モラトリアムの俺たちはー

木陰みもり

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66、長い夢の旅③ 中編

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 ストンとその場に座り込み、俺は裕人の足にしがみつく。縋るように、見捨てられないように、情に訴えるように。酷いことをしている自覚はあるけれど、もう後には引けないところまで来ていた。

「この関係に名前が付くの、怖い…」
「どうして」
「名前が付いたら、裕人が変わっちゃうんじゃって」

それは稚拙でバカみたいな嘘だった。まだ幼い思いの猶予期間のための嘘だった。

「自分のものになった途端、捨てらるんじゃないかって」

これはちょっとだけあった。勝ち気でたまに粗暴な裕人は、優しいけれどたまに父親に見える時があった。
 だけどこの選択は間違っていたらしい。怒りを顕にした裕人がしがみついていた俺の腹を思い切り蹴り上げて、それから持ち上げると俺をベッドに放り投げた。

「ゲホッゲホッ…」
「俺のこと…信じられないってことかよ」
「そ、そういう意味じゃ…」
「じゃあそういう経験があるとか?」
「俺じゃない…母さんが…」

自分が言ったことのせいで、今蹴られたところが痛いのに、俺は身勝手にも裕人の行動に恐怖した。家庭事情なんて話すつもりなかったのに、俺は言い訳をするように話してしまった。
 その俺の言葉に頭が冷えたのか、謝りながら俺の腹を摩ってきた。

「ごめん、蹴って…」
「俺の方が、ごめん」
「なんか、晴陽が無理してる理由分かったわ」
「無理、してない」
「嘘。たまにしんどそうにしてるの、俺が気付いてないと思ってた?」
「お、思ってた…」

理由は違うけれど、俺がおかしかったことは気付いていたみたいだ。だけど、心にもない行動をしていることはバレていなかった。

「名前が付くのが怖いなら、このままでいいよ」
「本当に?」
「いいよ。でもいつか、答えを出してほしい」
「ありがと」

ここは感謝を込めてキスをするべきだろう。そう思いながら裕人の頬に口付けをした。

「あのさ、今日プレゼント用してるんだ」
「え、俺用意してない」
「ふっ、だと思った。お前去年もそうだったから。これは俺の自己満だから気にしないで」

少し小馬鹿にしたような笑いをすると、裕人は俺へのプレゼントを取りに、俺をベッドに寝かせてクローゼットに向かった。
 その後ろ姿をぼーっと眺めていると、何かを取り出してクローゼットを閉めたあと、裕人の肩が大きく肩が上下した。それから勢いよくこちらを向いた。
 その顔は緊張で少し強張っていて、心なしか息が荒かった。そしてクローゼットからベッドのちょっとの距離を歩く時、踏み出した足と同じ方の手を大きく振っていた。その姿に思わず笑ってしまった。

「ふふ、手と足同じ方が動いてる」
「えっ?何?」
「ふふ、なんでもない」
「ならいいんだけど」

裕人の緊張は俺の声が聞こえないほど振り切れてるみたいだった。そんなド緊張の裕人は、ベッドの前に座ると、綺麗に包装された小箱を俺の前に突き出した。
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