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第2章
36.謁見
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「来て早々、派手に騒ぎを起こしてくれたな」
俺は謁見の間で初めて陛下に会ったんだけど、初対面でいきなり説教されるという、最悪の状況だ。
この国の王・マードック陛下は賢王と名高い、人格者だ。先王の正室の嫡男で、血筋もいいのに国王としての能力まで伴っているなんて奇跡みたいだ。
「誠に申し訳ございません」
俺は何度この言葉を繰り返しただろう。キールが暴れたことで城は破壊され、怪我人も出た。これは、キールをここに連れてきた俺の責任だ。
「ですが陛下。先ほどもお伝えしましたが、ホワイトドラゴンは魔法で混乱させられたのです。禁断の魔法を使った者にも責任と処罰を求めます。陛下、どうか公平な裁きをお願いいたします」
俺も悪いが、俺だけが悪いわけじゃない。俺だけが責められて、フォルネウスとヴィクトールは一切お咎めなしなんて俺には納得がいかない。
俺が訴えると、マードック陛下はこれみよがしにため息をついた。
「お前は立場をわかってものを言っているのか?」
マードック陛下は俺に冷たい視線を向けている。陛下だけじゃない、周りにいる偉そうなジジイたちも、従者や護衛兵ですら俺を冷ややかな目で見る。
「お前は夫に遺言書を書かせたあと、事故に見せかけ亡き者にし、男オメガということを利用して法の隙間をかいくぐり、爵位を奪った策士オメガだ。余がお前を呼びつけたのは、そのことについて議論の余地があるのではないかと思ってのことだ。こんなことがまかり通ってしまえば、我が祖先の同胞であるバーノン司教の子孫、ライオネル・バーノンは死んでも浮かばれまい」
うわ。そうだったんだ。なんで呼ばれたのかと思ってたけど、これは想像以上に厳しいお言葉だ。
俺は密かに周囲を見る。
マードック陛下の言葉にみんな頷いてるよ。最悪だ。これじゃ俺が何を訴えても聞いてもらえないだろう。
俺は深く、ゆっくり呼吸をする。
負けるな。俺はひとりでも戦える。
「それはだたの噂話で、陛下のおっしゃっていることはいくつか誤りがあります」
「誤り? どこが間違っているというのだ?」
マードック陛下は怪訝な顔をする。
そりゃそうだよな、自分の発言を否定されたらムカつくに決まっている。
「ライオネル・バーノンは生きているのです」
俺がはっきり言い切ると、マードック陛下は相当驚いたようで息を詰まらせた。
「ここに、ライオネルが自分の呪いを軽くするために使用していた身代わりの石があります」
俺はライオネルにかけられた不遇な呪いのこと、魔効書のこと、身代わりの石が割れずに残っていることを説明した。
俺の話を聞いて、周囲がざわついた。みんなライオネルは死んだと思っていたんだろう。
でも、それはない。ライオネルはどこかで絶対に生きている。この身代わりの石が割れない限り、ライオネルはこの世のどこかにいるはずなんだ。
なんで俺の前に現れてくれないのかは、わからないけど。
ライオネルは爵位にも財産にも興味はなさそうだった。そんなものはくれてやるから、さっさと出ていけと、俺が離婚を決める日を待っているのかな。
「お前はライオネルに会いたいか?」
思いがけないマードック陛下の言葉に俺はハッと顔を上げた。
会いたい。
ずっと会えないまま、身代わりの石が割れてしまったら?
今度こそ、俺はライオネルのあとを追ってしまおうか。ライオネルのいない世界に、意味を見出せるものなのかな。
「……実はライオネルの行方を捜しております」
俺はすがるような目でマードック陛下に訴える。
「もし、ライオネルが陛下の前に現れることがあったら、ライオネルにお伝えください」
俺のこの小さな想いはライオネルに届くだろうか。
「短いあいだでしたが、共に結婚生活を過ごせた時間はとても幸せでした。そのように、お伝え願えますでしょうか」
この言葉は嘘じゃない。
振り返るほど、思い返すほど、幸せだったと身に沁みて思う。
俺の幸せはあんなに近くにあったのに。そんな単純なものにも気がつかないで、見て見ぬふりをして、気持ちを蔑ろにして、俺はもっとも大切なものを失ったんだ。
ライオネルは最初のころは、俺を誠実に愛してくれていたと思う。
それなのに俺はライオネルを騙して、念書念書ってうるさく騒いで、こうなったのは自業自得だ。
「もうよい。わかった。お前の言い分は、十分に精査する」
マードック陛下のひと声で、話し合いは終わった。
とりあえず、俺の処分は先延ばしになったということだろう。
おそらくダメだ。俺の爵位は取り上げられるだろう。だって俺はバーノン子爵となんの血の繋がりもない。そんな奴がぽっと出でてきて、いきなり治世の采配を振るい始めたらみんな白い目で見るだろう。
あー! あっちもこっちも難題だらけだ。
