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16、温かいご飯の時間
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「晴陽くんお待たせしちゃってごめんなさいね」
「あ、気にしないでください。陽さんも飲みますか?俺注ぎますよ」
「嬉しいわ、ありがとう」
晴兄はもう結構な量飲んだのか、頬を紅潮させ、上機嫌で母さんのコップにお酒を注いでいた。
俺も成人してたら、母さんみたいに晴兄にお酒を注いでもらえるのに。そう思うとなんだか寂しかった。
怒られていたこともあって、余計1人だけ仲間外れみたいに感じた俺は、自分でも気付かないうちにしゅんとしていた。
でもその姿を見た晴兄が、母さんたちに気付かれないように机の下でこっそり手を繋いできてくれた。そしてふわっと笑って「お疲れ様」と言ってくれて、俺は一瞬で気持ちが上向きになるのを感じた。
それから何もなかったように手を離し、前を向いて母さんたちと話し始めた。
「陽さん、ご飯すごく美味しいです」
「ありがとう。そう言ってもらえて良かったわ」
「またこのご飯が食べられるなんて夢みたいです」
「大袈裟よ。今日は陽介も手伝ってくれてね、これとこれは陽介が1人で作ったのよ」
母さんはそう言って俺が作ったおかずを晴兄の前に差し出した。それを晴兄は口いっぱいに頬張っていた。
美味しそうに食べてくれているように見えるけど、晴兄の口にあったか気になった俺は、ドキドキしながら晴兄に美味しいか訊ねてみた。
「お、美味しい?」
「すっごく美味しいよ。毎日食べたいくらい」
「そ、そっか…毎日、食べにきてもいいんだよ…なんちゃって」
「それは気が早いわねぇ、ね、聖司さん」
「そうだね陽さん、陽介はこんなにおませさんだったんだねぇ」
「う、うるさいな…酔っ払いたち」
母さんたちは俺を揶揄いながら2人で楽しそうにお酒を煽っていた。いつもならこんなに飲まないのに、晴兄が注ぐお酒がそんなに美味しいのか、晴兄が注いではすぐに飲み干していた。
「母さんも父さんも飲み過ぎ!それにもう自分たちで注ぎなよ、晴兄がご飯食べられないじゃん」
母さんたちは、驚いた顔で感心したように俺を見てきた。その我儘だった子供が人のことを考えられるようになったな、みたいな顔に俺は少しだけ怒りを覚えた。
でもここで怒ったら認めたみたいになる。それはなんだか癪なので、グッと堪えて大人しく黙った。
「それもそうだったわね、ごめんね晴陽くん」
「俺は楽しかったので、それに先に結構食べてしまいましたし」
「じゃあ僕が晴陽くんのグラスにお酒を注ごう」
「ちょっと待った、俺がやるから。父さんは母さんのコップに注いであげたら?」
「…それもそうか」
父さんは納得したように母さんのコップにお酒を注いだ。それを皮切りに、母さんも父さんもあっという間に自分たちの世界に入っていった。
俺はやっと落ち着けると、晴兄の空いたコップにお酒を注いだ。
「はい、晴兄。これでゆっくりできるよ」
「ゆっくりって…陽介は今でも両親と仲いいんだな」
「俺より母さんと父さんの方が仲良いかな」
俺と晴兄は、変わらず仲のいい2人を見て、美味しくご飯を食べた。途中から晴兄は、お酒を飲みながら羨ましそうに母さんたちのことを見ているようだった。
その表情は少し切なくて、自分の親でも思い出しているかのようだった。
俺は本当にその表情の真意が気になり、晴兄がまさか傷付くなんて思わず晴兄の両親のことについて触れてしまった。
「ねぇ、晴兄のお母さんって今――」
「ごめん、今は話したくない…」
「え、ご、ごめん」
晴兄は泣きそうな顔をしてお酒を一気に飲み干した。それから顔を隠すように俺の腰に抱きついてきた。
一瞬で流れる気まずい空気。
俺はその空気に耐えられず、何事もなかったかのように晴兄に話しかけた。
「晴兄、もうお腹いっぱい?」
晴兄の返事はなかった。ただ身体を震わせて、泣いていた。俺の洋服が少しずつ濡れていくにつれて、晴兄の呼吸が乱れていくのが背中の動きで分かった。
