3 / 4
3.モヤモヤした感情
しおりを挟む
そこから桐野はすごい。毎日「おはよう」と声をかけてきて、昼休みも一年の教室までわざわざ遊びに来て駄弁って帰っていくし、放課後も「今日一緒に帰れる?」と声をかけてくる。
つまり、異常に蒼井に構ってくる。
「桐野先輩といると目立つから嫌です」と蒼井が拒否しても、「なんで? 俺が喋りたい奴と喋ってるだけだから」と強メンタルな答えを返してくる。
「なんで俺なんすか」と訊ねると「俺が、アオのことすっごい好きだからだよ」と臆面もなく返してくる。
「毎日毎日、俺に付き纏って飽きませんか?」と呆れた顔で見ると「飽きるわけないじゃん。だってアオは俺の運命の人だから」とスピリチュアルヤバめの奴に変貌する。
本当にしつこい。別に嫌なことはされないし、好かれてるぶんには害はない。一部の女子からは「桐野君に付き纏われたい!」と羨ましがられるくらいなのだが。
ちょっと……迷惑かな……。
わけのわからない男に追い回されて、正直、逃げ出したい。
◆◆◆
次の日の朝は、桐野は風紀委員として立ってはいなかった。聞いた話だと、芸能活動と学業の平行で、学校を休まざるを得ない時が多々あるらしい。
——あいつがいない日は平和に過ごせそうだな。
やっと普通の学校生活になった。よかった、桐野が芸能人で。時々こうやって桐野がいない日があるほうがいい。
「ZEEZのライブチケット落選したぁ。これが最後のチャンスだったのに……」
「当日券の抽選なんて枠がほとんどないもんね……。激戦すぎて観にいけないよね。私一度も当たったことないんだけど」
休み時間に、クラスの女子たちが話している。確かZEEZって、桐野のグループの名前だったような……。
——そういえば、ライブチケット、桐野からもらったな。
「あの……」
桐野から貰ったチケットを後ろ手に持って、女子に声をかけてみる。
「なに?」
「ZEEZのファンなの?」
「え! そうだよ、めっちゃかっこいいもん。正直に言うと、桐野君がこの学校にいるの知っててこの高校選んじゃった」
桐野の話をするだけですっかり目がハートになってる。これは本物のファンだろう。
「だったら、これ、あげるよ。たまたま貰ったんだけど、俺興味ないから」
ZEEZのペアチケットを見せると、二人はそれを見てものすごく驚いている。
「え?! ちょっと待って! これ、東京の最終公演のチケットじゃん! マジで?!」
「しかもアリーナ席の最前列なんだけど!」
二人の反応が凄すぎて、こっちがびっくりするくらいだ。
「蒼井君、本当にいいの?! これ、すっごいプレミアチケットだよ?!」
「いいよ。俺はよくわからないし、どうせならファンの人が観に行ったほうがZEEZのメンバーも嬉しいんじゃないかな」
最前列なら尚更だ。ノリノリのファンがいてくれたほうがいいに決まっている。
「ありがとー!! 蒼井君! マヂ神!!」
二人の女子にがっつり抱きつかれた。とりあえず二人が喜んでくれて、チケットも無駄にならなくてよかったよ。
◆◆◆
月曜日。昨日の夜がライブだったというのに、桐野は朝から風紀委員としての仕事を全うしていた。
すっかり桐野に挨拶するのにも慣れ、いつものように「おはようございます」と桐野に声をかけた。
だが、桐野はこちらに目を合わせない。
あれ、気がつかなかったのかなと思うが、いつも目ざとく蒼井を見つけ出すくらいの奴がどうしたのかと思う。
昼休み。桐野は来ない。まぁ、毎日来るわけでもないので、気にしないようにする。
「昨日のライブ最高だったよ! 蒼井君、ありがと!!」と、女子二人にお礼を言われて、「これ、お土産」と、桐野のアクリルキーホルダーを貰った。こうしてグッズなんか見てしまうと本当にあいつは芸能人だったんだなと改めて思う。
放課後。桐野は来ない。いつもうるさいくらいの奴が来ないなんて、なんかちょっとだけ落ち着かない。
——どうしたんだよ、あいつ。
ああもう。
桐野がいても、いなくても、本当にヤキモキするな!
