策士オメガの完璧な政略結婚

雨宮里玖

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第3章

52.念書はいらない

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「早くノアとふたりきりになりたい」
「は……っ?」

 さっきまで書物庫にこもっていたくせに!
 ライオネルは部屋に戻ってきた途端、扉が閉まるよりも早く、俺の背中を壁に押しつけ、俺の唇を奪う。

「あっ……ん……うっ……」

 俺の口元のガードが緩かったことをいいことに、ライオネルは俺に深いキスを仕掛けてきた。
 なんで、こんないきなり……。
 でも嫌じゃない。むしろいつも優しすぎるから、強引にされるのは嬉しい。そんなに俺を必要としてくれてるのかな、なんて思う。

「ノア。ベッドに行こう」

 ライオネルに身体を抱えられて、寝室のベッドに連れて行かれる。ライオネルは俺をベッドに組み敷き、真っ直ぐに黒い瞳で俺を見つめている。

「今夜はどこまで許してくれるんだ? 俺に何をしてほしい?」

 ライオネルは毎晩こうやって俺に許可を求めてくる。
 念書のせいなんだろうけど、これ、めちゃくちゃ恥ずかしいよ。

「あ、あの……さ、最後までしてくれて構わないよ。今夜は、さっきのキスみたいにちょっと強引なのがいいかな。ラ、ライオネルにめちゃくちゃにしてほしい……」

 俺は目をそらしながらライオネルを誘う。
 大胆なことを言ってしまった。でも今夜はライオネルにこの身体をたくさん愛してもらいたかった。

 あれ? ライオネルからの返事がない。
 おかしいなと思ってライオネルを見ると、なんか、ライオネルの目の色がおかしい。理性の糸が切れたのか、野獣みたいな目をしてる。

「ノア……っ!」

 ライオネルは俺の唇を唇で塞ぎながら、俺の服を乱していく。
 やがて肌と肌が触れ合い、俺たちは行為に没頭していった。
 今夜はライオネルとこうしたかったんだ。ライオネルを思う存分感じたかった。

「あっ、あっ、ライオネル……」
「ノア、ノア……」

 愛する人の名前を呼んで、裸になって全部を見せ合って、お互いの欲と優しさを見せつけ合う。
 ライオネルとずっとこうやって過ごせたらいい。
 俺の願いがどうか明日、神様に届きますように。




 行為のあと、ライオネルは裸のままベッドに横たわっている俺を、背中から抱きしめてきた。
 ちなみにライオネルは服を着ている。ライオネルは終わるとすぐに服を着る。そうじゃないと落ち着かないそうだ。全身のアザを気にしているのかな。

「……ノア。何を考えている?」

 ライオネルは俺のうなじにキスをしてから俺を抱き寄せた。

「何も考えてないよ」

 本当は明日のことを考えていた。
 命まで取られることはないと思っているけど、相手は悪魔だ。もしかしたら、俺の予想のつかないことになるかもしれない。

「嘘だ。何か悩み事でもあるのか? 俺でよければなんでも聞くよ。話してみろ」

 ライオネルは俺が嘘つきだってわかってきたんだな。最近、こんなふうにライオネルに見抜かれることが増えた。
 ライオネルには言えないよ。明日、俺がしようとしていることを。

「わかった、言うよ。念書のことだよ」

 俺は話をすり替えた。

「念書?」
「あの、俺とライオネルが初めてこのベッドで眠った日に交わした念書のこと。あの約束を無効にしたい……」
「あれはノアから言い出したものじゃないか」
「そうだけどさ、あれのせいでライオネルは俺に毎回毎回「していいか?」って確認してくる。だからあの念書、破ってしまおうか」

 俺はなんの気なしに言ったのに、ライオネルは「いいのかっ?」と驚いた声を出した。

「うん。俺も面倒だし……」

 ちょっと、いや、かなり恥ずかしいし……。

「やめよう。ノアがいいなら即刻やめようっ」

 ライオネルはベッドから起き上がってまで、念書を取りに行った。

「ノア。破っていいか?」
「ああ」

 念書にかけてある防御シールドの魔法さえ解いてしまえば、破くのは簡単だ。
 あとは魔術印を押した俺が、この念書に対する効力を無くせばいい。
 ライオネルが俺の目の前で、念書の紙を真っ二つに破った。そのあと、これでもかってくらいに細かくした。それを最後、ライオネルはランプの炎で燃やした。

「これで許可なしにノアに触れられるのか……」

 ライオネルはベッドに戻ってきて、俺の顔を見つめながら頬に手を触れた。
 もちろんビリビリしない。
 俺はさっきから触れていいという許可は出してたし、もう念書はなくなった。

「ノア。今夜は抱き合って眠ろう」

 ライオネルはそんなことを言って俺を抱きしめてきた。

「うん……」

 俺もライオネルに身を寄せる。
 その日は、とてもいい夢を見た。きっとライオネルがそばにいてくれたおかげかな。
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