愛を注いで

木陰みもり

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11、買い物デート①〜side 尊〜

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 道すがら拓真さんはずっと僕の後ろにいる。なんかすごく背中を嗅がれている気がする。そういえば琥太郎が店がにおうって言ってた。もしかして拓真さんもにおいを嗅ぎとって、僕が独りでシたこと疑ってる?
「あの、拓真さん?どうして後ろにいるんですか?」
「…この辺ちょっと道が狭いから、横並びだと他の人の邪魔かと思って」
至極真っ当な理由だけど、なんか答える前に少し間があったような気がする。やっぱり疑われているのだろうか。
「じゃあ商店街入ったら!手も繋ぎたい!」
「…じゃあ、商店街入ったら。手は前後でも繋げるだろ」
そう言って拓真さんは僕の手を握ってきた。まさか了承してくれるとは思わず、不意に繋がれた手はとても温かかった。
「ふふ、ありがとうございます」
「手汗は我慢しろよ」
「むしろ役得です」
「…ふっ、なんだそれ」
笑いながら拓真さんは隣に並んできた。そうか僕たちはいつの間にか商店街に入っていたんだ。
 いつも独りで歩いていたこの商店街を、今は拓真さんと歩いているなんて夢にも思わなかった。さっきからじっと僕を見ているようだけど、僕は一緒に並んで歩いて、さらに手まで繋げていることに心がふわふわして、さっき独りで処理したことを疑われていたのを忘れていた。
「なぁ…今日も…泊まっていってもいいか?」
「えっ?」
「無理ならいいんだけど…」
「無理じゃないです!大歓迎です!嬉しい…」
まさか拓真さんから泊まりたいなんて言ってくれるなんて嬉しすぎる。手も繋いでくれたし、さっきから嬉しいこと尽くめだ。
 明日の朝まで拓真さんと居られるなんて…もしかして今日の夜最後までできる…のか?僕はゴクリと喉を鳴らしながら拓真さんをチラリと見た。
「どうかしたか?」
「い、いえ!あ、あー今日は暑いですね」
「暑いって、夏だから当たり前だろ」
「そ、そうですよね」
動揺して変なことを口走ってしまった。変なやつって思われたかも。
 しかもさっきから何か言いたげな目で見つめてきている。動揺したのもきっと変に何か隠そうとしてるって思われてるんだろうな。実際隠してるんだけど、流石に正直に話したら引かれそうだ。
「尊くん?着いたよ」
「え、もう着いたんですか」
「さっきからずっと上の空だけど大丈夫か?」
「すみません、久々に外に出て参ってるのかも」
あ、ヤバい。暑さに参ってるなんて言ったら「先に帰れ」って言われるかも。それだけは絶対嫌だ。
「それ大丈夫じゃないだろ。先に帰っ…」
「あー帰りません。せっかくの買い物デートなのに途中で帰るなんてありえません!」
「いやデートって…まぁ大丈夫ならいいけど」
あれ?無理矢理にでも帰されるかと思ったけど、拓真さんは意外とすぐに引き下がった。
 やっぱりさっきからちょっと様子がいつもと違う気がする。怒ってるとか機嫌が悪いわけでも、夏バテとかでもなさそうだ。でも何となく元気がないような…
 聞いてもいいんだけど、急に踏み込みすぎるのもどんなものかと思い、今にも出そうな言葉をグッと飲み込んだ。
 その代わりに眉間に皺を寄せながら僕は拓真さんを凝視していたようで、彼に不審に思われてしまったようだ。
「何か言いたいことあるんじゃないか?」
「そうですね…なんか拓真さんの元気がないように見えて気になってました」
「何だそれ。買い物ではしゃぐほど子供じゃないからな。まぁ尊くんはだいぶ楽しんでるみたいだけど」
ふふっと笑いながら、拓真さんは僕に笑いかけていた。
「それって僕が子供っぽいってことですか?」
「そういうこと、えいっ!」
「あたっ!」
ムッとしながら返事をしたら、とてもいい笑顔で眉間をデコピンされてしまった。拓真さんのデコピンはちょっと痛い。
 痛さに顔を歪めながら眉間を撫でていると、拓真さんはその手を取り、代わりに僕の眉間を撫でてくれた。
「こんなとこに皺寄せてたら後になっちゃうだろう。はい、痛いの痛いの飛んでけー」
「ちょっとどんだけ子供扱いするんですか!」
「はは、悪い。でも難しい顔は消えた。買い物デート、なんだろ?楽しめよ」
そう言って手を伸ばし、僕の頭にポンと手を置いた。僕より背の低い拓真さんがちょっと背伸びをして頭を撫でてる姿は可愛いはずなのに、今はとても格好良いと思った。涼しい店内で真っ赤な僕たちはあまりにも不自然で、この周りだけ温度が上がったように感じた。
「はい、楽しいデートにしましょ」
「ただのスーパーの買い物だけどな」
「もう、そんなこと言わないでくださいよ!」
「はいはい、早くいくぞ」
僕のことを軽くあしらった拓真さんは、僕の手を引っ張ってどんどん進んでいく。その大きな背中は、兄がいたらこんな感じなのだろうかと思わせてくれた。それと同時に、ごねた子供を引っ張る母親もこんな感じで温かいのだろうかと思った。
 僕は拓真さんの手をぎゅっと握り返してついていった。
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