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2、突然の再会 前編
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「はよー」
「はよってか新学期早々ギリギリかよ、陽介」
「あー…いい夢見てて寝坊した」
「いい夢ってお前、えっろい夢でも見てたんだろ、どうせ」
「ちげーわ!てかもう忘れた…忘れたけどいい夢だった気がする」
「忘れてんならえっろい夢だったかもしれなーだろーが」
「だから…」
「はい、みなさん席についてください」
担任が入ってくると同時に俺たちのしょうもない会話は一瞬で幕を閉じた。
「今日から新学期が始まります。繰り上げで担任もクラスメイトも変わりませんが、高校生活最後の1年、楽しく過ごしましょう」
俺は大学進学のため去年から特進クラスだ。担任の花岡先生が言った通り、去年と同じメンバーだ。さっき話しかけてきた前の席のこいつは、勉強はそこそこできるくせにエロいことしか考えていないNormalの佐藤大貴。気の置けるいい奴だが、口を開けば下世話な話をしたがる健全な男子高校生だ。
――本当、何の変わり映えもないな
なんて、心の中で呟いていると、また教室のドアが開いた。
「…なので、新しく副担任になってくれる先生を紹介します。柊晴陽先生です」
「この度副担任を務めさせていただきます、柊晴陽です。みなさん仲良くしてください」
――え…今、晴陽って…言った?
俺は一瞬自分の耳を疑った。それは俺が毎日思い浮かべては呟いていた『大切な名前』だ。
俺は思わず勢いよく立ち上がった。目線を教卓の方に向けると、黒髪に憂いを帯びた大きな目、色白で儚い佇まいの青年が花岡先生の隣に立っていた。
――見間違うはずがない。あの日、最後に見た晴兄より少し身長が伸びて、痩せていたけれど、変わらず綺麗な晴兄だ。
どうしてこんなところに?晴兄は病気の療養で遠いところに行ったはずじゃなかったのか。
ずっと求めていた晴兄が手の届く場所にいることへの喜びと、こんなに近くにいたのなら、どうして俺に会いに来てくれなかったのかという憤りで、俺は訳もわからず呆然と立ち尽くした。
「椎名…椎名陽介!」
「えっ…あ、はい…」
「何突っ立ってるの。先に進めないからとりあえず座りなさい」
「すみません」
俺は花岡先生の声にハッとして、急いで席についた。
思いがけない出来事に心がついていかない。状況が飲み込めず心臓はバクバクと早鐘を打っている。
それでも晴兄がそこにいる。これは現実で、真実だ。意識すればするほど、胸の内から熱い気持ちが沸々と湧いてきた。
「それでは最後に柊先生から一言お願いします」
「歳も近いので、何でも相談してくれたら嬉しいです。これから1年間、みなさんよろしくお願いしますね」
軽く首を傾げ、目を細めて微笑む晴兄は、触れたら割れて消えてしまいそうで、ふわふわと浮くシャボン玉のようにキレイだった。
周りの奴らも、そんな晴兄を見て色めき立っていた。
「新しい副担めっちゃキレイじゃない?」
「カッコイイ系って言うよりカワイイ系?うちめっちゃタイプなんだけど」
「アタックしちゃおっかなー」
「えーズルーい。私もいっちゃおうかな」
いくらNormalがアタックしたところでSubの晴兄はDomを求めている。晴兄は特に欲求が強いって学んで初めて知ったんだ。だからお前らがいくらアタックしたところで晴兄は靡かねーんだよ。
俺は周りより晴兄のことを知っていると、周りに心の中で牽制した。
晴兄はまた俺を求めてくれる。きっと病気は治ってまた俺に会いにきてくれたんだ。きっとこれはサプライズ。
根拠のない自信だけが俺の中で膨れ上がっていた。
だがそんな風が吹けば一瞬で飛んでいってしまいそうな自信は、ある言葉であっさりと吹き飛んでしまった。
「でもNormalであんなキレイなイケメンいるんだ!初めて見たし。ラッキーすぎじゃん」
――Normal…?晴兄はSubのはずだろ…
「はよってか新学期早々ギリギリかよ、陽介」
「あー…いい夢見てて寝坊した」
「いい夢ってお前、えっろい夢でも見てたんだろ、どうせ」
「ちげーわ!てかもう忘れた…忘れたけどいい夢だった気がする」
「忘れてんならえっろい夢だったかもしれなーだろーが」
「だから…」
「はい、みなさん席についてください」
担任が入ってくると同時に俺たちのしょうもない会話は一瞬で幕を閉じた。
「今日から新学期が始まります。繰り上げで担任もクラスメイトも変わりませんが、高校生活最後の1年、楽しく過ごしましょう」
俺は大学進学のため去年から特進クラスだ。担任の花岡先生が言った通り、去年と同じメンバーだ。さっき話しかけてきた前の席のこいつは、勉強はそこそこできるくせにエロいことしか考えていないNormalの佐藤大貴。気の置けるいい奴だが、口を開けば下世話な話をしたがる健全な男子高校生だ。
――本当、何の変わり映えもないな
なんて、心の中で呟いていると、また教室のドアが開いた。
「…なので、新しく副担任になってくれる先生を紹介します。柊晴陽先生です」
「この度副担任を務めさせていただきます、柊晴陽です。みなさん仲良くしてください」
――え…今、晴陽って…言った?
俺は一瞬自分の耳を疑った。それは俺が毎日思い浮かべては呟いていた『大切な名前』だ。
俺は思わず勢いよく立ち上がった。目線を教卓の方に向けると、黒髪に憂いを帯びた大きな目、色白で儚い佇まいの青年が花岡先生の隣に立っていた。
――見間違うはずがない。あの日、最後に見た晴兄より少し身長が伸びて、痩せていたけれど、変わらず綺麗な晴兄だ。
どうしてこんなところに?晴兄は病気の療養で遠いところに行ったはずじゃなかったのか。
ずっと求めていた晴兄が手の届く場所にいることへの喜びと、こんなに近くにいたのなら、どうして俺に会いに来てくれなかったのかという憤りで、俺は訳もわからず呆然と立ち尽くした。
「椎名…椎名陽介!」
「えっ…あ、はい…」
「何突っ立ってるの。先に進めないからとりあえず座りなさい」
「すみません」
俺は花岡先生の声にハッとして、急いで席についた。
思いがけない出来事に心がついていかない。状況が飲み込めず心臓はバクバクと早鐘を打っている。
それでも晴兄がそこにいる。これは現実で、真実だ。意識すればするほど、胸の内から熱い気持ちが沸々と湧いてきた。
「それでは最後に柊先生から一言お願いします」
「歳も近いので、何でも相談してくれたら嬉しいです。これから1年間、みなさんよろしくお願いしますね」
軽く首を傾げ、目を細めて微笑む晴兄は、触れたら割れて消えてしまいそうで、ふわふわと浮くシャボン玉のようにキレイだった。
周りの奴らも、そんな晴兄を見て色めき立っていた。
「新しい副担めっちゃキレイじゃない?」
「カッコイイ系って言うよりカワイイ系?うちめっちゃタイプなんだけど」
「アタックしちゃおっかなー」
「えーズルーい。私もいっちゃおうかな」
いくらNormalがアタックしたところでSubの晴兄はDomを求めている。晴兄は特に欲求が強いって学んで初めて知ったんだ。だからお前らがいくらアタックしたところで晴兄は靡かねーんだよ。
俺は周りより晴兄のことを知っていると、周りに心の中で牽制した。
晴兄はまた俺を求めてくれる。きっと病気は治ってまた俺に会いにきてくれたんだ。きっとこれはサプライズ。
根拠のない自信だけが俺の中で膨れ上がっていた。
だがそんな風が吹けば一瞬で飛んでいってしまいそうな自信は、ある言葉であっさりと吹き飛んでしまった。
「でもNormalであんなキレイなイケメンいるんだ!初めて見たし。ラッキーすぎじゃん」
――Normal…?晴兄はSubのはずだろ…
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