愛を注いで

木陰みもり

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3、愛を教えてくれた君へ side拓真

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 花屋が閉まるまで意外と時間がない、佐藤は小さい花束でいいのではと言ってくれたが、それでも作ってくれるところを探さないと。キョロキョロしながら、商店街を走り回る。だけど意外と花屋は見つからず、どうするか迷っていると、いつの間にか以前コーヒー豆を買った店の前に来ていた。コーヒー豆でも買っていくか?いや、相手はプロだからな。好みもあるだろうし…
 どうしようかと悩んでいると、コーヒー豆店の店員が出てきた。
「あの、入らないなら別のところで悩んでもらえます?」
「え、あ、すみません…」
「道に迷ったんですか?」
「あ、はい、花屋に行きたくて」
「花屋、隣ですけど」
「えぇ!?すみませんでした!」
「いえ」
まさか隣にあったとは。恥ずかしさのあまり急いでお礼を言い、花屋に飛び込んだ。こんなにも自分の視野が狭くなっていたとは。いや、自分に落ち込むよりも先に、早くスズランの花束を作ってもらわないと。
「あの、スズランの花束って作れますか?」
「はーい、大丈夫ですよ。メッセージカードも付けれますが、いかがいたしますか?」
メッセージカードか。形に残るものにしておくのもいいな。ちょっと重いかなと考えながらも、スズランが枯れた後も今日この日の俺のことを思い出させる何かが欲しいと思ってしまった。
「お願いします。あ、自分で書けますか?」
「もちろんです。こちらでどうぞ。」
とはいえ何を書くべきか、改めて考えると何も思い浮かばないものだ。シンプルに『付き合ってください』か『開店おめでとう』か、もっと俺の愛を感じてほしい。書くことを考えていると、出来上がった花束を店員が持ってきてくれた。
「ふふ、見たらいい言葉が浮かぶかもしれませんよ」
「はは、閉店間際にすみません」
「いいえ、ごゆっくり」と言い残して、店員は外の鼻を店内に運びにいった。嫌な顔をしないでくれてありがたい、次花を買うことがあればここを利用しようと思った。
 だが、いつまでも長居はできないし、早く尊くんに会いたい。店員さんが持ってきてくれたスズランの花束に目を向け、佐藤が言っていた花言葉を思い出す。
『幸せな再会』『愛する喜び』か……
確かに、こんなに焦がれることなんて今までなかったかもな。仕事優先にして会えなくても何とも思ってなかったのに、会えないことが辛く感じるなんて。何度も仕事と会いにいくことを天秤にかけ続けていた。でも結局仕事をとっていたわけだが、佐藤に言われて気が付いた。今までとは全く違うんだこの気持ちは。

そうだな、カードの言葉は――

「よし、できた」と呟き、店員さんを呼び、カードを花束に付けてもらった。
「素敵な言葉ですね」と微笑まれ、何だかたまれない気持ちになった。カードの内容から、明らかに今から告白に行くのだとバレバレだ。今の俺はきっと顔が真っ赤だろう。閉店間際で店内が少し薄暗くなっていて良かった。
 そのあと、花束を受け取る時に「頑張ってください」と激励をもらってしまった。花束を買うのはこんなにも恥ずかしいのかと初めて知ったが、絶対に成功させないとという気持ちにもしてくれた。
 もう一度気合を入れ直し、尊くんの喫茶店へと向かう。午後9時半、とうに閉店時間は過ぎてはいるが、喫茶店からは灯りがもれていた。もしかして、毎日遅くまで、来るか分からない俺を待っていてくれたのか?なんて自惚れてしまうくらいには、その灯りに希望を持ってしまう。だけどそうではなかったら、そう思うと胸が締め付けられる。
「ここまで来たのに、急に怖くなってきたな。でもここまで来たんだ、佐藤に花屋の店員に背中を押してもらったんだ。頑張らないと!」
花束を持っていない方の手で、頬をぺチッと叩き気合を入れ、「よし!」と呟き、ドアを開ける。
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