110 / 116
67、長い夢の旅④ 前編
しおりを挟む
「――――さよなら――」
「待って、そんなこと言わないで。聞きたくない」
誰かの温もりが離れていく。感じない。代わりに残るのは冷たい機械のような感覚とまた激しい痛みだけだった。
「お願い、行かないで、待って…“さよなら”なんて酷いこと言わないで!」
痛い手を必死に伸ばそうとしても固定されていて動かない。それでも「動け」と必死にもがき続けた。
「待って!」
光に向かって歩く誰かに向かって叫ぶと、その光がさらに光を増して完全に追いかけていた人を覆い隠した。
――眩しい
太陽のような眩しさに目を瞑った。
――早く目を開けて追いかけないと
そう思って次に目を開けた時には、知らない部屋の天井が目の前にあった。
「どこだっけここ…」
「ん…どうしたんだ?」
声のする方を向くと、裕人がまだ眠そうに目を擦っていた。
「裕人?」
俺が名前を呼ぶと、裕人は目を細めて笑った。それから裕人は携帯で時間を確認して、俺の腕を引っ張って布団に閉じ込めた。
「はえーよ。寒いし、もう少し寝ようぜ」
裕人は子供を寝かしつけるように俺の背中をぽんぽんと叩いた。そうしているうちに先に寝たのは裕人だった。
「裕人が寝るのかよ」
そう彼の腕の中で俺は呟いた。頭の上では小気味いい寝息が絶え間なく聞こえている。その音を聞きながら、目の冴えてしまった俺はさっきまで見ていた夢のことを思い出そうとしていた。だけどいくら思い出そうとしても、いつものように夢の内容は思い出せなかった。
それに昨日のことが途中から記憶にない。いつ寝たのか、Playのようなあの感覚が鋭敏になる行為の後から何も思い出せずにいた。
俺はそっと裕人の腕をどかして、ベッドから出た。暖房の付いていない冬の部屋は、布団の中から出るのが億劫になるくらい寒かった。特に下半身は素肌を冷気に晒しているように冷たい空気が肌に突き刺さってきた。
ふと流石に寒すぎると思い、自分の下半身に目をやると、昨日履いていたズボンも、下着も、何も身に付けていなかった。
「ど、どういうこと?」
俺はシャツの前を必死に伸ばして、咄嗟に前を隠した。誰も見てはいないけれど、友人の部屋で下半身を露出していることが、俺の羞恥心を掻き立てた。それから心配したのはお尻だった。
もしかして知らない間に性行為を行ってしまったのではないか。そう思ったら不安でどうにかなりそうだった。
お尻に違和感はないけれど、記憶がない以上不安を消し去ることはできない。俺はスヤスヤと眠る裕人を無理やり叩き起こした。
「ねぇ、裕人、起きて!裕人!」
「んーなんだよ」
「なんで俺、下着もズボンも履いてないの?」
「あー…それは処理したから」
「処理って何?」
「え?処理ってのは抜いたってこと。あーそういやあ晴陽の太ももすべすべで気持ちよかったなぁ」
昨日のことを思い出した裕人は、恍惚とした表情を浮かべて下半身を膨らませていた。それを見て、俺は違和感はないけど裕人と性行為をしてしまったのだと思った。
「俺、初めて…」
「あーお前Sub Space入ってたからな、覚えてないのも無理ないか」
「何も、覚えてない…」
俺は瞳を潤ませて裕人を見つめた。初めてはちゃんと好きな人としたかったのに、それを俺は自分の愚かな行動によってあっさり失ってしまった。
「えー泣くほど?」
「だって、初めては…」
「あー…じゃあ今からシようぜ。そしたらお前にとっては今日が初めてになるだろ」
ヤる気満々で裕人は立ち、俺の腕を引っ張ると、俺をベッドに押し倒した。掴んできた裕人の手は思いのほか力が強くて、それが俺の恐怖心を助長させた。
「や…やだ…」
「何?」
「あ、朝から…」
「あ、軽くCommand使ったほうがいいか。じゃあPresent」
「ちがっ…」
俺がCommandに逆らえるはずもなく、俺は枕に額を押し付け、高くお尻を上げた。その恥ずかしい格好と、これから行われるであろう性行為への不安で俺は枕を濡らした。
「ほんと、同じ男とは思えないほど綺麗な身体だよな」
「ひゃあっ」
裕人は俺のお尻を鷲掴みすると、そのまま顔を埋めてきた。ぺろぺろと舐められて、すんすんと嗅がれて、羞恥で爆発しそうなほど顔が熱くなった。
「あれ、昨日はこれだけでも勃ってたけど、寒いからか?」
不思議そうに俺のお尻から顔を上げた裕人が言った。
「まぁ肌くっ付けて動いてたらあったまってくるだろ」
裕人は俺の腹に両腕を回して後ろから抱きしめ、そのまま俺を持ち上げた。
「ほら、ちゃんと太もも閉じて」
「おれ…おれ…」
「怖がることなんて何もねーって」
