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52話

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 彼の言葉が耳に残る中、ホームに電車が入って来た。

 降りて来る人は少なくて、車内は混み合っていたがそれに乗り込む。
 どうにかドア付近を陣取り落ち着いた頃電車が動き出した。

「何時もこんなに混んでいるのか?」
 彼の顔が近付いてきて、ドキッとしながら首を横に振り。
「何時もならもう少し空いてるよ。座れるし……。」
 と返す。
「そっか……。」
 そう言って少し距離が出きるとホッとする。
 私の好きなボイスが耳を直撃するから、やめて欲しい。
 彼は何か気になることでもあるのか、思案気な顔をしながら辺りを見渡してる。
 そうこうしている内に急カーブに差し掛かる。
 遠心力の影響で、此方に傾いてくるのがわかっているので身構えていたのだけど……。
 その衝撃が無くて不思議に思っていると。
「大丈夫か?」
 頭上から声が聞こえる。
 見上げれば、心配そうに私を見ている彼の顔が直ぐそこにあって、慌ててのけ反るも背後は壁で逃げる事も出来なく、狼狽えながら頷き。
「ありがとう。」
 とお礼を述べる。
 彼は、私のスペースを守るように壁に手を着いていたのだ。
「大事な彼女が怪我でもしたら大変だからな。」
 彼はほんの少し照れた様な顔をしてそんな言葉を吐く。
 然り気無い優しさが嬉しいと思ってしまう自分が居る。
 こんな風に守られるの初めてだから、ドキドキが止まらない。

 あ~どうしよう~。
 顔、絶対に赤いよ~。

 何て思いながら俯くと。
「珠稀、顔真っ赤」
 彼がからかうように言う。
 言われなくてもわかってる。
「はぁ…、可愛すぎるだろ、俺の彼女は……。」
 彼の呟きにバット顔を上げる。
「か、可愛い……。可愛くなんか無いです、よ……」
 と口から吐き出される言葉。
 その言葉は、自分に自信が無い証拠。
「可愛いって言うのは、"植田さん"みたいな人の事を言うのです!」
 クラスの中で一番可愛い子(自分が思って人)の名を挙げた。
「まぁ、植田は可愛い容姿ではあるけどな、性格はきつめだぞ。それに比べたら、珠稀は性格も容姿も可愛いと思うぞ。」
 と力説し出す。
 その言葉にボフッと音が出るかと思う程の勢いで、顔面に血が上る。
「いや…あの…そんな……。」
 しどろもどろになりながら、言葉を探すが出てこない。
「あー、もう、その顔反則だって……。」
 焦っている私に対して、彼は口許を片手で隠し、視線を外す。
 仄かに耳が赤くなってるような……。
 そんな彼の態度を見たのが初めてで私が戸惑っていると。
「あー、だから、俺にとって珠稀はメチャ可愛い彼女だってこと。他の男が何と言おうともな。わかった?」
 耳許でそう告げられれば、コクコクと何度も頷くしかなかった。






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