あなたの傍に……

麻沙綺

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本編

32話 顔会わせ1

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  今日は、バイトも休みで、部屋で寛いでいたら、下が騒がしいことに気づいた。
  私は、部屋を出てしたに降りて行くと。

「詩織ちゃん、今呼びに行こうと思ってた。」
  お母さんが、リビングから顔を出して言う。
「何かあった?」
「うん。とりあえず、晴れ着に着替えよう。」
  お母さんが、ニコニコしながら言う。

  何でまた。

  そう思いながら、お母さんの後に着いていく。
「明るめの晴れ着にしようか。」
  お母さんは、そう言いながら着物を出す。
  お母さんが選んだのは、薄い青に真っ赤な牡丹の花が施されたものだった。
「ほら、さっさと服脱ぐ。」
  何かしら、急いでるみたいだ。
  私は、着ていた服を脱ぐ。
「お母さんって、着付けできたんだ。」
  ふと思ったことを口にしたら。
「当たり前でしょ。ほら、時間が無いからじっとしてて。」
  お母さんに言われて、大人しくする。



「さあ、出来た。髪も結ってあげるね。」
  お母さんが、髪を櫛でときながら。
「髪も、大分伸びてきたね。どうするの? このまま伸ばす?」
  と聞いてきた。
「三月までは伸ばして、四月になったら切るよ。入学式前には、スッキリしたいし。」
「そっか。もう決めてるだね。」
  そう言いながら、ハーフアップにするお母さん。
「よし、綺麗に出来た。お父さんとお兄ちゃん達に見せておいで。」
  お母さんに言われて、リビングに行く。
「可愛いじゃん。」
「馬子にもだな。」
  と口々に言う。
「フーンだ。どうせ、似合わないですよーだ。」
  私がふてくされてると。
「何やってるんだ。時間ギリギリだぞ。」
  お父さんが、玄関で叫んでる。
  何で、時間なんか気にしてるんだろう?
「本当だわ。お兄ちゃん達も急いで。」
  お母さんが、着替えを終えて言う。
  リビングに入った時には気付か無かったけど、兄たちの装いもシックなスーツ姿だ。
  私は、頭に疑問符を浮かべながら玄関に行く。

「詩織は、この草履を履くのよ。」
  お母さんが、私の前に草履を出す。
「わかった。」
  私は、言われた通りに草履を履く。
  履き慣れていないから、違和感がある。
「詩織、早く。」
  私は、急かされて慌てる。
「ちょっと待ってよ。」
「俺、先に行ってるよ。」
  優兄は、そう言って走って行ってしまった。

  何?

「ねぇ、何でそんなに急ぐ必要があるの?」
「急いでるように見えるか?」
  逆に隆兄に聞き返されてしまった。
  どう見ても、そう見えるんだけど……。
  私は、着なれない着物のせいで、思うような速さで歩けなかった。



  駅に着くと、優兄が誰かと話し込んでいた。
  ふと、顔を見ると護と護のお父さんだった。

  何で?

  余計に不思議に思う。
  それに、護までスーツだ。
  初めて見るから、見いってしまう。
「どうも、始めまして、詩織の父です。」
「母です」
  お父さんとお母さんが、護のお父さんに挨拶してる。
「始めまして、護の父です。よろしくお願いします。」
  えっ、どういう事?

  私は、その場で固まってしまった。
「どうした、詩織。ボーとして?」
  隆兄が私を振り返る。
「エッ……。だって、何で護が……。」
  私の驚きに。
「今まで、黙ってたんだよ。もうそろそろ良いかなって……。」
  隆兄の笑顔がある。
「お前ら、あの後、本当に考えながら過ごしてただろ。相手の思いを考える時間を与える事で、冷静さを保てただろ?」
  隆兄が、真顔で聞いてきた。
「うん。護が頑張ってるんだから、私も頑張らないとと思えたし、お互いの思いを押し付け合うことは、互いに傷つくんだって、改めて思った。」
  会えない間にも思い会う気持ちが、惹き付けるんだって改めて思うし、その間に自分に出来ることを頑張って自分磨きに目を向けることが出来た。
「それがわかった時点で、謹慎終了だ。護にも同じ事を聞いたが、お前と同じ答えを出してたからな。」
  隆兄が、優しく言う。
「ほら、行きな。お前の大好きな護が、待ってるぞ。」
  隆兄が、私の背中を押す。

  エッ……。
  その足が、もつれて倒れそうになる。
「あわわわ……。」
  もうダメ。
  っと思った瞬間だった。
「大丈夫か?」
  私は、護の腕の中に居た。
  護は、呆れて苦笑を漏らしていたが。
「ごめん。着なれてないから、足がもつれちゃって……。」
  私は、誤魔化すように言う。
「ほんと。さっきから釘付けになってた。」
  護が、照れながら言う。
「そうだ。」
  私は、護から少し離れて。
「明けましておめでとうございます。」
  新年の挨拶をする。
「おめでとう。今年もよろしくな。」
「こちらこそ。よろしくお願いします。」
  私達は、笑顔で見つめ会った。

「詩織、護。行くってさ。」
  優兄に呼ばれる。
「はーい。」
「ほら、はぐれるといけないし、躓いて転んだらいけないから手を繋ごう。」
  護が、手を差し伸べてくる。
  私は、その手をそっと取る。

  指を絡めて、恋人繋ぎをする。

「歩き慣れてないんだから、ゆっくり歩いてね。」
  私が言うと。
「わかってるって……。何も無いところで転ばれても困る」
  護が、微笑む。
「今日の着物、似合ってる。」
  耳元で囁かれる。
  私の顔が、ミルミル熱くなる。
「何、照れてるんだ。」
  護が、からかいながら言う。
「髪、伸びたな。このまま伸ばすのか?」
  デジャヴですかね。
「春になったら切るよ。それまでは、このまま。」
「もったいないな。綺麗なのに。」
  護が繋いでいない方の手で、私の髪を撫でる。
「そうかな。」
「そうだよ。」
「うーん。でも、やっぱり切るよ。」
「アイツ、佐久間だっけ……。勘違いされないか?」
  護が心配そうに聞いてくる。
「大丈夫だと思う。ちゃんと説明するから。」
「そっか。」
  護が、納得してくれる。
「私ね。護と離れている間に、色々と考えたんだ。私って、恵まれてるんだなって。だって、私達、同じ学校に通ってはいるけど、学年は違うでしょ。だから、こうやって、一緒に居ること事態が、不思議なんだって……。何も接点無いのにさ。」
「オレも、それは思った。優基が居なかったら、接点無いんだよな。それと、お前が、文化祭でステージに立たなければ、一目惚れもなかったんだなって。」
  護が、考え深げに言う。
「そうだね。私も、告白される事無かったんだよね。」
  沁々そう思う。
「本当に偶然が、必然になった瞬間なのかもな。」
  大好きな人が、隣を一緒に歩いているだけでも、不思議だけどね。
「お~い。詩織、護。早く来いよ。母さん達待ちくたびれてる。」
  優兄が大声で言う。
「そう言われても、私、走れないよ。」
  優兄に言い返す。
「しょうがない、な。」
  護が、繋いでいた手を突然離したから寂しく思ってたら、急にフワリと足元が浮いた。
  何が起きたのかわからずにいる私に。
「しっかり捕まっておけよ。」
  と、言ったかと思うと、いきなり走り出した。
「きゃーっ!」
  私は、慌てて両腕を護の首に回した。
「詩織、お前痩せた?」
「どうだろう? 変わらないと思うけど……。」
「前よりも軽くなってる」
「それは、護が逞しくなったからじゃないの?」
  私は、皆の前で下ろされる。
「護。それは、やりすぎだろ。」
  勝兄が、護の肩を叩く。
「アハハハ……。」
  何て笑ってごまかす護。
「…ったく、お前は…。」
  隆兄も笑っていた。


  神社に着くと参拝客で、ごった返していた。
「お前ら、はぐれるなよ。」
「はい。」
  私達は、相変わらず、手を繋ぎながら歩く。
  返事をしたにも関わらず、いつの間にか兄達とはぐれてしまった。
「はぐれちゃったね。」
  私は、呑気に声を出せば。
「そうだな」
  冷静に答える護。
「参拝して、くじでも引いたら、会えるだろ。」
「それも、そうか。」
  私達は、二人で列に並だ。


  自分達の番になる。
  護の受験が、うまくいきますように……。
  護の傍に居られますように……。

  ふと、顔を上げて護を見る。
  護は、真剣にお祈りしてる。
  何をお願いしてるのかな?

「どうしたんだ?」
「ううん。何でもない。」
「くじ、引くんだろ。行こう。」
  護が私の手をとって、歩き出す。
「護は、何をお願いしたの?」
「それを今聞くのか?」
「だって、熱心にお願いしてたから……。」
「秘密だ。」
  護の顔が、赤くなる。
「詩織こそ、何をお願いしたんだ?」
「えっとね。私はね、内緒だよ。」
  私は、笑ってごまかす。
「護。絵馬、書こうよ。」
  販売所に行く間に絵馬が奉納してあって、それが目に入ったのだ。
「エッ……、くじは?」
「それも、後で…ね。」
「しょうがねぇな」
  私達は、絵馬を買いそれぞれに書き込む。
  護の受験が、上手くいきますように……。
  って、絵馬に思いを込めて書く。
「書けたよ。護は?」
「オレも、書けた。」
  私達は、それを持って結びに行く。
  護は、何を書いたんだろう?
  私は、護が結びつけてる絵馬を見る。

  “詩織と何時までも、一緒に居られますように“

  って、綺麗な字で書いてあった。
  エッ……。
  嬉しい。
「こら、勝手に見るな。」
  護が、恥ずかしそうに言う。
「エヘッ。ありがとう、嬉しいよ。」
  護の腕に自分の腕を絡めた。
「さっさと、おみくじ引きに行くぞ。」
  護が、照れ隠しのためか、早口で言う。
「はーい。」
  私達は、じゃれあいながらおみくじ売り場に向かった。


  おみくじを引くと、私は、末吉で護は、大吉だった。
「いいなぁ。大吉なんて……。」
  私が言うと。
「大丈夫。こうして二つまとめて、一緒に結ぼう。」
  護が、私のおみくじを重ねて細くおると、一番高いところにくじを結んだ。
「これでよし。」
  護、カッコいいな。
  護の姿に見入ってると。

「水沢……。」
  て、声がかかる。
  振り返ると、佐久間君が居た。
「お前、一人なのか?」
「ううん、家族と来てるの。」
「その家族は、どうしたんだ?」
  不思議そうな顔で聞いてきた。
「途中ではぐれた。」
「大丈夫なのか?」
  心配してくれてるのかな?
「大丈夫だ。」
  後ろから、護の声がする。
「何だ、そいつも一緒なのか?」
「"何だ" って、オレもこいつの家族みたいなもんだし。」
  護が、私の肩を抱く。

  エヘヘ。

  なんか、嬉しいよ。
「どういう事だよ!」
  佐久間君が、動揺してる。
「今日は、うちの家族と護の家族で、初詣に来てるんだ。」
  私は、堂々と言う。
「まさか、家族ぐるみで……。」
  佐久間君が、絶句してる。
「そのまさかだよ。」
  佐久間君の後ろで、隆兄が言う。
「隆弥さん。」
  護が、声をあげる。
「お前ら遅い。昼食、食べに行くって、入り口で待ってるから、早く来いよ。」
  そう言って、背を向けて歩き出す隆兄。
「隆兄。ちょっと待ってよ。」
  私は、佐久間君に。
「ごめん。また、学校で……。」
  それだけ言って、私達は隆弥兄の後を追うのだった。

      







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