策士オメガの完璧な政略結婚

雨宮里玖

文字の大きさ
上 下
47 / 59
第2章

47.重なる想い

しおりを挟む
「やっと気がついたんだ。俺が欲しかったものは、お金でも爵位でもない。理由はなんでもいいからライオネルのそばにいたかったんだ。その気持ちは今もそうだよ? だから俺と離婚してもいいなんて言わないで。そばにいさせてよ」

 俺はライオネルの肩に額を寄せる。
 離さないでほしい。祈るような気持ちで俺はライオネルの肩を掴む手に力を込めた。


「……ノア。俺と過ごした時は、お前にとっても幸せだったのか?」

 それは、いつか俺がマードック陛下に聞かれて答えた言葉だ。
 あのときの俺は、ライオネルが護衛兵だなんて知らなかった。でもそうだ。思い返してみれば、ライオネルはあのとき俺のそばにいたんだ。
 俺の気持ちを聞いていてくれたんだ。

「うん。幸せだった。俺は嫌な奴で、ライオネルに意地悪ばかりしていたけど、幸せだった」

 俺がどんなに悪態をついても、可愛くなくても、ライオネルは真っ直ぐに俺に気持ちを伝えてくれた。俺を愛してくれていた。
 こんな性格の捻じ曲がった俺のことを見捨てず、理解して、愛してくれるのはライオネルしかいない。

「俺も、ノアとの結婚生活は楽しくて仕方がなかった」

 ライオネルは息を吐いて小さく笑った。

「ノアと結婚したし、遺言書も書いた。俺は一日でも早くノアの前から消えて、七十五日、姿を消さなければならなかった。でも、ノアと過ごす日々が楽しくて、俺の隣で眠るノアが愛おしくて、時ばかり過ぎてしまったんだ」
「えっ? そんなに早くから、いなくなろうとしてたの?」

 ライオネルはなんて奴だ。結婚した翌日から失踪するつもりだったのか!?

「ああ。ノアの幸せのためには俺はいなくならないといけないと思っていたから。戦場で俺が死ねば、ノアは喜ぶと思って日々過ごしていた」
「喜ばないよ! なんてこと言うんだ。ダメだ。それだけは絶対に許さない。命を粗末にする奴は騎士にはなれない。死ぬために戦うのは、いけないことだと学校で習っただろう?」

 ライオネルを見ていて、どこか死に急ぐような危なっかしい男だと思っていた。
 それは俺のせいだったんだ。
 死んだら俺が喜ぶなんて、バカみたいなことを考えていたから、命を粗末にするような言動をしていたんだ。

 俺がポカポカとライオネルの胸を叩く。でも頑丈なライオネルはびくともしなかった。

「今は違う」

 ライオネルは優しく微笑んだ。

「ノアと結婚生活を過ごしていくうちに、何もかも諦めていた俺に欲が出た」
「……欲?」

 世のため人のために生きているようなライオネルは、何を欲したんだろう。

「生きたいと思うようになったんだ」

 俺はハッと目を開いた。
 呪われた身体のライオネルは、そんな当たり前のことすら、諦めていたんだ。

「こうやって毎日ノアと過ごせたら幸せだなと思ったんだ。呪われている俺が何を言うかと笑うかもしれないが、ノアと一緒に生きていきたいと思った。ノアと結婚して、俺は初めて生きたいと思えるようになったんだ」
「ライオネル……」

 やっぱり俺とライオネルは運命で繋がっているんだ。俺もライオネルがいないと生きていけないし、ライオネルもきっと同じ気持ちでいてくれているんじゃないか。

「ノア。俺のそばにいてくれないか?」

 ライオネルが俺を見つめるその目は、俺が今まで見たどんな景色よりも美しかった。

「命尽きるまで、ノアを愛すると誓う。命が尽きたって、俺はノアのことを愛している。ノアと一緒に生きていきたいんだ」
「俺も。俺もライオネルを愛してる。ライオネルじゃなきゃダメなんだ」

 ライオネルがどんな運命を背負っていようとも、俺が好きになるのは、愛しているのはライオネルだけだ。他のアルファなんか、ただの一度も好きになったことなんてない。

「ノアに触れてもいい?」

 俺が頷くと、ライオネルは俺の腰に手を回して、自分のほうへと抱き寄せた。
 ライオネルと見つめ合う視線の意味がわかった。でも、ライオネルは俺に念書を書かされたから、許可がないと俺に触れられない。

「ライオネル。キス、して……」

 俺の許しを待っていたかのように、ライオネルは唇を重ねてきた。
 初めての感覚だった。
 俺たちは結婚しているのだから、いけないことをしているわけじゃないのに、すごくドキドキする。
 一度じゃない。ライオネルは、感触を確かめるみたいに角度を変えて、何度も俺にキスをする。
しおりを挟む
感想 124

あなたにおすすめの小説

初夜の翌朝失踪する受けの話

春野ひより
BL
家の事情で8歳年上の男と結婚することになった直巳。婚約者の恵はカッコいいうえに優しくて直巳は彼に恋をしている。けれど彼には別に好きな人がいて…? タイトル通り初夜の翌朝攻めの前から姿を消して、案の定攻めに連れ戻される話。 歳上穏やか執着攻め×頑固な健気受け

転生貧乏貴族は王子様のお気に入り!実はフリだったってわかったのでもう放してください!

