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第1章
24.お色気作戦
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「待って、いやいや、ちょっと肩を触られたくらいだよ。なのに身体を許すとか言い方! 俺は言い寄られてはいるけど、好きじゃないよ」
「本当か……?」
ライオネル、泣きそうになるなよ。なんでこんなことくらいで……。お前はモンスターも恐れる豪傑で、天下の辺境伯だろ?
「じゃあノアは好きでもない男に、お、お色気作戦をして、俺の意見をヴィクトール殿下に認めさせたのか……?」
は? お色気作戦っ!?
俺の頭は一瞬真っ白になった。
「ノアは俺に時々仕掛けてくるじゃないか。抱きしめてもいいとか、あんなふうに可愛いことを言って、殿下の気を引いて、ノアは……ノアは、どこまであいつに身体を許したんだ……」
ライオネルの想像はひどいな。昨日の夜、俺がヴィクトールに身を売ったと思ってたのか。
「そんなことしてないよ。殿下とは本当に話をしただけ。だから俺からアルファの匂いもしなかっただろ?」
「……香油の香りでよくわからなかった」
あ。やっぱ匂い嗅いでたんだ。そうだよな。俺の飼い犬って言われるライオネルだもんな。
「とにかく俺は無事だよ。今の俺はライオネルの嫁なんだから、浮気はしない。これで安心した?」
俺がライオネルの顔を覗き込むようにして微笑むと、ライオネルは「ち、近すぎる……」と頬を赤らめた。
急にどうしたんだ? 夜はいつも同じ布団で眠っている仲なのに。
「ありがとう、ノア。殿下を説得してくれて」
「う、うん……」
改まってライオネルに礼を言われると、なんか、こそばゆくなる。
俺としては、ライオネルのためというより自分のためにやっていることだ。別に礼を言われるほどのことじゃない。
そうだ。
俺はふとある作戦を閃いた。
「ねぇ、ライオネル」
俺はライオネルを真っ直ぐに見つめる。ライオネルの漆黒の双眼の奥を見透かすように覗き込む。
「今、俺がライオネルにキスしたら、俺を選抜隊に加えてくれる?」
俺が渾身の可愛い顔で微笑んでみせると、ライオネルはハッと目を見開いた。
これこそお色気作戦だ。
ほら。早く落ちろ。
俺とキス、したくないの? こんなチャンスは二度とないかもしれないんだぞ?
「だ、誰かとキスするのは初めてなんだけど……」
何気にファーストキスなんだ。それをライオネルにくれてやるんだから光栄に思えよ。
ライオネルは少し視線を泳がせたあと、俺に真剣な目を向ける。
「嫌だ」
ライオネルの強い拒絶の言葉が俺の心を貫いた。
なんだこの気持ち。
これでライオネルは俺の言うことに素直に頷くと思っていた。
キスすることを拒絶された? 俺のキスにはそんなに価値がなかった?
恥ずかしい。お色気作戦を仕掛けておいて見事に振られたときの、この惨めさったらない。
ライオネルは実はもう、俺に興味を失っている……?
ライオネルと一緒に居すぎたんだ。
誤魔化せてると思っていた、俺の汚い本性にライオネルは気づき始めているんじゃないだろうか。それで、俺のことを嫌いになった……?
「ノアは留守番だ。絶対に連れて行かない」
ライオネルは踵を返し、俺を置いてどこかに行ってしまった。
俺としたことが、ショックで動けない。
人のいいライオネルだって限界ってものがある。俺に犬扱いされて、それなのに触れるなと念書を書かされて、内心面白くなかっただろう。
俺は最近、ライオネルの財産を密かに実家に送っていた。ライオネルにとっては、少額だろうからバレないと思っていた。でも、貧乏な俺の実家には使用人を雇う金もない。そうなると俺を幼いころから見守ってくれていた年老いた従者のハリードがクビにされるかもしれないし、ひどいと食事もままならないから、ライオネルに内緒で金を使っていた。
もしかしたら、ライオネルは俺が金を使い込んでいることにも気がついたのかもしれない。
普通に考えたら、こんな嫁、要らないよな。
このままじゃ、一年経たずにライオネルのほうから離縁状を突きつけられるかもしれない。
「なにやってんだよ……」
まだライオネルと離婚するわけにはいかない。
あと少しだけでいい。ライオネルに嫌われないように、本心をうまく隠そう。
「本当か……?」
ライオネル、泣きそうになるなよ。なんでこんなことくらいで……。お前はモンスターも恐れる豪傑で、天下の辺境伯だろ?