でもやるしかない。ライオネルを陥れたあいつらの罪を俺が暴いてやる。
俺は謁見の間で初めて陛下に会ったんだけど、初対面でいきなり説教されるという、最悪の状況だ。
この国の王・マードック陛下は賢王と名高い、人格者だ。先王の正室の嫡男で、血筋もいいのに国王としての能力まで伴っているなんて奇跡みたいだ。
「誠に申し訳ございません」
俺は何度この言葉を繰り返しただろう。キールが暴れたことで城は破壊され、怪我人も出た。これは、キールをここに連れてきた俺の責任だ。
「ですが陛下。先ほどもお伝えしましたが、ホワイトドラゴンは魔法で混乱させられたのです。禁断の魔法を使った者にも責任と処罰を求めます。陛下、どうか公平な裁きをお願いいたします」
俺も悪いが、俺だけが悪いわけじゃない。俺だけが責められて、フォルネウスとヴィクトールは一切お咎めなしなんて俺には納得がいかない。
俺が訴えると、マードック陛下はこれみよがしにため息をついた。
「お前は立場をわかってものを言っているのか?」
マードック陛下は俺に冷たい視線を向けている。陛下だけじゃない、周りにいる偉そうなジジイたちも、従者や護衛兵ですら俺を冷ややかな目で見る。
「お前は夫に遺言書を書かせたあと、事故に見せかけ亡き者にし、男オメガということを利用して法の隙間をかいくぐり、爵位を奪った策士オメガだ。余がお前を呼びつけたのは、そのことについて議論の余地があるのではないかと思ってのことだ。こんなことがまかり通ってしまえば、我が祖先の同胞であるバーノン司教の子孫、ライオネル・バーノンは死んでも浮かばれまい」
うわ。そうだったんだ。なんで呼ばれたのかと思ってたけど、これは想像以上に厳しいお言葉だ。
俺は密かに周囲を見る。
マードック陛下の言葉にみんな頷いてるよ。最悪だ。これじゃ俺が何を訴えても聞いてもらえないだろう。
俺は深く、ゆっくり呼吸をする。
負けるな。俺はひとりでも戦える。
「それはだたの噂話で、陛下のおっしゃっていることはいくつか誤りがあります」
「誤り? どこが間違っているというのだ?」
マードック陛下は怪訝な顔をする。
そりゃそうだよな、自分の発言を否定されたらムカつくに決まっている。
「ライオネル・バーノンは生きているのです」
俺がはっきり言い切ると、マードック陛下は相当驚いたようで息を詰まらせた。
「ここに、ライオネルが自分の呪いを軽くするために使用していた身代わりの石があります」
俺はライオネルにかけられた不遇な呪いのこと、魔効書のこと、身代わりの石が割れずに残っていることを説明した。
俺の話を聞いて、周囲がざわついた。みんなライオネルは死んだと思っていたんだろう。
でも、それはない。ライオネルはどこかで絶対に生きている。この身代わりの石が割れない限り、ライオネルはこの世のどこかにいるはずなんだ。
なんで俺の前に現れてくれないのかは、わからないけど。
ライオネルは爵位にも財産にも興味はなさそうだった。そんなものはくれてやるから、さっさと出ていけと、俺が離婚を決める日を待っているのかな。
「お前はライオネルに会いたいか?」
思いがけないマードック陛下の言葉に俺はハッと顔を上げた。
会いたい。
ずっと会えないまま、身代わりの石が割れてしまったら?
今度こそ、俺はライオネルのあとを追ってしまおうか。ライオネルのいない世界に、意味を見出せるものなのかな。
「……実はライオネルの行方を捜しております」
俺はすがるような目でマードック陛下に訴える。
「もし、ライオネルが陛下の前に現れることがあったら、ライオネルにお伝えください」
俺のこの小さな想いはライオネルに届くだろうか。
「短いあいだでしたが、共に結婚生活を過ごせた時間はとても幸せでした。そのように、お伝え願えますでしょうか」
この言葉は嘘じゃない。
振り返るほど、思い返すほど、幸せだったと身に沁みて思う。
俺の幸せはあんなに近くにあったのに。そんな単純なものにも気がつかないで、見て見ぬふりをして、気持ちを蔑ろにして、俺はもっとも大切なものを失ったんだ。
ライオネルは最初のころは、俺を誠実に愛してくれていたと思う。
それなのに俺はライオネルを騙して、念書念書ってうるさく騒いで、こうなったのは自業自得だ。
「もうよい。わかった。お前の言い分は、十分に精査する」
マードック陛下のひと声で、話し合いは終わった。
とりあえず、俺の処分は先延ばしになったということだろう。
おそらくダメだ。俺の爵位は取り上げられるだろう。だって俺はバーノン子爵となんの血の繋がりもない。そんな奴がぽっと出でてきて、いきなり治世の采配を振るい始めたらみんな白い目で見るだろう。
あー! あっちもこっちも難題だらけだ。
でもやるしかない。ライオネルを陥れたあいつらの罪を俺が暴いてやる。
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