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27、悩み ④
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「よ、陽介!」
脱衣所の真ん中で泥だらけの制服を着たままの陽介が、手の甲から血を流しながら倒れていた。俺は訳が分からず、倒れる陽介に駆け寄り、必死に揺すって起こそうとした。
「陽介、何があったんだ!まだお風呂にも入ってないじゃないか。手も、血が出てる…」
「晴陽くん、今ようやく疲れて寝てくれたの。だから起こさないで」
「あっ…」
取り乱す俺に、陽さんは優しくそう告げた。
俺は陽さんの言っていることが分からず、陽さんの方に顔を向けると、陽さんの頬には殴られたような腫れ跡があった。よく見ると、服にはところどころ血も付いている。
さっきは陽介のことで頭がいっぱいで気付かなかったけど、もしかして陽介が陽さんを殴ったのだろうか。
俺はそれを見て、一瞬で血の気が引いた。
「ほんと、晴陽くんをここに来させなくて良かったわ」
「俺でも良かったんじゃないの?」
「聖司さんもダメよ。いつも言ってるでしょ!私の守りたいものの1つなんだから」
陽さんの物言いはカッコいい人のそれそのものだった。聖司さんのことを大切にしていて、それでいて信頼もしているのが伝わってきた。
俺と陽介の関係とは対極的で、それがいっそう俺の身体を冷たくさせた。
「そうだ、2人を呼んだのは、陽介を着替えさせて部屋まで運んで欲しいからなの」
「そういうことなら。陽さんはその頬を冷やしておいで」
「そう言ってくれると思ってたわ。ありがとう聖司さん」
2人は俺のことなんて忘れたかのように、キスをしていた。それから陽さんはリビングに戻って行った。
「ごめんね、放置しちゃって」
「あ、いえ…聖司さんたちは昔から変わらず仲がいいですよね」
羨ましい。そう思った瞬間嫌味のような言い方をしてしまった。その気まずさから聖司さんの顔が見られなかった。
急激な羞恥で手が冷たくなって、震えて、身体は熱くなった。
「まあね。陽さんって分かりやすいから」
聖司さんは俺の様子に気付いていないのか、何事もないように俺に話しかけながら軽々と陽介を持ち上げた。
「僕が支えてるから、晴陽くん脱がしてくれる?」
「は、はい」
指示されるまま、俺は震える手でなんとかベルトを外し、思い切りズボンを下に引っ張った。
「あっ…」
「えっ…」
小さく声を上げた聖司さんの目線につられて同じところに目を向けると、ズボンだけではなく、下着までもが脱げていた。どうやら俺は勢いに任せてズボンと一緒に下着も掴んで下ろしてしまったようだ。
俺は久々に見る陽介のそれを、思わず凝視した。こんな状況なのに何やってるんだと頭では理解しているのに、身体はそれを求められずにはいられなかった。
ずっと我慢していたせいなのか、本能で求めているのか、訳がわからないまま俺はじっと見つめていた。
そんな俺の様子を見て、聖司さんは困ったような口調で指摘してきた。
「そんなに欲求不満なの?」
「へぁっ…あっ…これはちがっ」
指摘されてはじめて今自分がしていることに気付き、さらに自分の行動に驚きを隠せなかった。
俺は無意識に陽介の下半身に擦り寄り、そこに涎を垂らしながらそれを咥えようとしていたのだ。
あまりの自分の行動に、俺は陽介から飛び退き距離をとった。
獣のように息を荒げ、涎を垂らして、俺は一体何を聖司さんに見せているのだろうか。その羞恥心と自分の行動への絶望から俺は涙が溢れてきた。
「陽介にそんなに我慢させられてるの?」
「ちがっ…これは…あっ…こんなときに…ごめっ…なさい…」
「別に謝ることじゃないよ。誰だって好きな人の身体は魅力的だからね」
聖司さんは俺の醜態にも動じずに、むしろ優しく諭してくれた。何事もなかったかのように陽介のシャツを脱がせ、身体を拭いて汚れを落とし、あっという間に部屋着に着替えさせた。
俺はその様子をただただ部屋の隅で見守ることしかできなかった。役立たずもいいところだった。
「陽介は、陽さんに言われた通り晴陽くんに手を出してないんだろうね」
一通り陽介の身なりを整えると、聖司さんは俺の方に振り向いてそう可哀想なものでも見るような目で俺を見てきた。
脱衣所の真ん中で泥だらけの制服を着たままの陽介が、手の甲から血を流しながら倒れていた。俺は訳が分からず、倒れる陽介に駆け寄り、必死に揺すって起こそうとした。
「陽介、何があったんだ!まだお風呂にも入ってないじゃないか。手も、血が出てる…」
「晴陽くん、今ようやく疲れて寝てくれたの。だから起こさないで」
「あっ…」
取り乱す俺に、陽さんは優しくそう告げた。
俺は陽さんの言っていることが分からず、陽さんの方に顔を向けると、陽さんの頬には殴られたような腫れ跡があった。よく見ると、服にはところどころ血も付いている。
さっきは陽介のことで頭がいっぱいで気付かなかったけど、もしかして陽介が陽さんを殴ったのだろうか。
俺はそれを見て、一瞬で血の気が引いた。
「ほんと、晴陽くんをここに来させなくて良かったわ」
「俺でも良かったんじゃないの?」
「聖司さんもダメよ。いつも言ってるでしょ!私の守りたいものの1つなんだから」
陽さんの物言いはカッコいい人のそれそのものだった。聖司さんのことを大切にしていて、それでいて信頼もしているのが伝わってきた。
俺と陽介の関係とは対極的で、それがいっそう俺の身体を冷たくさせた。
「そうだ、2人を呼んだのは、陽介を着替えさせて部屋まで運んで欲しいからなの」
「そういうことなら。陽さんはその頬を冷やしておいで」
「そう言ってくれると思ってたわ。ありがとう聖司さん」
2人は俺のことなんて忘れたかのように、キスをしていた。それから陽さんはリビングに戻って行った。
「ごめんね、放置しちゃって」
「あ、いえ…聖司さんたちは昔から変わらず仲がいいですよね」
羨ましい。そう思った瞬間嫌味のような言い方をしてしまった。その気まずさから聖司さんの顔が見られなかった。
急激な羞恥で手が冷たくなって、震えて、身体は熱くなった。
「まあね。陽さんって分かりやすいから」
聖司さんは俺の様子に気付いていないのか、何事もないように俺に話しかけながら軽々と陽介を持ち上げた。
「僕が支えてるから、晴陽くん脱がしてくれる?」
「は、はい」
指示されるまま、俺は震える手でなんとかベルトを外し、思い切りズボンを下に引っ張った。
「あっ…」
「えっ…」
小さく声を上げた聖司さんの目線につられて同じところに目を向けると、ズボンだけではなく、下着までもが脱げていた。どうやら俺は勢いに任せてズボンと一緒に下着も掴んで下ろしてしまったようだ。
俺は久々に見る陽介のそれを、思わず凝視した。こんな状況なのに何やってるんだと頭では理解しているのに、身体はそれを求められずにはいられなかった。
ずっと我慢していたせいなのか、本能で求めているのか、訳がわからないまま俺はじっと見つめていた。
そんな俺の様子を見て、聖司さんは困ったような口調で指摘してきた。
「そんなに欲求不満なの?」
「へぁっ…あっ…これはちがっ」
指摘されてはじめて今自分がしていることに気付き、さらに自分の行動に驚きを隠せなかった。
俺は無意識に陽介の下半身に擦り寄り、そこに涎を垂らしながらそれを咥えようとしていたのだ。
あまりの自分の行動に、俺は陽介から飛び退き距離をとった。
獣のように息を荒げ、涎を垂らして、俺は一体何を聖司さんに見せているのだろうか。その羞恥心と自分の行動への絶望から俺は涙が溢れてきた。
「陽介にそんなに我慢させられてるの?」
「ちがっ…これは…あっ…こんなときに…ごめっ…なさい…」
「別に謝ることじゃないよ。誰だって好きな人の身体は魅力的だからね」
聖司さんは俺の醜態にも動じずに、むしろ優しく諭してくれた。何事もなかったかのように陽介のシャツを脱がせ、身体を拭いて汚れを落とし、あっという間に部屋着に着替えさせた。
俺はその様子をただただ部屋の隅で見守ることしかできなかった。役立たずもいいところだった。
「陽介は、陽さんに言われた通り晴陽くんに手を出してないんだろうね」
一通り陽介の身なりを整えると、聖司さんは俺の方に振り向いてそう可哀想なものでも見るような目で俺を見てきた。
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