36 / 47
本編
35話 彼の優しさ
しおりを挟む暫くして、護が生徒会室まで、迎えに来てくれた。
「どうした? そんな所に座り込んで。」
護が、心配そうに屈み込んでくる。
「何でも……。」
顔を上げようとし、気が付いた。
自分の頬を伝う、涙。
私は、それを見られたくなくて、慌てて涙を拭おうとしたが、その腕を護に遮られる。
「どうしたんだ? 何があった?」
私の涙を見て、護が慌てる。
「何でも……無い……。」
そう言って、無理に笑顔を作る。
彼に心配させたくなくてそう口にしたのだけど……。
「何でもないって顔じゃない。オレに言えない事か?」
護の優しい声音と少し苛立った顔。
それでも私は、答える事が出来ない。
話してしまえば、楽になれるのかもしれない。
でも、それを話してしまったら、護に心配をかけてしまう。
だから、言えずにいた。
「詩織。隠し事は、無しだろ?」
私の頬に手をやりながら言う護。
「……う、うん。でも、これは、もう少し後で、ちゃんと話すから……。」
私の心の整理がついていないのに、話したらグチャグチャになっちゃうよ。
「…そ、わかった。詩織がそう言うなら、オレは待つ。だが、なるべく早くしてくれよ。なんとなく原因は把握できてるから。」
護がそっと抱き締めてくれる。
あっ……。
そうだよね、彼と生徒会室付近ですれ違えば何と無く察する事は出来るよね。
「うん……。ごめんね……。」
私は、そう言うのがやっとだった。
「ほら、帰るぞ。」
私が落ち着いた頃を見計らって、護が言う。
「うん。」
護が、手を差し延べてくれる。
その手をとる。
鞄を掴んで、生徒会室を出て、鍵を閉める。
二人で、並んで職員室に鍵を返す。
「詩織、大丈夫か?」
護が、私の顔を覗き込見ながら目許を擦ってくる。
赤くなってるんだろうと思うが……。
「何が?」
って、聞き返した。
「さっきの気にしてるのか?」
護の優しさに私の胸が、熱くなる。
どうしよう……。
こんなに心配させてるんだから、話した方がいいよね。
私が、決意を決めていると。
「詩織、久しぶりにデートしようぜ!」
護が、明るい声で言う。
それに一瞬ポカンとし、我に返り申し訳なさ気に。
「ごめん。明日も学校なんだ。」
そう口にした。
「はっ? 明日は、休みだろ? 何で……。」
護が、がっかりしてる。
あからさまにされて、私も出来たらいいなとは思ってたんだけどね。受験が終わったらデートする約束は、してたけど……。
こんな事護に言ったら怒ると思うけど、言わないと納得もしてくれない。だから。
「実は、サッカー部の練習試合の応援要請が入ってて、どうしても出ないといけないんだよね。」
私が答えると。
「アイツら、わざわざ生徒会に頼んだのか……。」
護が、絶句してる。
まぁ、後輩の事だもんね。
「わかった、オレも行くよ。先輩として応援にな。」
護が、私の頭を軽く叩く。
「ありがとう、護。」
私は、明日も一緒に居れる事が嬉しくて思わず護の頬に口付けをする。
「だから、不意打ちは駄目だって……。」
護の頬が、赤く染まっていく。
「だって、嬉しいんだもん。デートは無理でも、護と一緒に居られるんだから……。」
「じゃあ、試合が終わってから、デートするか?」
護が、提案してきた。
「うん、したい。制服デートって、初めてだもん。」
私の声も弾む。
「そっだな。制服でのデートって、何気に初だな。」
考え深げに言う護。
「いつも帰りが遅いから、寄り道した事無いもん。だから、逆に楽しみになってきた」
私は、自然と笑顔を浮かべてた。
「バイトは、大丈夫なのか?」
「うん。明日は休みなんだ。」
笑みを浮かべながら言う。
「そうか……。じゃあ、明日、オレも楽しみにしておこうかな」
護が、私の肩を抱き寄せて言う。
「うん。」
「明日の試合、何時から?」
「九時からだって。」
「じゃあ、八時二十分ぐらいに迎えに来るから。」
「わかった。」
「じゃあ、明日な。」
軽く唇を重ねて、護は帰って行った。
「ただいま。」
私が、玄関を開けて中に入ると。
「詩織、よかったな。第一条件を無事に突破して……。」
隆兄が言ってきた。
「うん。」
「これで、護も俺の後輩兼、義弟と確定だな。」
隆兄も心なしか嬉しそうに言う。
「余り、虐めないでよ。」
私が釘を刺すと。
「わかってるって」
隆兄が、苦笑する。
「ところで、隆兄。連れてって欲しいところがあるんだけど……。」
私は、隆兄に甘えてみる。
「どうしたんだ?」
怪訝そうな顔をする、隆兄。
「明日、バレンタインでしょ、だから……。」
隆兄は、私が言いたいことがわかったらしく。
「わかった。で、何処に行けばいいんだ?」
聞いてくれて。
「駅前のデパート。」
私は直ぐに答える。
「さっさと行くぞ」
