あなたの傍に……

麻沙綺

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本編

8話 自分の思い

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  放課後。
  私は、グランドに足を向ける。
  護を近くで見たかったから……。
  でも、雪菜ちゃんが邪魔をしてくる。

「練習の邪魔です。向こうに行ってください!」

  凄い剣幕で言うから、仕方なく教室に戻った。
  あからさまに、嫌われてるなぁ……。
  
  そりゃあ、そうだよね。

  雪菜ちゃんからしたら、恋のライバルだもんね。
  恋敵に塩を送るのは、当たり前か……。
  結局、何時もの様に教室の窓からグランドを見る。
  護と視線が絡む。

  護、私はここから、応援してるから……。


「詩織、帰ろー。」
  護が、教室まで迎えに来てくれる。
「うん。」
  笑顔で頷く。
  廊下を下駄箱に向かって歩きながら、護が。
「さっきは、ごめんな。雪菜が、追い払うような事して……。」
  申し訳なさそうに言う。
  見てたんだ。
「ううん。何となく、わかってたから」
  心配させないように笑顔で言う。
  本当は、近くで見て居たかったんだけどね。
「何で、そんなに物分かりがいいんだよ。少しは怒ってもいいんだぞ。」
  護が不服そうな顔で見てくる。
「そうかもしれない。だけど、雪菜ちゃんの気持ちわかるから、怒れないよ。」
  私がそう告げた時だった。
「そんなのわかってもらわなくても、結構です。」
  何処からも無く声が、飛んできた。
「……雪菜。」
  護が、呆れたように言う。
  
  何時から居たんだろう?
  まさか、護を待ってたんじゃ……。

  雪菜ちゃんが私達の間に割り込んできて。

「護兄さんに送ってもらおうと思って、待ってました。」
  そう言いながら、護の腕に絡み付き睨んでくる。
  私の不安を裏切らない行動をしてくれる、雪菜ちゃん。

  もう、なんでこうなるのかなぁ?

  あんな強気に出られたら、引き下がるしかないか……。

  って、弱気になってる自分が居る。

「詩織先輩は、一人で帰れますよね。だから、護兄さん、私を送ってください。親にも、遅くなるなら “護さんに送ってもらいなさい“ って、言われてますし……。」
  護に甘えるようにして、雪菜ちゃんが言う。
  親まで出てきたら、何も言い返せれない。
  その言葉で。
「……わかりました。一人で帰ります。また、明日ね。」
  私は、踵を返して歩き出す。
  二人の事見ていたくなくて、体が勝手に動き出す。
  その手を不意に捕まれた。

「駄目だ!」

  護が、私を引き寄せる。
  エッ……。

「エーッ、何で? 護兄さん送っててよ。」
  雪菜ちゃんが、可愛く甘えるようにねだる。

  あーあ、負けてるなぁ。

「護、そうしてあげなよ。私は、大丈夫だから。家も近いし、電話一つするだけで、妹思いの兄たちが迎えに来てくれるし……ね。」
  私はそう言って、護の手を振りほどこうとしたが。
「だから、嫌だって言ってるだろ。なぜ、オレの気持ちを無視するんだ。オレは、詩織を送って行く。雪菜は、一人で帰れるだろ。お前の家の方が、詩織の家より近いしな!」
  護が、苛立った様に言う。
「そんなぁ。護兄さんに送ってもらわないと、私が困ります。」
  半泣きになって言う雪菜ちゃん。
  そんな雪菜ちゃんを見ていられなくて。
「じゃあ、三人で帰ろ」
  と、口からこぼれた。
  それを聞いた二人が驚く。

  私だって、自分で言って驚いてるんだから、仕方が無いよね。
「だって、ここでこのまま言い合ってても帰れないよ。だったら、一緒に帰った方が、早いよね。」
  笑顔で言う。
「確かに、その方が早いが、詩織は、それでいいのか?」
  護が、確認してくる。
  私は、黙って頷くが、雪菜ちゃんの顔がは、知らずうちに膨れっ面になっていく。
  まぁ雪菜ちゃんにとっては、面白くないよね。
「ヤダ!!」
  って、駄々をコネだす雪菜ちゃん。
「嫌ならいいぜ。雪菜、一人で帰れ!」
  護が、突き放す。
「わかった……。」
  雪菜ちゃんが、渋々了承する。
「雪菜、腕放せ。オレは、詩織のだ。」
  護が、雪菜ちゃんに強く言い放った。
  私はその言葉が、嬉しかった。
  雪菜ちゃんは、嫌々絡めていた腕をほどいた。
  護が、私の腕を放して手を握りしめてきた。

  エーッと。

  雪菜ちゃんには、悪いけど嬉しい。
  護が、力一杯握ってくる。
  私は、嬉しいのを顔に出さないように握り返していた。
「ほら、帰るぞ。」
  護が言うと、雪菜ちゃんが我に返るように動き出した。


