モラトリアムの俺たちはー

木陰みもり

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67、長い夢の旅④ 前編

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「――――さよなら――」
「待って、そんなこと言わないで。聞きたくない」

誰かの温もりが離れていく。感じない。代わりに残るのは冷たい機械のような感覚とまた激しい痛みだけだった。

「お願い、行かないで、待って…“さよなら”なんて酷いこと言わないで!」

痛い手を必死に伸ばそうとしても固定されていて動かない。それでも「動け」と必死にもがき続けた。

「待って!」

光に向かって歩く誰かに向かって叫ぶと、その光がさらに光を増して完全に追いかけていた人を覆い隠した。

――眩しい

太陽のような眩しさに目を瞑った。

――早く目を開けて追いかけないと

そう思って次に目を開けた時には、知らない部屋の天井が目の前にあった。

「どこだっけここ…」
「ん…どうしたんだ?」

声のする方を向くと、裕人がまだ眠そうに目を擦っていた。

「裕人?」

俺が名前を呼ぶと、裕人は目を細めて笑った。それから裕人は携帯で時間を確認して、俺の腕を引っ張って布団に閉じ込めた。

「はえーよ。寒いし、もう少し寝ようぜ」

裕人は子供を寝かしつけるように俺の背中をぽんぽんと叩いた。そうしているうちに先に寝たのは裕人だった。

「裕人が寝るのかよ」

そう彼の腕の中で俺は呟いた。頭の上では小気味いい寝息が絶え間なく聞こえている。その音を聞きながら、目の冴えてしまった俺はさっきまで見ていた夢のことを思い出そうとしていた。だけどいくら思い出そうとしても、いつものように夢の内容は思い出せなかった。
 それに昨日のことが途中から記憶にない。いつ寝たのか、Playプレイのようなあの感覚が鋭敏になる行為の後から何も思い出せずにいた。
 俺はそっと裕人の腕をどかして、ベッドから出た。暖房の付いていない冬の部屋は、布団の中から出るのが億劫になるくらい寒かった。特に下半身は素肌を冷気に晒しているように冷たい空気が肌に突き刺さってきた。
 ふと流石に寒すぎると思い、自分の下半身に目をやると、昨日履いていたズボンも、下着も、何も身に付けていなかった。

「ど、どういうこと?」

俺はシャツの前を必死に伸ばして、咄嗟に前を隠した。誰も見てはいないけれど、友人の部屋で下半身を露出していることが、俺の羞恥心を掻き立てた。それから心配したのはお尻だった。
 もしかして知らない間に性行為を行ってしまったのではないか。そう思ったら不安でどうにかなりそうだった。
 お尻に違和感はないけれど、記憶がない以上不安を消し去ることはできない。俺はスヤスヤと眠る裕人を無理やり叩き起こした。

「ねぇ、裕人、起きて!裕人!」
「んーなんだよ」
「なんで俺、下着もズボンも履いてないの?」
「あー…それは処理したから」
「処理って何?」
「え?処理ってのは抜いたってこと。あーそういやあ晴陽の太ももすべすべで気持ちよかったなぁ」

昨日のことを思い出した裕人は、恍惚とした表情を浮かべて下半身を膨らませていた。それを見て、俺は違和感はないけど裕人と性行為をしてしまったのだと思った。

「俺、初めて…」
「あーお前Sub Spaceサブスペ入ってたからな、覚えてないのも無理ないか」
「何も、覚えてない…」

俺は瞳を潤ませて裕人を見つめた。初めてはちゃんと好きな人としたかったのに、それを俺は自分の愚かな行動によってあっさり失ってしまった。

「えー泣くほど?」
「だって、初めては…」
「あー…じゃあ今からシようぜ。そしたらお前にとっては今日が初めてになるだろ」

ヤる気満々で裕人は立ち、俺の腕を引っ張ると、俺をベッドに押し倒した。掴んできた裕人の手は思いのほか力が強くて、それが俺の恐怖心を助長させた。

「や…やだ…」
「何?」
「あ、朝から…」
「あ、軽くCommandコマンド使ったほうがいいか。じゃあPresentケツこっちに向けろ
「ちがっ…」

俺がCommandコマンドに逆らえるはずもなく、俺は枕に額を押し付け、高くお尻を上げた。その恥ずかしい格好と、これから行われるであろう性行為への不安で俺は枕を濡らした。

「ほんと、同じ男とは思えないほど綺麗な身体だよな」
「ひゃあっ」

裕人は俺のお尻を鷲掴みすると、そのまま顔を埋めてきた。ぺろぺろと舐められて、すんすんと嗅がれて、羞恥で爆発しそうなほど顔が熱くなった。

「あれ、昨日はこれだけでも勃ってたけど、寒いからか?」

不思議そうに俺のお尻から顔を上げた裕人が言った。

「まぁ肌くっ付けて動いてたらあったまってくるだろ」

裕人は俺の腹に両腕を回して後ろから抱きしめ、そのまま俺を持ち上げた。

「ほら、ちゃんと太もも閉じて」
「おれ…おれ…」
「怖がることなんて何もねーって」

俺を安心させたかったのか、裕人は俺のうなじに何度もキスをした。そうやって唇が触れるたび、ぞわぞわと全身がくすぐられたような感覚が走った。そう裕人に翻弄される間に、俺の太ももはしっかり閉じられていた。
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