多分前世から続いているふたりの追いかけっこ

雨宮里玖

文字の大きさ
上 下
2 / 4

2.ストーカー⁉︎

しおりを挟む
 次の日。また朝の風紀委員達による服装チェックがある。

 その中に、いた! 桐野だ。

 目を合わせないように、他の生徒の陰に隠れつつ、スッと通り過ぎる。今日は話しかけられなかった。成功だ。



 今日は遅刻にならずに教室に行けそうだと思っていたのに、不意に後ろから腕を掴まれた。

「へぁっ?!」

 びっくりして振り返ると、桐野だ。あの後、追いかけてきたのか?!

「アオ。まさか俺を避けてる?」

 避けるに決まってるだろ。二日連続で遅刻とかマジで嫌だから。

「そんなことないですから離して……」

 とりあえず適当に言って逃れないと。

「ほんと? ほんとに避けてない?」
「はいそうです!」
「俺、アオに避けられたら死んじゃうよ?」

 いや、何言ってんだこの人。

「お、俺時間ギリギリなんで、それじゃっ!」

 桐野が力を緩めた隙をみて、その腕を振り払い、蒼井は猛ダッシュで走り去った。




 ——こんなの毎朝とかヤダな。

 なんだかわからないが面倒な奴に追い回されてるなと辟易する。

 授業中も『桐野どうしたらいいか問題』で頭がいっぱいで、集中できない。このままじゃ学業にも支障が出そうだ。



 昼休みになり、岡田が「一緒に食おうぜ」と声をかけて来てくれた。岡田は桐野のサインの一件以来、なんだか蒼井のそばに居てくれる。
 さてと。教室でゆっくり昼休みを謳歌しようと思っていたところだった。

「アオ。男と二人で何してるの? それ、浮気でしょ」

 また1-1の教室に突然現れたのは桐野だ。

「あの、意味がわかりません……」

 俺の隣にいるのは岡田だよ。昨日友達になったばっかりの、ただのクラスメイト!

「俺以外の奴と二人きりになんてならないでよ。お前はどれだけ俺を嫉妬させたら気が済むんだ……」

 はぁ? 嫉妬?! 何に?!

「いつだって当て馬がいるんだから……。俺、本当に辛い」

 あのー、アタマ大丈夫ですか?

「とにかく、アオ。俺と一緒にいてよ」
「いや友達とメシ食おうとしてるだけですよ、ほんとになんなんすか!」

 はぁ、マジでウザいぞ。

「そんなにそいつのことが好きなの? じゃあいいよ、俺も仲間に入れて。三人で食べよう」

 桐野はその辺の椅子を持ち出して、蒼井たちと同じテーブルにやってきた。いやあの、俺の許可も、岡田の許可も降りてませんけどね。

「アオとこうして一緒に昼メシ食えるなんて、幸せだな」

 桐野は蒼井を見ながらありえないくらいにニッコニコだ。やめてほしい、岡田がドン引きしているぞ。

 周りも、「え、なんでこんなところに桐野柊?」とか「あの笑顔、超絶ヤバ」とかなっちゃってるじゃないか!

「アオ」

 蒼井の顔をじっと見ていた桐野が手を伸ばしてきた。

「ゴハン粒ついてるよ」 

 桐野が蒼井の頬についたゴハン粒をそっととり、
 それを、こいつ、食べやがった!!

「え?!」

 蒼井が目を丸くしていると、「あ、ごめん、手で触るんじゃなくて、キスすればよかったよね? 今からしてもいい?」と恐ろしいことを言い出したので、引きつった笑顔でやんわりとお断りした。


 ◆◆◆


 放課後。

「アオー! 一緒に帰ろう!」

 桐野だ。うわー、やっぱり来た! 昨日も教室まできたくせに、今日もかよ。

「はぁ、なんなんすかもう……」
「アオももう帰るでしょ? 俺、アオと一緒に帰りたいから」

 たしかに帰る。帰るとこだけど……。

「さ、行こうっ」

 桐野に半ば無理矢理に手を引かれて、またもや強制連行だ。

 うう……助けてくれ……。




「アオは兄弟とかはいるの?」
「いません」
「アオは、今どこに住んでるの?」
「言いたくないです」

 教えたらストーカーされそうだ。

「最寄り駅は?」
「中学生の頃は好きな人とかいた?」
「なんでこの高校に入ろうと思ったの?」

 桐野は蒼井に対する質問ばかりを連発してくる。
 無視するわけにもいかずに、とりあえず適当に答えるのだが、喋りすぎて喉が乾いてきた。

 ふと自販機を見かけて「あ、ちょっと喉乾いたんで」と桐野に断りを入れて、ペットボトルのお茶を購入する。

 なんとなく自分だけというのも気が引けるし、あと一つ、同じものを買った。

「桐野先輩。よかったらどうぞ」

 そして桐野に手渡した。

「え?! いいの? ありがとう!」

 桐野は大袈裟なくらいに驚いている。 

「はい。昨日なんかチケットとか貰っちゃいましたし、貰いっぱなしは嫌いなんで」

 桐野にはなるべく借りがないほうがいい。こいつはいつ何をきっかけに強請ゆすってくるかわからないような奴だから。

「お前はいつも俺に……」

 なんてことないお茶なのに、妙に桐野はずっとそれを眺めたままだ。

「あ! もしかして嫌いでしたか?」
「いや、そんなことあるわけないだろ」

 じゃあなんで、すぐに飲まないんだよ。

「ね、アオ。もしかして思い出した……?」

 蒼井の目をじっと覗き込みながら、桐野はいつになく慎重に訊ねてきた。

 思い出すって。
 何のことだ……?

 ハテナマークしか浮かばずに、蒼井が答えに困窮していると、さっと桐野は「やっぱなんでもない」と蒼井から目を逸らした。

「なぁ。アオ」
「はい?」

 お茶をひと口飲みながら返事をする。

「俺と付き合ってよ」
「はぁ?!」

 待て待て待て待て、お茶を吹き出しそうなくらいにびっくりするぞ!

「もうね。決まってるの。ここからお前は、俺のことをどんどん好きにさせるんだ。それで俺はお前が欲しくてどうしようもなくなるの。俺は絶対に諦めないから、お前は俺から逃れられない。それが運命なんだから、最初から恋人になろうよ」

 なんだこれは。愛の告白なのか、脅迫なのかわからない。

「いや、あの、俺、男……なんですけど……」

 こいつ、何を言ってるんだ?!
 愛だの恋だのは女とやってくれよ……。

「大丈夫。たしかに男女の時が多かったけど、男同士だったこともあったから」
「なんの話でしょうか……」

 やっぱり、桐野はイカれてるみたいだ。

「えっと、性別は関係ないって話?」

 何か問題が? みたいな顔するなよ。結構な大問題だと思う。

「俺、アオのこと好き。付き合って」

 いやいや、俺たち昨日出会ったばかりです。

「無理です。いろいろ無理です」

 男は無理。昨日会ったばかりのやつなんて無理。そもそもこいつが無理。

「またぁ、そんなツンツンするんだから。わかったよ、アオが追いかけっこが好きなのは知ってる。俺、全力で追いかけるよ」

 ひぇ。笑顔でストーカー宣言するなよ。怖っ!

