策士オメガの完璧な政略結婚

雨宮里玖

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第1章

13.乗馬

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 ライオネルとの視察についていくと言って、俺は大いに後悔した。

「視察って、ふたりだけっ?」
「ああ。いつも俺はひとりで行っている」
「辺境伯なのに……」

 ライオネルの頭には、自分に護衛をつけるという発想はないらしい。
 よっぽど腕に自信があるんだろうが、それでも多勢に無勢って言葉もある。護衛くらいはつけるべきだと思うけどな。

「しかもなんで馬なんだよ……」

 てっきり馬車か何かで移動すると思っていたのに、なんと用意されていたのは馬一頭だけだった。

「道中は悪路で馬車では進めない。すまぬが俺とふたりでこいつに乗ってくれ」

 ライオネルは迷いなく馬にまたがるが、俺は躊躇する。
 だってふたりで乗るためには、ライオネルとまぁまぁ身体を密着させなければならないわけで、それってちょっと、気になる。
 でも俺はひとりでは馬には乗れない。乗馬のセンスが恐ろしくないのだ。

「途中、山道だが、そう遠くはない」
「わかってるけど……」
「おいで、ノア」

 ライオネルは俺に手を伸ばしてくる。仕方なしに俺がライオネルの手をとると、ライオネルは俺が馬に乗るのを手伝ってくれた。
 揺れの少ない前方に俺を乗せて、ライオネルは手綱を持ち、馬を走らせる。
 その動作は慣れたものだ。日々戦いに明け暮れるライオネルにとっては、馬の扱いなど日常なのだろう。

「ノア、疲れたら言え。休むようにするから」
「うん……」

 ライオネルの気遣いが心苦しい。
 声かけだけじゃない。馬に乗りながら、ライオネルがさりげなく俺を気遣ってくれることが伝わってくる。
 道が悪くて馬が跳ねるときには、揺れで俺が落ちないよう腕で守ってくれる。俺が念書を書かせたから、むやみに触れてくることはないけど、多分これもっと密着したほうがライオネルは楽なんだろうな。

「ライオネル。し、仕方がないから今は俺に触ってもいいよ」

 俺が許可を出すと、ライオネルは「ありがたい」と俺の腰に片腕を回してぐっと自分のほうへ引き寄せた。

「あぁんっ……」

 いきなりライオネルに抱かれてびっくりした俺は、思わず色っぽい声を出してしまった。
 やっば、すごく恥ずかしい。ライオネルは安心と安全のために俺を抱き寄せたのに、これじゃ俺がライオネルのことを意識してるみたいだ。

「ノアは可愛い」

 ライオネルは両腕でぎゅっと俺を抱きしめた。
 え? 今のは、安心と安全のためじゃなくねぇと思ったが、俺が言い返そうとしたときには、ライオネルはすでに俺から手を離していた。

「俺に寄りかかれ。なるべく俺に身を寄せてくれるとやりやすい」

 ライオネルは俺を背後から包み込むようにしながら手綱を握り、真っ直ぐ前を向いている。
 俺は言われたとおりにライオネルに背中を預ける。この方が俺にとっても楽だ。申し訳ないけど、ライオネルが背もたれ代わりになるから身体の負担が減る。

 でもライオネルと急接近したせいで、なんか妙にドキドキする。
 ヒートが近いわけじゃないのに、身体が熱くなる。ライオネルからアルファのフェロモンを感じて、たまらない気持ちになる。
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