モラトリアムの俺たちはー

木陰みもり

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28、醜い卑怯者 ①

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 同じSubサブが幸せなのが気に食わないのか、俺は。
 そんな風に思えるほど、俺の聖司さんへの態度は明らかに酷かった。今日はずっとこんなのばかりで、自分が嫌になる。
 大切な人にする態度じゃないのは分かっているのに、なんだかうまくいかない。

「はぁ…何してんだ俺…」
「お疲れ様、ありがとね」

聖司さんが出てすぐ、うだうだと悩んでいる俺のもとへ陽さんがきた。俺に労いの言葉をかけながら、陽さんはぽんぽんと優しく頭を撫でてくれた。

「陽さんも、ありがとうございます」
「いいのよ。陽介ね、ここで『晴陽くんが別の人と一緒になる』っていう妄想を見ていたの。晴陽くんがいなくなった8年前からね、気分が沈むとたまにあったのよ。だから私も聖司さんももう慣れっ子なの」
「えっ…」

それは俺が勝手にいなくなったせいなのか。いやそうなのだろう。
 俺の勝手な行動で、8年もの間ずっと迷惑をかけていたのか。陽介とパートナーになれたことに浮かれて、陽さんと聖司さんが優しくて、陽介が優しくて、この8年彼らがどんな生活を送ってきていたかなんてしっかりと考えたこともなかった。
 陽さんは落ち着いていた。聖司さんは手際が良かった。もう何回も似たようなことがあったからだったんだ。
 俺はその現実に驚き、またも醜くも嬉しく思ってしまった。

「陽介は聖司さんと同じでちょっと人より想像力が豊かなの。だから晴陽くんのせいじゃないからね」
「ありがとうございます。今日はずっと陽介の側にいてもいいですか?」
「もちろんよ。さっきみたいに暴れ出したら、すぐに呼んでね」
「ありがとうございます」

俺は陽さんにお礼を言って、急いで聖司さんの後を追った。
 陽介の部屋に入ると、聖司さんが陽介の手の甲に湿布を貼っていた。陽介は綺麗に布団の中に入って、さっきよりも安らいだ表情で眠っていた。

「遅かったね。手当も終わったから、今からは晴陽くんの出番だよ」
「どういうことですか?」
「ここからが重要だよ。陽介の手を握ってあげて」

聖司さんはそう言って立ち上がり、陽介の前まで俺の背中を押してくれた。その手の温もりに押されて、俺は躊躇わずに陽介の手を握った。
 手のひらは冷たいのに、傷付いた甲は熱くて、そのアンバランスさが今の陽介のようで切なくも心が跳ねた。

「眠くなったら寝るんだよ」
「ありがとうございます。聖司さんも陽さんもゆっくり休んでください」
「ありがとう。晴陽くんもちゃんと休むんだよ」

そう言って聖司さんは俺の背中を撫でてくれた。背中を撫でられるまで気付かなかったけど、俺の身体小刻みに震えていた。
 それが悲しくて辛くて震えているのか、このままここで襲ってしまおうかという興奮の震えなのか、自分では分からなかった。
 だけど聖司さんはそんな俺の様子を『悲しそう』と思って、心配してくれたのだろう。しばらく落ち着くまで俺の背中を撫でてくれていた。
 温かくて落ち着くそれに、申し訳なくなった。綺麗なこの空間に、自分だけが異質な気がしてならなくて、心の中でそれをひたすら聖司さんに謝った。

「あまり無理はしないようにね」
「ありがとうございます…」

しばらく俺の背中を撫で、俺が落ち着いた頃を見計らった聖司さんは、一言そう言って部屋を出て行った。
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