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しおりを挟む午前の授業が終わり、各々が昼食を摂るために動き出した。
そんな中、誰にも気付かれないようにお弁当袋を手に教室を抜け出す私。
クラスに友達が居ない訳じゃないからね。
ただ、一人になりたかっただけ。
そして、足を向けたのは校舎裏。
人気がなくて、一人になりたい時に利用している。
コンクリートが剥き出しになっている所に腰を下ろして空を仰ぐ。
雲一つ無い空は高く、夏の気配を残している。
「はぁ……、疲れた。」
溜め息と同時にポツリ呟く。
朝から散々な目に遭った。
有り得もしない嘘の噂を消すのに一苦労。
その噂が。
【私と木崎さんが付き合ってる】
って話だ。
いや、本当に有り得ない噂だよ。
どう考えたって、釣り合わないと思うの。周りだってそう思ってる。
一体何処から出た噂なんだろう。
ぼんやりと考えていたら、突如背後から抱き締められた。
私は驚いてそこから抜け出そうと身体を捩るが、腕がお腹に廻されて身動きが取れ無い。
私は、犯人を見ようと首を動かした。
そこには、彼が私の耳許に口を寄せ。
「なぁ、何時になったら気付いてくれるの?」
と私の大好きなボイスで甘く囁いてくる。
それだけで胸はドキドキするし、頭の中は甘い痺れを起こす。
「それにさぁ。最近、俺の事避けてるだろ。メチャ傷つくんですけど……。」
少し拗ねたような言い方。
まぁ、確かに避けていましたが、何で分かったんだろう?
露骨に避けすぎたかなぁ。
何て反省するも、仕方ないよねって思う。
彼は、人気者だから少し話しただけで女子からの鋭い視線で殺されるんじゃないかとオロオロするのだ。だから必要最低限の接触を心がけていて、彼からの接触は回避していた。
それに、今されてる彼の行動を思えば、勘違いしちゃうよね。
他の女子にはしない(私は一度も目撃してない)行動を私だけにするって、しかも誰も来ない場所でするんだもの。これはひょっとしてなんて思って、後で恥をかくのは嫌なんだけど。
そんな彼の行動に不信感を持つのは仕方ないと思う。
「なぁ、俺の話し聞いてる? 俺、前からお前の事が好きなんだ。」
甘い声音で囁く。
若干お腹に廻された腕に力が籠った気がするのは気のせいかなぁ。
でも今聞き捨てなら無い言葉が交じってた。
彼が、私を好き。
えっ……、って思う。
嘘じゃないの?
あの噂って、本当なの?
いや、まさか有り得ないよ。
考えた末に出た私の答えは、罰ゲームだった。
それしか思い付かなかった。
だから。
「何の冗談。罰ゲームで言わされているだけだよね。こんな地味な私を好きになるなんて、有り得ないよ。」
苦笑を浮かべながら口にする。
自分で言って虚しくなる。
入学当時から全学年女子を虜(かくいう私もだが)にした美男子の彼が、私を好きになる様相が見当たらない。
自分で言うのもなんだが、顔は何処にでも居る平凡顔だし、髪だって今時のお洒落髪ではなく真っ黒のおかっぱ。勉強も運動も大の苦手、ただ真面目が取り柄の地味子。要領も悪いし、頼まれたら断れない性格。何処に好きになって貰える要素があったのか、謎過ぎる。
だから、彼が私の事を好きだと言っても信じられないのだ。
「冗談なんかじゃねえ。そんなに疑うなら、覚悟しておけよ。これから嫌という程構い倒してやるから。そして俺の腕の中に落ちてこい。」
彼はそう言って、私の頬に何かを軽く押し充ててから離れて行った。
私はその頬にそっと手を這わせる。
今のは……。
その後の授業は、上の空だった。
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