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55、目を覚まして 後編
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「は、離れたくない…本当は面会時間が過ぎてもここにいたい…学校だって晴兄がいないんだったら行きたくない…」
俺は泣きながら晴兄に覆い被さり、唇と唇を重ね合わせた。唇を離すと、ぽたぽたと大粒の涙が晴兄の顔に当たっては、流れ落ちていっていく。
石膏とキスでもしたかのような冷たい感触、落ちた涙の無機質な流れ、何も返ってこない一方通行の気持ちに俺の心は擦り切れる寸前だった。
「ねぇ、どうして目を開けてくれないの?また“さよなら”なんて俺、嫌だよ…」
責めるような言い方は良くないって立花先生に言われたのに、俺は耐えられずに口にしてしまった。
だけどその瞬間、晴兄の瞼が微かに震えた。それは本当に僅かで見逃してしまうくらい一瞬だったけど、確かに反応してくれたように見えた。
「はっ!そうだ、紺野先生呼ばないと」
俺は慌ててナースコールを押し、紺野先生を呼んだ。
晴兄が反応してくれたことに驚いて忘れていたが、何か反応があればすぐに呼ぶように言われていたのだ。
コールを押して数分後には、紺野先生は立花先生と共に駆けつけてくれた。
「反応があったんだね」
「す、少しだけ、瞼が少しだけ動いて…」
「脳波にも僅かだが確かに反応があるね。一体何をしたんだい?」
「え、えー…っと…」
言うなと言われたことで反応があったことを、どう言っていいものか分からず、俺はありきたりな気まずい雰囲気を出して言い淀んでしまった。
「教えてもらわないと今後に活かせない」
「私たちには言い難いことを言ったんですか?」
「そういうわけでは…あの、出禁にしないでくれますか?」
「反応があったんだ。そんなこと言わないよ」
「あの…」
俺は2人に晴兄にしたことを全て話した。どんな感情で言葉を発したのか、触れた場所、近かったのか遠かったのか、どれに反応したのか調べるために、再現に近いことをしながら話した。
その中で1言「さよなら」と言った時に、晴兄は反応した。これは晴兄と俺が最初に決めたSafe Wordで、晴兄が「もう一生会わない人に伝える言葉」って言っていたものだった。
晴兄は「さよなら」を酷い言葉だと言って、決して口にすることはなかった。そんな晴兄に引っ張られるように、俺も言わないようにしていたのに、今日気付いたら晴兄に向かって投げかけてしまっていた。
だけどそれが返って良かったのかもしれないと2人は言った。俺が離れたくないと思っているのと同様に、晴兄もこのまま“さよなら”したくないと思っているからこその反応ではないかと。
「伝えたかったのかもしれませんね。必ず戻ってくると、だから泣かないでと」
「俄かには信じがたいが、立花先生が言ったように、泣いている君を励ましたかったのかもしれないね」
それは俺の心を持ち直すのには十分すぎるほどの言葉だった。
いつの間にか止まっていた涙も、その言葉たちによってまた溢れてこぼれ落ちていった。
「笑顔でいるんじゃなかったんですか?」
「そう…でした…」
俺はTシャツの袖でゴシゴシと涙を拭きながら、2人にお礼を言った。それからずっと見守ってくれていた近藤さんにも頭を下げて、さっきの態度を謝った。
そんな俺の姿を見て安心したのだろう、「子供が一丁前に大人の心配するな」って近藤さんは笑って頭を撫でてくれた。
武骨で大きな熱い手は相変わらず優しくて、改めて俺は周りに恵まれていることを実感し、それから真摯に俺たちのことを考えてくれている大人たちに感謝の念を抱いた。
俺は泣きながら晴兄に覆い被さり、唇と唇を重ね合わせた。唇を離すと、ぽたぽたと大粒の涙が晴兄の顔に当たっては、流れ落ちていっていく。
石膏とキスでもしたかのような冷たい感触、落ちた涙の無機質な流れ、何も返ってこない一方通行の気持ちに俺の心は擦り切れる寸前だった。
「ねぇ、どうして目を開けてくれないの?また“さよなら”なんて俺、嫌だよ…」
責めるような言い方は良くないって立花先生に言われたのに、俺は耐えられずに口にしてしまった。
だけどその瞬間、晴兄の瞼が微かに震えた。それは本当に僅かで見逃してしまうくらい一瞬だったけど、確かに反応してくれたように見えた。
「はっ!そうだ、紺野先生呼ばないと」
俺は慌ててナースコールを押し、紺野先生を呼んだ。
晴兄が反応してくれたことに驚いて忘れていたが、何か反応があればすぐに呼ぶように言われていたのだ。
コールを押して数分後には、紺野先生は立花先生と共に駆けつけてくれた。
「反応があったんだね」
「す、少しだけ、瞼が少しだけ動いて…」
「脳波にも僅かだが確かに反応があるね。一体何をしたんだい?」
「え、えー…っと…」
言うなと言われたことで反応があったことを、どう言っていいものか分からず、俺はありきたりな気まずい雰囲気を出して言い淀んでしまった。
「教えてもらわないと今後に活かせない」
「私たちには言い難いことを言ったんですか?」
「そういうわけでは…あの、出禁にしないでくれますか?」
「反応があったんだ。そんなこと言わないよ」
「あの…」
俺は2人に晴兄にしたことを全て話した。どんな感情で言葉を発したのか、触れた場所、近かったのか遠かったのか、どれに反応したのか調べるために、再現に近いことをしながら話した。
その中で1言「さよなら」と言った時に、晴兄は反応した。これは晴兄と俺が最初に決めたSafe Wordで、晴兄が「もう一生会わない人に伝える言葉」って言っていたものだった。
晴兄は「さよなら」を酷い言葉だと言って、決して口にすることはなかった。そんな晴兄に引っ張られるように、俺も言わないようにしていたのに、今日気付いたら晴兄に向かって投げかけてしまっていた。
だけどそれが返って良かったのかもしれないと2人は言った。俺が離れたくないと思っているのと同様に、晴兄もこのまま“さよなら”したくないと思っているからこその反応ではないかと。
「伝えたかったのかもしれませんね。必ず戻ってくると、だから泣かないでと」
「俄かには信じがたいが、立花先生が言ったように、泣いている君を励ましたかったのかもしれないね」
それは俺の心を持ち直すのには十分すぎるほどの言葉だった。
いつの間にか止まっていた涙も、その言葉たちによってまた溢れてこぼれ落ちていった。
「笑顔でいるんじゃなかったんですか?」
「そう…でした…」
俺はTシャツの袖でゴシゴシと涙を拭きながら、2人にお礼を言った。それからずっと見守ってくれていた近藤さんにも頭を下げて、さっきの態度を謝った。
そんな俺の姿を見て安心したのだろう、「子供が一丁前に大人の心配するな」って近藤さんは笑って頭を撫でてくれた。
武骨で大きな熱い手は相変わらず優しくて、改めて俺は周りに恵まれていることを実感し、それから真摯に俺たちのことを考えてくれている大人たちに感謝の念を抱いた。
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