「まずは、雪菜の家からだな。」
  護が言い出した。
「最初は、詩織先輩の方からです!」
  雪菜ちゃんが、主張しだす。
「ここは、雪菜の方が学校から近いし、オレも遠回りになら無いからな。」
  護が、決める。
  まぁ、私が口出せることじゃないし……。
「そんなぁ……。」
  落胆する雪菜ちゃん。
  私は、雪菜ちゃんの家知らないし、護に任せるしかない。
  私達は学校を出ると、雪菜ちゃんの家に向かう。
  当然、会話は無い。
  何を話せばいいんだろう?
  頭の中で、色々と考えていた。

「雪菜の家、この角を曲がったって直ぐだから……。」
  護が、ボソッて言う。
「そうなんだ。本当に近いんだね。」
  って、私達と帰る方向が、まるっきり逆ってこと?

  それって、私を送ってってから、護と一緒に長く居たかったって事になる。
  数分前のやり取りを思い出す。
  中々の策士だ。

  私は胸の中で、苦笑いする。

「じゃあな」
  突然、護が言うから、雪菜ちゃんの家に着いたのがわかった。
  やぱっり、この距離なら、一人でも十分なんじゃ…。
  そう思ってると。
  チュッ……。
  とリップオンが聞こえてきて、そちらに目を向けると雪菜ちゃんが、護の頬にキスをしてた。
  なっ……。
  私が、言葉を失ってると。

「送ってくれてありがとう」
  満面の笑みを浮かべて言う、雪菜ちゃん。
  そして、したり顔で私を見る。
  でも、護が嫌そうな顔をして、制服の袖で拭き出した。
「やめろ! そういうの。迷惑だ!」
  本当に、嫌そうな顔をしてる護。
  それを見ていた雪菜ちゃんの悲しそうな顔。
  今にも、泣き出しそうだ。
「詩織、行くぞ。」
  そう言って、私の手を引っ張る。
  私は、引っ張られるまま歩き出した。


「護。雪菜ちゃんって、いつもああなの?」
  暫く歩いて、私は聞いてみた。
  護は、振り返りながら。
「さっきにあれか? いつもって訳じゃないけど……。」
  そっか。
  あれは、私に見せたかっただけなんだ。
「じゃあ、私がここでキスしていいって聞いたらどうする?」
  悪戯っぽく聞けば。
「して欲しい。って言うか、オレからするかも……。」
  って言いながら唇を塞ぐ。
  優しいキス。
  護の想いが、伝わってくる。
  そっと唇が離れる。
「何も、本当にしなくても……」
  私は、恥ずかしくて俯きながらも抗議する。
  場所が人の往来がある所なんだもん。
  今見、横をそ知らぬ顔で通り過ぎて行ってるし……。
「ずっと、したいの我慢してたから。」
  護が、詫びれる事無く堂々と言う。
  全く。
  これじゃあ、私が出来ないじゃんか。
  私は、剥れた。
「詩織どうしたんだ?」
  護が、私の顔を下から覗き込むように伺ってきた。
「ん、もう……。」
  私は、その頬にチュッ、ってキスをする。
「エッ……」
  護が、慌て出す。
  次第に顔が赤くなっていく。
  そして、雪菜ちゃんの時と違い、頬が緩む護。
  その顔初めて見る。
「やっぱり、嬉しいな。されるのも悪くない」
  って、笑顔を見せる。
「ほんと?」
「うん。好きな子から、なおさら嬉しい。」
「なら、もっとしてあげようか?」
  私が、照れながら言うと。
「要らない。大切にしたいから」
  って、断られた。
  そうだよね。
  私が、残念そうに思ってると。
「そうだ。次の試合の時間九時からなんだけど、大丈夫か?」
  急に、思い出したかの様に言う護。
「うん、大丈夫だよ。お弁当、用意するね。」
「マジで」
  私の言葉に、嬉しそうに喜ぶ護。
「嫌いな食べ物ある?」
「オレは、無いよ」
  好き嫌い、無いんだ。
「じゃあ、楽しみにしててね。」
「わかった。じゃあな。」
  護が、私の頭を軽くポンポン叩く。

  話してるうちに家に着いちゃったんだ。
  寂しいけど、しょうがないよね。
「また、明日ね。」
  私は、護の唇に自分の唇を重ねた。
  護が、大きく目を見開き、驚く。
  
「ああ……。」
  って驚きすぎて、一言しか返してくれなかった。
  そんな護の背中を見送った。


  今日一日の事を振り返える。
  護を初めて、怒らせてしまった事。
  護に愛されて、愛した事。
  あの時は、本当に嬉しかった。
  雪菜ちゃんの存在も、大きいのかな。
  一番わかったのは、護が私にとって一番大切な人だと認識したこと。
  ずーっと、傍に居たい。

   そう思った。













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