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第1章
27.おせっかい
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エルドリックは俺を野営の焚火の前に連れてきた。燈色の炎がゆらゆらと揺れ、俺は風が強いことに気がついた。
「治療してほしい兵士というのは、実は俺です。お疲れのところ申し訳ありませんが、お願いできませんか?」
エルドリックはそう言って左腕の袖をまくって俺に見せてきた。そこにはモンスターの爪で引っ搔かれたと思われる、えぐい傷がある。
俺は無言で頷き、焚火の前に座るエルドリックの隣に跪く。そしてエルドリックに治癒魔法をかける。
「ありがとうございます、ノア様」
えっ?
俺が思わず顔を上げると、エルドリックは俺に微笑みかけてきた。
「ライオネル様が心配で、ついてきてくださったのですか?」
「な、なんでわかったの……?」
俺は陰にコソコソ隠れていたし、ライオネルやエルドリックには近づかないようにしていた。見つかる要素なんてどこにもないはずだ。
「視線でわかりましたよ。ライオネル様のことばかり見て、誰だと思ったら、その人は綺麗なエメラルドグリーンの目をしていました。そんな綺麗な目をしている人は滅多にいませんよ」
「そ、そっか……」
俺は極力ライオネルのことを見ないようにしていたつもりだったのに、そんなに見てたかな……。
「さっきの話、聞かれてましたよね?」
「え、あ、まぁ……」
「ライオネル様には俺が手当たり次第に求婚の手紙を書いたと言っているのですが、本当は一通だけです。ああでも言わないと、俺が最初からノア様にあたりをつけていることがライオネル様に気づかれてしまいますから」
「え……?」
その一通こそ、俺のところに届いた手紙、ということだろうか。
「ライオネル様は多くは話してくれませんが、王都に行くたびにノア様のことを探していました。それで見つけてもノア様に話かけることもなく、遠くから見ているだけで満足されて帰るのです。ノア様はたしかにとても美しい方だったので、俺はずっとライオネル様はノア様の容姿に惹かれているのだろうと思っていました」
ライオネルは本当に俺のことを見ていたんだ。
なんのために?
俺からキールを奪ったことに対して、申し訳なさを感じて謝りたかったのかな。
だったら話かけてくれればよかったのに。
あのとき、どうしてキールを傷つけたのか、俺に理由を話してくれてもよかったのに。
「辺境の地に来たころ、ライオネル様は本当にモテたんですよ? それなのに嫁も取らずに、見た目はどんどん酷くなり、身なりに無頓着になって、気がつけばあのような、怪物辺境伯と言われるまでになりました」
「あれは、たしかに酷かったよね……」
傷だらけの顔に、ひどい身なり。あれはみんな避けて通りたい感じだったと思う。
「俺は再三ライオネル様に注意したんです。そしたら『俺にはずっと想っている人がいるから誰とも結婚しない』って打ち明けてくれたんです。それで俺はピンときて、ノア様にライオネル様の名前を使って求婚の手紙を書きました。これは俺の勘です。ライオネル様は相手の名前すら教えてくれないし、『絶対に無理だ』と告白する前から諦めていてホント男らしくなくて……アルファのくせに、ウジウジしているなんて見てて本当にイライラする……デカいのは図体だけかよ……」
だんだんとエルドリックの愚痴を聞かされているような気持ちになってきたが、とにかくエルドリックはライオネルに対して相当おせっかいだということだけはよくわかった。
「そっか。だからか……」
俺に届いたライオネルからの求婚の手紙は「初めまして」「ひと目お会いしたい」のような文面だった。あれはエルドリックが、俺たちは初対面だと思っていたから、あんな文章になったんだ。
「ノア様、ライオネル様と結婚してくださり、ありがとうございます。あなた様が来てくださってから、ライオネル様は見違えるように笑顔が増えました」
え? あれで?
ライオネルは滅多に笑わないのに、あれで笑顔が増えたって思われるって、相当やばかったんだな。
「……でも、最近おふたりに何かあったんですか?」
「へっ? 特に何も……」
「ライオネル様が、側室を『考えておく』なんて言うのは初めてです。俺はあのとき側室など要らないっ! という答えを期待して、ライオネル様に尋ねたんですけど」
「そうなんだ……」
ライオネルに何か気持ちの変化があったのかな。あったとしたら、きっと俺のせいだ。
俺のことを見限って、嫌いになったんじゃないか。
「ライオネル様は——」
エルドリックが言いかけて、何かを察知したように急に立ち上がった。
「治療してほしい兵士というのは、実は俺です。お疲れのところ申し訳ありませんが、お願いできませんか?」
エルドリックはそう言って左腕の袖をまくって俺に見せてきた。そこにはモンスターの爪で引っ搔かれたと思われる、えぐい傷がある。
俺は無言で頷き、焚火の前に座るエルドリックの隣に跪く。そしてエルドリックに治癒魔法をかける。
「ありがとうございます、ノア様」
えっ?
俺が思わず顔を上げると、エルドリックは俺に微笑みかけてきた。
「ライオネル様が心配で、ついてきてくださったのですか?」
「な、なんでわかったの……?」
俺は陰にコソコソ隠れていたし、ライオネルやエルドリックには近づかないようにしていた。見つかる要素なんてどこにもないはずだ。
「視線でわかりましたよ。ライオネル様のことばかり見て、誰だと思ったら、その人は綺麗なエメラルドグリーンの目をしていました。そんな綺麗な目をしている人は滅多にいませんよ」
「そ、そっか……」
俺は極力ライオネルのことを見ないようにしていたつもりだったのに、そんなに見てたかな……。
「さっきの話、聞かれてましたよね?」
「え、あ、まぁ……」
「ライオネル様には俺が手当たり次第に求婚の手紙を書いたと言っているのですが、本当は一通だけです。ああでも言わないと、俺が最初からノア様にあたりをつけていることがライオネル様に気づかれてしまいますから」
「え……?」
その一通こそ、俺のところに届いた手紙、ということだろうか。
「ライオネル様は多くは話してくれませんが、王都に行くたびにノア様のことを探していました。それで見つけてもノア様に話かけることもなく、遠くから見ているだけで満足されて帰るのです。ノア様はたしかにとても美しい方だったので、俺はずっとライオネル様はノア様の容姿に惹かれているのだろうと思っていました」
ライオネルは本当に俺のことを見ていたんだ。
なんのために?
俺からキールを奪ったことに対して、申し訳なさを感じて謝りたかったのかな。
だったら話かけてくれればよかったのに。
あのとき、どうしてキールを傷つけたのか、俺に理由を話してくれてもよかったのに。
「辺境の地に来たころ、ライオネル様は本当にモテたんですよ? それなのに嫁も取らずに、見た目はどんどん酷くなり、身なりに無頓着になって、気がつけばあのような、怪物辺境伯と言われるまでになりました」
「あれは、たしかに酷かったよね……」
傷だらけの顔に、ひどい身なり。あれはみんな避けて通りたい感じだったと思う。
「俺は再三ライオネル様に注意したんです。そしたら『俺にはずっと想っている人がいるから誰とも結婚しない』って打ち明けてくれたんです。それで俺はピンときて、ノア様にライオネル様の名前を使って求婚の手紙を書きました。これは俺の勘です。ライオネル様は相手の名前すら教えてくれないし、『絶対に無理だ』と告白する前から諦めていてホント男らしくなくて……アルファのくせに、ウジウジしているなんて見てて本当にイライラする……デカいのは図体だけかよ……」
だんだんとエルドリックの愚痴を聞かされているような気持ちになってきたが、とにかくエルドリックはライオネルに対して相当おせっかいだということだけはよくわかった。
「そっか。だからか……」
俺に届いたライオネルからの求婚の手紙は「初めまして」「ひと目お会いしたい」のような文面だった。あれはエルドリックが、俺たちは初対面だと思っていたから、あんな文章になったんだ。
「ノア様、ライオネル様と結婚してくださり、ありがとうございます。あなた様が来てくださってから、ライオネル様は見違えるように笑顔が増えました」
え? あれで?
ライオネルは滅多に笑わないのに、あれで笑顔が増えたって思われるって、相当やばかったんだな。
「……でも、最近おふたりに何かあったんですか?」
「へっ? 特に何も……」
「ライオネル様が、側室を『考えておく』なんて言うのは初めてです。俺はあのとき側室など要らないっ! という答えを期待して、ライオネル様に尋ねたんですけど」
「そうなんだ……」
ライオネルに何か気持ちの変化があったのかな。あったとしたら、きっと俺のせいだ。
俺のことを見限って、嫌いになったんじゃないか。
「ライオネル様は——」
エルドリックが言いかけて、何かを察知したように急に立ち上がった。
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