上 下
101 / 145
高校生編と再婚約の条件

飲み会…遥

しおりを挟む

  起きて直ぐに今日の予定を確認するために、手帳を開いた。

  えっと、今日は……。
  あれ、これ何のマークだ?
  二重丸のマーク。
  俺は、首を捻って思い出す。
  あっ~、ヤバイ、忘れていた。
  今日の予定では、これ行けそうにもない。
  イヤ、雅斗に相談してみるか……。
  俺は、そう思いながら家を出た。



  会社に着くと直ぐに雅斗が居るであろう、副社長室に向かった。

  コンコンコン。
  ドアをノックする。
 「入れ。」
  威圧感のある雅斗の声。
  仕方ないか、ここでは偉い様だもんな。
  俺は、ドアを開けて一礼してから。
「失礼します。おはようございます、副社長。」
  雅斗に向けて言う。
「おはよう、遥。そんなに改まってどうしたんだ?」
  雅斗が怪訝そうな顔をして聞いてきた。
  俺は、雅斗の方に歩み寄り。
「今日、最後の接待だけど、俺抜きでもいいか?」
  雅斗の顔色を伺いながら、言う。
「何、用事でもあるのか?」
  雅斗が、眉を寄せて聞いてくる。
「それが、前の会社の送別会が十九時から有るんだよ。すっかり忘れてた。」
  俺の答えに。
「珍しいな、遥が約束を忘れてるなんて。まぁ、お前の代わりができる奴と代わってくれればいいさ。」
  苦笑する雅斗。
  そうなんだよ、約束忘れてるなんて自分でも驚いてるんだよ。
  それだけ、忙しかったんだなぁ。
「本当に悪いな。」
「いいさ。向こうも主役のお前が居なきゃ始まらんだろうし……。楽しんでこいよ。」
  雅斗が真顔で返してきた。
「……っと、朝イチの会議行くぞ。」
  雅斗が席を立ち、資料を持ってドアに向かう。
  俺も必要な物を鞄から取りだし、後を追った。


  本日の最後の接待場所まで雅斗を送る。
  俺の代理で来てくれた赤石さんが、店の前で待っていた。
「わざわざ、すみません。」
  俺は、頭を下げた。
「イヤ、いいよ。こんな時でしか副社長と話も出来ないしな。」
  赤石さんが、ニコヤカに言う。
「それでは、お願いします。お先に失礼します。」
  俺は、軽く頭を下げる。
「おう、遥も仕事の事気にせずに楽しんでこいよ。」
  雅斗の余計な一言を放った。




  会社の最寄り駅近くにある居酒屋。
  前は、よく来てたんだよな。
  入り口のドアを開けて、中に入る。


「あっ、高橋さん。こっち。」
  俺に気付いた女性社員が、手招きする。
  俺は、そっちに足を向けた。
  ……が、突然両腕に重みが増した。
「高橋さん。待ってたんですよ。」
  フルメークで、香水臭い女性二人に捕まった。
  臭いが混じって、気持ち悪い……。
  呑む前から、吐きそうだ。
「高橋さんは、ここね。」
  って、見渡せば俺の周り女性社員で埋め尽くされてる。
  何の冗談だ。
  しかも、必要以上に触れてくるし………。
  馴れ馴れしい。
  あ~、鳥肌立ちそうだ。

