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24、思い出の星空④
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「ねぇ、昔話をしよう」
「むかし…ばなし…」
「そう、初めてここに連れてきてあげた時の話」
「初めて…」
「そうだよ、覚えてるか?陽介が陽さんと喧嘩して、勝手に家を飛び出したんだ」
「そ、そうだっけ…」
「陽介が7歳、俺が13歳の夏。あの日も俺は急に陽介の家に行くよう家を追い出されて、俺もう限界でさ、迎えに来てくれた陽さんたちの前で泣いちゃったんだ」
「え…」
陽介は驚いたように俺を凝視してきた。それもそのはずだ。昔は何がなんても陽介の前では泣きたくなかった。カッコイイお兄ちゃんでいたかったから。
それがまさか陽介に泣かされるようになるなんて、思いもよらなかった。
「昔の俺じゃ想像できないって顔しやがって」
「だって、見たことないし」
「頑張ってお兄ちゃんしてたんだよ。それで、続きなんだけど、あの日は陽介から初めて両親を奪っちゃったんだよな」
「奪っちゃったって…俺別にそんな子供じゃ…」
「あはは、覚えてないだけだろ。俺、今でも覚えてるよ『ママとパパをとる晴兄なんて大嫌い』って突き飛ばされたの」
「う、嘘でしょ!?」
信じられないと言った顔で、陽介は俺に顔を近付けてきた。さっきまで恥ずかしがってたくせに、そんなことすっかり忘れたといった様子で、俺の『否定』を求めてきた。
でもこれは本当にあったことだ。その証拠として、俺の後頭部は少し凹んでいる。
俺は陽介の手を取り、その手を後頭部に当てがった。
「嘘じゃないって。ここ、気付かなかったか?少し凹んでんの。強く打ったせいなんだって」
「これ、俺がやったの?」
「やったっていうか、結果としてそうなっただけ。でも陽介も陽さんにすごい拳骨もらってたぞ。だから陽介もちょっと頭の形おかしいんだ」
「そ、そうなの?俺のは全然分かんないけど…」
陽介は不思議そうに自分の頭を触ったり、俺の頭を触ったりして、頭の形を確認していた。その顔がまた真剣で、俺は愛おしくなった。
「ふふ、触りすぎ」
「ちょっと気になっちゃって。それで話の続きは?」
「陽さんに怒られて、大泣きして『ママもパパも晴兄も大嫌い』って家を飛び出したんだ。すぐにみんなで追ったのに、何故か陽介はもういなくて、もうみんな大慌てだった」
「あー…なんか思い出したかも…」
よほどその時のことが恥ずかしい記憶だったのか、陽介は気不味そうに自分の額を俺の額にくっつけてきた。
どうにかして赤くなった顔を隠したかったのだろうけど、額の熱さで恥ずかしがっているのはすぐに分かった。
「じゃあどこにいたのか覚えてる?」
「結局庭の隅に隠れた気がする…」
「そうそう、陽さんと聖司さんは慌てすぎて外を探しに行っちゃって、残った俺がすすり泣く陽介を見つけたんだ」
「でも俺、嫌いって言った手前なかなか出られなくて…」
「素直になれない陽介に俺は」
「『星を見に行こう』って言ってくれた」
「ふふ、正解。俺は泣き続ける陽介の手を無理やり引っ張って、ここまで来たんだ」
最初は無理やり植木の中から引っ張ったけど、陽介は素直について来てくれたんだよな。泣きながらずっと俺に謝って、陽さんたちにも『大嫌い』って言ったことを後悔してた。
俺も陽介から2人を奪ってたようなものだから、幼い陽介の反応としては正しかったんだ。それでも幼いながらにちゃんと後悔できる陽介は、やっぱり昔から真っ直ぐで優しい子なんだな。
俺は昔の陽介と今の陽介を重ねながら、陽介から少し離れて星空を見上げた。それにつられて陽介も一緒に上を見上げた。
「ここから見る星空は、昔と変わらないんだな」
「俺はあの日、星なんて見てなかったんだ」
「えぇ…せっかく連れてきてやったのに」
「だってさ…あの日の晴兄…すごく綺麗だったんだもん」
「俺が何?聞こえなかった」
陽介は何かを呟いたけれど、俺の耳には届かなかった。気になって陽介の方を見ると、何かを思い出して顔を赤らめていた。その顔は火を吹きそうに真っ赤に見えた。
「教えない…俺だけの思い出…」
