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70、長い夢の旅⑤
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妙にリアルに想像できた陽介との未来が消えて、そのことを忘れさせるかのように裕人に依存するようにのめり込んでいった。
高校を卒業してからは陽介の家には帰らず、大学に通うため1人暮らしを始めた裕人の家に自然に転がり込んだ。
バイトして、裕人の帰りを待って、Playをして。たまに陽さんと聖司さんとご飯を食べに行って。それなりに幸せな生活を送っていた。
今日も変わらず裕人とPlayを楽しむ。
背中が焼けるように熱くて痛い感覚と、冷たくて気持ちのいい滴る雫の感覚に情欲する。
頭がふわふわして何も考えられなくなって、気付かないうちに快感の海に溺れていく。
そして眠ると暗い場所で痛い身体と温かなものに触られている感触が巡る。痛くて起きたいのに、温かくて起きたくない、変わった夢に閉じ込められる。
そんな何も変わらない日だと、今日も思っていた。
だけど今、俺の目の前には自分とそっくりのヤツれた青年が立っている。
その青年は、背格好、顔付きはそっくりなのに、身体は全く別物のように汚かった。身体中にたくさんの傷痕が残っていて、所々あるケロイド状の痕は赤黒く膨れ上がって、見るに耐えない。
それなのに、その青年は羨ましいことに“黒のCollar”を付けていて、しかもアクセントにはめられた石は陽介の誕生石の色をしてキラキラと輝いていた。
それを羨ましそうに見ていると、突然青年が「今幸せ?」と聞いてきた。それに俺は「そこそこ」と返す。
俺の返答に対して、彼はさらに言葉を紡いでいき、俺も言葉を返していたら会話は予想以上に続いていた。
この青年の受け答え全てが自分と似ていて、話す内容は既視感があって、どれも惹かれる話しばかりだった。
――俺の恋人はロマンチストだよ
――“初めては夜景の綺麗なホテル”がいいんだって
――一体どれだけ待てばいいんだか
――俺は早く上書きしてほしいのにさ
「贅沢な悩みだな。でも待てない気持ち、分かる。不安になるよな」
“夜景の綺麗なホテル”そんな響きどこにでも転がっていそうなのに、どうしてこんなにも胸が熱くなる響きなのだろう。
それに彼の言い分も、まるで自分のことのように思えた。俺も彼の立場だったら、安心を得るために行動していただろう。
――Collarを渡すのも遅すぎ
――場所とかシチュエーションとか、俺はどうでもいい
――なんなら疑ったよ、本当は俺のことなんてどうでもいいんじゃないかって
「でももらえたんだろ。いいじゃないか」
――包装はクシャクシャで、箱も潰れてたけどね
「ああそういえば。不恰好だったけど、でもどんな物よりも輝いて見えた…」
――だよな、この先あの時以上のプレゼントはないと思うよ
「生きてきた中で最高の瞬間…」
――だけど付ける時はかなり焦らされた
「早くって思えば思うほど陽介のことで頭が…」
――頭がいっぱいになって、独占されてく感じ
「だから余計に『陽介のモノ』だという感覚が研ぎ澄まされて」
――金具がハマった瞬間、快感が全身を駆け巡った、そうだろ?
「俺、なんでこんなに自分のことみたいに…」
青年の恋人の話をしていたはずなのに、いつの間にか俺自身のことのように話していた。彼もまた俺の話に同調し、深く眠りについていた次々と呼び起こされる。
――この身体中の傷痕、ずっといつ言うか迷っていた
「見せたらまた、穢らわしいものを見る目を向けられるんじゃないかって思ってた」
――母さんが向けた目はまさにそれだった
「だから、愛する人に見せるのが怖かった」
――また拒絶されたらと思うと、ずっと見せないほうがマシだと思っていた
「だけどそれだと一生、一緒にお風呂に入れない」
――全身で陽介を感じることができない
「隠し事は信じられないと言っているようで」
――自分に腹が立った
「だから決心した」
――見せてしまおうと
「それに過去のことも、全てが汚れていることを」
――陽介は嘘付けないから、吐いてた
「でも逆によかった。諦めもつくから」
――でも陽介は全てを聞いて、それでも一緒にいてくれた
「きっと複雑だっただろう」
――もっと綺麗な子を選べただろう
「なのに変わらず俺を選んでくれた」
陽介との大切な思い出たちが一気に頭の中に流れ込んできた。瞬間、霧がかっていた世界が晴れていく。今まで見ていた世界が、次々と塗りつぶされ、あたりは真っ白に覆われ、見渡す限り真っ白な世界には、俺と、もう1人の俺だけが立っていた。
――もうこれはいらないよな
彼はそう言うと、俺に付けられていた真っ赤なCollarを外した。外された時、何かから解放されたように頭がスッキリした。
――この、身体の傷だって、もう俺を作り上げる一部なんだ
彼は俺を抱きしめてそう言った。まるで全てが1つになるように、身体中彼と同じ傷痕が浮かび上がっていく。
――それからこれを付けないと、会いに行けないよな
彼は自分の首からCollarを外すと俺に付けた。黒くて、陽介の誕生石が埋め込まれた、独占欲丸出しのCollarだ。でも確か、もらった時はイミテーションだったはず。今は宝石のような輝きを放っている。
「なぁ、これって…」
――パチン
どうして本物のような輝きなのか聞こうとした瞬間、金具がハマった。と同時に俺に話しかける陽介の声が微かに聞こえた。
「………なおし…んだ………んど…ちゃんと……せき……はるにい…」
その声に身体が引き寄せられるように、彼から離れていく。
「一緒に」
――もう一緒だよ。早く行きなよ
手を伸ばしても彼を掴めることはなかった。どうしようか迷っているうちにどんどん身体が彼から離れていってもう届かない。そして完全に消えてしまった。俺は光が射す方へ引っ張られていく。
「はる…にい……」
陽介が俺の名前を必死に叫んでいる。そこには抱えきれないほどの愛を感じる。この声がずっと聴きたかった。
夢の世界は誰にも酷いことをされなくて、それなりに幸せだったけれど、欲しいものは手に入らなかった。
現実は辛い日々のが多かったけれど、代わりに陽介というかけがえのないものを1つ手に入れられた。
ずっと普通に暮らしていきたいと思っていたけれど、それ以上に陽介との未来が俺の欲しいものだった。
辛くてもいい、しんどくて投げ出したくなるような人生でも、たった1つだけ、隣に陽介がいてくれることを望めるのであれば、どんな苦しい毎日でも乗り越えられる。
俺は必死に光の方へ手を伸ばした。どんどん眩しくなっていく。もう目があけていられない。でも目を瞑るのは怖い。これが夢だったらと思うと怖い。そうして耐え続け、何かを掴んだ瞬間、目の前にはポタポタと大粒の涙を落としながら泣きじゃくる陽介の顔があった。
「なきむし…おはよう…」
高校を卒業してからは陽介の家には帰らず、大学に通うため1人暮らしを始めた裕人の家に自然に転がり込んだ。
バイトして、裕人の帰りを待って、Playをして。たまに陽さんと聖司さんとご飯を食べに行って。それなりに幸せな生活を送っていた。
今日も変わらず裕人とPlayを楽しむ。
背中が焼けるように熱くて痛い感覚と、冷たくて気持ちのいい滴る雫の感覚に情欲する。
頭がふわふわして何も考えられなくなって、気付かないうちに快感の海に溺れていく。
そして眠ると暗い場所で痛い身体と温かなものに触られている感触が巡る。痛くて起きたいのに、温かくて起きたくない、変わった夢に閉じ込められる。
そんな何も変わらない日だと、今日も思っていた。
だけど今、俺の目の前には自分とそっくりのヤツれた青年が立っている。
その青年は、背格好、顔付きはそっくりなのに、身体は全く別物のように汚かった。身体中にたくさんの傷痕が残っていて、所々あるケロイド状の痕は赤黒く膨れ上がって、見るに耐えない。
それなのに、その青年は羨ましいことに“黒のCollar”を付けていて、しかもアクセントにはめられた石は陽介の誕生石の色をしてキラキラと輝いていた。
それを羨ましそうに見ていると、突然青年が「今幸せ?」と聞いてきた。それに俺は「そこそこ」と返す。
俺の返答に対して、彼はさらに言葉を紡いでいき、俺も言葉を返していたら会話は予想以上に続いていた。
この青年の受け答え全てが自分と似ていて、話す内容は既視感があって、どれも惹かれる話しばかりだった。
――俺の恋人はロマンチストだよ
――“初めては夜景の綺麗なホテル”がいいんだって
――一体どれだけ待てばいいんだか
――俺は早く上書きしてほしいのにさ
「贅沢な悩みだな。でも待てない気持ち、分かる。不安になるよな」
“夜景の綺麗なホテル”そんな響きどこにでも転がっていそうなのに、どうしてこんなにも胸が熱くなる響きなのだろう。
それに彼の言い分も、まるで自分のことのように思えた。俺も彼の立場だったら、安心を得るために行動していただろう。
――Collarを渡すのも遅すぎ
――場所とかシチュエーションとか、俺はどうでもいい
――なんなら疑ったよ、本当は俺のことなんてどうでもいいんじゃないかって
「でももらえたんだろ。いいじゃないか」
――包装はクシャクシャで、箱も潰れてたけどね
「ああそういえば。不恰好だったけど、でもどんな物よりも輝いて見えた…」
――だよな、この先あの時以上のプレゼントはないと思うよ
「生きてきた中で最高の瞬間…」
――だけど付ける時はかなり焦らされた
「早くって思えば思うほど陽介のことで頭が…」
――頭がいっぱいになって、独占されてく感じ
「だから余計に『陽介のモノ』だという感覚が研ぎ澄まされて」
――金具がハマった瞬間、快感が全身を駆け巡った、そうだろ?
