モラトリアムの俺たちはー

木陰みもり

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41、依存させるように甘く、考えられない程に優しく 後編

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「お待たせ…って、晴兄自分で着替えちゃったの?」
「あぁ、待ってる間暇だったから」
「えー俺がやりたかったのに」

たった少しだと思っていた俺の問答の時間は、晴兄にとってはかなり長い時間に感じたようで、1人で着替えてしまっていた。
 それに満たされない感情が生まれた俺は、晴兄に見せるように分かりやすく落胆してみせた。
 そうすれば落ち込む俺を無視できない晴兄は、確実に俺の好きなようにさせてくれると分かっているからだ。
 せっかく着替えたところ悪いけれど、俺には俺を満たす材料が必要だった。

「はぁ、じゃあ脱がせば?」

俺の思った通り、晴兄は面倒臭さそうに言いながらも、口角が上がるのを必死に耐えて嬉しいという気持ちを隠していた。それがまた可愛くもあり、愛しく思う。俺は結局、この素直じゃない物言いの後ろにある悦に入った晴兄が好きなのだ。
 それは俺に対して何を言っても大丈夫という信頼の証だから。

「遠慮なく、Strip自分で脱いで
「はぁ?な、なんで自分で…」

俺はCommandコマンドを使って晴兄自らに脱ぐよう命令した。それに晴兄はかなり動揺した。
 それもそのはず、晴兄は俺が手ずから脱がすのだろうと信じて疑っていなかった。だから俺はそれを逆手に取って、晴兄にCommandコマンドを使ったんだ。
 動揺と恥じらいの中、俺の命令に従う晴兄を見て、俺は少しのこの昂る本能を抑えた。
 ほんの少しのイタズラと、たくさんのとろけるような庇護欲で、俺は自分の本能を抑えていく。
 そんな俺の思いなんて露知らず、晴兄は動揺と恥ずかしさに目を瞑りながら悪態を吐き、逆らえずに上から順番にボタンをはずしていった。

「朝からCommandコマンドはなしだろ。つーか着替えさせたきゃ自分で逃がせよ。な、なんでこんなこと俺がしなきゃなんねぇんだよ」
「晴兄は嫌?俺にCommandコマンド使われるの」
「そんなこと言ってない…ズルい!…嫌じゃない、むしろ大好き!」

半ばヤケクソに言い放つと、晴兄は息を荒くし、どんどん脱ぎ捨てていった。
 そしてあっという間に一糸纏わぬ姿になった晴兄は、俺の前に堂々と立った。まさか全て脱いでしまうなんて思わなかった俺は、その姿に思わず顔が熱くなる。

「下着は脱ぐ必要ないって」
「ふん、脱げって言ったの陽介なのに、何赤くなってんだよ」
「恥じらいはどこにいったの」
「こうなったらもうヤケクソだ。恥ずかしくもなんともない」

『恥ずかしくない』と言いつつ、晴兄は思い切り顔を真っ赤にしていた。本当は恥ずかしいくせに、虚勢を張っている姿は可愛くて、それが俺に襲いかかってくる。
 きっと晴兄にそんなつもりはないだろうけど、その破壊力は凄まじいものだった。
 俺はそれを見て見ぬフリをするために晴兄の頭を撫でた。

Good Boyよくできました
「あっ…うん、えへへ、ちゃんと脱げただろ」

目を細め、口元を緩ませて、子供のように晴兄は笑った。そう、無邪気な子供なんだ。守ってあげないといけない存在、そうやって俺は晴兄への気持ちを転換させていった。
  俺は小さい子にするように目線を合わせて下着を穿かせ、インナーを着せ、浴衣を羽織らせた。晴兄をぐるりと回し帯をしっかりと締め、そのまま俺は頸にキスマークを付けた。

「あっ、今痕付けただろ」
「学校じゃないからいいよね」
「いいけど、俺身体中真っ赤なんだけど」
「虫除けだよ。collarカラーがあるから大丈夫って思えないから、念には念をね」

可愛い子に持たせるお守りはいくつあっても足りないくらいだ。そんなことを思いながら念入りに、どこから見ても俺のものだと分かるか確認した。
 それから自分も同じ柄の浴衣に着替えた。
 お揃いの浴衣、collarカラー、俺の痕、これだけあれば誰も晴兄に話しかけてくるやつはいないだろう。
 だけど満足した俺に対して、晴兄は浮かない顔をして俺を見ていた。

「お揃い、嬉しくない?」
「嬉しい、けど…」
「けど?」

晴兄は何かを言おうとしてやめてしまった。
 その真意はわからないけれど、俺の浴衣姿が嫌なのだろうと悟った。

「晴兄が笑顔になれないなら、俺は浴衣やめようかな」
「え…」

俺が脱ごうとすると、晴兄は見るからに嫌そうな顔で脱ぐのを邪魔してきた。その意図が俺には全く分からず、困り果ててしまった。

Listen教えてくれたら嬉しいな
「カッコよすぎて、気が気じゃない…です…」

それは俺にとって思いがけない言葉で、嬉しくて、一気に顔に熱が集まっていった。

「俺、カッコイイかな?」
「カッコイイから、外に出したくない」
「じゃあさ、晴兄も俺にいっぱい印付けて、自分のものだって証明しなよ」

俺は晴兄の独占欲がたまらなく嬉しくて、その気持ち勢いのまま晴兄を抱き上げ、彼の顔を自分の首筋に押し当てた。
 その身勝手な俺の行動を晴兄は当たり前のように享受した。素直に、必死に、一生懸命、自分に付けられた場所と同じところに付けようと、晴兄は場所を探りながら俺の首に唇を這わせた。
 自分がしたことと同じことを、今されていると思うとなんだか恥ずかしい。晴兄が痕を付けるたびに、俺はこんなにも付けていたのかと、自分の支配欲に驚かされた。

「これで浴衣でデートしてもいい?」
「あと、この手も離さないで欲しいんだけど」

そう言いながら晴兄は俺の手を握りしめた。

「ふふ、もちろん。絶対離さない」

俺はその握られた手に少しだけ力を入れ、固く離れないと表す。

「今日は自由に過ごしていいって、母さんが言ってたんだ。美味しいパンケーキを食べに行こう」
「うん、楽しみ」

抱き上げていた晴兄を下ろし、俺は晴兄の右手をしっかりと握った。
 今日この手が離れることはない。そうお互いに強く思って俺たちは温泉街へと出かけた。
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