「高橋も来たことだし、時間だから始めるか。」
  部長が切り出した。
  うん、そうしてくれると助かる。
  そして早く、ここから逃げたい。
「高橋、挨拶しろ。」
  部長に言われて、何言えばいいんだ?
  暫し、考えた末。
「今日は、送別会を開いていただき、ありがとうございます。短い間でしたが、色々とお世話になりました。」
  当たり障りの無い挨拶をした。
「高橋、今の仕事場とか予定とか無いのか?」
  部長の鋭い質問。
  え~、言わないといけないのか?
  まぁ、今後会うかわからない連中に言っても、差し障りはないか……。
  そう思い。
「今の仕事場は、鞠山財閥の副社長の付き人です。一ヶ月後には海外研修が始まって、帰国後には婚約ですね。」
  一様、今決まってる予定を口にした。
  すると周りが、どよめいた。
  そりゃあ、そうだよな。
  一社員だった俺が、一流財閥の副社長の付き人なんだからな。
「高橋、大出世だな。」
  部長が苦笑する。
  イヤ、確かに大出世になるのか……。
「幹事。後宜しく。」
  部長の言葉に同期の田中が立ち上がった。
「えっ~、僭越ながら私が、とらせてもらいます。高橋にこれからの未来に乾杯!」
「「「乾杯!!」」」
  それぞれグラスを手に合わせた。



「ねぇ、高橋さん。婚約って相手が居ないでしょ? 私がなってあげようか?」
  俺に寄ってくる女どもに嫌気が差す。
  やめてくれ。
  俺、媚を売ってくる奴嫌いなんだよ。
「抜け駆けズルい。それなら、私だって立候補するよ。」
  立候補ってなんだよ。
「私だって……。」
  次から次へと上がってきて、切りがない。
「お前らなぁ、高橋の婚約者は決まってるんだよ。さっさと諦めて、他を当たれ。」
  田中が、助け船を出してくれた。
「「「「えーーーー!!」」」」
  見事にハモり、エコーがかかってるみたいだ。
「嘘でしょ。だって、高橋さん、彼女居たこと無いですか!」
  ハハハ……。
  確かにそんな素振り一度だって見せなかったし、見せるつもりなかったし……。
  相手は、まだ高校生だし……。
「めちゃ、可愛い子だよ。それもお嬢様だしな。」
  田中、何処でそんな情報を手に入れたんだ。
  俺、彼女がお嬢様だなんて言ってないぞ。
「お嬢様って……。世間知らずの我が儘なんでしょ? 高橋さんには合わない。」
  会ったこともないのに彼女の何がわかるんだよ。
  彼女は、そこら辺のお嬢様じゃないんだよ。
「そんなこと言ったら、社会復帰できなくなるぞ。」
  田中コイツ、一体何処まで知ってるんだ。
「何、その脅し。お嬢様の悪口言っただけじゃん。」
  女どものあっけらかんとした言葉に腹が立つ。
「それが不味いんだよ。俺、聞いちゃったんだよ。細川商事のお嬢様が、高橋の婚約者の悪口をわざわざ会社まで押し掛けて言ったんだって。会長がそれを聞いてて、そのお嬢様を泣きものにしたって話を……。」
  マジ、こいつなんなの。
  どこで、そんな情報を手にしたんだよ。
「それってさぁ、高橋が絡んでるって聞いたんだよな。」
  こいつ、全て知ってるんじゃないか?
  って思えるほどだ。
  背中に嫌な汗が流れる。

「うっそだー!そんなわけ……。」
  彼女達が、疑いの目を向けてきた。
「あるんだよ。その細川商事、鞠山財閥に楯突いてって話が上がって、鞠山財閥が関わってる仕事、全部キャンセルになったって聞いたぞ。」
  そこに部長が割って入ってきた。
  あぁ、俺が必死に家の再建をしてるときにそんな事してたんだ。
  まぁ、御大あのひとならやりかねないか……。
「……って、まさか高橋さんの婚約者の相手って。」
  部長の言葉で察したらしい彼女達。
「そう言うことだろ。」
  部長が、背中を叩く。
「はい。元々、彼女が高校を卒業するまでは表向きは普通に……っていうか、婚約の事伏せてたんです。ちょっとした事が切っ掛けで、婚約破棄になってしまいましたがね。やっと会長に認めてもらえまして、会長自ら俺に最後の試練として、海外研修に行けとそれを条件に彼女との再婚約を認めてもらえることになったんで……。」
  って、何で俺こんなに語ってるんだ。
「お前、顔しまり無い。」
  田中が、ニマニマと俺の顔を見て言う。
  そうだろうな。
  亜耶の事を考えてたんだから……。
「そっか。それでその腕時計なんだ。」
  一人に指摘されて。
  あぁ、今してる時計気になるのか?
「あれ? 気付かなかった。何で、女性物? しかもブランドだし……。」
「彼女からのプレゼント。」
  ボソリと呟く。
  ペアだなんて、言わない方がいいよな。
  でも、あの時の手紙……、ヤバ、思い出したら嬉しさで口許が……。
「へぇー。高橋でもそんな顔するんだ。」
  そんな顔って、変な顔してたか?
「愛しそうな顔してるぞ。」
  何、そんな顔してるのか。
  思わず、口許を手で覆った。
「仕事とか、私たちと話してるときにはしなかったよね。それだけ、彼女の事が好きなんだね。私たちじゃ敵うわけ無いか……。」
  周りもその言葉に同意して頷く。
  あはは……ヤバイな。
  自分が、崩壊しそうだ。
「祝福するね。」
  周りからも納得をもらい、楽しく呑むことができた。