もしかして、俺が女子にライブのチケットを譲って、ライブに行かなかったから怒ってるのかな。
それとも俺に飽きたのか……? 熱しやすく冷めやすいタイプの奴っているもんな……。
「なぁ蒼井。いつものあの人、今日は大人しいな。なんか二人、喧嘩でもしたの?」
岡田が異変に気がついて声をかけてきた。
「さぁ。知らねぇ」
嘘じゃない。本当に理由がわからない。
あいつ、全力で追いかけるなんて言ってたくせに。
まぁいい。ストーカーはいない方がいいに決まってる。
◆◆◆
次の日の朝。風紀委員の列にいる、桐野にこれでもかと視線を向けてみる。だが、まったく目が合わない。
あれ?
蒼井のすぐ目の前にいた男子生徒に桐野が声をかけた。そいつはどう見ても真面目一徹、とても風紀が乱れているようには見えない。いつかの蒼井の時のように。
「えっ、えっ、俺何かダメでしたか?!」
ほら。案の定、男子生徒は桐野に声をかけられて驚いている。
「君、ちょっとこっち来てくれる?」
桐野は男子生徒を連行していく。その時、やけに馴れ馴れしくその男の肩に手を回している。
——え。待てよ。あいつが次のターゲットか?!
呆然と桐野と男子生徒の背中を見送っていると、桐野が少しだけ振り返ったようだった。だが、蒼井に対するその視線は冷淡で、それでいてお前に興味はないといった様子の目つきだった。そしてそのまま二人はいなくなった。
あれ、これ、俺もう桐野に嫌われたってことなのか……?
蒼井はそのまま校舎に向かう。なんでもないふりをして、なんにもなかったかのようにしていつもの道を歩いていく——。
あんな奴、いなくなってくれてよかったじゃないか。
何か足りないと思ってしまう感覚。桐野なんてどうでもいいと思っているはずなのに、気づけばいつも桐野のことばかりを考えてしまっているような——。
あいつはもう次のターゲットを見つけたんだ。俺が全然なびかないからつまらなくなって、きっと次の人に猛アタックを仕掛けているんだろう。
そういえばまた男だったな。まぁ、あんな美形なら男でもアリって思ってもらえるかもな。……性格に問題があるだけで。
あいつのライブって、どんなものだったんだろう。なんであいつは俺に特等席を用意してくれてたのかな……。
今となっては桐野が何を考えていたのか、もうわからない。
あんなに追っかけてきたくせに、急に挨拶も無しとか、なんなんだよ!
あー! クッソ! 苛々する……。
つまり、異常に蒼井に構ってくる。
「桐野先輩といると目立つから嫌です」と蒼井が拒否しても、「なんで? 俺が喋りたい奴と喋ってるだけだから」と強メンタルな答えを返してくる。
「なんで俺なんすか」と訊ねると「俺が、アオのことすっごい好きだからだよ」と臆面もなく返してくる。
「毎日毎日、俺に付き纏って飽きませんか?」と呆れた顔で見ると「飽きるわけないじゃん。だってアオは俺の運命の人だから」とスピリチュアルヤバめの奴に変貌する。
本当にしつこい。別に嫌なことはされないし、好かれてるぶんには害はない。一部の女子からは「桐野君に付き纏われたい!」と羨ましがられるくらいなのだが。
ちょっと……迷惑かな……。
わけのわからない男に追い回されて、正直、逃げ出したい。
◆◆◆
次の日の朝は、桐野は風紀委員として立ってはいなかった。聞いた話だと、芸能活動と学業の平行で、学校を休まざるを得ない時が多々あるらしい。
——あいつがいない日は平和に過ごせそうだな。
やっと普通の学校生活になった。よかった、桐野が芸能人で。時々こうやって桐野がいない日があるほうがいい。
「ZEEZのライブチケット落選したぁ。これが最後のチャンスだったのに……」
「当日券の抽選なんて枠がほとんどないもんね……。激戦すぎて観にいけないよね。私一度も当たったことないんだけど」
休み時間に、クラスの女子たちが話している。確かZEEZって、桐野のグループの名前だったような……。
——そういえば、ライブチケット、桐野からもらったな。
「あの……」
桐野から貰ったチケットを後ろ手に持って、女子に声をかけてみる。
「なに?」
「ZEEZのファンなの?」
「え! そうだよ、めっちゃかっこいいもん。正直に言うと、桐野君がこの学校にいるの知っててこの高校選んじゃった」
桐野の話をするだけですっかり目がハートになってる。これは本物のファンだろう。
「だったら、これ、あげるよ。たまたま貰ったんだけど、俺興味ないから」
ZEEZのペアチケットを見せると、二人はそれを見てものすごく驚いている。
「え?! ちょっと待って! これ、東京の最終公演のチケットじゃん! マジで?!」
「しかもアリーナ席の最前列なんだけど!」
二人の反応が凄すぎて、こっちがびっくりするくらいだ。
「蒼井君、本当にいいの?! これ、すっごいプレミアチケットだよ?!」
「いいよ。俺はよくわからないし、どうせならファンの人が観に行ったほうがZEEZのメンバーも嬉しいんじゃないかな」
最前列なら尚更だ。ノリノリのファンがいてくれたほうがいいに決まっている。
「ありがとー!! 蒼井君! マヂ神!!」
二人の女子にがっつり抱きつかれた。とりあえず二人が喜んでくれて、チケットも無駄にならなくてよかったよ。
◆◆◆
月曜日。昨日の夜がライブだったというのに、桐野は朝から風紀委員としての仕事を全うしていた。
すっかり桐野に挨拶するのにも慣れ、いつものように「おはようございます」と桐野に声をかけた。
だが、桐野はこちらに目を合わせない。
あれ、気がつかなかったのかなと思うが、いつも目ざとく蒼井を見つけ出すくらいの奴がどうしたのかと思う。
昼休み。桐野は来ない。まぁ、毎日来るわけでもないので、気にしないようにする。
「昨日のライブ最高だったよ! 蒼井君、ありがと!!」と、女子二人にお礼を言われて、「これ、お土産」と、桐野のアクリルキーホルダーを貰った。こうしてグッズなんか見てしまうと本当にあいつは芸能人だったんだなと改めて思う。
放課後。桐野は来ない。いつもうるさいくらいの奴が来ないなんて、なんかちょっとだけ落ち着かない。
——どうしたんだよ、あいつ。
ああもう。
桐野がいても、いなくても、本当にヤキモキするな!
もしかして、俺が女子にライブのチケットを譲って、ライブに行かなかったから怒ってるのかな。
それとも俺に飽きたのか……? 熱しやすく冷めやすいタイプの奴っているもんな……。
「なぁ蒼井。いつものあの人、今日は大人しいな。なんか二人、喧嘩でもしたの?」
岡田が異変に気がついて声をかけてきた。
「さぁ。知らねぇ」
嘘じゃない。本当に理由がわからない。
あいつ、全力で追いかけるなんて言ってたくせに。
まぁいい。ストーカーはいない方がいいに決まってる。
◆◆◆
次の日の朝。風紀委員の列にいる、桐野にこれでもかと視線を向けてみる。だが、まったく目が合わない。
あれ?
蒼井のすぐ目の前にいた男子生徒に桐野が声をかけた。そいつはどう見ても真面目一徹、とても風紀が乱れているようには見えない。いつかの蒼井の時のように。
「えっ、えっ、俺何かダメでしたか?!」
ほら。案の定、男子生徒は桐野に声をかけられて驚いている。
「君、ちょっとこっち来てくれる?」
桐野は男子生徒を連行していく。その時、やけに馴れ馴れしくその男の肩に手を回している。
——え。待てよ。あいつが次のターゲットか?!
呆然と桐野と男子生徒の背中を見送っていると、桐野が少しだけ振り返ったようだった。だが、蒼井に対するその視線は冷淡で、それでいてお前に興味はないといった様子の目つきだった。そしてそのまま二人はいなくなった。
あれ、これ、俺もう桐野に嫌われたってことなのか……?
蒼井はそのまま校舎に向かう。なんでもないふりをして、なんにもなかったかのようにしていつもの道を歩いていく——。
あんな奴、いなくなってくれてよかったじゃないか。
何か足りないと思ってしまう感覚。桐野なんてどうでもいいと思っているはずなのに、気づけばいつも桐野のことばかりを考えてしまっているような——。
あいつはもう次のターゲットを見つけたんだ。俺が全然なびかないからつまらなくなって、きっと次の人に猛アタックを仕掛けているんだろう。
そういえばまた男だったな。まぁ、あんな美形なら男でもアリって思ってもらえるかもな。……性格に問題があるだけで。
あいつのライブって、どんなものだったんだろう。なんであいつは俺に特等席を用意してくれてたのかな……。
今となっては桐野が何を考えていたのか、もうわからない。
あんなに追っかけてきたくせに、急に挨拶も無しとか、なんなんだよ!
あー! クッソ! 苛々する……。
43
お気に入りに追加
191
あなたにおすすめの小説
片桐くんはただの幼馴染
ベポ田
BL
俺とアイツは同小同中ってだけなので、そのチョコは直接片桐くんに渡してあげてください。
藤白侑希
バレー部。眠そうな地味顔。知らないうちに部屋に置かれていた水槽にいつの間にか住み着いていた亀が、気付いたらいなくなっていた。
右成夕陽
バレー部。精悍な顔つきの黒髪美形。特に親しくない人の水筒から無断で茶を飲む。
片桐秀司
バスケ部。爽やかな風が吹く黒髪美形。部活生の9割は黒髪か坊主。
佐伯浩平
こーくん。キリッとした塩顔。藤白のジュニアからの先輩。藤白を先輩離れさせようと努力していたが、ちゃんと高校まで追ってきて涙ぐんだ。
だから愛した
佐治尚実
BL
大学生の礼嗣は恋人の由比に嫉妬させようと、せっせと飲み会に顔を出す毎日を送っている。浮気ではなく社交と言いつくろい、今日も一杯の酒で時間を潰す。帰り道に、礼嗣と隣り合わせた女性が声をかけてきて……。
※がっつり女性が出てきます。
浮気性の攻めが飲み会で隣り合わせた女性に説教されて受けの元に戻る話です。
今作は個人サイト、各投稿サイトにて掲載しています。
絶対にお嫁さんにするから覚悟してろよ!!!
toki
BL
「ていうかちゃんと寝てなさい」
「すいません……」
ゆるふわ距離感バグ幼馴染の読み切りBLです♪
一応、有馬くんが攻めのつもりで書きましたが、お好きなように解釈していただいて大丈夫です。
作中の表現ではわかりづらいですが、有馬くんはけっこう見目が良いです。でもガチで桜田くんしか眼中にないので自分が目立っている自覚はまったくありません。
もしよろしければ感想などいただけましたら大変励みになります✿
感想(匿名)➡ https://odaibako.net/u/toki_doki_
Twitter➡ https://twitter.com/toki_doki109
素敵な表紙お借りしました!(https://www.pixiv.net/artworks/110931919)
ひとりぼっちの180日
あこ
BL
付き合いだしたのは高校の時。
何かと不便な場所にあった、全寮制男子高校時代だ。
篠原茜は、その学園の想像を遥かに超えた風習に驚いたものの、順調な滑り出しで学園生活を始めた。
二年目からは学園生活を楽しみ始め、その矢先、田村ツトムから猛アピールを受け始める。
いつの間にか絆されて、二年次夏休みを前に二人は付き合い始めた。
▷ よくある?王道全寮制男子校を卒業したキャラクターばっかり。
▷ 綺麗系な受けは学園時代保健室の天使なんて言われてた。
▷ 攻めはスポーツマン。
▶︎ タグがネタバレ状態かもしれません。
▶︎ 作品や章タイトルの頭に『★』があるものは、個人サイトでリクエストしていただいたものです。こちらではリクエスト内容やお礼などの後書きを省略させていただいています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる