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14話 揺らぐ想い…春菜
しおりを挟む何時もよりも清々しい目覚め。
なのに瞼が重い。
掛け布団を退かし、自分の格好を見れば、制服のままだ。
でも、自分でベッドに入った覚えはない。
スカートには皺が寄っていた。
うわ~これ早く直さなきゃ。
私はスカートを脱ぎ短パンに履き替え、スカートにアイロンをかけ始めた。
昨日は、お風呂も入ってない。
時計を見れば、まだ時間がある。
私は、急いでアイロンをかけ終えるとシャワーを浴びるために着替えをもって脱衣所に向かった。
うわ~。
目許が赤く腫れている。
って、そんな事してる場合じゃない。
早く浴びないと……。
私は、シャワーを浴び、髪と身体を洗い上がる。
制服を身に付けて、髪をドライヤーで乾かして、脱衣所を出た。
リビングに移動すると、お父さんが新聞を読んでいた。
「春菜、おはよう。昨日、敦斗君に会ったよ。カッコ良くなってたな。」
って、新聞を畳んでテーブルの隅にやるとそう言ってきた。
えっ、あっ君に会ったの。
「おはよう、お父さん。……で、あっ君は?」
「ん?あぁ。挨拶した後、帰っていったよ」
お父さんが、淡々と答える。
へっ、あっ…。
「まさか、まだ居ると思ってたのか。居なくてがっかりしたか? 敦斗君、礼儀正しく挨拶して、春菜の状況も説明してから、帰って行ったよ。」
お父さんが苦笑する。
「えっ…、あ……。」
言葉が続かない私。
お父さんが、寂しそうな顔をして私の顔を見る。
そして。
「敦斗君に取られるのも時間の問題かな」
って、小声で言う。
その言葉に機敏に反応してしまう私。
今まで気が張っていて、泣いたことがなかった私があっ君に会った途端涙したことに危惧してるんだと思う。
「朝御飯作るね。」
私は、慌ててキッチンに向かい準備をした。
その後ろで、お父さんがクスクス笑ってた。
朝食を食べ終えると流しに食器を片付け、自分の部屋に鞄を取りに行く。
「お父さん、行ってきます。」
お父さんに声をかけてそう言うと。
「行ってらしゃい。気を付けて行けよ。」
お父さんの言葉に。
「は~い。」
と返事を返して家を出た。
教室に入れば、あっ君の周りに女の子が集まってる。
あっ君は、そんな女の子達にも笑顔で対応してる。
何か、モヤモヤする。
これなんだろう?
胸の奥が痛い。
私以外の女の子に優しくしないでって、思ってしまうのって、心が狭いからなのかなぁ。
そう思いながら、自分の席に着く。
ハァ~。
「春菜、おはよう。朝から、何溜め息ついてるの?」
そう声を掛けてきたのは、真理だ。
「あ、おはよう。真理。ん、何にもないよ。」
そう言いながら、知らず知らずにあっ君の方に目が行く。
「さっきから、転校生ばかり見てるけど、何かあった?」
真理に目を向ければ、笑みを浮かべてる。
何、その笑みは?
「春菜が今まで男の子に興味がなかったのは、彼が居たからなのかなぁって思ってさ。」
えっ、ちょっと待って…、それはどういう意味で言ってるの?
「春菜ってさぁ、男の子にモテモテなの気付いてた?」
それは、初耳ですよ真理さん。
「"凛とした姿の中に憂いがあって、守ってやりたいと思わせる" って男の子達が言ってるの知らないの?」
ニマニマと気持ちの悪い笑みを浮かべていた。
「今だって、何時もと雰囲気が違うから、何かあったんじゃないかって、言ってるんだけど?」
へっ?
私は、慌てて周りを見れば、チラチラとこちらを窺うような視線がある。
う…、なんか緊張するよ。
そんな中。
「春菜、おはよう。目、大丈夫?」
あっ君が、女の子達から逃れるように来て声をかけてきた。
その手は、私の目許に延びてきた。
「あっ君、おはよう。大丈夫だよ。昨日、お父さんに会ったんだって?」
私は、あっ君の手を掴んだ。
あっ君が驚いた顔をするが、素知らぬ顔で手を下ろす。
「うん。春菜昨日疲れて寝ちゃったでしょ。一人にしておけなかったから、伯父さんが帰って来るまで待ってたんだ。……で、挨拶だけして帰ったんだよ。伯父さん、昔っから変わらないね」
あっ君が答えてくれた。
それを聞いてた真理が。
「えっ、何で吉井くんが……。」
そう言いながら、私とあっ君を交互に見だす真理。
真理が不思議がるのは仕方がない。親友の真理でさえ、家に上げた事がないのだ。
逆に真理の言葉にあっ君もキョトンとしてる。
「ん? 何か、問題があった?」
あっ君の猫耳が垂れてる。
大きな目が私に何か不味かったかと説いている。
「あ…、うん。ちょっと……。」
私が言葉を濁すと真理が。
「ねぇ、吉井くん。昨日、春菜の家に行ったの?」
あっ君に訪ねる。
「うん、行ったよ。こっちに戻ってきたし、伯父さんに挨拶しにね。」
あっ君の言葉に真理の目が大きく見開かれた。
「ねぇ、春菜。今日も春菜の家に行ってもいい?」
あっ君の無邪気な笑顔に。
「えっ、何で?」
疑問しか浮かばない。
昨日の今日だよ。二日続けて来るとは思わないよね。
しかも真理が見てる前で……。
「ん。だって、今日、僕の父さんが春菜の家に行ってるから? だから、迎えに行くの。ほら、うちの父さん酒癖悪いじゃん。伯父さんと会うの楽しみにしてたからさぁ。僕達が学校終わった頃には、春菜の家の中大変な事になってると思うんだ。」
悪戯っ子な顔をするあっ君。
あ~、そうだった。
あっ君のお父さん、呑み出すと大変なんだよな。
「うん、わかった。」
私がそう言えば。
「ちょっ、春菜。本当に大丈夫なの?」
真理が心配そうに聞いてきた。
「うん。あっ君の家族とは仲良くしてたからね。お父さんも、あっ君だと安心してるしね。」
今朝の事を思い出してそう言う。
「そ…そうなんだ。」
戸惑いながら、真理が言う。
「ほら、お前ら席に着けよ。」
担任の言葉に。
「じゃあ。」
あっ君が、そう言って自分の席に戻って行った。
あっ君、昨日の事何も触れなかった(お父さんの事以外に)。
まぁ、ここで話す事じゃないとわかってるから、当たり障りの無い話にしたのだろうけど、かえって不振がられてる気がする(特に真理に)。
だけど、真理には言えない事でもあっ君には言えるんだ。
そのせいで昨日気持ちが爆発しちゃったんだよね。
その時、心配そうな顔で私を見てる真理が居るなんて、私は気付かなかった。
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