日暮ノ町の日常

しまうまひと

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夏、打ち上げ花火が始まるまで

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 真宵山の公園へ行くルートはふた通りある。

 俺の家の裏手から登れば近道になるのだけど、さすがにこの時間は暗くて危険なため、一度神社を出て近所の人がよく使う道から向かうことにした。

 花火大会の日は高台の公園に足を運ぶ近隣の住民も多く、特別に木々の間に照明が張り巡らされていて夜でも歩きやすくなっている。
 虫の音しかしない暗闇に塞がれた山道も、この日は人工の灯火によって道を開け、来る人を歓迎しているみたいだ。
 俺と仁郎はいくつもの電球によって淡いオレンジ色に染まった幅広い階段を進んでいく。

「丁一はさ、将来は真宵山神社を継ぐんでしょ」

 たわいもない会話の最中、ふと仁郎がこんなことを尋ねる。

「そうだけど。どうかした?」

「丁一が神社を継いで、その後のことだけど。次の後継者はどうするとか、やっぱ気にしてたりするの?」

 仁郎の視線が緩やかに俺の方を向く。

 真宵山神社は世襲制で宮内家の家系が先祖代々守ってきた神社だ。曽祖父から祖父、祖父から父と宮司を務め、神様と日暮ノに住む人々との仲を取り持ってきた。
 幼い頃から神様に仕えて祭事を執り行う父をカッコいいと思っていたし、当然俺もそうなるんだと思っていた。
 俺はいずれ父の立場を引き継ぐ。そのために神職に従事し、父の手伝いをしている。

 だけどこの先、俺が妻を迎えず子供を作らないつもりなら、つまり俺の次に神社を継ぐ者がいないということになる。
 俺も全く女性に興味がないわけじゃないけど、それについてはもう答えは決まっていた。

「俺は仁郎以外の人と一緒になるつもりはないよ。たぶん養子をもらうようになるんじゃないかな」

「そうか」

 じゃりじゃりと石階段を踏む音に混ざって、どこか安心したような声が響く。
 前方に俺たちと同じような目的で訪れた老夫婦が一組、寄り添って階段を上っていくのが見えた。


『仁郎と結婚する』

――仁郎は覚えていないかもしれないし、別にそれでもいいけど、子供の頃に仁郎とした約束は大人になってからも俺の夢であり続けている。
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