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第2章
32.身代わりの石
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「ライオネル様は幼少のころ、ご両親を亡くされましたが、そのときライオネル様も一緒にいたんですよ」
「……知らない。その話、詳しく教えてほしい」
俺はマイヤー卿に迫る。
ライオネルは両親を亡くしたあと、一時的にマイヤー卿のもとで暮らしていたんだ。当時はライオネルもマイヤー卿も王都にいた。で、ライオネルが辺境伯となり、マイヤー卿も一緒に飛ばされてきたんだ。
だからマイヤー卿は、幼少のころのライオネルのことをよく知っている。
「ライオネル様は一命は取り留めましたが、そのとき呪いにかけられてしまったんです」
「なんだ、それ……。ライオネルが子どものころから?」
「はい。あのアザは隠せません。最初は背中だけだったのに、どんどん広がっていって……」
俺はハッとする。
俺はライオネルの身体のアザを見たことがある。
ライオネルの手首には、醜い形のアザがあった。あれは年月とともにライオネルの身体に広がっていったアザの一部分だったんじゃないだろうか。
「今回のことも、きっと呪いのせいなのでしょう。だから、ノア様は気に病むことなどありません。ライオネル様はずっとこうなることを覚悟されていたと思いますから、どうぞ離婚して再婚なさっても恨まれることはないと思いますよ」
ライオネルは事故じゃなくて、呪いのせいで死んだ……?
本当に……?
「あの。ライオネルが呪いをかけられた場所はどこです?」
「ファラール教会です。バーノン司教の血族は、決められた日に教会で祈ることになっていて、ライオネル様とご両親が襲われたのも、祈りの日でした」
ファラール教会は、バーノン司教の生まれ故郷にある。王都の外れにある、もともとはスラム街にあった教会だが、今は立派になり誰でも知っている有名な教会だ。
ライオネルにかけられた呪いの種類がなんなのか俺にはわからない。
でも、もしそれが原因だったとしたら、俺は黙ってなんかいられない。長年、ライオネルを苦しめて最後は命を奪う!? そんなもの許せるはずがないだろ。
ライオネルがいなくなってからも、俺はライオネルの私物には触れなかった。死んだなんて信じられなくて、いつか帰ってくると信じていたから、片付けずにそのままになっている。
でも今は緊急事態だ。ライオネルの机やワードローブを片っ端からあさり、俺はずっとあるものを探していた。
強い呪いをかけるためには、その効力を保つために魔効書と呼ばれる、目には見えない契約書のようなものを使うことがある。
マイヤー卿の話を聞く限りだが、それはおそらくライオネルの身体にアザという形で刻み込まれたんだ。
呪いを身体に刻み込まれた者は、その魔効書の力を自分から追い出すために『身代わりの石』を使うことがある。その石に魔効書の力を移せば、身体に契約書を刻まれるよりも身が軽くなるんだ。
「あ、った……!」
俺はキラキラと光を反射するクリスタルを見つけ出した。クリスタルは、身代わりの石としてよく使われるものだ。
そこに念を送る。魔法をかければ、この石が身代わりの石かどうか、どんな魔効書の身代わりになっているのかがわかる。
俺の目の前に、光の文字で文章が現れた。魔効書の契約の文字が出たということは、これはやっぱり身代わりの石だ。
それを読んでいくうちに、ライオネルの背負ったものの重みを感じる。
本来ならば、ライオネルは両親とともに命を落とすところだった。
それをファラール教会に祀られていたバーノン司教の魂が、ライオネルを守ったらしい。魔効書に「先祖の邪魔が入った」と恨み節が書かれていたから。
ただしライオネルが死を迎える時が伸びただけ。
ライオネルは齢三十にはなれない運命だった。
俺は身代わりの石を手にしながら胸が熱くなる。
ライオネルは呪いで死んだんじゃない。
だってライオネルにかけられた呪いは、最上級の死の呪いだった。
だったら、その呪いが達成された瞬間、身代わりの石は砕け散る。主とともにこの世から消えるんだ。
なのに、今、ライオネルの魔効書の身代わりとなった石は俺の手元にある。
つまり、ライオネルは生きている。
どういう事情かわからないが、城に帰って来られないだけで、ライオネルはこの世のどこかで生きている。
ただ、呪いをかけられているとしたらライオネルの寿命は長くない。
ライオネルに呪いをかけた悪魔を祓えば、魔効書の効力はすべてなくなるはずだ。
誰が悪魔を召喚して、バーノン一家を襲わせたのかはわからない。
でも俺ならそのくらい、すぐに目星はつけられる。
「ライオネル、どこで何してんだよ……」
俺は身代わりの石を握りしめる。
生きているなら、今すぐ会いにきてほしい。
七十五日も嫁を放っておくなんて、どういう放置プレイだ。さみしくて、俺が後追いしたらどうしてくれるんだよ。ライオネルが生きてても、二度と会えなくなるじゃないか。
でも、ライオネルは生きている。その事実が俺をどれだけ奮い立たせたことか。
とにかく俺は戦ってやる。
ライオネルがいつ帰ってきてもいいように。そのためにやるべきことは山のようにある。
「……知らない。その話、詳しく教えてほしい」
俺はマイヤー卿に迫る。
ライオネルは両親を亡くしたあと、一時的にマイヤー卿のもとで暮らしていたんだ。当時はライオネルもマイヤー卿も王都にいた。で、ライオネルが辺境伯となり、マイヤー卿も一緒に飛ばされてきたんだ。
だからマイヤー卿は、幼少のころのライオネルのことをよく知っている。
「ライオネル様は一命は取り留めましたが、そのとき呪いにかけられてしまったんです」
「なんだ、それ……。ライオネルが子どものころから?」
「はい。あのアザは隠せません。最初は背中だけだったのに、どんどん広がっていって……」
俺はハッとする。
俺はライオネルの身体のアザを見たことがある。
ライオネルの手首には、醜い形のアザがあった。あれは年月とともにライオネルの身体に広がっていったアザの一部分だったんじゃないだろうか。
「今回のことも、きっと呪いのせいなのでしょう。だから、ノア様は気に病むことなどありません。ライオネル様はずっとこうなることを覚悟されていたと思いますから、どうぞ離婚して再婚なさっても恨まれることはないと思いますよ」
ライオネルは事故じゃなくて、呪いのせいで死んだ……?
