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第2章
39.差し出がましいようですが
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「ノア様は、お噂に聞いていた人とは、雰囲気がまったく違いますね」
「えっ? 噂っ?」
あ、そうか。俺は王都では、顔はいいけど性格が悪い奴って思われてるんだ。財産と地位を手に入れるためには手段を選ばない、最低最悪の策士オメガだって噂されてるんだったっけ。
「はい。噂を聞いて、ノア様にお会いすることを実は恐ろしく思っておりました」
やべぇ、俺、恐れられてたんだ……。
「ノア様は、子どもたちにも優しく接してくださってましたよね? 貴重なドラゴンを見せてくださりありがとうございます」
あー、あれ。あれはなんか俺も童心に返っちゃって、子どものころやりたかったドラゴン自慢をしただけなんだけどな。
「それに施しのときも、聖母のような笑顔で皆と触れ合ってくださり、思わず見惚れてしまいました」
まぁ、俺は顔だけはいいし、偽物の笑顔を作るのがうまいだけ。
あれ? でも俺、いつもの『可愛いオメガ顔』してたかな。あのときは純粋に楽しかったけど。
「たくさんの寄付金もありがとうございました。実は子どもたちに文字の読み書きを教える教室を開きたいと思っておりました。ノア様のおかげでそれが実現できそうです。このお金は、そのための資金にさせていただきます」
「素晴らしい。とてもいい案だと思います」
俺は笑顔で頷いてみせる。
ほら。やっぱり世の中金だ。寄付金を奮発したのは間違いじゃなかった。
世の中、金を持ってる奴が重宝がられるんだよ。
「あと、これは、差し出がましいのですが……」
司祭は、あれだけ俺に散々言いたいこと言ったあとに、急にモジモジし始めた。
いやそれ、最初に言う言葉だろ? もう十分差し出がましいよ。
「ノア様はライオネル様のことを愛していらっしゃるのですね」
「はえぇっ!」
俺は驚き過ぎて変な声が出てしまった。
なぜそれを見抜いた!?
俺は夫殺しのオメガって噂されてるのに。
「ノア様は教会の歴史や調度品の話にはまったく耳を傾けてくださいませんでしたが——」
随分とはっきり言うなぁ、この司祭。
「ライオネル様の話をした途端、興味深々に聞いてくださり、それから嬉しそうに微笑まれるんです」
あれ。そうだったのか。
最近寂しすぎて、ライオネルのことになると、いつものポーカーフェイスができなくなってる。
きっとライオネルが俺のそばにいないのが原因だ。
俺は、周囲に残されたライオネルのカケラを必死で集めて、心を保っている状態だ。街でダサい髪型の男を見かけても、ライオネルを思い出すんだから、かなりの重症なんだろうな。
「失礼を承知で申し上げますと、ライオネル様がノア様と結婚されたとき、皆、『ライオネル様は美貌のオメガに騙されている』と嘆いていたんです。顔だけのオメガにライオネル様を取られたと悲しくて悲しくて……」
この司祭、本当に失礼だ。
それをよく本人を目の前にして言えたな、おい。
でも、それこそ当初の目的はそのとおりだから、俺はなんにも言い返せない。
「でも、そうではありませんでした。ノア様は良いかたで、ライオネル様を慕っていらっしゃった。ライオネル様も会話のたびに、ノア様の話ばかりなさっていて、結婚後、見違えるように明るくなりました」
そうだよ。ライオネルはずっとダサい髪型で傷だらけの顔をしていたんだから。結婚後、見違えるようにかっこよくなったんだから。
「あの……すみません」
俺は勇気を振り絞って司祭に訊ねる。
「ライオネルは、俺のこと、なんて言ってましたか? エピソードのひとつだけでもいいので聞かせてください」
本当は、聞くのがちょっとだけ怖い。でも気になる。ライオネルは人に、俺のことをどんなふうに話していたんだろう。
「ライオネル様は、何があっても夜は一緒に寝てくれるところが好きだとおっしゃってましたよ」
「え! まさかの夜の話ィっ?」
おい、ライオネル。司祭にそういう話をあまりするんじゃない!