俺を安心させたかったのか、裕人は俺の頸に何度もキスをした。そうやって唇が触れるたび、ぞわぞわと全身がくすぐられたような感覚が走った。そう裕人に翻弄される間に、俺の太ももはしっかり閉じられていた。
「待って、そんなこと言わないで。聞きたくない」
誰かの温もりが離れていく。感じない。代わりに残るのは冷たい機械のような感覚とまた激しい痛みだけだった。
「お願い、行かないで、待って…“さよなら”なんて酷いこと言わないで!」
痛い手を必死に伸ばそうとしても固定されていて動かない。それでも「動け」と必死にもがき続けた。
「待って!」
光に向かって歩く誰かに向かって叫ぶと、その光がさらに光を増して完全に追いかけていた人を覆い隠した。
――眩しい
太陽のような眩しさに目を瞑った。
――早く目を開けて追いかけないと
そう思って次に目を開けた時には、知らない部屋の天井が目の前にあった。
「どこだっけここ…」
「ん…どうしたんだ?」
声のする方を向くと、裕人がまだ眠そうに目を擦っていた。
「裕人?」
俺が名前を呼ぶと、裕人は目を細めて笑った。それから裕人は携帯で時間を確認して、俺の腕を引っ張って布団に閉じ込めた。
「はえーよ。寒いし、もう少し寝ようぜ」
裕人は子供を寝かしつけるように俺の背中をぽんぽんと叩いた。そうしているうちに先に寝たのは裕人だった。
「裕人が寝るのかよ」
そう彼の腕の中で俺は呟いた。頭の上では小気味いい寝息が絶え間なく聞こえている。その音を聞きながら、目の冴えてしまった俺はさっきまで見ていた夢のことを思い出そうとしていた。だけどいくら思い出そうとしても、いつものように夢の内容は思い出せなかった。
それに昨日のことが途中から記憶にない。いつ寝たのか、Playのようなあの感覚が鋭敏になる行為の後から何も思い出せずにいた。
俺はそっと裕人の腕をどかして、ベッドから出た。暖房の付いていない冬の部屋は、布団の中から出るのが億劫になるくらい寒かった。特に下半身は素肌を冷気に晒しているように冷たい空気が肌に突き刺さってきた。
ふと流石に寒すぎると思い、自分の下半身に目をやると、昨日履いていたズボンも、下着も、何も身に付けていなかった。
「ど、どういうこと?」
俺はシャツの前を必死に伸ばして、咄嗟に前を隠した。誰も見てはいないけれど、友人の部屋で下半身を露出していることが、俺の羞恥心を掻き立てた。それから心配したのはお尻だった。
もしかして知らない間に性行為を行ってしまったのではないか。そう思ったら不安でどうにかなりそうだった。
お尻に違和感はないけれど、記憶がない以上不安を消し去ることはできない。俺はスヤスヤと眠る裕人を無理やり叩き起こした。
「ねぇ、裕人、起きて!裕人!」
「んーなんだよ」
「なんで俺、下着もズボンも履いてないの?」
「あー…それは処理したから」
「処理って何?」
「え?処理ってのは抜いたってこと。あーそういやあ晴陽の太ももすべすべで気持ちよかったなぁ」
昨日のことを思い出した裕人は、恍惚とした表情を浮かべて下半身を膨らませていた。それを見て、俺は違和感はないけど裕人と性行為をしてしまったのだと思った。
「俺、初めて…」
「あーお前Sub Space入ってたからな、覚えてないのも無理ないか」
「何も、覚えてない…」
俺は瞳を潤ませて裕人を見つめた。初めてはちゃんと好きな人としたかったのに、それを俺は自分の愚かな行動によってあっさり失ってしまった。
「えー泣くほど?」
「だって、初めては…」
「あー…じゃあ今からシようぜ。そしたらお前にとっては今日が初めてになるだろ」
ヤる気満々で裕人は立ち、俺の腕を引っ張ると、俺をベッドに押し倒した。掴んできた裕人の手は思いのほか力が強くて、それが俺の恐怖心を助長させた。
「や…やだ…」
「何?」
「あ、朝から…」
「あ、軽くCommand使ったほうがいいか。じゃあPresent」
「ちがっ…」
俺がCommandに逆らえるはずもなく、俺は枕に額を押し付け、高くお尻を上げた。その恥ずかしい格好と、これから行われるであろう性行為への不安で俺は枕を濡らした。
「ほんと、同じ男とは思えないほど綺麗な身体だよな」
「ひゃあっ」
裕人は俺のお尻を鷲掴みすると、そのまま顔を埋めてきた。ぺろぺろと舐められて、すんすんと嗅がれて、羞恥で爆発しそうなほど顔が熱くなった。
「あれ、昨日はこれだけでも勃ってたけど、寒いからか?」
不思議そうに俺のお尻から顔を上げた裕人が言った。
「まぁ肌くっ付けて動いてたらあったまってくるだろ」
裕人は俺の腹に両腕を回して後ろから抱きしめ、そのまま俺を持ち上げた。
