愛を注いで

木陰みもり

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5、2人のズル休み〜side 拓真〜

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 俺はさっき叩いてしまった頭を優しく撫でる。それが気持ち良いのか、段々と尊くんはふわふわした顔なってきた。まるで顎の周りを撫でられた猫のようで可愛い。しかもうっとりしたような艶っぽい瞳が余計に愛おしく感じさせる。
 あ、なんか恋人っぽい…
 なんて、朝の甘い時間を少し堪能していると、また俺の太腿を撫でようと尊くんがゆっくりと手を伸ばしてきた。無防備の太腿を撫でる滑らかな指先に思わず甘い声が漏れてしまった。
「ひゃぁっ…ちょ…触らないで…」
もうこれ以上触られたら勃つ!そう思い尊くんの手を掴み、太腿から離した。結構ヤバい。太腿をギュッと寄せて、気持ちばかりの抵抗を見せる。だが、そのポーズは美琴くんには逆効果だったようで、ニヤニヤしながら俺の指に自分の指を絡め、ジリジリと迫ってきた。もう目は完全に据わっていて、逃げられる気がしない。ベッドの隅に追い込まれた俺は、壁と尊くんに挟まれ完全に逃げ道失った。
「太腿擦り合わせてどうしたんですか?僕が触っただけで感じちゃったんですか?」
「ちがっ」
「嘘。だってこんなにビクビクしてるのに?」
「んひゃっ!?」
指先が背中をゆっくりとつたい、思わず声が出てしまった。これ否定しても肯定しても結局触る気だっただろ。昨日俺が倒れたこと実は根に持ってる?最後まで出来なかったから。いやちょっと待て、今日仕事だ。ヤってたら遅刻する。
「待て!今日仕事なんだってば!」
思わず思い切り頭突きをかましてしまった。
「イッタ!また頭突き!?良い雰囲気だったじゃないですか!」
頬をぷくっと膨らませてムッとした顔で睨まれた。さっきからチョップしたり頭突きをしたり、本当に物理でしか止められないことを申し訳なく思う。でも今はそれよりも仕事に行かなければ。
「今日シ・ゴ・ト!」
「拓真さん仕事人間すぎます。それで倒れたのに!今日は強制休養です。同僚の方に連絡させてもらいました。」
「えぇ?」
尊くんは痛そうに額をさすりながら、サラリととんでもないことを言い放った。同僚ってまさか佐藤のことか?
「佐藤さんという方から連絡が来ていたので、事情を説明してお休みにしてもらったんです。」
やっぱり佐藤か。俺が昨日連絡しなかったから、わざわざ連絡入れてくれたのか?だとしたら申し訳ないな。
「でも俺今日やらなきゃならない仕事が…」
「それも大丈夫みたいですよ?みんなで割り振っておくって言ってました。」
「え、申し訳ないな…結局みんなに迷惑かけちゃって…」
引き受けておいて倒れるなんて、俺ダメリーダーすぎる。みんな呆れてるだろうな。周りと良好な関係を持ちたいあまり抱えすぎて自滅して、何やってんだろ。
 項垂れていると、尊くんが頭を撫でてきた。尊くんの手の温もりが、優しさが、今はすごく切なくて、心が落ち着かない。何これ、泣きそう。
 俺のそんな様子を見かねたのか、尊くんが電話でのことを話してくれた。
「佐藤さんと電話したんですけど、会社の人の声も聞こえてきて、今まで助けてもらった分返すから任せておけって、言ってました。拓真さんの人徳ですよ。だから迷惑とかじゃないと思いますよ?」
「え、そ、そうかな…」
まさかみんながそんなことを言ってくれるなんて思いもよらなかった。何も言われず、見限られてたらと思ったけど、そうじゃないことがわかってなんだかホッとした。
「嫌な上司だったら誰も手伝ったりしてくれないでしょ?」
そう言って尊くんは優しく抱きしめてくれた。伝わってくる体温に抱かれ、俺は呟いた。
「そうだと嬉しいな…」
頑張ってきてよかった。初めてそう思えた。会社では気を張って、面倒臭いやつにならないように気を付けて、相手は本心なのかと疑って信じきれずにいたからか、第三者の尊くんの言葉がスッと心に入ってきた。
「それに一杯連絡来てましたよ。皆さん心配してました。あとで返信してあげては?」
「そっか…あーなんか、今スッゲー嬉しい…かも」
みんな連絡までくれたのか。万全の状態になったら感謝の気持ちと共に頑張ろう、そう思った。
 それに尊くんにも感謝しかない。尊くんが佐藤からの連絡に気付いてくれなかったら、みんなのことも聞けなかったし、そもそも無断欠勤になるところだった。俺はその気持ちを込めて、ギュッと抱きしめ返した。本当にありがとう。
「尊くん、ありがとう…」
「僕は何もしてないですよ?」
「そんなことない、ありがとう」
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