66 / 116
39、ダメだとわかっているけれど ①
しおりを挟む
久々に感じた大きな支配欲。普段と違う場所で、違う雰囲気で、たったそれだけのことでこんなにも動揺し、普段の自分を保てないなんて、思いもよらなかった。
生活圏内でも危うかったこの不安定な感情に、俺は今どうしたらいいのかわからなくなっていた。
晴兄をまたの間に座らせ、羽交い締めにして、晴兄がアイスを食べる姿を後ろから見続けた。
「アイス、美味しかったね」
「うん、ありがと、買ってきてくれて」
「どういたしまして」
俺が晴兄の喜ぶ顔を見たいためだけに買ってきただけなのに、本当に嬉しそうにお礼を言われると胸の辺りがそわそわした。
自己満のために買ってきたようなものだと思う度に、言葉が胸に刺さって取れなかった。
そんな俺を察したのか、晴兄は急に他愛もない話をし始めた。きっと俺の意識を別に向けようとしてくれているのだろう。いつもと違う高いテンションに、より一層申し訳なさを感じた。
「――それで……はぁ…そういえば思い出した?」
流石に苦しくなってきたのだろう。すっかり忘れていた晴兄の思い出してほしいことを唐突に突きつけられてしまった。
「ごめっ…あ…全然思い出せない」
「そっか…」
これだけ念入りに聞いてくるってことは、晴兄はどうしても俺に思い出してほしいのだろう。声からもそれが伝わってくる。それがまた申し訳なくてたまらなかった。
「ねぇ、俺なにかナーバスになるようなこと言った?」
「言ってない…俺が自分で落ち込んでるだけ…」
「それは俺に話せないこと?」
「晴兄は絶対呆れる…」
晴兄には素直になれって言ったくせに、自分は言わないなんて、不公平だよな。
しかも分かりやすく落ち込んで、本当は聞いてほしい、自分で自分を責めてる俺を慰めてほしいなんて自己憐憫にも程がある。
そんな俺の態度が晴兄に相当フラストレーションを与えていたのだろう。晴兄は大きなため息をついて、全体重を俺に預けてきた。
「はぁ、もう今の状況が呆れてるっつーの。話したくないなら話さなくていいけど、だったら完璧に隠せよ。本当は聞いてほしいからそんな態度なんだろ」
その言葉はまさに俺の思いと完全に一致していて、一瞬で何もかもどうでもよくなってしまった。
「知らない土地で、晴兄が視界にいないことが不安になって、それにつられて何もかも不安なものになっちゃって…」
「知らない土地で、俺がいなくなるとでも思った?」
「そこまでじゃないけど、何となく胸がざわざわするっていうか」
「ふふ、それだけ俺を独占したいんだ」
「な、笑うところ?」
「だってさ、嬉しいんだもん。それだけ俺でいっぱいなんだろ。いろんなことが道連れになるくらい」
『自分のことで頭がいっぱいなのが嬉しい』と言う晴兄は、本当に心底嬉しそうに笑っていた。
俺は一体何に悩んでいたのだろうと思うくらいその笑顔は眩しくて、本当に俺は何に不安に感じていたのか分からなくなった。
「俺、こんなに支配欲強いんだって、ちょっと自分でも自分に引いてるんだけど…」
「そっか、俺はそこがいいと思ってるよ。安心する」
「そう、なんだ…」
「俺はその強い支配欲が急になくならないか不安、かな…」
晴兄は急に俺の腕の中でぐるりと回り、俺の首から下がるペンダントに触れた。見たこともない慈しむような、それでいて切ない目でそれを見て、ポツポツとペンダントと晴兄の過去について話し始めた。
生活圏内でも危うかったこの不安定な感情に、俺は今どうしたらいいのかわからなくなっていた。
晴兄をまたの間に座らせ、羽交い締めにして、晴兄がアイスを食べる姿を後ろから見続けた。
「アイス、美味しかったね」
「うん、ありがと、買ってきてくれて」
「どういたしまして」
俺が晴兄の喜ぶ顔を見たいためだけに買ってきただけなのに、本当に嬉しそうにお礼を言われると胸の辺りがそわそわした。
自己満のために買ってきたようなものだと思う度に、言葉が胸に刺さって取れなかった。
そんな俺を察したのか、晴兄は急に他愛もない話をし始めた。きっと俺の意識を別に向けようとしてくれているのだろう。いつもと違う高いテンションに、より一層申し訳なさを感じた。
「――それで……はぁ…そういえば思い出した?」
流石に苦しくなってきたのだろう。すっかり忘れていた晴兄の思い出してほしいことを唐突に突きつけられてしまった。
「ごめっ…あ…全然思い出せない」
「そっか…」
これだけ念入りに聞いてくるってことは、晴兄はどうしても俺に思い出してほしいのだろう。声からもそれが伝わってくる。それがまた申し訳なくてたまらなかった。
「ねぇ、俺なにかナーバスになるようなこと言った?」
「言ってない…俺が自分で落ち込んでるだけ…」
「それは俺に話せないこと?」
「晴兄は絶対呆れる…」
晴兄には素直になれって言ったくせに、自分は言わないなんて、不公平だよな。
しかも分かりやすく落ち込んで、本当は聞いてほしい、自分で自分を責めてる俺を慰めてほしいなんて自己憐憫にも程がある。
そんな俺の態度が晴兄に相当フラストレーションを与えていたのだろう。晴兄は大きなため息をついて、全体重を俺に預けてきた。
「はぁ、もう今の状況が呆れてるっつーの。話したくないなら話さなくていいけど、だったら完璧に隠せよ。本当は聞いてほしいからそんな態度なんだろ」
その言葉はまさに俺の思いと完全に一致していて、一瞬で何もかもどうでもよくなってしまった。
「知らない土地で、晴兄が視界にいないことが不安になって、それにつられて何もかも不安なものになっちゃって…」
「知らない土地で、俺がいなくなるとでも思った?」
「そこまでじゃないけど、何となく胸がざわざわするっていうか」
「ふふ、それだけ俺を独占したいんだ」
「な、笑うところ?」
「だってさ、嬉しいんだもん。それだけ俺でいっぱいなんだろ。いろんなことが道連れになるくらい」
『自分のことで頭がいっぱいなのが嬉しい』と言う晴兄は、本当に心底嬉しそうに笑っていた。
俺は一体何に悩んでいたのだろうと思うくらいその笑顔は眩しくて、本当に俺は何に不安に感じていたのか分からなくなった。
「俺、こんなに支配欲強いんだって、ちょっと自分でも自分に引いてるんだけど…」
「そっか、俺はそこがいいと思ってるよ。安心する」
「そう、なんだ…」
「俺はその強い支配欲が急になくならないか不安、かな…」
晴兄は急に俺の腕の中でぐるりと回り、俺の首から下がるペンダントに触れた。見たこともない慈しむような、それでいて切ない目でそれを見て、ポツポツとペンダントと晴兄の過去について話し始めた。
7
お気に入りに追加
54
あなたにおすすめの小説
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/bl.png?id=5317a656ee4aa7159975)
いっぱい命じて〜無自覚SubはヤンキーDomに甘えたい〜
きよひ
BL
無愛想な高一Domヤンキー×Subの自覚がない高三サッカー部員
Normalの諏訪大輝は近頃、謎の体調不良に悩まされていた。
そんな折に出会った金髪の一年生、甘井呂翔。
初めて会った瞬間から甘井呂に惹かれるものがあった諏訪は、Domである彼がPlayする様子を覗き見てしまう。
甘井呂に優しく支配されるSubに自分を重ねて胸を熱くしたことに戸惑う諏訪だが……。
第二性に振り回されながらも、互いだけを求め合うようになる青春の物語。
※現代ベースのDom/Subユニバースの世界観(独自解釈・オリジナル要素あり)
※不良の喧嘩描写、イジメ描写有り
初日は5話更新、翌日からは2話ずつ更新の予定です。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/bl.png?id=5317a656ee4aa7159975)
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/bl.png?id=5317a656ee4aa7159975)
何処吹く風に満ちている
夏蜜
BL
和凰高校の一年生である大宮創一は、新聞部に入部してほどなく顧問の平木に魅了される。授業も手に付かない状態が続くなか、気づけばつかみどころのない同級生へも惹かれ始めていた。
お酒に酔って、うっかり幼馴染に告白したら
夏芽玉
BL
タイトルそのまんまのお話です。
テーマは『二行で結合』。三行目からずっとインしてます。
Twitterのお題で『お酒に酔ってうっかり告白しちゃった片想いくんの小説を書いて下さい』と出たので、勢いで書きました。
執着攻め(19大学生)×鈍感受け(20大学生)
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/bl.png?id=5317a656ee4aa7159975)
花婿候補は冴えないαでした
いち
BL
バース性がわからないまま育った凪咲は、20歳の年に待ちに待った判定を受けた。会社を経営する父の一人息子として育てられるなか結果はΩ。 父親を困らせることになってしまう。このまま親に従って、政略結婚を進めて行こうとするが、それでいいのかと自分の今後を考え始める。そして、偶然同じ部署にいた25歳の秘書の孝景と出会った。
本番なしなのもたまにはと思って書いてみました!
※pixivに同様の作品を掲載しています
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/bl.png?id=5317a656ee4aa7159975)
フローブルー
とぎクロム
BL
——好きだなんて、一生、言えないままだと思ってたから…。
高二の夏。ある出来事をきっかけに、フェロモン発達障害と診断された雨笠 紺(あまがさ こん)は、自分には一生、パートナーも、子供も望めないのだと絶望するも、その後も前向きであろうと、日々を重ね、無事大学を出て、就職を果たす。ところが、そんな新社会人になった紺の前に、高校の同級生、日浦 竜慈(ひうら りゅうじ)が現れ、紺に自分の息子、青磁(せいじ)を預け(押し付け)ていく。——これは、始まり。ひとりと、ひとりの人間が、ゆっくりと、激しく、家族になっていくための…。
若奥様は緑の手 ~ お世話した花壇が聖域化してました。嫁入り先でめいっぱい役立てます!
古森真朝
恋愛
意地悪な遠縁のおばの邸で暮らすユーフェミアは、ある日いきなり『明後日に輿入れが決まったから荷物をまとめろ』と言い渡される。いろいろ思うところはありつつ、これは邸から出て自立するチャンス!と大急ぎで支度して出立することに。嫁入り道具兼手土産として、唯一の財産でもある裏庭の花壇(四畳サイズ)を『持参』したのだが――実はこのプチ庭園、長年手塩にかけた彼女の魔力によって、神域霊域レベルのレア植物生息地となっていた。
そうとは知らないまま、輿入れ初日にボロボロになって帰ってきた結婚相手・クライヴを救ったのを皮切りに、彼の実家エヴァンス邸、勤め先である王城、さらにお世話になっている賢者様が司る大神殿と、次々に起こる事件を『あ、それならありますよ!』とプチ庭園でしれっと解決していくユーフェミア。果たして嫁ぎ先で平穏を手に入れられるのか。そして根っから世話好きで、何くれとなく構ってくれるクライヴVS自立したい甘えベタの若奥様の勝負の行方は?
*カクヨム様で先行掲載しております
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる