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29、不安に囚われて ②
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「昨日のこと、覚えてないんだろ」
「あっ…」
晴兄のその言葉に俺はハッとして、晴兄に伝えたい大切なことを思い出した。
晴兄に謝って、Collarを渡して、仲直りしようと思っていたんだった。
なのに晴兄が俺の前から消えたり、現れたりと、俺はずっと翻弄されていた。その中で俺はすっかりその大事なことを忘れてしまっていた。
伝えないとまた同じことになってしまうと咄嗟に思い、俺は思いのまま晴兄に話し始めた。
「お、覚えてるよ!そうだ俺、晴兄に謝りたくて、言い方が悪かったなって、それで、本当はもっと記念になるような渡し方したかったんだけど、今の方がいいかなって…今更だけどもらってくれると嬉しいんだけど…あれっ!?」
俺は昨日ズボンのポケットにしまったCollarを取り出そうとポケットに手を突っ込んだ。と思ったのだけど、本来穿いているはずのズボンを俺は身につけておらず、それどころか下着さえも身につけていなかった。
「ない!ポケットない…ってなんで俺ズボン穿いてないの!?てかパンツも穿いてないし!?」
何がなんだか分からず、俺はとりあえず周りを探した。これじゃCollarを渡せないまま、今度こそ晴兄が離れていってしまう。そう思うと気が動転して、訳もわからず部屋の中を必死にひっくり返した。
すると、そんな俺があまりにも滑稽に見えたのか、背中の方から晴兄の苦しそうな笑い声が聞こえてきた。
「くっ…あっははは」
「何笑ってんの、俺はしんけ…ってなんで晴兄も何も穿いてないの!?」
あまりの笑い声にイラッときた俺は、勢いよく晴兄の方に振り向いた。そして最初に目に飛び込んできたのは、自ら服をあげて真っ白な下半身を俺に見せつけている晴兄の姿だった。
俺は思わず見てはいけないものを見たような気分になりすぐに背を向けてしまった。ついさっきまでセックスをしていたのに、どうしてこんなにも見てはいけないと感じているのか分からなかった。
「ふはっ、忙しいやつ」
「さっきエッチして全裸なんていっぱい見たのに、なんだかその時と全然違う…何これ、どうなってるの…」
「へぇ、そんな夢見てたんだ…」
「夢…違う…夢とか妄想とか、そんなんじゃ…」
「夢だよ。だから現実と違うのは当たり前」
混乱する俺に、晴兄は冷たい声で言い放った。その聞いたことのない声に、蛇に睨まれた蛙のように動けなくなってしまった。
そんな俺に近付いて、晴兄は俺の耳元で言葉を続けた。
「現実は夢よりも妄想よりも汚れていて傷だらけで、醜く変形してる」
その声は聞いたことのないほど低く、重たい空気を纏っていた。
俺は自分の目ではっきりと見たのにも関わらず、本当に見たのかと自分を疑ってしまうような、そんな説得力があった。
だけど認めたくない俺は、その言葉に真っ向から否定した。
「そ、そんなことないよ、肌が白くて汚れてもないし、さっきと同じ…同じで綺麗だよ」
「服の下は見てないのに、適当なこと言うなよ」
「うわっ、イッタっ」
俺の迷いのある言葉に晴兄は怒ったのか、少しだけ声を荒げて俺をベッドに押し倒してきた。そしてそのままうつ伏せになった俺の背中に、遠慮なく全体重をかけるように跨った晴兄は、強く俺の耳に噛みついた。
「イッ…」
「さっきって、どんなことしてたんだっけ?」
噛んだかと思えば、今度は俺の耳を舐め、晴兄は誘うように俺との行為の内容を聞いてきた。熱に浮かされているならまだしも、こんな意識がハッキリとした状態で言うなんて、辱めもいいところだ。それに今は本当にあったことなのか、自信も無くなっている。
俺は晴兄のその問いに何も答えられなくなっていた。
「俺を抱いてくれたんだろ?」
「………………」
「場所は?夜景が綺麗なホテル?」
「場所……」
『場所』という単語に、さらに俺は自分の記憶に疑念を持った。俺たちは今までどこにいた?この部屋じゃなかったのは確かなのに、思い出そうとすると頭に靄がかかったようになってぼんやりとしか思い出せなくなっていた。
それでもその記憶の中には情景が一切なかった。あるのは晴兄と、晴兄を連れて行く見知らぬ男、俺の声と触れた感触、縛り付けられた身体の感覚だけだった。
「思い出せないのか?」
「思い…出せない…」
「じゃあさ、もう1回シたらその時のこと、鮮明に思い出せるかもよ?」
そう言うと晴兄は腰を浮かせて俺の身体を回して仰向けにしてきた。俺のTシャツを捲し上げて、俺の腹に下半身を密着させてくる。太腿で脇を挟んで、ずっしりとした重さが俺の腹を圧迫した。
ふとその重さに、俺は既視感を覚えた。重しを乗せられたような、身体が重くて、手しか動かない感じ。置いていかれたあの時の感じにソックリ。そう認識したらまた晴兄が離れていく感覚がして俺は恐怖した。そして次の瞬間には無意識にCommandを放っていた。
「あっ…」
晴兄のその言葉に俺はハッとして、晴兄に伝えたい大切なことを思い出した。
晴兄に謝って、Collarを渡して、仲直りしようと思っていたんだった。
なのに晴兄が俺の前から消えたり、現れたりと、俺はずっと翻弄されていた。その中で俺はすっかりその大事なことを忘れてしまっていた。
伝えないとまた同じことになってしまうと咄嗟に思い、俺は思いのまま晴兄に話し始めた。
「お、覚えてるよ!そうだ俺、晴兄に謝りたくて、言い方が悪かったなって、それで、本当はもっと記念になるような渡し方したかったんだけど、今の方がいいかなって…今更だけどもらってくれると嬉しいんだけど…あれっ!?」
俺は昨日ズボンのポケットにしまったCollarを取り出そうとポケットに手を突っ込んだ。と思ったのだけど、本来穿いているはずのズボンを俺は身につけておらず、それどころか下着さえも身につけていなかった。
「ない!ポケットない…ってなんで俺ズボン穿いてないの!?てかパンツも穿いてないし!?」
何がなんだか分からず、俺はとりあえず周りを探した。これじゃCollarを渡せないまま、今度こそ晴兄が離れていってしまう。そう思うと気が動転して、訳もわからず部屋の中を必死にひっくり返した。
すると、そんな俺があまりにも滑稽に見えたのか、背中の方から晴兄の苦しそうな笑い声が聞こえてきた。
「くっ…あっははは」
「何笑ってんの、俺はしんけ…ってなんで晴兄も何も穿いてないの!?」
あまりの笑い声にイラッときた俺は、勢いよく晴兄の方に振り向いた。そして最初に目に飛び込んできたのは、自ら服をあげて真っ白な下半身を俺に見せつけている晴兄の姿だった。
俺は思わず見てはいけないものを見たような気分になりすぐに背を向けてしまった。ついさっきまでセックスをしていたのに、どうしてこんなにも見てはいけないと感じているのか分からなかった。
「ふはっ、忙しいやつ」
「さっきエッチして全裸なんていっぱい見たのに、なんだかその時と全然違う…何これ、どうなってるの…」
「へぇ、そんな夢見てたんだ…」
「夢…違う…夢とか妄想とか、そんなんじゃ…」
「夢だよ。だから現実と違うのは当たり前」
混乱する俺に、晴兄は冷たい声で言い放った。その聞いたことのない声に、蛇に睨まれた蛙のように動けなくなってしまった。
そんな俺に近付いて、晴兄は俺の耳元で言葉を続けた。
「現実は夢よりも妄想よりも汚れていて傷だらけで、醜く変形してる」
その声は聞いたことのないほど低く、重たい空気を纏っていた。
俺は自分の目ではっきりと見たのにも関わらず、本当に見たのかと自分を疑ってしまうような、そんな説得力があった。
だけど認めたくない俺は、その言葉に真っ向から否定した。
「そ、そんなことないよ、肌が白くて汚れてもないし、さっきと同じ…同じで綺麗だよ」
「服の下は見てないのに、適当なこと言うなよ」
「うわっ、イッタっ」
俺の迷いのある言葉に晴兄は怒ったのか、少しだけ声を荒げて俺をベッドに押し倒してきた。そしてそのままうつ伏せになった俺の背中に、遠慮なく全体重をかけるように跨った晴兄は、強く俺の耳に噛みついた。
「イッ…」
「さっきって、どんなことしてたんだっけ?」
噛んだかと思えば、今度は俺の耳を舐め、晴兄は誘うように俺との行為の内容を聞いてきた。熱に浮かされているならまだしも、こんな意識がハッキリとした状態で言うなんて、辱めもいいところだ。それに今は本当にあったことなのか、自信も無くなっている。
俺は晴兄のその問いに何も答えられなくなっていた。
「俺を抱いてくれたんだろ?」
「………………」
「場所は?夜景が綺麗なホテル?」
「場所……」
『場所』という単語に、さらに俺は自分の記憶に疑念を持った。俺たちは今までどこにいた?この部屋じゃなかったのは確かなのに、思い出そうとすると頭に靄がかかったようになってぼんやりとしか思い出せなくなっていた。
それでもその記憶の中には情景が一切なかった。あるのは晴兄と、晴兄を連れて行く見知らぬ男、俺の声と触れた感触、縛り付けられた身体の感覚だけだった。
「思い出せないのか?」
「思い…出せない…」
「じゃあさ、もう1回シたらその時のこと、鮮明に思い出せるかもよ?」
そう言うと晴兄は腰を浮かせて俺の身体を回して仰向けにしてきた。俺のTシャツを捲し上げて、俺の腹に下半身を密着させてくる。太腿で脇を挟んで、ずっしりとした重さが俺の腹を圧迫した。
ふとその重さに、俺は既視感を覚えた。重しを乗せられたような、身体が重くて、手しか動かない感じ。置いていかれたあの時の感じにソックリ。そう認識したらまた晴兄が離れていく感覚がして俺は恐怖した。そして次の瞬間には無意識にCommandを放っていた。
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