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しおりを挟む熱中し過ぎて、気付けば十九時前。
窓の外に視線を向ければ、真っ暗闇で雨が降り出していた。
当然だが、教室には自分以外誰一人残って居ない。
あ~ぁ、やちゃった。
しかも、雨まで降ってるし……。
置き傘してたと思ったんだけど、教室内に設置されている傘立てには、一本も残ってない。この雨で、持っていかれたんだろう。
ハァ~。
落ち込んでても仕方ないか。
帰ろ。
書き終えた用紙をファイルに仕舞い込み、筆記用具と一緒に鞄に居れる。
窓の施錠を確認して鍵を手に後ろの出入り口の鍵を閉める(後ろは、室内からじゃないと鍵が出来ない)。自分の席に置いていた鞄を手にして前の出入り口に移動し、電気のスイッチを切り戸を閉めて鍵を掛ける。再度後ろの戸に行き鍵が掛かってるのを確認してから、職員室に鍵を返しに向かった。
下駄箱でスリッパから下靴に履き替える。
数歩移動して、空を見上げれば、シトシトと降り続く雨。
止みそうもない。
明日は土曜日だし、濡れても乾かす時間はたっぷりある。
そう決意をして一歩踏み出そうとした。
「珠稀、ちょっと待って!」
背後から聞きなれてきた声がかかり、振り返ると彼が焦った顔をしていた。
「な、何で居るの?」
驚いて、そう口に出ていた。
「何でって、俺も部活が終わったところだ。偶々、珠稀がまだ残ってるのを靴箱を見て知ったから、待ってたんだよ。一緒に帰ろうと思って。」
照れ臭そうに話す彼。
「だけど、珠稀全然俺に気付いてないし、雨の中傘を挿さずに出ようとするから、慌てて止めたんだよ。」
あっ、雨の中どうやって帰ろうかって、考えてたから周りが見えてなかった。
「駅までだけど、一緒に行こう。俺、傘持ってるし…な。」
手にしていた傘を私に見せつけるように言う。
「いいの?」
「良いよ。一緒に入るのが嫌なら、この傘を貸すから、珠稀が挿して帰ってくれても良いよ。」
彼は持ち手を私に差し出すように向けてきた。
「そんなの、悪いよ。だったら、一緒に入ってくれますか?」
彼の傘なのに、そう訪ねていた。
「喜んで入れさせて頂きます。」
って、勢い良く言うから、思わず吹き出しちゃった。
彼も私につられてか、笑みを溢す。
その破顔は、ヤバイですって……。
私の心臓、ドクドクと激しく波打ってる。
私を殺す気ですか?
彼が、傘を挿すと。
「珠稀、入って。」
彼の言葉に促されるように横に並んだのだが。
「それじゃあ、濡れるだろ。」
そう言うと、私の肩を抱き寄せる。
その手の温もりが、服越しからも感じられて、ドキドキが加速する。
「ほら、行こう。」
彼の言葉に頷き足を動かす。
駅までの本の僅かな時間。
彼は、私を楽しまそうと色々な話をしてくれた。
彼の気遣いと優しさを間近で感じて、また心惹かれているのが解る。
この気持ちを打ち明けたい!
何て思いつつも、まだ勇気が持てない自分がもどかしかった。
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