その背中をさすりながら、俺は自分が考えなしに聞いたことを後悔した。
そんな俺たちの間に流れる重い空気を断つかのように、母さんの明るい声が響いた。
「晴陽くんは眠っちゃった?」
「う、うん。飲み過ぎたみたい」
俺は咄嗟に嘘をついた。泣いてるなんて母さんたちに言ったら心配するだろうし、晴兄はきっと気付かれたくないだろう。
母さんたちは晴兄の様子に気付かないまま話を続けた。
「飲ませ過ぎたかな?悪いことをしたね、陽介」
「え、なんで俺?」
「だってお泊まりでしょ?平日じゃできないこといっぱいあるじゃない」
「な、何それ!性行為なしって言ったの母さんなのに…」
ケラケラと俺を揶揄って楽しそうに笑う母さんに、俺はムッとして睨んだ。だけどそれさえも母さんは楽しそうに笑った。
「分かってないわね。Playの内容は何も絶対性行為をしないといけないわけじゃないわ。ね、聖司さん」
母さんはそう言って父さんの頭を撫でた。それを父さんは嬉しそうに受け入れている。香ってくる父さんの匂いは幸せな匂いがした。
「そうだね、こうやって触ってもらえるだけでも、僕たちの欲求は解消されていくからね」
「陽介にはまだ早いかもしれないけれどね~」
「そ、そんなことないし、俺だって晴兄を満足させられる」
俺は母さんにバカにされ、ムキになって答えた。本当はよく分からなかったけど分かるフリをしてしまった。
晴兄も俺と母さんたちの話を聞いて気が紛れたのか、いつの間にか落ち着いていた。
「じゃあ俺は晴兄を寝かしてくるよ」
俺は寝たフリをする晴兄を抱きかかえて、立ち上がった。
「陽介の部屋に布団一式引いておいたから」
「え、客間じゃないの?」
「せっかくパートナーになったのにそれでいいわけ?」
母さんは呆れたように俺を見てお酒を煽った。
俺は勝手に、昔と同じように晴兄を客間に泊まらせると思っていたけれど、母さんは違ったみたいだ。
一緒に寝てもいいって言ってくれてるみたいで嬉しいけど、今はそんな気遣いいらなかった。
耐えられなくて晴兄に手を出すことになったら絶対母さんのせいにしてやる。
俺は酔っ払いたちの笑い声を振り切るように自分の部屋に急いだ。
「あ、気にしないでください。陽さんも飲みますか?俺注ぎますよ」
「嬉しいわ、ありがとう」
晴兄はもう結構な量飲んだのか、頬を紅潮させ、上機嫌で母さんのコップにお酒を注いでいた。
俺も成人してたら、母さんみたいに晴兄にお酒を注いでもらえるのに。そう思うとなんだか寂しかった。
怒られていたこともあって、余計1人だけ仲間外れみたいに感じた俺は、自分でも気付かないうちにしゅんとしていた。
でもその姿を見た晴兄が、母さんたちに気付かれないように机の下でこっそり手を繋いできてくれた。そしてふわっと笑って「お疲れ様」と言ってくれて、俺は一瞬で気持ちが上向きになるのを感じた。
それから何もなかったように手を離し、前を向いて母さんたちと話し始めた。
「陽さん、ご飯すごく美味しいです」
「ありがとう。そう言ってもらえて良かったわ」
「またこのご飯が食べられるなんて夢みたいです」
「大袈裟よ。今日は陽介も手伝ってくれてね、これとこれは陽介が1人で作ったのよ」
母さんはそう言って俺が作ったおかずを晴兄の前に差し出した。それを晴兄は口いっぱいに頬張っていた。
美味しそうに食べてくれているように見えるけど、晴兄の口にあったか気になった俺は、ドキドキしながら晴兄に美味しいか訊ねてみた。
「お、美味しい?」
「すっごく美味しいよ。毎日食べたいくらい」
「そ、そっか…毎日、食べにきてもいいんだよ…なんちゃって」
「それは気が早いわねぇ、ね、聖司さん」
「そうだね陽さん、陽介はこんなにおませさんだったんだねぇ」
「う、うるさいな…酔っ払いたち」
母さんたちは俺を揶揄いながら2人で楽しそうにお酒を煽っていた。いつもならこんなに飲まないのに、晴兄が注ぐお酒がそんなに美味しいのか、晴兄が注いではすぐに飲み干していた。
「母さんも父さんも飲み過ぎ!それにもう自分たちで注ぎなよ、晴兄がご飯食べられないじゃん」
母さんたちは、驚いた顔で感心したように俺を見てきた。その我儘だった子供が人のことを考えられるようになったな、みたいな顔に俺は少しだけ怒りを覚えた。
でもここで怒ったら認めたみたいになる。それはなんだか癪なので、グッと堪えて大人しく黙った。
「それもそうだったわね、ごめんね晴陽くん」
「俺は楽しかったので、それに先に結構食べてしまいましたし」
「じゃあ僕が晴陽くんのグラスにお酒を注ごう」
「ちょっと待った、俺がやるから。父さんは母さんのコップに注いであげたら?」
「…それもそうか」
父さんは納得したように母さんのコップにお酒を注いだ。それを皮切りに、母さんも父さんもあっという間に自分たちの世界に入っていった。
俺はやっと落ち着けると、晴兄の空いたコップにお酒を注いだ。
「はい、晴兄。これでゆっくりできるよ」
「ゆっくりって…陽介は今でも両親と仲いいんだな」
「俺より母さんと父さんの方が仲良いかな」
俺と晴兄は、変わらず仲のいい2人を見て、美味しくご飯を食べた。途中から晴兄は、お酒を飲みながら羨ましそうに母さんたちのことを見ているようだった。
その表情は少し切なくて、自分の親でも思い出しているかのようだった。
俺は本当にその表情の真意が気になり、晴兄がまさか傷付くなんて思わず晴兄の両親のことについて触れてしまった。
「ねぇ、晴兄のお母さんって今――」
「ごめん、今は話したくない…」
「え、ご、ごめん」
晴兄は泣きそうな顔をしてお酒を一気に飲み干した。それから顔を隠すように俺の腰に抱きついてきた。
一瞬で流れる気まずい空気。
俺はその空気に耐えられず、何事もなかったかのように晴兄に話しかけた。
「晴兄、もうお腹いっぱい?」
晴兄の返事はなかった。ただ身体を震わせて、泣いていた。俺の洋服が少しずつ濡れていくにつれて、晴兄の呼吸が乱れていくのが背中の動きで分かった。
その背中をさすりながら、俺は自分が考えなしに聞いたことを後悔した。
そんな俺たちの間に流れる重い空気を断つかのように、母さんの明るい声が響いた。
「晴陽くんは眠っちゃった?」
「う、うん。飲み過ぎたみたい」
俺は咄嗟に嘘をついた。泣いてるなんて母さんたちに言ったら心配するだろうし、晴兄はきっと気付かれたくないだろう。
母さんたちは晴兄の様子に気付かないまま話を続けた。
「飲ませ過ぎたかな?悪いことをしたね、陽介」
「え、なんで俺?」
「だってお泊まりでしょ?平日じゃできないこといっぱいあるじゃない」
「な、何それ!性行為なしって言ったの母さんなのに…」
ケラケラと俺を揶揄って楽しそうに笑う母さんに、俺はムッとして睨んだ。だけどそれさえも母さんは楽しそうに笑った。
「分かってないわね。Playの内容は何も絶対性行為をしないといけないわけじゃないわ。ね、聖司さん」
母さんはそう言って父さんの頭を撫でた。それを父さんは嬉しそうに受け入れている。香ってくる父さんの匂いは幸せな匂いがした。
「そうだね、こうやって触ってもらえるだけでも、僕たちの欲求は解消されていくからね」
「陽介にはまだ早いかもしれないけれどね~」
「そ、そんなことないし、俺だって晴兄を満足させられる」
俺は母さんにバカにされ、ムキになって答えた。本当はよく分からなかったけど分かるフリをしてしまった。
晴兄も俺と母さんたちの話を聞いて気が紛れたのか、いつの間にか落ち着いていた。
「じゃあ俺は晴兄を寝かしてくるよ」
俺は寝たフリをする晴兄を抱きかかえて、立ち上がった。
「陽介の部屋に布団一式引いておいたから」
「え、客間じゃないの?」
「せっかくパートナーになったのにそれでいいわけ?」
母さんは呆れたように俺を見てお酒を煽った。
俺は勝手に、昔と同じように晴兄を客間に泊まらせると思っていたけれど、母さんは違ったみたいだ。
一緒に寝てもいいって言ってくれてるみたいで嬉しいけど、今はそんな気遣いいらなかった。
耐えられなくて晴兄に手を出すことになったら絶対母さんのせいにしてやる。
俺は酔っ払いたちの笑い声を振り切るように自分の部屋に急いだ。
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