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64、長い夢の旅② 前編
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痛い。手足が痛い。まるで炎に焼かれているみたいに手足が熱くて痛い。お腹もいっぱい蹴られたみたいに痛い。
「…っ、はぁ…はぁ…」
身体に激しい痛みを感じて、俺は布団から飛び起きた。汗をすごくかいていて、びっしょり濡れた寝巻きが肌に纏わり付いて気持ち悪い。胸が苦しくて息が上手く吸えない。
「て…あし…」
ふと夢で痛かった手足がまだあるか気になり、俺はぎゅっと自分の身体を抱いた。自分の手が腕を握っている。そのことに心底安心した。
「ある…」
そこで胸の苦しさが取れ、俺はふうと息を吐いた。強く結ばれた自分の腕を解き、布団に手を置いて脱力した。そのまま布団に倒れ込みたくて、目を瞑って後ろに体重を移すと、落下する途中で誰かに受け止められてしまった。
「大丈夫か?」
「裕人…あっ…ゃっ」
何故か分からないけど、一瞬裕人が怖くなり、俺は勢いよく裕人の腕から飛び退いた。
「あ…ごめんっ」
「俺は別に。それよりも怖い夢でも見たのか?」
「うん、あまり思い出せないけど、痛くて怖かった気がする」
「そっか。そんな時に触ってこっちこそごめんな」
裕人は謝ると、部屋の隅に行った俺の目の前に座った。ただ目線を合わせるだけで、一定の距離を保っていてくれている。
「体調大丈夫か?」
「うん、多分平気」
「そっか、良かった。今日はプリント持ってきたんだ」
「わざわざありがとう」
「友達だろ、気にするなよ」
「ふふ、そっか」
「晴陽、触ってもいい?」
「え、大丈夫かな?」
「ははっ、なんで疑問系なんだよ。じゃあ手出して」
「はい」
「よいしょっ」
差し伸べられた裕人の手に自分の手を乗せると、裕人は思い切り俺を引っ張った。その勢いに俺も裕人も立ち上がり、そのまま向き合って立つことになった。
「まだ体調悪そうだ。布団に戻ろ」
「あ、ありがとう」
裕人は俺の手を握ったまま布団まで誘導し、俺を布団に寝かせた。「介護ってこんな感じかな」なんて失礼なことを言いながら、裕人は優しく俺に布団をかけてくれた。
「あのさ、今日まだ診断が出てなかったやつの第二性の健診があったんだ」
「そうだったんだ」
「晴陽は早い段階で分かってたもんな」
「うん、小さい頃ありえないって、いっぱい健診受けた」
「そうだったんだ。苦労したんだな」
「そんなことないよ」
裕人はそわそわしながら、他愛ない話を続けた。きっと何か話したいことがあるのだろう。だけど、どうやって切り出したらいいのか分からず、俺は聞けずにいた。
「――それでさ、そいつら今日パートナーになったらしいんだ。早いと思わねぇ?」
「そうだね。前からお互いに好きだったのかな」
「あーそうかもな…」
ついに話題が尽きたのか、裕人は急に黙ってしまった。妙な沈黙が、部屋の中に流れ始めた。居心地の悪い、気まずい空気が俺たちの間に流れたけど、俺にその空気を打破するほどの会話術はなかった。
「…っ、はぁ…はぁ…」
身体に激しい痛みを感じて、俺は布団から飛び起きた。汗をすごくかいていて、びっしょり濡れた寝巻きが肌に纏わり付いて気持ち悪い。胸が苦しくて息が上手く吸えない。
「て…あし…」
ふと夢で痛かった手足がまだあるか気になり、俺はぎゅっと自分の身体を抱いた。自分の手が腕を握っている。そのことに心底安心した。
「ある…」
そこで胸の苦しさが取れ、俺はふうと息を吐いた。強く結ばれた自分の腕を解き、布団に手を置いて脱力した。そのまま布団に倒れ込みたくて、目を瞑って後ろに体重を移すと、落下する途中で誰かに受け止められてしまった。
「大丈夫か?」
「裕人…あっ…ゃっ」
何故か分からないけど、一瞬裕人が怖くなり、俺は勢いよく裕人の腕から飛び退いた。
「あ…ごめんっ」
「俺は別に。それよりも怖い夢でも見たのか?」
「うん、あまり思い出せないけど、痛くて怖かった気がする」
「そっか。そんな時に触ってこっちこそごめんな」
裕人は謝ると、部屋の隅に行った俺の目の前に座った。ただ目線を合わせるだけで、一定の距離を保っていてくれている。
「体調大丈夫か?」
「うん、多分平気」
「そっか、良かった。今日はプリント持ってきたんだ」
「わざわざありがとう」
「友達だろ、気にするなよ」
「ふふ、そっか」
「晴陽、触ってもいい?」
「え、大丈夫かな?」
「ははっ、なんで疑問系なんだよ。じゃあ手出して」
「はい」
「よいしょっ」
差し伸べられた裕人の手に自分の手を乗せると、裕人は思い切り俺を引っ張った。その勢いに俺も裕人も立ち上がり、そのまま向き合って立つことになった。
「まだ体調悪そうだ。布団に戻ろ」
「あ、ありがとう」
裕人は俺の手を握ったまま布団まで誘導し、俺を布団に寝かせた。「介護ってこんな感じかな」なんて失礼なことを言いながら、裕人は優しく俺に布団をかけてくれた。
「あのさ、今日まだ診断が出てなかったやつの第二性の健診があったんだ」
「そうだったんだ」
「晴陽は早い段階で分かってたもんな」
「うん、小さい頃ありえないって、いっぱい健診受けた」
「そうだったんだ。苦労したんだな」
「そんなことないよ」
裕人はそわそわしながら、他愛ない話を続けた。きっと何か話したいことがあるのだろう。だけど、どうやって切り出したらいいのか分からず、俺は聞けずにいた。
「――それでさ、そいつら今日パートナーになったらしいんだ。早いと思わねぇ?」
「そうだね。前からお互いに好きだったのかな」
「あーそうかもな…」
ついに話題が尽きたのか、裕人は急に黙ってしまった。妙な沈黙が、部屋の中に流れ始めた。居心地の悪い、気まずい空気が俺たちの間に流れたけど、俺にその空気を打破するほどの会話術はなかった。
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