「ズルいやつ…まぁいいけど。俺はあの時、陽介とここで仲直りして、一緒に星を見て、綺麗だなって思えたことが、今でも大切な思い出なんだ」
俺は陽介の顔からまた目を星空へと向けた。そして話の続きを思い出していた。
あのあと、陽介が俺の頬にキスして『もう晴兄を泣かせない』って言ってきたっけ。あの時の陽介の目の方が、星よりよっぽど綺麗に見えたんだよな。
きっとあれが、俺が陽介を意識した最初の出来事。5歳の子供にって思うかもしれないけど、本当にあの時の陽介はカッコよかった。
でも陽介が何かを隠すなら、俺もこのことは自分の胸に秘めておこう。
「俺さ、陽介と星を見た日から、母さんに追い出されても辛くなくなったんだ。もちろん母さんのことはずっと心配だったけど、俺にはどうしようもなかったし。なんか吹っ切れたっていうか、それよりも陽介に会えることのが嬉しくなったんだ」
我ながら恥ずかしいことを言っている気がした。それでもやっぱり俺の中ではこの場所が分岐点だった気がして、陽介に知っていてほしかった。
「俺も、俺も晴兄に会えることが嬉しかったし、いつの間にか母さんたちに晴兄をとられる方が嫌になってた」
「そっか…喜んでくれてたなら良かったよ」
俺は陽介の肩に寄りかかって、もう一度夜空を見上げた。そこには無数の星々が瞬いて、月にも負けない輝きを放っていた。
またこの星空を陽介と一緒に見れるなんて思ってもみなかった。
この場所は好きだったし、1人になっても来たかったけれど、なんとなく陽介もここにいるような気がして来ることはできなかった。そうしてここには来なくなっていったっけ。
「陽介が今日ここに連れて来てくれなかったら、俺もうここには来てなかったかも」
「晴兄この場所好きだったのにどうして?」
「好きだし、大切な思い出があったからこそ、来れなかったんだ」
俺の言葉に陽介は頭の上にハテナを浮かべていた。
きっと陽介は「好きなら来ればいいのに」「大切な場所だから何回も来たくなるものだ」って思っているのだろう。見上げた顔にしっかりと書いてあった。
「陽介には一生分かんないから、もう考えんなよ」
「考えたら分かるかもじゃん。晴兄のこと、なんでも知りたいし」
「恥ずかしいこと言いやがって…じゃあお望み通り教えてやるよ」
「むかし…ばなし…」
「そう、初めてここに連れてきてあげた時の話」
「初めて…」
「そうだよ、覚えてるか?陽介が陽さんと喧嘩して、勝手に家を飛び出したんだ」
「そ、そうだっけ…」
「陽介が7歳、俺が13歳の夏。あの日も俺は急に陽介の家に行くよう家を追い出されて、俺もう限界でさ、迎えに来てくれた陽さんたちの前で泣いちゃったんだ」
「え…」
陽介は驚いたように俺を凝視してきた。それもそのはずだ。昔は何がなんても陽介の前では泣きたくなかった。カッコイイお兄ちゃんでいたかったから。
それがまさか陽介に泣かされるようになるなんて、思いもよらなかった。
「昔の俺じゃ想像できないって顔しやがって」
「だって、見たことないし」
「頑張ってお兄ちゃんしてたんだよ。それで、続きなんだけど、あの日は陽介から初めて両親を奪っちゃったんだよな」
「奪っちゃったって…俺別にそんな子供じゃ…」
「あはは、覚えてないだけだろ。俺、今でも覚えてるよ『ママとパパをとる晴兄なんて大嫌い』って突き飛ばされたの」
「う、嘘でしょ!?」
信じられないと言った顔で、陽介は俺に顔を近付けてきた。さっきまで恥ずかしがってたくせに、そんなことすっかり忘れたといった様子で、俺の『否定』を求めてきた。
でもこれは本当にあったことだ。その証拠として、俺の後頭部は少し凹んでいる。
俺は陽介の手を取り、その手を後頭部に当てがった。
「嘘じゃないって。ここ、気付かなかったか?少し凹んでんの。強く打ったせいなんだって」
「これ、俺がやったの?」
「やったっていうか、結果としてそうなっただけ。でも陽介も陽さんにすごい拳骨もらってたぞ。だから陽介もちょっと頭の形おかしいんだ」
「そ、そうなの?俺のは全然分かんないけど…」
陽介は不思議そうに自分の頭を触ったり、俺の頭を触ったりして、頭の形を確認していた。その顔がまた真剣で、俺は愛おしくなった。
「ふふ、触りすぎ」
「ちょっと気になっちゃって。それで話の続きは?」
「陽さんに怒られて、大泣きして『ママもパパも晴兄も大嫌い』って家を飛び出したんだ。すぐにみんなで追ったのに、何故か陽介はもういなくて、もうみんな大慌てだった」
「あー…なんか思い出したかも…」
よほどその時のことが恥ずかしい記憶だったのか、陽介は気不味そうに自分の額を俺の額にくっつけてきた。
どうにかして赤くなった顔を隠したかったのだろうけど、額の熱さで恥ずかしがっているのはすぐに分かった。
「じゃあどこにいたのか覚えてる?」
「結局庭の隅に隠れた気がする…」
「そうそう、陽さんと聖司さんは慌てすぎて外を探しに行っちゃって、残った俺がすすり泣く陽介を見つけたんだ」
「でも俺、嫌いって言った手前なかなか出られなくて…」
「素直になれない陽介に俺は」
「『星を見に行こう』って言ってくれた」
「ふふ、正解。俺は泣き続ける陽介の手を無理やり引っ張って、ここまで来たんだ」
最初は無理やり植木の中から引っ張ったけど、陽介は素直について来てくれたんだよな。泣きながらずっと俺に謝って、陽さんたちにも『大嫌い』って言ったことを後悔してた。
俺も陽介から2人を奪ってたようなものだから、幼い陽介の反応としては正しかったんだ。それでも幼いながらにちゃんと後悔できる陽介は、やっぱり昔から真っ直ぐで優しい子なんだな。
俺は昔の陽介と今の陽介を重ねながら、陽介から少し離れて星空を見上げた。それにつられて陽介も一緒に上を見上げた。
「ここから見る星空は、昔と変わらないんだな」
「俺はあの日、星なんて見てなかったんだ」
「えぇ…せっかく連れてきてやったのに」
「だってさ…あの日の晴兄…すごく綺麗だったんだもん」
「俺が何?聞こえなかった」
陽介は何かを呟いたけれど、俺の耳には届かなかった。気になって陽介の方を見ると、何かを思い出して顔を赤らめていた。その顔は火を吹きそうに真っ赤に見えた。
「教えない…俺だけの思い出…」
「ズルいやつ…まぁいいけど。俺はあの時、陽介とここで仲直りして、一緒に星を見て、綺麗だなって思えたことが、今でも大切な思い出なんだ」
俺は陽介の顔からまた目を星空へと向けた。そして話の続きを思い出していた。
あのあと、陽介が俺の頬にキスして『もう晴兄を泣かせない』って言ってきたっけ。あの時の陽介の目の方が、星よりよっぽど綺麗に見えたんだよな。
きっとあれが、俺が陽介を意識した最初の出来事。5歳の子供にって思うかもしれないけど、本当にあの時の陽介はカッコよかった。
でも陽介が何かを隠すなら、俺もこのことは自分の胸に秘めておこう。
「俺さ、陽介と星を見た日から、母さんに追い出されても辛くなくなったんだ。もちろん母さんのことはずっと心配だったけど、俺にはどうしようもなかったし。なんか吹っ切れたっていうか、それよりも陽介に会えることのが嬉しくなったんだ」
我ながら恥ずかしいことを言っている気がした。それでもやっぱり俺の中ではこの場所が分岐点だった気がして、陽介に知っていてほしかった。
「俺も、俺も晴兄に会えることが嬉しかったし、いつの間にか母さんたちに晴兄をとられる方が嫌になってた」
「そっか…喜んでくれてたなら良かったよ」
俺は陽介の肩に寄りかかって、もう一度夜空を見上げた。そこには無数の星々が瞬いて、月にも負けない輝きを放っていた。
またこの星空を陽介と一緒に見れるなんて思ってもみなかった。
この場所は好きだったし、1人になっても来たかったけれど、なんとなく陽介もここにいるような気がして来ることはできなかった。そうしてここには来なくなっていったっけ。
「陽介が今日ここに連れて来てくれなかったら、俺もうここには来てなかったかも」
「晴兄この場所好きだったのにどうして?」
「好きだし、大切な思い出があったからこそ、来れなかったんだ」
俺の言葉に陽介は頭の上にハテナを浮かべていた。
きっと陽介は「好きなら来ればいいのに」「大切な場所だから何回も来たくなるものだ」って思っているのだろう。見上げた顔にしっかりと書いてあった。
「陽介には一生分かんないから、もう考えんなよ」
「考えたら分かるかもじゃん。晴兄のこと、なんでも知りたいし」
「恥ずかしいこと言いやがって…じゃあお望み通り教えてやるよ」
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