本当に……?
「あの。ライオネルが呪いをかけられた場所はどこです?」
「ファラール教会です。バーノン司教の血族は、決められた日に教会で祈ることになっていて、ライオネル様とご両親が襲われたのも、祈りの日でした」
ファラール教会は、バーノン司教の生まれ故郷にある。王都の外れにある、もともとはスラム街にあった教会だが、今は立派になり誰でも知っている有名な教会だ。
ライオネルにかけられた呪いの種類がなんなのか俺にはわからない。
でも、もしそれが原因だったとしたら、俺は黙ってなんかいられない。長年、ライオネルを苦しめて最後は命を奪う!? そんなもの許せるはずがないだろ。
ライオネルがいなくなってからも、俺はライオネルの私物には触れなかった。死んだなんて信じられなくて、いつか帰ってくると信じていたから、片付けずにそのままになっている。
でも今は緊急事態だ。ライオネルの机やワードローブを片っ端からあさり、俺はずっとあるものを探していた。
強い呪いをかけるためには、その効力を保つために魔効書と呼ばれる、目には見えない契約書のようなものを使うことがある。
マイヤー卿の話を聞く限りだが、それはおそらくライオネルの身体にアザという形で刻み込まれたんだ。
呪いを身体に刻み込まれた者は、その魔効書の力を自分から追い出すために『身代わりの石』を使うことがある。その石に魔効書の力を移せば、身体に契約書を刻まれるよりも身が軽くなるんだ。
「あ、った……!」
俺はキラキラと光を反射するクリスタルを見つけ出した。クリスタルは、身代わりの石としてよく使われるものだ。
そこに念を送る。魔法をかければ、この石が身代わりの石かどうか、どんな魔効書の身代わりになっているのかがわかる。
俺の目の前に、光の文字で文章が現れた。魔効書の契約の文字が出たということは、これはやっぱり身代わりの石だ。
それを読んでいくうちに、ライオネルの背負ったものの重みを感じる。
本来ならば、ライオネルは両親とともに命を落とすところだった。
それをファラール教会に祀られていたバーノン司教の魂が、ライオネルを守ったらしい。魔効書に「先祖の邪魔が入った」と恨み節が書かれていたから。
ただしライオネルが死を迎える時が伸びただけ。
ライオネルは齢三十にはなれない運命だった。
俺は身代わりの石を手にしながら胸が熱くなる。
ライオネルは呪いで死んだんじゃない。
だってライオネルにかけられた呪いは、最上級の死の呪いだった。
だったら、その呪いが達成された瞬間、身代わりの石は砕け散る。主とともにこの世から消えるんだ。
なのに、今、ライオネルの魔効書の身代わりとなった石は俺の手元にある。
つまり、ライオネルは生きている。
どういう事情かわからないが、城に帰って来られないだけで、ライオネルはこの世のどこかで生きている。
ただ、呪いをかけられているとしたらライオネルの寿命は長くない。
ライオネルに呪いをかけた悪魔を祓えば、魔効書の効力はすべてなくなるはずだ。
誰が悪魔を召喚して、バーノン一家を襲わせたのかはわからない。
でも俺ならそのくらい、すぐに目星はつけられる。
「ライオネル、どこで何してんだよ……」
俺は身代わりの石を握りしめる。
生きているなら、今すぐ会いにきてほしい。
七十五日も嫁を放っておくなんて、どういう放置プレイだ。さみしくて、俺が後追いしたらどうしてくれるんだよ。ライオネルが生きてても、二度と会えなくなるじゃないか。
でも、ライオネルは生きている。その事実が俺をどれだけ奮い立たせたことか。
とにかく俺は戦ってやる。
ライオネルがいつ帰ってきてもいいように。そのためにやるべきことは山のようにある。
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