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第2章
37.贈り物
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俺はバカだった。
深く考えもしないで、なんで念書なんて交わしたんだよ。
もうすぐ半月になる。約束の日が迫っているのに、これといった証拠は見つからない。
今日も夜遅くまでいろいろ探し回って、もうクタクタだ。
「もう無理だ……」
俺は竜騎士の訓練場にある、ドラゴン小屋の床にぶっ倒れた。
ドラゴン小屋の床は乾燥させた草や木屑が敷き詰められていて、俺は丸まって眠ろうとしているキールの横に寝っ転がった。
「キール。俺、どうしたらいいんだろう……」
そもそもキールに魔法をかけた証拠なんてどうやって見つければいい? キールは人の言葉を話せないし、目撃者がいなければ、かけた本人しかわからないだろ。
フォルネウスは本当に悪魔魔法を使えるのかすら怪しくなってきた。フォルネウスが代償を払っている様子がまるでない。見た目は元気だし、あいつは王立学校に通っていたころ、風の音を悪魔の声と間違えてビビり散らかしていたくらいに気弱だ。それにケチだ。お菓子のひとつも分けてくれないほど、自分の物に固執していた。そんな奴がヴィクトールに命令されて悪魔と契約? 俺には信じられない。
十年前の事件のほうも、難航している。あのときキールの背中に乗った竜騎士は、やっぱりヴィクトールの息のかかった騎士だった。ヴィクトールの母方の親戚で、甥にあたる男だった。
結局竜騎士にはなれず、今では国王の護衛兵として城で働いている。謁見の間で、鉄仮面の男が左右に立っていたが、そのうちの右側にいたのが実はヴィクトールの甥っ子だった。いや、鉄仮面被ってたら顔も見えないし誰だかわからねぇよ。
竜騎士を目指していたが、パートナーとなってくれるドラゴンがいなくて諦めたというところは、ライオネルと一緒だ。
俺が十年前のことを聞き出そうとしても、知らぬ存ぜぬ、そんな昔のことは忘れたと言われてしまった。まぁ、ヴィクトールの甥っ子が、俺の味方をするはずがないよな。
「寒い……」
今夜は急に寒くなった。
俺はマントで自分の身をくるむ。ドラゴン小屋には木の壁と天井はあるものの、扉も簡易的なものだし、どこからか隙間風が入り込んでくる。全然あったかくない。
こんなところで寝ちゃいけない。部屋に戻らなきゃって思うけど、疲れ切っていて身体が鉛みたいに重い。
キールが俺を温めようとしてくれているのか、俺に身を寄せてきた。
キールの体はザラザラしていて温かくはないけれど、風除けになってくれている。
あと少しだけ休んだら、部屋に戻ろう。
そう思っていたのに、俺はその場で眠りに落ちてしまった。
「うう……ん……」
俺は朝の日の光で目を覚ました。寒かったのによく眠れたな、と思ってみると、俺はなぜか見たことのない毛布を抱きしめていた。
あれ? 気がついたら俺の身体に毛布がかけられている。しかも毛布はふわふわの上質な毛布だ。
しかもこの毛布、すごくいい匂いがする。
俺は毛布に顔をうずめてその匂いを吸い込んだ。
これはオメガだからこそわかる、アルファの匂いだ。ひどく懐かしい、俺が大好きなアルファの匂い――。
「ライオネル……」
これを俺に届けてくれたのは、もしかしたら。
「ライオネルっ!」
俺は飛び起きて、毛布を身体にくるんでドラゴン小屋を飛び出した。
注意深く辺りを見渡す。でもそこに人影はない。
でもこれはライオネルが届けてくれたに違いない。大好きなアルファの匂いを、俺が間違えるわけないんだから。
俺はもう一度ふかふかの毛布にスンと鼻を寄せてみる。
やっぱりそうだ。ライオネルの匂いがする。
ライオネルは生きていて、城内にいるんだ。そして俺の存在に気がついている。
だったら声をかけてくれればいいのに。俺が寝ていたって起こしてくれて構わなかったのに。
俺、避けられてる……?
でも、そうだとしたら、わざわざ毛布をかけに来るかな……。
ライオネルの真意はわからない。それでも、この贈り物は最近へこんでいた俺にとって、希望の光に包まれたみたいに心があったかくなるものだった。
深く考えもしないで、なんで念書なんて交わしたんだよ。
もうすぐ半月になる。約束の日が迫っているのに、これといった証拠は見つからない。
今日も夜遅くまでいろいろ探し回って、もうクタクタだ。
「もう無理だ……」
俺は竜騎士の訓練場にある、ドラゴン小屋の床にぶっ倒れた。
ドラゴン小屋の床は乾燥させた草や木屑が敷き詰められていて、俺は丸まって眠ろうとしているキールの横に寝っ転がった。
「キール。俺、どうしたらいいんだろう……」
そもそもキールに魔法をかけた証拠なんてどうやって見つければいい? キールは人の言葉を話せないし、目撃者がいなければ、かけた本人しかわからないだろ。
フォルネウスは本当に悪魔魔法を使えるのかすら怪しくなってきた。フォルネウスが代償を払っている様子がまるでない。見た目は元気だし、あいつは王立学校に通っていたころ、風の音を悪魔の声と間違えてビビり散らかしていたくらいに気弱だ。それにケチだ。お菓子のひとつも分けてくれないほど、自分の物に固執していた。そんな奴がヴィクトールに命令されて悪魔と契約? 俺には信じられない。
十年前の事件のほうも、難航している。あのときキールの背中に乗った竜騎士は、やっぱりヴィクトールの息のかかった騎士だった。ヴィクトールの母方の親戚で、甥にあたる男だった。
結局竜騎士にはなれず、今では国王の護衛兵として城で働いている。謁見の間で、鉄仮面の男が左右に立っていたが、そのうちの右側にいたのが実はヴィクトールの甥っ子だった。いや、鉄仮面被ってたら顔も見えないし誰だかわからねぇよ。
竜騎士を目指していたが、パートナーとなってくれるドラゴンがいなくて諦めたというところは、ライオネルと一緒だ。
俺が十年前のことを聞き出そうとしても、知らぬ存ぜぬ、そんな昔のことは忘れたと言われてしまった。まぁ、ヴィクトールの甥っ子が、俺の味方をするはずがないよな。
「寒い……」
今夜は急に寒くなった。
俺はマントで自分の身をくるむ。ドラゴン小屋には木の壁と天井はあるものの、扉も簡易的なものだし、どこからか隙間風が入り込んでくる。全然あったかくない。
こんなところで寝ちゃいけない。部屋に戻らなきゃって思うけど、疲れ切っていて身体が鉛みたいに重い。
キールが俺を温めようとしてくれているのか、俺に身を寄せてきた。
キールの体はザラザラしていて温かくはないけれど、風除けになってくれている。
あと少しだけ休んだら、部屋に戻ろう。
そう思っていたのに、俺はその場で眠りに落ちてしまった。
「うう……ん……」
俺は朝の日の光で目を覚ました。寒かったのによく眠れたな、と思ってみると、俺はなぜか見たことのない毛布を抱きしめていた。
あれ? 気がついたら俺の身体に毛布がかけられている。しかも毛布はふわふわの上質な毛布だ。
しかもこの毛布、すごくいい匂いがする。
俺は毛布に顔をうずめてその匂いを吸い込んだ。
これはオメガだからこそわかる、アルファの匂いだ。ひどく懐かしい、俺が大好きなアルファの匂い――。
「ライオネル……」
これを俺に届けてくれたのは、もしかしたら。
「ライオネルっ!」
俺は飛び起きて、毛布を身体にくるんでドラゴン小屋を飛び出した。
注意深く辺りを見渡す。でもそこに人影はない。
でもこれはライオネルが届けてくれたに違いない。大好きなアルファの匂いを、俺が間違えるわけないんだから。
俺はもう一度ふかふかの毛布にスンと鼻を寄せてみる。
やっぱりそうだ。ライオネルの匂いがする。
ライオネルは生きていて、城内にいるんだ。そして俺の存在に気がついている。
だったら声をかけてくれればいいのに。俺が寝ていたって起こしてくれて構わなかったのに。
俺、避けられてる……?
でも、そうだとしたら、わざわざ毛布をかけに来るかな……。
ライオネルの真意はわからない。それでも、この贈り物は最近へこんでいた俺にとって、希望の光に包まれたみたいに心があったかくなるものだった。
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