隆兄は、車の鍵を持って玄関を出る。
私は、その後を追う様にして家を出た。
本当は、手作りチョコを渡したかったんだけど、作ってる余裕がないので、買う事にした。
それは、建前で本当は、上手く作れる自信が、無かっただけ。
流石に時間が遅いので、チョコも残り少なかった。
どうしよう。
種類が無い。
それでも、この中から、護に見合うチョコを探す。
その間、隆兄は、違う所で待っててもらってる。
早く、決めないと……。
と思った時だった。
色とりどりの一口サイズのチョコを見つけて、それを手に取る。
後は、兄達の分と生徒会メンバーの分。
そして、両親の分……。
あっ、護のお義父さんの分もいるよね。
何だかんだで、十五個のチョコを買った。
「お待たせ、隆兄。」
隆兄に声を掛ける。
私の手荷物を見て。
「随分と、買い込んだんだな。」
呆れ顔の隆兄。
「生徒会メンバーの分だよ。」
私が言うと、隆兄が苦笑する。
「ほら、持ってやるよ。」
隆兄が、手を出してくる。
「ありがとう」
こういう所、メチャ優しいんだよね。
チョコと一緒にメッセージカードも買ったし。
買い忘れ、無いよね。
「もういいのか?」
「うん」
「じゃあ、帰るか……。」
隆兄が、笑顔で言う。
「隆兄、ありがとうね。」
帰りの車の中で、お礼を言う。
「気にするな。こんな時間に妹を一人で行かせられるわけ無いだろ。」
隆兄の優しい声。
「よかったな。チョコ残ってて。」
「うん。護、喜んでくれるといいんだけど……。」
「大丈夫。詩織が一生懸命に選んだものだから、きっと気に入ってくれるさ。」
隆兄の一言で、安心してる自分が居る。
「隆兄が居てくれてよかった。」
そう呟くと。
「何か言ったか?」
聞こえてなかったんだ。
「何でもない。」
ごまかすように言った。
自分の部屋に戻ると、カードにメッセージを書いていく。
チョコと、メッセージカードを一緒に個別に入れていく。
護と生徒会メンバー、護のお義父さん宛のは、鞄に忍ばせる。
兄達と両親のは、机の上に置いた。
兄達には、朝渡せばいいかな。
両親には、夕飯時にでも……。
「詩織。ご飯だよ。」
下から、お母さんの声。
「はーい。」
私は、部屋を出て、夕食を食べに向かった。
0
お気に入りに追加
12
あなたにおすすめの小説
小さなことから〜露出〜えみ〜
サイコロ
恋愛
私の露出…
毎日更新していこうと思います
よろしくおねがいします
感想等お待ちしております
取り入れて欲しい内容なども
書いてくださいね
よりみなさんにお近く
考えやすく
淫らな蜜に狂わされ
歌龍吟伶
恋愛
普段と変わらない日々は思わぬ形で終わりを迎える…突然の出会い、そして体も心も開かれた少女の人生録。
全体的に性的表現・性行為あり。
他所で知人限定公開していましたが、こちらに移しました。
全3話完結済みです。
【R18】深層のご令嬢は、婚約破棄して愛しのお兄様に花弁を散らされる
奏音 美都
恋愛
バトワール財閥の令嬢であるクリスティーナは血の繋がらない兄、ウィンストンを密かに慕っていた。だが、貴族院議員であり、ノルウェールズ侯爵家の三男であるコンラッドとの婚姻話が持ち上がり、バトワール財閥、ひいては会社の経営に携わる兄のために、お見合いを受ける覚悟をする。
だが、今目の前では兄のウィンストンに迫られていた。
「ノルウェールズ侯爵の御曹司とのお見合いが決まったって聞いたんだが、本当なのか?」」
どう尋ねる兄の真意は……
王子妃教育に疲れたので幼馴染の王子との婚約解消をしました
さこの
恋愛
新年のパーティーで婚約破棄?の話が出る。
王子妃教育にも疲れてきていたので、婚約の解消を望むミレイユ
頑張っていても落第令嬢と呼ばれるのにも疲れた。
ゆるい設定です
ママと中学生の僕
キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。
ウブな政略妻は、ケダモノ御曹司の執愛に堕とされる
Adria
恋愛
旧題:紳士だと思っていた初恋の人は私への恋心を拗らせた執着系ドSなケダモノでした
ある日、父から持ちかけられた政略結婚の相手は、学生時代からずっと好きだった初恋の人だった。
でも彼は来る縁談の全てを断っている。初恋を実らせたい私は副社長である彼の秘書として働くことを決めた。けれど、何の進展もない日々が過ぎていく。だが、ある日会社に忘れ物をして、それを取りに会社に戻ったことから私たちの関係は急速に変わっていった。
彼を知れば知るほどに、彼が私への恋心を拗らせていることを知って戸惑う反面嬉しさもあり、私への執着を隠さない彼のペースに翻弄されていく……。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる