モラトリアムの俺たちはー

木陰みもり

文字の大きさ
上 下
2 / 116

1、プロローグ

しおりを挟む
『はるにい、すきだよ。だーいすき』
『ありがとう。俺も嬉しいよ。俺も陽介ようすけのこと好きだよ』
『本当?うれしい!じゃあ僕が迎えに行くまで誰のものにもならないでね』
『うん、待ってるよ…陽介』

「晴兄ぃ…好き…あでっ!…イッテェ…はっ…晴に…って夢か…」

俺は頭を摩りながら起き上がり、床に落ちた布団と枕を拾った。
晴兄の夢を見たってことは、またこの季節が巡ってきたのか。
桜が咲くこの季節はいつも晴兄の夢を見る。
小さい頃の晴兄との約束の夢。
お互いが好きだって言い合って、抱き締めて、幸せだった。
俺はその頃まだ第二性についての授業を受けてなくて何も知らなかった。
だから無意識のうちに晴兄にPlayプレイのようなことをしてしまっていたらしい。
もちろんCommandコマンドなんて知らない幼稚な子供だ。何も考えず、ただ内から湧き出る熱い感情に身を任せて言葉を発していたに過ぎない。
晴兄が姿を消して気付いた。なんて愚かなことをしたんだろうと。
知っていれば、俺たちは離れ離れになることもなく、今でも晴兄と隣同士の幼馴染以上の関係になれていたかもしれないのに。
あの日の後悔を俺はずっと埋められないまま、俺は高校3年の春を迎えていた。

――もう8年だよ、晴兄

 晴兄と離れ離れになって8年。長い時間だった。その間も俺の心はずっと晴兄を求めていた。
 忘れようと思ったこともある。本当はSubサブという第二性を持った人なら誰でも良いんじゃないのか。そう思って別のSubサブPlayプレイをしていた時期だってあった。でも俺の心は、身体は満たされなかった。
 渇ききった俺を埋められるのは晴兄だけだと、思い知らされるだけだった。
 あと1年で俺は自由を手に入れる。そうしたら晴兄を探しに行くんだ。
 親には「晴兄は病気の療養で遠くに引っ越した」とだけ説明されたけど、俺と引き離すためだったと、俺は考えている。
 自由に行ける場所が広がれば、いつか絶対会える。俺は晴兄のこと運命だと思ってるから、絶対に巡り会えるって信じている。

「陽介、早くしないと遅刻するわよ」
「はーい。今行くー」

母さんに呼ばれ、俺は勢いよく階段を駆け降りたいつのも朝だった。そう、何の変哲もない朝だった。
しかし俺たちの止まっていた時間はゆっくりと確実に動き始めていた。
この1年が俺の人生を一変させる。
この出会いは偶然か、それとも必然か。
あの日止まった俺と晴兄の時間が音を立てて動き出す――
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

いっぱい命じて〜無自覚SubはヤンキーDomに甘えたい〜

きよひ
BL
無愛想な高一Domヤンキー×Subの自覚がない高三サッカー部員 Normalの諏訪大輝は近頃、謎の体調不良に悩まされていた。 そんな折に出会った金髪の一年生、甘井呂翔。 初めて会った瞬間から甘井呂に惹かれるものがあった諏訪は、Domである彼がPlayする様子を覗き見てしまう。 甘井呂に優しく支配されるSubに自分を重ねて胸を熱くしたことに戸惑う諏訪だが……。 第二性に振り回されながらも、互いだけを求め合うようになる青春の物語。 ※現代ベースのDom/Subユニバースの世界観(独自解釈・オリジナル要素あり) ※不良の喧嘩描写、イジメ描写有り 初日は5話更新、翌日からは2話ずつ更新の予定です。

隠れSubは大好きなDomに跪きたい

みー
BL
⚠️Dom/Subユニバース 一部オリジナル表現があります。 ハイランクDom×ハイランクSub

何処吹く風に満ちている

夏蜜
BL
和凰高校の一年生である大宮創一は、新聞部に入部してほどなく顧問の平木に魅了される。授業も手に付かない状態が続くなか、気づけばつかみどころのない同級生へも惹かれ始めていた。

お酒に酔って、うっかり幼馴染に告白したら

夏芽玉
BL
タイトルそのまんまのお話です。 テーマは『二行で結合』。三行目からずっとインしてます。 Twitterのお題で『お酒に酔ってうっかり告白しちゃった片想いくんの小説を書いて下さい』と出たので、勢いで書きました。 執着攻め(19大学生)×鈍感受け(20大学生)

オメガなパパとぼくの話

キサラギムツキ
BL
タイトルのままオメガなパパと息子の日常話。

花婿候補は冴えないαでした

いち
BL
バース性がわからないまま育った凪咲は、20歳の年に待ちに待った判定を受けた。会社を経営する父の一人息子として育てられるなか結果はΩ。 父親を困らせることになってしまう。このまま親に従って、政略結婚を進めて行こうとするが、それでいいのかと自分の今後を考え始める。そして、偶然同じ部署にいた25歳の秘書の孝景と出会った。 本番なしなのもたまにはと思って書いてみました! ※pixivに同様の作品を掲載しています

フローブルー

とぎクロム
BL
——好きだなんて、一生、言えないままだと思ってたから…。 高二の夏。ある出来事をきっかけに、フェロモン発達障害と診断された雨笠 紺(あまがさ こん)は、自分には一生、パートナーも、子供も望めないのだと絶望するも、その後も前向きであろうと、日々を重ね、無事大学を出て、就職を果たす。ところが、そんな新社会人になった紺の前に、高校の同級生、日浦 竜慈(ひうら りゅうじ)が現れ、紺に自分の息子、青磁(せいじ)を預け(押し付け)ていく。——これは、始まり。ひとりと、ひとりの人間が、ゆっくりと、激しく、家族になっていくための…。

若奥様は緑の手 ~ お世話した花壇が聖域化してました。嫁入り先でめいっぱい役立てます!

古森真朝
恋愛
意地悪な遠縁のおばの邸で暮らすユーフェミアは、ある日いきなり『明後日に輿入れが決まったから荷物をまとめろ』と言い渡される。いろいろ思うところはありつつ、これは邸から出て自立するチャンス!と大急ぎで支度して出立することに。嫁入り道具兼手土産として、唯一の財産でもある裏庭の花壇(四畳サイズ)を『持参』したのだが――実はこのプチ庭園、長年手塩にかけた彼女の魔力によって、神域霊域レベルのレア植物生息地となっていた。 そうとは知らないまま、輿入れ初日にボロボロになって帰ってきた結婚相手・クライヴを救ったのを皮切りに、彼の実家エヴァンス邸、勤め先である王城、さらにお世話になっている賢者様が司る大神殿と、次々に起こる事件を『あ、それならありますよ!』とプチ庭園でしれっと解決していくユーフェミア。果たして嫁ぎ先で平穏を手に入れられるのか。そして根っから世話好きで、何くれとなく構ってくれるクライヴVS自立したい甘えベタの若奥様の勝負の行方は? *カクヨム様で先行掲載しております

処理中です...