  お開きになり、店の外に出た。
  俺は、田中を捕まえて。
「お前、あの情報はどこから得たんだよ」
  問いただす。
「あれ。細川商事の社員から直接聞いた。って言うか、呑み友達になった奴が、そこに勤めててな色々教えてもらったんだよ。」
  田中は、陽気に語り出した。
  マジか……。

  これ、雅斗に報告しておいた方がいい案件だなぁ……。

  俺は、内心頭を抱え込んだのだった。






しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

その眼差しは凍てつく刃*冷たい婚約者にウンザリしてます*

音爽(ネソウ)
恋愛
義妹に優しく、婚約者の令嬢には極寒対応。 塩対応より下があるなんて……。 この婚約は間違っている? *2021年7月完結

ずぶ濡れで帰ったら彼氏が浮気してました

宵闇 月
恋愛
突然の雨にずぶ濡れになって帰ったら彼氏が知らない女の子とお風呂に入ってました。 ーーそれではお幸せに。 以前書いていたお話です。 投稿するか悩んでそのままにしていたお話ですが、折角書いたのでやはり投稿しようかと… 十話完結で既に書き終えてます。

長い片思い

詩織
恋愛
大好きな上司が結婚。 もう私の想いは届かない。 だから私は…

どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします

文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。 夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。 エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。 「ゲルハルトさま、愛しています」 ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。 「エレーヌ、俺はあなたが憎い」 エレーヌは凍り付いた。

白い結婚は無理でした(涙)

詩森さよ(さよ吉)
恋愛
わたくし、フィリシアは没落しかけの伯爵家の娘でございます。 明らかに邪な結婚話しかない中で、公爵令息の愛人から契約結婚の話を持ち掛けられました。 白い結婚が認められるまでの3年間、お世話になるのでよい妻であろうと頑張ります。 小説家になろう様、カクヨム様にも掲載しております。 現在、筆者は時間的かつ体力的にコメントなどの返信ができないため受け付けない設定にしています。 どうぞよろしくお願いいたします。

貴方の愛人を屋敷に連れて来られても困ります。それより大事なお話がありますわ。

もふっとしたクリームパン
恋愛
「早速だけど、カレンに子供が出来たんだ」 隣に居る座ったままの栗色の髪と青い眼の女性を示し、ジャンは笑顔で勝手に話しだす。 「離れには子供部屋がないから、こっちの屋敷に移りたいんだ。部屋はたくさん空いてるんだろ? どうせだから、僕もカレンもこれからこの屋敷で暮らすよ」 三年間通った学園を無事に卒業して、辺境に帰ってきたディアナ・モンド。モンド辺境伯の娘である彼女の元に辺境伯の敷地内にある離れに住んでいたジャン・ボクスがやって来る。 ドレスは淑女の鎧、扇子は盾、言葉を剣にして。正々堂々と迎え入れて差し上げましょう。 妊娠した愛人を連れて私に会いに来た、無法者をね。 本編九話+オマケで完結します。*2021/06/30一部内容変更あり。カクヨム様でも投稿しています。 随時、誤字修正と読みやすさを求めて試行錯誤してますので行間など変更する場合があります。 拙い作品ですが、どうぞよろしくお願いします。

【完結】王子妃教育1日無料体験実施中!

杜野秋人
恋愛
「このような事件が明るみになった以上は私の婚約者のままにしておくことはできぬ!そなたと私の婚約は破棄されると思え!」 ルテティア国立学園の卒業記念パーティーで、第二王子シャルルから唐突に飛び出したその一言で、シャルルの婚約者である公爵家令嬢ブランディーヌは一気に窮地に立たされることになる。 シャルルによれば、学園で下級生に対する陰湿ないじめが繰り返され、その首謀者がブランディーヌだというのだ。 ブランディーヌは周囲を見渡す。その視線を避けて顔を背ける姿が何人もある。 シャルルの隣にはいじめられているとされる下級生の男爵家令嬢コリンヌの姿が。そのコリンヌが、ブランディーヌと目が合った瞬間、確かに勝ち誇った笑みを浮かべたのが分かった。 ああ、さすがに下位貴族までは盲点でしたわね。 ブランディーヌは敗けを認めるしかない。 だが彼女は、シャルルの次の言葉にさらなる衝撃を受けることになる。 「そして私の婚約は、新たにこのコリンヌと結ぶことになる!」 正式な場でもなく、おそらく父王の承諾さえも得ていないであろう段階で、独断で勝手なことを言い出すシャルル。それも大概だが、本当に男爵家の、下位貴族の娘に王子妃が務まると思っているのか。 これでもブランディーヌは彼の婚約者として10年費やしてきた。その彼の信頼を得られなかったのならば甘んじて婚約破棄も受け入れよう。 だがしかし、シャルルの王子としての立場は守らねばならない。男爵家の娘が立派に務めを果たせるならばいいが、もしも果たせなければ、回り回って婚約者の地位を守れなかったブランディーヌの責任さえも問われかねないのだ。 だから彼女はコリンヌに問うた。 「貴女、王子妃となる覚悟はお有りなのよね? では、一度お試しで受けてみられますか?“王子妃教育”を」 そしてコリンヌは、なぜそう問われたのか、その真意を思い知ることになる⸺! ◆拙作『熊男爵の押しかけ幼妻』と同じ国の同じ時代の物語です。直接の繋がりはありませんが登場人物の一部が被ります。 ◆全15話+番外編が前後編、続編(公爵家侍女編)が全25話+エピローグ、それに設定資料2編とおまけの閑話まで含めて6/2に無事完結! アルファ版は断罪シーンでセリフがひとつ追加されてます。大筋は変わりません。 小説家になろうでも公開しています。あちらは全6話+1話、続編が全13話+エピローグ。なろう版は続編含めて5/16に完結。 ◆小説家になろう4/26日間[異世界恋愛]ランキング1位!同[総合]ランキングも1位!5/22累計100万PV突破! アルファポリスHOTランキングはどうやら41位止まりのようです。(現在圏外)

運命の番?棄てたのは貴方です

ひよこ1号
恋愛
竜人族の侯爵令嬢エデュラには愛する番が居た。二人は幼い頃に出会い、婚約していたが、番である第一王子エリンギルは、新たに番と名乗り出たリリアーデと婚約する。邪魔になったエデュラとの婚約を解消し、番を引き裂いた大罪人として追放するが……。一方で幼い頃に出会った侯爵令嬢を忘れられない帝国の皇子は、男爵令息と身分を偽り竜人国へと留学していた。 番との運命の出会いと別離の物語。番でない人々の貫く愛。 ※自己設定満載ですので気を付けてください。 ※性描写はないですが、一線を越える個所もあります ※多少の残酷表現あります。 以上2点からセルフレイティング

処理中です...