛立った顔。
  それでも私は、答える事が出来ない。
  話してしまえば、楽になれるのかもしれない。
  でも、それを話してしまったら、護に心配をかけてしまう。
  だから、言えずにいた。
「詩織。隠し事は、無しだろ?」
  私の頬に手をやりながら言う護。
「……う、うん。でも、これは、もう少し後で、ちゃんと話すから……。」
  私の心の整理がついていないのに、話したらグチャグチャになっちゃうよ。
「…そ、わかった。詩織がそう言うなら、オレは待つ。だが、なるべく早くしてくれよ。なんとなく原因は把握できてるから。」
  護がそっと抱き締めてくれる。
  あっ……。
  そうだよね、彼と生徒会室付近ですれ違えば何と無く察する事は出来るよね。
「うん……。ごめんね……。」
  私は、そう言うのがやっとだった。

「ほら、帰るぞ。」
  私が落ち着いた頃を見計らって、護が言う。
「うん。」
  護が、手を差し延べてくれる。
  その手をとる。
  鞄を掴んで、生徒会室を出て、鍵を閉める。
  二人で、並んで職員室に鍵を返す。

「詩織、大丈夫か?」
  護が、私の顔を覗き込見ながら目許を擦ってくる。
  赤くなってるんだろうと思うが……。
「何が?」
  って、聞き返した。
「さっきの気にしてるのか?」
  護の優しさに私の胸が、熱くなる。
  どうしよう……。
  こんなに心配させてるんだから、話した方がいいよね。
  私が、決意を決めていると。
「詩織、久しぶりにデートしようぜ!」
  護が、明るい声で言う。
  それに一瞬ポカンとし、我に返り申し訳なさ気に。
「ごめん。明日も学校なんだ。」
  そう口にした。
「はっ? 明日は、休みだろ? 何で……。」
  護が、がっかりしてる。
  あからさまにされて、私も出来たらいいなとは思ってたんだけどね。受験が終わったらデートする約束は、してたけど……。
  こんな事護に言ったら怒ると思うけど、言わないと納得もしてくれない。だから。
「実は、サッカー部の練習試合の応援要請が入ってて、どうしても出ないといけないんだよね。」
  私が答えると。
「アイツら、わざわざ生徒会に頼んだのか……。」
  護が、絶句してる。
  まぁ、後輩の事だもんね。
「わかった、オレも行くよ。先輩として応援にな。」
  護が、私の頭を軽く叩く。
「ありがとう、護。」
  私は、明日も一緒に居れる事が嬉しくて思わず護の頬に口付けをする。
「だから、不意打ちは駄目だって……。」
  護の頬が、赤く染まっていく。
「だって、嬉しいんだもん。デートは無理でも、護と一緒に居られるんだから……。」
「じゃあ、試合が終わってから、デートするか?」
  護が、提案してきた。
「うん、したい。制服デートって、初めてだもん。」
  私の声も弾む。
「そっだな。制服でのデートって、何気に初だな。」
  考え深げに言う護。
「いつも帰りが遅いから、寄り道した事無いもん。だから、逆に楽しみになってきた」
  私は、自然と笑顔を浮かべてた。
「バイトは、大丈夫なのか?」
「うん。明日は休みなんだ。」
  笑みを浮かべながら言う。
「そうか……。じゃあ、明日、オレも楽しみにしておこうかな」
  護が、私の肩を抱き寄せて言う。
「うん。」
「明日の試合、何時から?」
「九時からだって。」
「じゃあ、八時二十分ぐらいに迎えに来るから。」
「わかった。」
「じゃあ、明日な。」
  軽く唇を重ねて、護は帰って行った。



「ただいま。」
  私が、玄関を開けて中に入ると。
「詩織、よかったな。第一条件を無事に突破して……。」
  隆兄が言ってきた。
「うん。」
「これで、護も俺の後輩兼、義弟おとうとと確定だな。」
  隆兄も心なしか嬉しそうに言う。
「余り、虐めないでよ。」
  私が釘を刺すと。
「わかってるって」
  隆兄が、苦笑する。
「ところで、隆兄。連れてって欲しいところがあるんだけど……。」
  私は、隆兄に甘えてみる。
「どうしたんだ?」
  怪訝そうな顔をする、隆兄。
「明日、バレンタインでしょ、だから……。」
  隆兄は、私が言いたいことがわかったらしく。
「わかった。で、何処に行けばいいんだ?」
  聞いてくれて。
「駅前のデパート。」
  私は直ぐに答える。
「さっさと行くぞ」
  隆兄は、車の鍵を持って玄関を出る。
  私は、その後を追う様にして家を出た。




  本当は、手作りチョコを渡したかったんだけど、作ってる余裕がないので、買う事にした。
  それは、建前で本当は、上手く作れる自信が、無かっただけ。
  流石に時間が遅いので、チョコも残り少なかった。

  どうしよう。
  種類が無い。
  それでも、この中から、護に見合うチョコを探す。
  その間、隆兄は、違う所で待っててもらってる。
  早く、決めないと……。
  と思った時だった。

  色とりどりの一口サイズのチョコを見つけて、それを手に取る。
  後は、兄達の分と生徒会メンバーの分。
  そして、両親の分……。
  あっ、護のお義父さんの分もいるよね。
  何だかんだで、十五個のチョコを買った。
「お待たせ、隆兄。」
  隆兄に声を掛ける。
  私の手荷物を見て。
「随分と、買い込んだんだな。」
  呆れ顔の隆兄。
「生徒会メンバーの分だよ。」
  私が言うと、隆兄が苦笑する。
「ほら、持ってやるよ。」
  隆兄が、手を出してくる。
「ありがとう」
  こういう所、メチャ優しいんだよね。
  チョコと一緒にメッセージカードも買ったし。
  買い忘れ、無いよね。
「もういいのか?」
「うん」
「じゃあ、帰るか……。」
  隆兄が、笑顔で言う。

「隆兄、ありがとうね。」
  帰りの車の中で、お礼を言う。
「気にするな。こんな時間に妹を一人で行かせられるわけ無いだろ。」
  隆兄の優しい声。
「よかったな。チョコ残ってて。」
「うん。護、喜んでくれるといいんだけど……。」
「大丈夫。詩織が一生懸命に選んだものだから、きっと気に入ってくれるさ。」
  隆兄の一言で、安心してる自分が居る。
「隆兄が居てくれてよかった。」
  そう呟くと。
「何か言ったか?」
  聞こえてなかったんだ。
「何でもない。」
  ごまかすように言った。



  自分の部屋に戻ると、カードにメッセージを書いていく。

  チョコと、メッセージカードを一緒に個別に入れていく。
  護と生徒会メンバー、護のお義父さん宛のは、鞄に忍ばせる。
  兄達と両親のは、机の上に置いた。
  兄達には、朝渡せばいいかな。
  両親には、夕飯時にでも……。
「詩織。ご飯だよ。」
  下から、お母さんの声。
「はーい。」
  私は、部屋を出て、夕食を食べに向かった。





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