「俺、なんでこんなに自分のことみたいに…」
青年の恋人の話をしていたはずなのに、いつの間にか俺自身のことのように話していた。彼もまた俺の話に同調し、深く眠りについていた次々と呼び起こされる。
――この身体中の傷痕、ずっといつ言うか迷っていた
「見せたらまた、穢らわしいものを見る目を向けられるんじゃないかって思ってた」
――母さんが向けた目はまさにそれだった
「だから、愛する人に見せるのが怖かった」
――また拒絶されたらと思うと、ずっと見せないほうがマシだと思っていた
「だけどそれだと一生、一緒にお風呂に入れない」
――全身で陽介を感じることができない
「隠し事は信じられないと言っているようで」
――自分に腹が立った
「だから決心した」
――見せてしまおうと
「それに過去のことも、全てが汚れていることを」
――陽介は嘘付けないから、吐いてた
「でも逆によかった。諦めもつくから」
――でも陽介は全てを聞いて、それでも一緒にいてくれた
「きっと複雑だっただろう」
――もっと綺麗な子を選べただろう
「なのに変わらず俺を選んでくれた」
陽介との大切な思い出たちが一気に頭の中に流れ込んできた。瞬間、霧がかっていた世界が晴れていく。今まで見ていた世界が、次々と塗りつぶされ、あたりは真っ白に覆われ、見渡す限り真っ白な世界には、俺と、もう1人の俺だけが立っていた。
――もうこれはいらないよな
彼はそう言うと、俺に付けられていた真っ赤なCollarを外した。外された時、何かから解放されたように頭がスッキリした。
――この、身体の傷だって、もう俺を作り上げる一部なんだ
彼は俺を抱きしめてそう言った。まるで全てが1つになるように、身体中彼と同じ傷痕が浮かび上がっていく。
――それからこれを付けないと、会いに行けないよな
彼は自分の首からCollarを外すと俺に付けた。黒くて、陽介の誕生石が埋め込まれた、独占欲丸出しのCollarだ。でも確か、もらった時はイミテーションだったはず。今は宝石のような輝きを放っている。
「なぁ、これって…」
――パチン
どうして本物のような輝きなのか聞こうとした瞬間、金具がハマった。と同時に俺に話しかける陽介の声が微かに聞こえた。
「………なおし…んだ………んど…ちゃんと……せき……はるにい…」
その声に身体が引き寄せられるように、彼から離れていく。
「一緒に」
――もう一緒だよ。早く行きなよ
手を伸ばしても彼を掴めることはなかった。どうしようか迷っているうちにどんどん身体が彼から離れていってもう届かない。そして完全に消えてしまった。俺は光が射す方へ引っ張られていく。
「はる…にい……」
陽介が俺の名前を必死に叫んでいる。そこには抱えきれないほどの愛を感じる。この声がずっと聴きたかった。
夢の世界は誰にも酷いことをされなくて、それなりに幸せだったけれど、欲しいものは手に入らなかった。
現実は辛い日々のが多かったけれど、代わりに陽介というかけがえのないものを1つ手に入れられた。
ずっと普通に暮らしていきたいと思っていたけれど、それ以上に陽介との未来が俺の欲しいものだった。
辛くてもいい、しんどくて投げ出したくなるような人生でも、たった1つだけ、隣に陽介がいてくれることを望めるのであれば、どんな苦しい毎日でも乗り越えられる。
俺は必死に光の方へ手を伸ばした。どんどん眩しくなっていく。もう目があけていられない。でも目を瞑るのは怖い。これが夢だったらと思うと怖い。そうして耐え続け、何かを掴んだ瞬間、目の前にはポタポタと大粒の涙を落としながら泣きじゃくる陽介の顔があった。
「なきむし…おはよう…」
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