音無野ウサギ
BL
ある日僕は前世を思い出した。下級貴族とはいえ王子様のお気に入りとして毎日楽しく過ごしてたのに。前世の記憶が僕のことを駄目だしする。わがまま駄目貴族だなんて気づきたくなかった。王子様が優しくしてくれてたのも実は裏があったなんて気づきたくなかった。品行方正になるぞって思ったのに! え?王子様なんでそんなに優しくしてくるんですか?ちょっとパーソナルスペース!! 調子に乗ってた貧乏貴族の主人公が慎ましくても確実な幸せを手に入れようとジタバタするお話です。

拝啓、愛しの侯爵様~行き遅れ令嬢ですが、運命の人は案外近くにいたようです~

藤原ライラ
ファンタジー
心を奪われた手紙の先には、運命の人が待っていた――  子爵令嬢のキャロラインは、両親を早くに亡くし、年の離れた弟の面倒を見ているうちにすっかり婚期を逃しつつあった。夜会でも誰からも相手にされない彼女は、新しい出会いを求めて文通を始めることに。届いた美しい字で洗練された内容の手紙に、相手はきっとうんと年上の素敵なおじ様のはずだとキャロラインは予想する。  彼とのやり取りにときめく毎日だがそれに難癖をつける者がいた。幼馴染で侯爵家の嫡男、クリストファーである。 「理想の相手なんかに巡り合えるわけないだろう。現実を見た方がいい」  四つ年下の彼はいつも辛辣で彼女には冷たい。  そんな時キャロラインは、夜会で想像した文通相手とそっくりな人物に出会ってしまう……。  文通相手の正体は一体誰なのか。そしてキャロラインの恋の行方は!? じれじれ両片思いです。 ※他サイトでも掲載しています。 イラスト:ひろ様(https://xfolio.jp/portfolio/hiro_foxtail)

【完結】選ばれない僕の生きる道

谷絵 ちぐり
BL
三度、婚約解消された僕。 選ばれない僕が幸せを選ぶ話。 ※地名などは架空(と作者が思ってる)のものです ※設定は独自のものです

【完結】可愛いあの子は番にされて、もうオレの手は届かない

天田れおぽん
BL
劣性アルファであるオズワルドは、劣性オメガの幼馴染リアンを伴侶に娶りたいと考えていた。 ある日、仕えている王太子から名前も知らないオメガのうなじを噛んだと告白される。 運命の番と王太子の言う相手が落としていったという髪飾りに、オズワルドは見覚えがあった―――― ※他サイトにも掲載中 ★⌒*+*⌒★ ☆宣伝☆ ★⌒*+*⌒★  「婚約破棄された不遇令嬢ですが、イケオジ辺境伯と幸せになります!」  が、レジーナブックスさまより発売中です。  どうぞよろしくお願いいたします。m(_ _)m

初心者オメガは執着アルファの腕のなか

深嶋
BL
自分がベータであることを信じて疑わずに生きてきた圭人は、見知らぬアルファに声をかけられたことがきっかけとなり、二次性の再検査をすることに。その結果、自身が本当はオメガであったと知り、愕然とする。 オメガだと判明したことで否応なく変化していく日常に圭人は戸惑い、悩み、葛藤する日々。そんな圭人の前に、「運命の番」を自称するアルファの男が再び現れて……。 オメガとして未成熟な大学生の圭人と、圭人を番にしたい社会人アルファの男が、ゆっくりと愛を深めていきます。 穏やかさに滲む執着愛。望まぬ幸運に恵まれた主人公が、悩みながらも運命の出会いに向き合っていくお話です。本編、攻め編ともに完結済。

僕はあなたに捨てられる日が来ることを知っていながらそれでもあなたに恋してた

いちみやりょう
BL
▲ オメガバース の設定をお借りしている & おそらく勝手に付け足したかもしれない設定もあるかも 設定書くの難しすぎたのでオメガバース知ってる方は1話目は流し読み推奨です▲ 捨てられたΩの末路は悲惨だ。 Ωはαに捨てられないように必死に生きなきゃいけない。 僕が結婚する相手には好きな人がいる。僕のことが気に食わない彼を、それでも僕は愛してる。 いつか捨てられるその日が来るまでは、そばに居てもいいですか。

【完結】相談する相手を、間違えました

ryon*
BL
長い間片想いしていた幼なじみの結婚を知らされ、30歳の誕生日前日に失恋した大晴。 自棄になり訪れた結婚相談所で、高校時代の同級生にして学内のカースト最上位に君臨していた男、早乙女 遼河と再会して・・・ *** 執着系美形攻めに、あっさりカラダから堕とされる自称平凡地味陰キャ受けを書きたかった。 ただ、それだけです。 *** 他サイトにも、掲載しています。 てんぱる1様の、フリー素材を表紙にお借りしています。 *** エブリスタで2022/5/6~5/11、BLトレンドランキング1位を獲得しました。 ありがとうございました。 *** 閲覧への感謝の気持ちをこめて、5/8 遼河視点のSSを追加しました。 ちょっと闇深い感じですが、楽しんで頂けたら幸いです(*´ω`*) *** 2022/5/14 エブリスタで保存したデータが飛ぶという不具合が出ているみたいで、ちょっとこわいのであちらに置いていたSSを念のためこちらにも転載しておきます。

処理中です...