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中学生と婚約解消

食事にて2…遥

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「亜耶には、少し早かったか?」
 雅斗が苦笑しながらそう言葉を告げる。
「そんなこと無いよ。今から覚えておけば、将来役に立つって」
 沢口が珍しくまともな事を言う。
 確かに一理あるよなぁ。普段の生活だと必要ないだろうけど、これから否が応でも増えるだろうしなぁ。
 チラリと横を見れば、そんな会話をキョトンとした顔をして見ている亜耶。
 当の本人がこれじゃあ、意味無いと思うが、な。
 う~ん、どうしたものか……。
「先輩がもう少し色んな所に連れ出せば、自然と亜耶ちゃんも覚えますって……」
 沢口のニコニコした顔が自棄にうざい。
 お前、もしかして勘違いしてる?
 確かに俺と亜耶は婚約してるが、俺の一方通行なの。   
 簡単にどこそこに連れ廻せる立場じゃないんだ。
 俺は雅斗に視線を送るが、軽く首を振るだけで何も言わない。
 訂正するつもり無いらしい。
 ハァ~~。

「先輩、何暗い顔をしてるんですか?もっと楽しみましょうよ」
 って、明るく言ってくる沢口。
 人の気も知らないで……。
「はいはい」
 俺は、どうでも良いような返事を返す。
 すると。
「遥さん?」
 心配そうな顔で俺を見てくる亜耶。
「大丈夫だよ。亜耶が行きたいのなら連れてってやるから……」
 俺は、亜耶の頭にポンと手をやる。
「本当!!」
 上目遣いで、嬉しそうに俺を見てくる亜耶。
 何時、そんな技を覚えてきたんだ。俺を惑わせるきか。
「その時は、あたしもお供しまーす」
 って、沢口が言い出す。
「誰が連れてくか!」
 俺はすかさずそう返した。
 亜耶との時間をコイツに取られるのは癪だ。
「由華、飲みすぎ。遥をからかうのも良い加減にしろ」
 と雅斗の注意が飛ぶ。
 よく見れば、一人でボトルワインを開けていた。
「遥さん。本当に連れてってくれる?」
 横から亜耶の声。
「ん?亜耶が行きたいと思えば何時でも連れて行くが……」
 仕事の合間にだから、時間調整が大変かもしれないが……。
「ヤッター!約束だよ」
 満面な笑みで言う亜耶。
 ハァ~、この笑顔最高だ。写真に納めたい。

 そんなやり取りを沢口がニタニタと見ていた。
 ええい、その笑いやめろ。仮にもお前は女だろうが……。
 そう突っ込みたいのを抑えた俺って、凄いと思う。まぁ、言えば何かしらの返しが待ってるだけだしな。

「よかったね、亜耶ちゃん」
「はい、由華さん」
 二人は、目線を会わせて笑っていた。
 ったく……、何だか嵌められた気分だ。
 だが、亜耶と堂々とデートできるんだ、良しとしないとな。
 
「亜耶?勉強の方は捗っているのか?」
 突然雅斗が話を切り替えた。
「ん?なんとかね」
 難しそうな顔をして言う亜耶。
「そっか。亜耶ちゃん、受験生だったね。もし解らないところがあったら、先輩に聞けば良いからね。先輩、何気に教免持ってるし。全教科教えてくれると思うよ」
 って、お前自分では教えないのかよ。
 呆れ顔で沢口を見てれば。
「そうなの?遥さん」
 亜耶が、興味津々で此方を見てくる。
「うん。まぁ、一様持ってはいるよ」
 無理矢理伯父に取らされたようなもんだが、な。
「凄いなぁ」
 って、亜耶が目を輝かせて俺を見てくる。
 この目は、直視できない。
「亜耶は知らなかったんだな。遥は、文武両道だから出来ないものをあげた方が早いくらいだ」
 雅斗が余計なことを言い出す。
 それを聞いた亜耶の顔が、尊敬の眼差しに変わった。

「何時も、あんなにふざけてばかりなのに?」
 ちょ……ちょっと亜耶さん。それは、どういう意味合いですかねぇ。って言うか、俺、ふざけてた覚えないんだが……。
「へぇ~。亜耶ちゃんの前ではふざけるんですか?先輩」
 沢口の目が細められ、良いこと聞いたと言わんばかりに樮笑んでる。
 あっ、もう……。俺、コイツの前では積んだわ。
「由華、その顔はやめたほうがいい」
 静かに雅斗が嗜めるが。
「だって、普段冷酷な仮面しか被らない先輩が、亜耶ちゃんの前では破顔するんですよ。見てみたいじゃないですか」
 余計な事を口にするなと言いたい。亜耶はそんな俺を知らないんだからな。
 俺たちのやり取りを我感せずって顔をして、黙々と食べる亜耶。
 何に対しても一生懸命な亜耶が愛しい。

「成る程、その顔ですね。これがあの先輩だとすると別人ですね」
 って、どの顔だよ。それに別人って、同じ人物なんだが……。
 これ以上、コイツに見せるわけにいかねぇ。

「そろそろ行くか」
 雅斗の言葉に。
「そうだね」
 満足いったのか、沢口が同意する。
 亜耶を見れば、コクコクと頷いている。
「ここは俺が出すよ。遅れた詫びに」
 俺は伝票を手にし、席を立った。





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