「一日中会えなかった日も、言い合いしてすれ違っても、ケンカをしても、一緒に寝てくれると大変お喜びになられてました」
「は、はは……そ、そう……」
やばい急に恥ずかしくなってきた。俺たちのあいだには性的なものは何もなかったのに。
「でも、ベッドの上に正座をして待っていたときは、怖いからやめろとノア様に怒られたとおっしゃっておりました」
「そんなことまで話してたのか……」
ライオネルって実は明け透けなタイプなのかな。俺には肝心なことは何ひとつ話してくれなかったくせに、司祭には随分と親密な話までしてたんだな。
でも俺はちょっとだけ嬉しく思う。
ライオネルと眠る夜は、俺にとっても特別な時間だったから、同じことをライオネルも感じてくれていたことを知れてよかった。
触れることはできない。ライオネルが俺に触れてくることもなかった。それでも、ライオネルの無防備な姿を眺めていられるあの時間が大好きだった。
「生きていらっしゃるのに、ノア様に会いに来られないのは、何か事情があるのでしょう」
「はい……」
事情ねぇ……。何があったら嫁をこんなに長いあいだ放っておくかなぁ。
「次にいらっしゃるときは、どうぞライオネル様とおふたりでいらしてください。いつでもお待ちしております」
司祭は俺にまた丁寧に頭を下げた。
意外におしゃべりな司祭のおかげで、少し元気になった。
重要な証拠も掴んだし、俺ならいける。
ヴィクトールに必ず勝ってみせる。
「えっ? 噂っ?」
あ、そうか。俺は王都では、顔はいいけど性格が悪い奴って思われてるんだ。財産と地位を手に入れるためには手段を選ばない、最低最悪の策士オメガだって噂されてるんだったっけ。
「はい。噂を聞いて、ノア様にお会いすることを実は恐ろしく思っておりました」
やべぇ、俺、恐れられてたんだ……。
「ノア様は、子どもたちにも優しく接してくださってましたよね? 貴重なドラゴンを見せてくださりありがとうございます」
あー、あれ。あれはなんか俺も童心に返っちゃって、子どものころやりたかったドラゴン自慢をしただけなんだけどな。
「それに施しのときも、聖母のような笑顔で皆と触れ合ってくださり、思わず見惚れてしまいました」
まぁ、俺は顔だけはいいし、偽物の笑顔を作るのがうまいだけ。
あれ? でも俺、いつもの『可愛いオメガ顔』してたかな。あのときは純粋に楽しかったけど。
「たくさんの寄付金もありがとうございました。実は子どもたちに文字の読み書きを教える教室を開きたいと思っておりました。ノア様のおかげでそれが実現できそうです。このお金は、そのための資金にさせていただきます」
「素晴らしい。とてもいい案だと思います」
俺は笑顔で頷いてみせる。
ほら。やっぱり世の中金だ。寄付金を奮発したのは間違いじゃなかった。
世の中、金を持ってる奴が重宝がられるんだよ。
「あと、これは、差し出がましいのですが……」
司祭は、あれだけ俺に散々言いたいこと言ったあとに、急にモジモジし始めた。
いやそれ、最初に言う言葉だろ? もう十分差し出がましいよ。
「ノア様はライオネル様のことを愛していらっしゃるのですね」
「はえぇっ!」
俺は驚き過ぎて変な声が出てしまった。
なぜそれを見抜いた!?
俺は夫殺しのオメガって噂されてるのに。
「ノア様は教会の歴史や調度品の話にはまったく耳を傾けてくださいませんでしたが——」
随分とはっきり言うなぁ、この司祭。
「ライオネル様の話をした途端、興味深々に聞いてくださり、それから嬉しそうに微笑まれるんです」
あれ。そうだったのか。
最近寂しすぎて、ライオネルのことになると、いつものポーカーフェイスができなくなってる。
きっとライオネルが俺のそばにいないのが原因だ。
俺は、周囲に残されたライオネルのカケラを必死で集めて、心を保っている状態だ。街でダサい髪型の男を見かけても、ライオネルを思い出すんだから、かなりの重症なんだろうな。
「失礼を承知で申し上げますと、ライオネル様がノア様と結婚されたとき、皆、『ライオネル様は美貌のオメガに騙されている』と嘆いていたんです。顔だけのオメガにライオネル様を取られたと悲しくて悲しくて……」
この司祭、本当に失礼だ。
それをよく本人を目の前にして言えたな、おい。
でも、それこそ当初の目的はそのとおりだから、俺はなんにも言い返せない。
「でも、そうではありませんでした。ノア様は良いかたで、ライオネル様を慕っていらっしゃった。ライオネル様も会話のたびに、ノア様の話ばかりなさっていて、結婚後、見違えるように明るくなりました」
そうだよ。ライオネルはずっとダサい髪型で傷だらけの顔をしていたんだから。結婚後、見違えるようにかっこよくなったんだから。
「あの……すみません」
俺は勇気を振り絞って司祭に訊ねる。
「ライオネルは、俺のこと、なんて言ってましたか? エピソードのひとつだけでもいいので聞かせてください」
本当は、聞くのがちょっとだけ怖い。でも気になる。ライオネルは人に、俺のことをどんなふうに話していたんだろう。
「ライオネル様は、何があっても夜は一緒に寝てくれるところが好きだとおっしゃってましたよ」
「え! まさかの夜の話ィっ?」
おい、ライオネル。司祭にそういう話をあまりするんじゃない!
「一日中会えなかった日も、言い合いしてすれ違っても、ケンカをしても、一緒に寝てくれると大変お喜びになられてました」
「は、はは……そ、そう……」
やばい急に恥ずかしくなってきた。俺たちのあいだには性的なものは何もなかったのに。
「でも、ベッドの上に正座をして待っていたときは、怖いからやめろとノア様に怒られたとおっしゃっておりました」
「そんなことまで話してたのか……」
ライオネルって実は明け透けなタイプなのかな。俺には肝心なことは何ひとつ話してくれなかったくせに、司祭には随分と親密な話までしてたんだな。
でも俺はちょっとだけ嬉しく思う。
ライオネルと眠る夜は、俺にとっても特別な時間だったから、同じことをライオネルも感じてくれていたことを知れてよかった。
触れることはできない。ライオネルが俺に触れてくることもなかった。それでも、ライオネルの無防備な姿を眺めていられるあの時間が大好きだった。
「生きていらっしゃるのに、ノア様に会いに来られないのは、何か事情があるのでしょう」
「はい……」
事情ねぇ……。何があったら嫁をこんなに長いあいだ放っておくかなぁ。
「次にいらっしゃるときは、どうぞライオネル様とおふたりでいらしてください。いつでもお待ちしております」
司祭は俺にまた丁寧に頭を下げた。
意外におしゃべりな司祭のおかげで、少し元気になった。
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ヴィクトールに必ず勝ってみせる。
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