モラトリアムの俺たちはー

木陰みもり

文字の大きさ
上 下
103 / 116

63、長い夢の旅① 後編

しおりを挟む
「晴陽くん、立てる?」

陽介と聖司さんを見送った陽さんが、心配そうに声をかけてきた。

「はい…」
「じゃあ病院に行きましょ」
「家、帰らなきゃ」

家に帰ると言うと陽さんは困ったように笑った。

「晴陽くんの帰る場所はここよ」
「それはもう少し先の…」

これから先、本当の家族になれるなんて、どうして俺はそんなこと思ったんだろうか。

「やっぱりまだ私たちのこと受け入れられない?」
「そ、そんなことないです!みんな優しいし、家族になれたらいいなって思ってました」
「無理してない?」
「してない、です」
「なら本当のお母さんみたいに甘えてほしいわ。もう本当の家族なんだから」

“本当の家族”と言いながら、陽さんは俺をふわっと抱きしめてくれた。
 それから陽さん手ずから着替えさせてくれて、おんぶまでしてくれて、俺は病院に連れて行かれた。
 連れて行かれた病院で、何故か俺は精神科に連れて行かれた。

「お名前はなんですか?」
「柊晴陽です」
「歳はいくつですか?」
「に…15歳」
「第二性はわかる?」
「えっと、Subサブ
「お家にいる時楽しいことは?」
「お母さんとケーキを食べてる時」
「じゃあ、椎名さんのお家で楽しいと感じる時はいつですか?」
「陽介と、椎名さんの家の子と遊んでる時」

パーソナルな部分から、好きな食べ物だったりの何の意味があるのか分からない質問まで色々された。

「前の家と今の家の情報が混在していますね。何か思い当たることはありますか?」
「いえ、特には…昨日は普通に元気だったと思います」
「3年間我慢していた可能性はありますね…」
「晴陽くん、この保険証の自分の名前読める?」
「はい、しいな…はるひ…」

保険証には「椎名晴陽」という名前がしっかりと刻まれていた。そんな夢見たいなことに、俺は目を丸くして驚いた。
 俺は中学に入る時に、陽介の家に引き取られていた。ぼんやりと、そんな気がしてきたし、陽さんと聖司さんが迎えにきてくれた気がする。
 カウンセリングが終わったら、陽さんが「外でご飯を食べよう」と言ってくれて、初めて外でご飯を食べた。だけど陽さんは「またここでもいい?」と聞いてきた。そのお店は記憶にないし、2回目なのか分からなかった。
 俺は話を合わせるように頷いた。普通にご飯を食べて、何となく「ケーキが食べたい」って言いづらくて、そのままお店を出た。

「色々聞かれて疲れたでしょ?午後はゆっくり休んで」
「ありがとうございます」
「晴陽くん、辛いことがあったら何でも言ってね。私も聖司さんも晴陽くんのこと、陽介と同じくらい大切に思ってるからね」

陽さんは優しく頭を撫でて、寝巻きに着替えさせてくれて、そのまま布団に寝かせてくれた。
 ご飯も食べてお腹いっぱいで、俺はすぐに眠ってしまった。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

いっぱい命じて〜無自覚SubはヤンキーDomに甘えたい〜

きよひ
BL
無愛想な高一Domヤンキー×Subの自覚がない高三サッカー部員 Normalの諏訪大輝は近頃、謎の体調不良に悩まされていた。 そんな折に出会った金髪の一年生、甘井呂翔。 初めて会った瞬間から甘井呂に惹かれるものがあった諏訪は、Domである彼がPlayする様子を覗き見てしまう。 甘井呂に優しく支配されるSubに自分を重ねて胸を熱くしたことに戸惑う諏訪だが……。 第二性に振り回されながらも、互いだけを求め合うようになる青春の物語。 ※現代ベースのDom/Subユニバースの世界観(独自解釈・オリジナル要素あり) ※不良の喧嘩描写、イジメ描写有り 初日は5話更新、翌日からは2話ずつ更新の予定です。

隠れSubは大好きなDomに跪きたい

みー
BL
⚠️Dom/Subユニバース 一部オリジナル表現があります。 ハイランクDom×ハイランクSub

何処吹く風に満ちている

夏蜜
BL
和凰高校の一年生である大宮創一は、新聞部に入部してほどなく顧問の平木に魅了される。授業も手に付かない状態が続くなか、気づけばつかみどころのない同級生へも惹かれ始めていた。

お酒に酔って、うっかり幼馴染に告白したら

夏芽玉
BL
タイトルそのまんまのお話です。 テーマは『二行で結合』。三行目からずっとインしてます。 Twitterのお題で『お酒に酔ってうっかり告白しちゃった片想いくんの小説を書いて下さい』と出たので、勢いで書きました。 執着攻め(19大学生)×鈍感受け(20大学生)

オメガなパパとぼくの話

キサラギムツキ
BL
タイトルのままオメガなパパと息子の日常話。

花婿候補は冴えないαでした

いち
BL
バース性がわからないまま育った凪咲は、20歳の年に待ちに待った判定を受けた。会社を経営する父の一人息子として育てられるなか結果はΩ。 父親を困らせることになってしまう。このまま親に従って、政略結婚を進めて行こうとするが、それでいいのかと自分の今後を考え始める。そして、偶然同じ部署にいた25歳の秘書の孝景と出会った。 本番なしなのもたまにはと思って書いてみました! ※pixivに同様の作品を掲載しています

フローブルー

とぎクロム
BL
——好きだなんて、一生、言えないままだと思ってたから…。 高二の夏。ある出来事をきっかけに、フェロモン発達障害と診断された雨笠 紺(あまがさ こん)は、自分には一生、パートナーも、子供も望めないのだと絶望するも、その後も前向きであろうと、日々を重ね、無事大学を出て、就職を果たす。ところが、そんな新社会人になった紺の前に、高校の同級生、日浦 竜慈(ひうら りゅうじ)が現れ、紺に自分の息子、青磁(せいじ)を預け(押し付け)ていく。——これは、始まり。ひとりと、ひとりの人間が、ゆっくりと、激しく、家族になっていくための…。

若奥様は緑の手 ~ お世話した花壇が聖域化してました。嫁入り先でめいっぱい役立てます!

古森真朝
恋愛
意地悪な遠縁のおばの邸で暮らすユーフェミアは、ある日いきなり『明後日に輿入れが決まったから荷物をまとめろ』と言い渡される。いろいろ思うところはありつつ、これは邸から出て自立するチャンス!と大急ぎで支度して出立することに。嫁入り道具兼手土産として、唯一の財産でもある裏庭の花壇(四畳サイズ)を『持参』したのだが――実はこのプチ庭園、長年手塩にかけた彼女の魔力によって、神域霊域レベルのレア植物生息地となっていた。 そうとは知らないまま、輿入れ初日にボロボロになって帰ってきた結婚相手・クライヴを救ったのを皮切りに、彼の実家エヴァンス邸、勤め先である王城、さらにお世話になっている賢者様が司る大神殿と、次々に起こる事件を『あ、それならありますよ!』とプチ庭園でしれっと解決していくユーフェミア。果たして嫁ぎ先で平穏を手に入れられるのか。そして根っから世話好きで、何くれとなく構ってくれるクライヴVS自立したい甘えベタの若奥様の勝負の行方は? *カクヨム様で先行掲載しております

処理中です...