 お前芸能人なんだからみんなに追われろよ。なんで反対に一般人を追い回してるんだ? しかも、よりによって、俺……。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

いつも優しい幼馴染との距離が最近ちょっとだけ遠い

たけむら
BL
「いつも優しい幼馴染との距離が最近ちょっとだけ遠い」 真面目な幼馴染・三輪 遥と『そそっかしすぎる鉄砲玉』という何とも不名誉な称号を持つ倉田 湊は、保育園の頃からの友達だった。高校生になっても変わらず、ずっと友達として付き合い続けていたが、最近遥が『友達』と言い聞かせるように呟くことがなぜか心に引っ掛かる。そんなときに、高校でできたふたりの悪友・戸田と新見がとんでもないことを言い始めて…? *本編:7話、番外編:4話でお届けします。 *別タイトルでpixivにも掲載しております。

センパイ、受け取ってください。

たっぷりチョコ
BL
 秘かに想いをよせているセンパイにバレンタインチョコを渡そうと教室へ向かうが・・・。  先輩×後輩 ラブコメ *投稿1周年記念としての短編作品  

とある冒険者達の話

灯倉日鈴(合歓鈴)
BL
平凡な魔法使いのハーシュと、美形天才剣士のサンフォードは幼馴染。 ある日、ハーシュは冒険者パーティから追放されることになって……。 ほのぼの執着な短いお話です。

きせかえ人形とあやつり人形

ことわ子
BL
「俺は普通じゃないって、自分が一番分かってる」 美形で執着強めの小柄な攻め×平凡で友達の多い男前な受けの男子高校生。 宮秋真里は偶然、自身が通う学校の有名人、久城望と知り合いになる。知り合って間もない宮秋に久城はあるお願いをした。人が良い宮秋はそのお願いを快諾するが、段々とその『お願い』の違和感に気付き始め──

ガラス玉のように

イケのタコ
BL
クール美形×平凡 成績共に運動神経も平凡と、そつなくのびのびと暮らしていたスズ。そんな中突然、親の転勤が決まる。 親と一緒に外国に行くのか、それとも知人宅にで生活するのかを、どっちかを選択する事になったスズ。 とりあえず、お試しで一週間だけ知人宅にお邪魔する事になった。 圧倒されるような日本家屋に驚きつつ、なぜか知人宅には学校一番イケメンとらいわれる有名な三船がいた。 スズは三船とは会話をしたことがなく、気まずいながらも挨拶をする。しかし三船の方は傲慢な態度を取り印象は最悪。 ここで暮らして行けるのか。悩んでいると母の友人であり知人の、義宗に「三船は不器用だから長めに見てやって」と気長に判断してほしいと言われる。 三船に嫌われていては判断するもないと思うがとスズは思う。それでも優しい義宗が言った通りに気長がに気楽にしようと心がける。 しかし、スズが待ち受けているのは日常ではなく波乱。 三船との衝突。そして、この家の秘密と真実に立ち向かうことになるスズだった。

その部屋に残るのは、甘い香りだけ。

ロウバイ
BL
愛を思い出した攻めと愛を諦めた受けです。 同じ大学に通う、ひょんなことから言葉を交わすようになったハジメとシュウ。 仲はどんどん深まり、シュウからの告白を皮切りに同棲するほどにまで関係は進展するが、男女の恋愛とは違い明確な「ゴール」のない二人の関係は、失速していく。 一人家で二人の関係を見つめ悩み続けるシュウとは対照的に、ハジメは毎晩夜の街に出かけ二人の関係から目を背けてしまう…。

【BL】あなただけを見つめる

葉薊【ハアザミ】
BL
平凡な僕の前に突如現れた長身の美青年。どうやら彼は僕を知っているらしい。 Twitter上の素敵企画に参加したくて書いた作品です。

代わりでいいから

氷魚彰人
BL
親に裏切られ、一人で生きていこうと決めた青年『護』の隣に引っ越してきたのは強面のおっさん『岩間』だった。 不定期に岩間に晩御飯を誘われるようになり、何時からかそれが護の楽しみとなっていくが……。 ハピエンですがちょっと暗い内容ですので、苦手な方、コメディ系の明るいお話しをお求めの方はお気を付け下さいませ。 他サイトに投稿した「隣のお節介」をタイトルを変え、手直ししたものになります。

処理中です...