「じゃあノアは好きでもない男に、お、お色気作戦をして、俺の意見をヴィクトール殿下に認めさせたのか……?」
は? お色気作戦っ!?
俺の頭は一瞬真っ白になった。
「ノアは俺に時々仕掛けてくるじゃないか。抱きしめてもいいとか、あんなふうに可愛いことを言って、殿下の気を引いて、ノアは……ノアは、どこまであいつに身体を許したんだ……」
ライオネルの想像はひどいな。昨日の夜、俺がヴィクトールに身を売ったと思ってたのか。
「そんなことしてないよ。殿下とは本当に話をしただけ。だから俺からアルファの匂いもしなかっただろ?」
「……香油の香りでよくわからなかった」
あ。やっぱ匂い嗅いでたんだ。そうだよな。俺の飼い犬って言われるライオネルだもんな。
「とにかく俺は無事だよ。今の俺はライオネルの嫁なんだから、浮気はしない。これで安心した?」
俺がライオネルの顔を覗き込むようにして微笑むと、ライオネルは「ち、近すぎる……」と頬を赤らめた。
急にどうしたんだ? 夜はいつも同じ布団で眠っている仲なのに。
「ありがとう、ノア。殿下を説得してくれて」
「う、うん……」
改まってライオネルに礼を言われると、なんか、こそばゆくなる。
俺としては、ライオネルのためというより自分のためにやっていることだ。別に礼を言われるほどのことじゃない。
そうだ。
俺はふとある作戦を閃いた。
「ねぇ、ライオネル」
俺はライオネルを真っ直ぐに見つめる。ライオネルの漆黒の双眼の奥を見透かすように覗き込む。
「今、俺がライオネルにキスしたら、俺を選抜隊に加えてくれる?」
俺が渾身の可愛い顔で微笑んでみせると、ライオネルはハッと目を見開いた。
これこそお色気作戦だ。
ほら。早く落ちろ。
俺とキス、したくないの? こんなチャンスは二度とないかもしれないんだぞ?
「だ、誰かとキスするのは初めてなんだけど……」
何気にファーストキスなんだ。それをライオネルにくれてやるんだから光栄に思えよ。
ライオネルは少し視線を泳がせたあと、俺に真剣な目を向ける。
「嫌だ」
ライオネルの強い拒絶の言葉が俺の心を貫いた。
なんだこの気持ち。
これでライオネルは俺の言うことに素直に頷くと思っていた。
キスすることを拒絶された? 俺のキスにはそんなに価値がなかった?
恥ずかしい。お色気作戦を仕掛けておいて見事に振られたときの、この惨めさったらない。
ライオネルは実はもう、俺に興味を失っている……?
ライオネルと一緒に居すぎたんだ。
誤魔化せてると思っていた、俺の汚い本性にライオネルは気づき始めているんじゃないだろうか。それで、俺のことを嫌いになった……?
「ノアは留守番だ。絶対に連れて行かない」
ライオネルは踵を返し、俺を置いてどこかに行ってしまった。
俺としたことが、ショックで動けない。
人のいいライオネルだって限界ってものがある。俺に犬扱いされて、それなのに触れるなと念書を書かされて、内心面白くなかっただろう。
俺は最近、ライオネルの財産を密かに実家に送っていた。ライオネルにとっては、少額だろうからバレないと思っていた。でも、貧乏な俺の実家には使用人を雇う金もない。そうなると俺を幼いころから見守ってくれていた年老いた従者のハリードがクビにされるかもしれないし、ひどいと食事もままならないから、ライオネルに内緒で金を使っていた。
もしかしたら、ライオネルは俺が金を使い込んでいることにも気がついたのかもしれない。
普通に考えたら、こんな嫁、要らないよな。
このままじゃ、一年経たずにライオネルのほうから離縁状を突きつけられるかもしれない。
「なにやってんだよ……」
まだライオネルと離婚するわけにはいかない。
あと少しだけでいい。ライオネルに嫌われないように、本心をうまく隠そう。
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