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50、全てが夢だったなら 前編
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「マル被確保!」
残った警察官の無線機越しから、犯人の確保の声が聞こえた。
俺たちはその言葉に安堵し、溢れる涙を止めることができなかった。だがそれも一瞬。その後に続く言葉たちに、俺の頭は真っ白になった。
「マル害はSub用違法誘発剤を使われた模様。意識不明の重体。このまま病院に直行します。ご家族の方を――」
――違法誘発剤ってなんだ
――意識不明の重体って、一体何がどうしてそうなったんだ
晴兄に何があったのか、晴兄の容体はどうなのか、居ても立っても居られなくて、俺は待機していた警察署から飛び出した。
「君、待つんだ!」
「陽介!待ちなさい」
「うるさい!早く行かないと!」
後ろからの制止を求めるを無視して、俺はアテもなくただひたすら走りはじめた。
――病院…病院に行かなきゃ…
警察署から出てすぐの大通り、電柱についていた広告にたまたま“病院”の文字を見つけ、俺は左に曲がろうとした。
だがそれは母さんと警察官によってあっけなく阻まれてしまった。
「待ちなさいって言ってるでしょ!」
「離しせ!」
「きゃっ」
掴まれた両腕を無理やり解こうと、俺は母さんたちを突き飛ばした。それを目の端に捉えた瞬間、父さんに胸ぐらを掴まれ、俺は思い切り頬を平手打ちされた。
バチンッと大きな音がして、父さんの顔が目に入ったと思った次の瞬間には夕日で染まる警察署の建物を見ていた。
「いい加減にしなさい!」
その声は荒々しくて鞭のように鋭くて、普段怒鳴らない父さんからは想像もつかないほど激しい音だった。
怒られることはあっても、父さんはいつも優しかった。俺の目を見て優しく諭してくれた。だから今怒鳴られていることが初めての体験で、それが俺の身勝手な行動の愚かさを浮き彫りにさせた。
「だ…だっでぇ…うぅ…」
叩かれた頬がヒリヒリと痛む。それがズキズキに変わって、一緒に心も痛み出した。それに呼応するかのように涙が溢れ出して止まらなかった。
「焦る気持ちはわかるけど、こういう時こそ落ち着かないと」
「でも…でも…」
「場所も分からないのにどうやって行こうとしたの」
「そ、それは…」
「アテもなくとりあえず走るつもりだったんでしょ」
父さんに肩をすくめて、俺の身体を勢いよく抱き寄せた。ぎゅうっと俺が逃げないように強く、固く抱きしめて離さなかった。
久しぶりに嗅ぐ父さんの爽やかで優しい柑橘の匂いが、穏やかに鼻先を撫でる。それが俺の心を落ち着けていった。
「父さん、苦しい」
「もう勝手なことはしないかい」
「うん…ごめん…てか高校生にもなってちょっと恥ずかしいんだけど」
「ははは、いくつになっても僕の息子である限り抱きしめてあげるよ」
ギュッと最後に強く抱きしめると、父さんは俺から離れていった。そして穏やかに俺を見つめながら、俺が突き飛ばした母さんのところへ行った。
一連を見ていた警察官が一呼吸付くと、俺に向かって深々と頭を下げた。
「陽介くんが聞こえる位置で無線に応答してしまって申し訳なかった。私の不注意だ」
「お、俺の方こそ取り乱して迷惑かけてすみませんでした!母さんも突き飛ばしてごめん」
俺も警察官の真似をするように2人に向かって深々と頭を下げた。その俺の肩に小さな温かい手と大きな熱い手が乗っかかる。
「誰だって大切な人が意識不明だって聞いたら焦るさ」
「私も早く行きたい気持ちは陽介と一緒だから」
「うん、ありがとう…」
肩に乗った2人の手と、慰めてくれる2人の言葉が、俺の心を熱くさせた。それに付随するように目頭が熱くなって、また涙が溢れ出した。
ぽたぽたと雨のように地面に落ちる涙が、落ちては消えてを繰り返しているのを見ながら、2人の手の温もりに唇を噛み締めた。
残った警察官の無線機越しから、犯人の確保の声が聞こえた。
俺たちはその言葉に安堵し、溢れる涙を止めることができなかった。だがそれも一瞬。その後に続く言葉たちに、俺の頭は真っ白になった。
「マル害はSub用違法誘発剤を使われた模様。意識不明の重体。このまま病院に直行します。ご家族の方を――」
――違法誘発剤ってなんだ
――意識不明の重体って、一体何がどうしてそうなったんだ
晴兄に何があったのか、晴兄の容体はどうなのか、居ても立っても居られなくて、俺は待機していた警察署から飛び出した。
「君、待つんだ!」
「陽介!待ちなさい」
「うるさい!早く行かないと!」
後ろからの制止を求めるを無視して、俺はアテもなくただひたすら走りはじめた。
――病院…病院に行かなきゃ…
警察署から出てすぐの大通り、電柱についていた広告にたまたま“病院”の文字を見つけ、俺は左に曲がろうとした。
だがそれは母さんと警察官によってあっけなく阻まれてしまった。
「待ちなさいって言ってるでしょ!」
「離しせ!」
「きゃっ」
掴まれた両腕を無理やり解こうと、俺は母さんたちを突き飛ばした。それを目の端に捉えた瞬間、父さんに胸ぐらを掴まれ、俺は思い切り頬を平手打ちされた。
バチンッと大きな音がして、父さんの顔が目に入ったと思った次の瞬間には夕日で染まる警察署の建物を見ていた。
「いい加減にしなさい!」
その声は荒々しくて鞭のように鋭くて、普段怒鳴らない父さんからは想像もつかないほど激しい音だった。
怒られることはあっても、父さんはいつも優しかった。俺の目を見て優しく諭してくれた。だから今怒鳴られていることが初めての体験で、それが俺の身勝手な行動の愚かさを浮き彫りにさせた。
「だ…だっでぇ…うぅ…」
叩かれた頬がヒリヒリと痛む。それがズキズキに変わって、一緒に心も痛み出した。それに呼応するかのように涙が溢れ出して止まらなかった。
「焦る気持ちはわかるけど、こういう時こそ落ち着かないと」
「でも…でも…」
「場所も分からないのにどうやって行こうとしたの」
「そ、それは…」
「アテもなくとりあえず走るつもりだったんでしょ」
父さんに肩をすくめて、俺の身体を勢いよく抱き寄せた。ぎゅうっと俺が逃げないように強く、固く抱きしめて離さなかった。
久しぶりに嗅ぐ父さんの爽やかで優しい柑橘の匂いが、穏やかに鼻先を撫でる。それが俺の心を落ち着けていった。
「父さん、苦しい」
「もう勝手なことはしないかい」
「うん…ごめん…てか高校生にもなってちょっと恥ずかしいんだけど」
「ははは、いくつになっても僕の息子である限り抱きしめてあげるよ」
ギュッと最後に強く抱きしめると、父さんは俺から離れていった。そして穏やかに俺を見つめながら、俺が突き飛ばした母さんのところへ行った。
一連を見ていた警察官が一呼吸付くと、俺に向かって深々と頭を下げた。
「陽介くんが聞こえる位置で無線に応答してしまって申し訳なかった。私の不注意だ」
「お、俺の方こそ取り乱して迷惑かけてすみませんでした!母さんも突き飛ばしてごめん」
俺も警察官の真似をするように2人に向かって深々と頭を下げた。その俺の肩に小さな温かい手と大きな熱い手が乗っかかる。
「誰だって大切な人が意識不明だって聞いたら焦るさ」
「私も早く行きたい気持ちは陽介と一緒だから」
「うん、ありがとう…」
肩に乗った2人の手と、慰めてくれる2人の言葉が、俺の心を熱くさせた。それに付随するように目頭が熱くなって、また涙が溢れ出した。
ぽたぽたと雨のように地面に落ちる涙が、落ちては消えてを繰り返しているのを見ながら、2人の手の温もりに唇を噛み締めた。
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