「ほら、ちゃんと太もも閉じて」
「おれ…おれ…」
「怖がることなんて何もねーって」
俺を安心させたかったのか、裕人は俺の頸に何度もキスをした。そうやって唇が触れるたび、ぞわぞわと全身がくすぐられたような感覚が走った。そう裕人に翻弄される間に、俺の太ももはしっかり閉じられていた。
0
お気に入りに追加
54
あなたにおすすめの小説
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/bl.png?id=5317a656ee4aa7159975)
お客様と商品
あかまロケ
BL
馬鹿で、不細工で、性格最悪…なオレが、衣食住提供と引き換えに体を売る相手は高校時代一度も面識の無かったエリートモテモテイケメン御曹司で。オレは商品で、相手はお客様。そう思って毎日せっせとお客様に尽くす涙ぐましい努力のオレの物語。(*ムーンライトノベルズ・pixivにも投稿してます。)
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/bl.png?id=5317a656ee4aa7159975)
いっぱい命じて〜無自覚SubはヤンキーDomに甘えたい〜
きよひ
BL
無愛想な高一Domヤンキー×Subの自覚がない高三サッカー部員
Normalの諏訪大輝は近頃、謎の体調不良に悩まされていた。
そんな折に出会った金髪の一年生、甘井呂翔。
初めて会った瞬間から甘井呂に惹かれるものがあった諏訪は、Domである彼がPlayする様子を覗き見てしまう。
甘井呂に優しく支配されるSubに自分を重ねて胸を熱くしたことに戸惑う諏訪だが……。
第二性に振り回されながらも、互いだけを求め合うようになる青春の物語。
※現代ベースのDom/Subユニバースの世界観(独自解釈・オリジナル要素あり)
※不良の喧嘩描写、イジメ描写有り
初日は5話更新、翌日からは2話ずつ更新の予定です。
お酒に酔って、うっかり幼馴染に告白したら
夏芽玉
BL
タイトルそのまんまのお話です。
テーマは『二行で結合』。三行目からずっとインしてます。
Twitterのお題で『お酒に酔ってうっかり告白しちゃった片想いくんの小説を書いて下さい』と出たので、勢いで書きました。
執着攻め(19大学生)×鈍感受け(20大学生)
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/bl.png?id=5317a656ee4aa7159975)
ボクの推しアイドルに会える方法
たっぷりチョコ
BL
アイドル好きの姉4人の影響で男性アイドル好きに成長した主人公、雨野明(あめのあきら)。(高2)
学校にバイトに毎日頑張る明が今推しているアイドルは、「ラヴ→ズ」という男性アイドルグループのメンバー、トモセ。
そんなトモセのことが好きすぎて夢の中で毎日会えるようになって・・・。
攻めアイドル×受け乙男 ラブコメファンタジー
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/bl.png?id=5317a656ee4aa7159975)
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/bl.png?id=5317a656ee4aa7159975)
【完結・BL】俺をフッた初恋相手が、転勤して上司になったんだが?【先輩×後輩】
彩華
BL
『俺、そんな目でお前のこと見れない』
高校一年の冬。俺の初恋は、見事に玉砕した。
その後、俺は見事にDTのまま。あっという間に25になり。何の変化もないまま、ごくごくありふれたサラリーマンになった俺。
そんな俺の前に、運命の悪戯か。再び初恋相手は現れて────!?
アルファとアルファの結婚準備
金剛@キット
BL
名家、鳥羽家の分家出身のアルファ十和(トワ)は、憧れのアルファ鳥羽家当主の冬騎(トウキ)に命令され… 十和は豊富な経験をいかし、結婚まじかの冬騎の息子、榛那(ハルナ)に男性オメガの抱き方を指導する。 😏ユルユル設定のオメガバースです。
酔った俺は、美味しく頂かれてました
雪紫
BL
片思いの相手に、酔ったフリして色々聞き出す筈が、何故かキスされて……?
両片思い(?)の男子大学生達の夜。
2話完結の短編です。
長いので2話にわけました。
他サイトにも掲載しています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる