53 / 56
53
しおりを挟む最寄り駅で下りて改札口を通る。
その間に手を繋がれて、彼が此方を振り返り。
「スーパーはどっち?」
と聞いてきたので、繋いでない方の手で指で示しす。
「どうした?」
私が喋らない事に顔を覗き込んできて、不思議そうに見てくる。
いや、まぁね。
まさか、この私が地元の人通りが多い時間帯で、知り合いに遭遇しかねない場所で手を繋いで彼と歩くなんて思ってもみなくて、ちょっと、イヤ、大分狼狽えているなんて、知る由も無いだろう。
しかも、彼はイケメンの部類だ。
同年代の女の子達が、さっきからチラチラと彼を見て私を見て何やら言ってるのが耳に入ってくるのだ。
その言葉が胸を抉っていく。
わかってるんだよ、私とは釣り合ってないって……。
そんな事考えてたら。
「田所さん?」
って声が掛かった。
えって、そちらに振り返れば、中学の同級生で、誰もが認める美人の佐藤さんが此方に近付きながら、彼と繋がれた手を交互に見ているのがわかる。
最悪……。
「久し振りね。」
そう口にしながら私の方を一度も見ずに彼の方をじっと見つめてる。
彼女が彼を狙ってるのが目に見えてわかる。
中学の異名が"狙った者は逃がさない"だったはず。
やだな。
私は、どうしたら……。
「珠稀の知り合いか?」
彼が私の耳許で聞いてきたので頷き。
「中学の同級生。」
とだけ伝えた。
彼女を紹介したら、捕られちゃうんじゃないかって……不安になった。
「そっ。珠稀、行こうか。余り遅くなると親御さんが心配するだろ。」
彼は何事も無かった様な態度でそう口にした。
思わず顔を上げて彼の顔を見る。
すると。
「珠稀のそんな顔、始めて見るな。」
って、笑みを浮かべる。
そんな私たちのやり取りに痺れを切らしたのか。
「ちょっと、無視しないでよ!」
と佐藤さんが怒鳴った。
その声で周りの注目を浴びる羽目に……。
あ、どうしよう。
私は、キョロキョロ周囲を伺いオロオロするしか出来なくて、情けなくなる。
そんな私を庇うように。
「何か用でもあるのか?珠稀の同級生なだけだろ。親友とかじゃないなら、退いてくれ。」
彼の冷ややかな声音、初めて聞いた。
庇われてるから顔はわからないが……。
後ろから覗き込めば、彼女が顔を赤らめ。
「私は、貴方に用があるの。」
意を決したように声を出す。
えっ、まさか……。
「早く言えよ。」
彼が催促する。
「貴方、私と付き合いなさい!」
と上から目線の物言いに目が点になったが、こんな美人から言われたら断るわけ無いよね。
この時は、彼の気持ちを信じきれてなかった自分が居た。
「はぁ~。誰がお前みたいなブスと付き合うかよ!」
って、彼が珍しく怒鳴り返していた。
その言葉に彼女の方が目が点になり、そして"私がブス……"って口をパクパクさせている。
「初対面で何も知らない見かけだけのヤツと付き合うなんて、有り得ない!それにな、珠稀 だけが好きなの。中身もだ。だから告白されても断るだけだ!!」
とはっきりと言いきった。
私は、彼の言葉を聞いて恥じた。
彼の事信じてなかったのだから……。
10
お気に入りに追加
53
あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。

サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由
フルーツパフェ
大衆娯楽
クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。
トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。
いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。
考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。
赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。
言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。
たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。

会社の上司の妻との禁断の関係に溺れた男の物語
六角
恋愛
日本の大都市で働くサラリーマンが、偶然出会った上司の妻に一目惚れしてしまう。彼女に強く引き寄せられるように、彼女との禁断の関係に溺れていく。しかし、会社に知られてしまい、別れを余儀なくされる。彼女との別れに苦しみ、彼女を忘れることができずにいる。彼女との関係は、運命的なものであり、彼女との愛は一生忘れることができない。


身体検査
RIKUTO
BL
次世代優生保護法。この世界の日本は、最適な遺伝子を残し、日本民族の優秀さを維持するとの目的で、
選ばれた青少年たちの体を徹底的に検査する。厳正な検査だというが、異常なほどに性器と排泄器の検査をするのである。それに選ばれたとある少年の全記録。
クラスメイトの美少女と無人島に流された件
桜井正宗
青春
修学旅行で離島へ向かう最中――悪天候に見舞われ、台風が直撃。船が沈没した。
高校二年の早坂 啓(はやさか てつ)は、気づくと砂浜で寝ていた。周囲を見渡すとクラスメイトで美少女の天音 愛(あまね まな)が隣に倒れていた。
どうやら、漂流して流されていたようだった。
帰ろうにも島は『無人島』。
しばらくは島で生きていくしかなくなった。天音と共に無人島サバイバルをしていくのだが……クラスの女子が次々に見つかり、やがてハーレムに。
男一人と女子十五人で……取り合いに発展!?
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる