112 / 116
69、次の春が来たら 前編
しおりを挟む
晴兄が眠りについてから2回目の春が終わった。気付けば20歳になり、もう3回目の春がすぐそこまで来ていた。
桜が舞う季節は、出会いと別れの季節だ。俺と晴兄もそうだったように。だからこそ期待してしまう。春という特別な季節に、晴兄も目覚めるんじゃないかと。
そう思っていたけれど、実際は2回越した春は何もなかった。三度目の正直ということわざがあるが、果たしてその通りになるのか、それとも二度あることは三度あるということわざのとおりになってしまうのか、20歳の誕生日を迎えた瞬間から俺は気が気では無かった。
だから俺は最後の希望に賭けた。Collarが晴兄の安定剤となってくれて、晴兄を目覚めさせてくれることを。
「明日、晴陽くんのギプス外れるって」
遅い夕食を取っていると、台所から母さんが話しかけてきた。
「ようやく外れるんだ」
「Collarはもう買ったの?」
「買ってないよ。直して、新しく宝石をはめ込んだ」
「結局そうしたのね…」
「うん。新しいのは2人で探しにいくのもいいかなって」
気持ちの整理ができたころ、俺は壊されたCollarを直すか新しいものを買うか、母さんに相談した。
母さんは、人に外された感覚のある物より新しくプレゼントした方がいいと言ってくれた。だけどそれを聞いていた父さんが、Subにとって大切なCollarはこの世にたった1つと言ってきた。
普段は母さんの意見を尊重する父さんが、Collarのことは譲らないといった風に俺に力説してきたものだから、俺は驚いて綺麗に直した方がいいのかと思い、結局買い替えるのをやめたのだ。
だけど母さんは、あまり納得はしてくれていないみたいだった。複雑そうな顔をしてこちらをずっと見ている。
「あのさ、俺、明日は行くのやめるから」
「どうしたの、急に」
「かわりに明後日は2人きりにしてほしいんだよね」
「そう、分かったわ。だったら抑制剤はちゃんと飲みなさいよ」
念を押すように抑制剤のことを付け加えると、片付けを俺に任せて寝にいってしまった。
1人になったリビングで、黙々とご飯を食べ、俺も足早に自室へと戻る。
月明かりが差し込む薄暗い部屋は、3年前と変わらない。ただ1人の空間だ。
俺はその部屋で、電気もつけずにカバンから直し終わったCollarを取り出した。それを抱きしめて、これが本当に正しい選択だったのかと不安に思いながら願った。
「これが、俺との記憶を思い出すきっかけになりますように」
父さんは大丈夫だと言っていたけれど、さっきの母さんの顔を見ると、やっぱり自分の選択は正しかったのかと迷ってしまう。
目覚めるキッカケになるのか、それともさらに深い眠りについてしまうのか、間違えるわけにはいかないというプレッシャーがここにきて俺を襲った。
それでも、このCollarは俺にとっても大切なものだ。たとえ他人に外されようと、こうして手元に戻ってきたということは、ちゃんと意味があると思えた。
「もう、こうやって祈るのは明後日で終わりにしたいな」
そう声に出しながらも、この葛藤は晴兄が目を覚ますまで続くのだろうと半分諦めている自分がいた。
翌日、先にギプスの外れた晴兄と触れ合った母さんたちは、複雑そうな面持ちで帰ってきた。
「どうしたの?」
「やっぱり私たちじゃダメみたい」
「先生たちは何か反応があるかもしれないと言ってくれていたけれど、実際は何もなかったんだ」
「そう、なんだ…」
「陽介も、明日あまり期待しない方がいいかもね」
「わかった、ありがとう」
晴兄が反応を示さなかったことが相当堪えたのか、母さんは体調があまり良さそうではなかった。そんな母さんを父さんが支えて、そのまま寝室へと向かってしまった。
残された俺は「どうすればいいんだよ」と呟きながら、ただ立ち尽くすしかなかった。
桜が舞う季節は、出会いと別れの季節だ。俺と晴兄もそうだったように。だからこそ期待してしまう。春という特別な季節に、晴兄も目覚めるんじゃないかと。
そう思っていたけれど、実際は2回越した春は何もなかった。三度目の正直ということわざがあるが、果たしてその通りになるのか、それとも二度あることは三度あるということわざのとおりになってしまうのか、20歳の誕生日を迎えた瞬間から俺は気が気では無かった。
だから俺は最後の希望に賭けた。Collarが晴兄の安定剤となってくれて、晴兄を目覚めさせてくれることを。
「明日、晴陽くんのギプス外れるって」
遅い夕食を取っていると、台所から母さんが話しかけてきた。
「ようやく外れるんだ」
「Collarはもう買ったの?」
「買ってないよ。直して、新しく宝石をはめ込んだ」
「結局そうしたのね…」
「うん。新しいのは2人で探しにいくのもいいかなって」
気持ちの整理ができたころ、俺は壊されたCollarを直すか新しいものを買うか、母さんに相談した。
母さんは、人に外された感覚のある物より新しくプレゼントした方がいいと言ってくれた。だけどそれを聞いていた父さんが、Subにとって大切なCollarはこの世にたった1つと言ってきた。
普段は母さんの意見を尊重する父さんが、Collarのことは譲らないといった風に俺に力説してきたものだから、俺は驚いて綺麗に直した方がいいのかと思い、結局買い替えるのをやめたのだ。
だけど母さんは、あまり納得はしてくれていないみたいだった。複雑そうな顔をしてこちらをずっと見ている。
「あのさ、俺、明日は行くのやめるから」
「どうしたの、急に」
「かわりに明後日は2人きりにしてほしいんだよね」
「そう、分かったわ。だったら抑制剤はちゃんと飲みなさいよ」
念を押すように抑制剤のことを付け加えると、片付けを俺に任せて寝にいってしまった。
1人になったリビングで、黙々とご飯を食べ、俺も足早に自室へと戻る。
月明かりが差し込む薄暗い部屋は、3年前と変わらない。ただ1人の空間だ。
俺はその部屋で、電気もつけずにカバンから直し終わったCollarを取り出した。それを抱きしめて、これが本当に正しい選択だったのかと不安に思いながら願った。
「これが、俺との記憶を思い出すきっかけになりますように」
父さんは大丈夫だと言っていたけれど、さっきの母さんの顔を見ると、やっぱり自分の選択は正しかったのかと迷ってしまう。
目覚めるキッカケになるのか、それともさらに深い眠りについてしまうのか、間違えるわけにはいかないというプレッシャーがここにきて俺を襲った。
それでも、このCollarは俺にとっても大切なものだ。たとえ他人に外されようと、こうして手元に戻ってきたということは、ちゃんと意味があると思えた。
「もう、こうやって祈るのは明後日で終わりにしたいな」
そう声に出しながらも、この葛藤は晴兄が目を覚ますまで続くのだろうと半分諦めている自分がいた。
翌日、先にギプスの外れた晴兄と触れ合った母さんたちは、複雑そうな面持ちで帰ってきた。
「どうしたの?」
「やっぱり私たちじゃダメみたい」
「先生たちは何か反応があるかもしれないと言ってくれていたけれど、実際は何もなかったんだ」
「そう、なんだ…」
「陽介も、明日あまり期待しない方がいいかもね」
「わかった、ありがとう」
晴兄が反応を示さなかったことが相当堪えたのか、母さんは体調があまり良さそうではなかった。そんな母さんを父さんが支えて、そのまま寝室へと向かってしまった。
残された俺は「どうすればいいんだよ」と呟きながら、ただ立ち尽くすしかなかった。
0
お気に入りに追加
54
あなたにおすすめの小説
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/bl.png?id=5317a656ee4aa7159975)
いっぱい命じて〜無自覚SubはヤンキーDomに甘えたい〜
きよひ
BL
無愛想な高一Domヤンキー×Subの自覚がない高三サッカー部員
Normalの諏訪大輝は近頃、謎の体調不良に悩まされていた。
そんな折に出会った金髪の一年生、甘井呂翔。
初めて会った瞬間から甘井呂に惹かれるものがあった諏訪は、Domである彼がPlayする様子を覗き見てしまう。
甘井呂に優しく支配されるSubに自分を重ねて胸を熱くしたことに戸惑う諏訪だが……。
第二性に振り回されながらも、互いだけを求め合うようになる青春の物語。
※現代ベースのDom/Subユニバースの世界観(独自解釈・オリジナル要素あり)
※不良の喧嘩描写、イジメ描写有り
初日は5話更新、翌日からは2話ずつ更新の予定です。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/bl.png?id=5317a656ee4aa7159975)
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/bl.png?id=5317a656ee4aa7159975)
何処吹く風に満ちている
夏蜜
BL
和凰高校の一年生である大宮創一は、新聞部に入部してほどなく顧問の平木に魅了される。授業も手に付かない状態が続くなか、気づけばつかみどころのない同級生へも惹かれ始めていた。
お酒に酔って、うっかり幼馴染に告白したら
夏芽玉
BL
タイトルそのまんまのお話です。
テーマは『二行で結合』。三行目からずっとインしてます。
Twitterのお題で『お酒に酔ってうっかり告白しちゃった片想いくんの小説を書いて下さい』と出たので、勢いで書きました。
執着攻め(19大学生)×鈍感受け(20大学生)
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/bl.png?id=5317a656ee4aa7159975)
花婿候補は冴えないαでした
いち
BL
バース性がわからないまま育った凪咲は、20歳の年に待ちに待った判定を受けた。会社を経営する父の一人息子として育てられるなか結果はΩ。 父親を困らせることになってしまう。このまま親に従って、政略結婚を進めて行こうとするが、それでいいのかと自分の今後を考え始める。そして、偶然同じ部署にいた25歳の秘書の孝景と出会った。
本番なしなのもたまにはと思って書いてみました!
※pixivに同様の作品を掲載しています
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/bl.png?id=5317a656ee4aa7159975)
フローブルー
とぎクロム
BL
——好きだなんて、一生、言えないままだと思ってたから…。
高二の夏。ある出来事をきっかけに、フェロモン発達障害と診断された雨笠 紺(あまがさ こん)は、自分には一生、パートナーも、子供も望めないのだと絶望するも、その後も前向きであろうと、日々を重ね、無事大学を出て、就職を果たす。ところが、そんな新社会人になった紺の前に、高校の同級生、日浦 竜慈(ひうら りゅうじ)が現れ、紺に自分の息子、青磁(せいじ)を預け(押し付け)ていく。——これは、始まり。ひとりと、ひとりの人間が、ゆっくりと、激しく、家族になっていくための…。
若奥様は緑の手 ~ お世話した花壇が聖域化してました。嫁入り先でめいっぱい役立てます!
古森真朝
恋愛
意地悪な遠縁のおばの邸で暮らすユーフェミアは、ある日いきなり『明後日に輿入れが決まったから荷物をまとめろ』と言い渡される。いろいろ思うところはありつつ、これは邸から出て自立するチャンス!と大急ぎで支度して出立することに。嫁入り道具兼手土産として、唯一の財産でもある裏庭の花壇(四畳サイズ)を『持参』したのだが――実はこのプチ庭園、長年手塩にかけた彼女の魔力によって、神域霊域レベルのレア植物生息地となっていた。
そうとは知らないまま、輿入れ初日にボロボロになって帰ってきた結婚相手・クライヴを救ったのを皮切りに、彼の実家エヴァンス邸、勤め先である王城、さらにお世話になっている賢者様が司る大神殿と、次々に起こる事件を『あ、それならありますよ!』とプチ庭園でしれっと解決していくユーフェミア。果たして嫁ぎ先で平穏を手に入れられるのか。そして根っから世話好きで、何くれとなく構ってくれるクライヴVS自立したい甘えベタの若奥様の勝負の行方は?
*カクヨム様で先行掲載しております
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる