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39.番外編『素直になる方法』
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本当に困ったことになった。橙利の前で素直になって、すべてを曝け出せるのはいい。でも快楽に溺れすぎるのはどうなんだろう。
番になるとフェロモンのせいで行為まで相性が良くなるのだろうか。それともこれは元々橙利とのエッチの相性が良かったのだろうか。
いずれにしても、勇大は我に返ったあと、さっきまでの羞恥を思い出して、居た堪れない気分になる。
「勇大、可愛かったよ。すごくよかった」
「ひぁ……!」
橙利に背中を向けて布団に顔を隠していたのに、うなじにキスをされて、勇大はゾワゾワと感じてしまう。
さっきまでの身体の熱が収まらないせいかもしれない。
「勇大」
「うわっ」
橙利に引っ張られ、無理矢理身体を反転させられる。勇大が目も合わせられずにいると、「こうしたら恥ずかしくないんじゃないのか」と橙利は勇大を自分の腕の中に閉じ込めた。
たしかにこうすると顔は見られないで済む。
「俺、さっきまでうちの親父と話をしてたんだ」
「親父……?」
そういえば橙利は部屋で誰かと話をしていた。さっきの通話の相手は、橙利の父親だったということなのだろうか。
「俺に散々見合い話を持ってきて、結婚しろ結婚しろとうるさい親父だよ。この前、俺が断った見合いについてあれこれ文句を言ってきた」
「あ、そう、なんだ……」
橙利も認めるほどの良い縁談のようだったから、それを仲人した父親にしてみればどうしてダメだったのかひと言息子を問いただしたくもなるだろう。
「それで、番ったオメガがいると話したんだ」
「えっ? 俺のこと?」
勇大は思わず橙利の顔を見上げた。
「そうしたら、あの……」
珍しく橙利が言葉を詰まらせる。普段酔ってもまったく顔に現れない橙利が、なぜか赤い顔をして、勇大から視線を逸らした。
「さっさと籍を入れろと言われた。結婚式は後になってもいいから、形だけはしっかりしろって」
番ったまま、結婚という形をとらないアルファとオメガもいる。その場合、家族とは認められないし、はっきり言って他人同然の関係だ。
大概は結婚してから番になる。最近は番ってから結婚する番婚も珍しくなくなってきたが、オメガと番ったのに一切の責任を持たないアルファを批判する声もある。橙利の父親からすれば不安定な関係に思うのかもしれない。
「元はと言えば、俺が悪いとわかっている。でも運命かと思うくらいに勇大に惹かれたんだ。それでお前のうなじを噛んだ。あのときの気持ちは中途半端なものじゃない。お前はどこかフラフラと生きているような雰囲気があって、今を逃したら俺のものにならないと思い込んだんだ」
橙利の顔は真剣そのものだ。そこまでして、勇大を欲しいと思っていたとは知らなかった。
「ワンナイトじゃなくて?」
「そんなことはしない。お前がヒートを起こさずに番えなかったとしても、俺は勇大を口説き落とそうとしただろうな」
「そうなの!?」
本当にあの日のことを覚えていないことが悔やまれる。そこまで勇大に夢中になっていた橙利の顔を記憶にとどめておきたかった。
「勇大は? 俺を見ても何も感じなかったか?」
「俺!? 俺はホント、覚えてないんだ……。ただ、男を誘ったのは初めてだ。お前は軽いオメガだと思ったかもしれないけど、マジで男を引っ掛けたことはない。なんか、お前ならいいかなって……」
自分でもよくわからない。普段他人に頼ったことなんてなかったのに、どうしてあのとき橙利をホテルに誘うようなことをしたのだろう。
「運命の番、なのかもしれないな」
橙利は勇大の身体を両手で抱き寄せた。
「その原理はまだ科学的に解明されてない。でも、アルファとオメガには運命の番がいるんだ。そいつに出会うと理由もなく惹かれたり、突然ラットやヒートを起こしたりすることがあるらしい」
「運命の番!?」
希少種とはいえ、世界中を見渡してみるとアルファもオメガも星の数ほどいる。その中のたったひとり『運命の番』という特別な相手が存在するらしいのだが、それについては曖昧なことが多すぎて、半ば伝説みたいなものになっている。
「勇大は俺に会ったから突然ヒートを起こしたんじゃないのか?」
「どうなんだろ……俺、薬もよく飲み忘れるし、周期も乱れてるから……」
「じゃあなんで俺はこんなに勇大に惹かれるんだ? 好きで好きで仕方がないんだぞ?」
「えっ? いや、それ俺に聞くんか……」
話の流れでさりげなくめちゃくちゃ好きだと言われてちょっとニヤけてしまう。
橙利の気持ちは少しわかりづらい面がある。勇大が何をしても笑顔で受け止めてくれるのはいいが、そのせいで何を嫌だと思い、何を嬉しいと思っているのか気持ちを慮りかねるときがある。
だからふとしたとき、橙利の素直な気持ちが聞けると嬉しい。
「勇大。プレッシャーに思わないでほしいんだが、俺は近いうちに入籍したいと思ってる」
「入籍っ……!?」
「あの、付き合ったばかりだし、まずはデートを重ねないとな。プ、プロポーズもまだだ。お互いの両親にも会わなきゃいけない。番届けは先に出すか。その間に式場をリサーチする。指輪も贈るべきか……」
いきなり番っておいて、今さら橙利は何をぶつぶつ言っているのだろう。オメガの一番大切なものを衝動的に奪ったくせに、急に順序立てて、勇大との関係を丁寧に構築しようとする。
勇大としては、今ここでプロポーズされてもノーとは言わない。できることならずっと一緒にいたいと思っているから。
でも、橙利は本気で勇大を自分のそばに置くつもりみたいだ。それを知ることができただけでも安堵する。
アルファに捨てられるのだけは怖い。泰輝と橙利じゃ雲泥の差だということはわかっている。理解しているのに、付き合って一度抱いたら態度を豹変させた泰輝のことが、あのときのショックが頭をかすめる。
橙利はそんなことはしないと信じている。橙利は社長だ。きっと、橙利なりのタイミングみたいなものがあるのだろう。信じて待っていれば、いつか未来は開けるかもしれない。
「勇大。明日、俺の実家に来てくれないか?」
「えっ? 明日!?」
「それから、勇大のご両親にも会いたい。俺はいくらでも予定を合わせられるから、ご両親の都合を確認してくれないか?」
「うちの親に会うの!? いきなり!?」
やばい。これは想像以上の早さで事を進める気だ。
「ごめん。でも、一日でも早く結婚したい……」
「はぁぁっ?」
「プロポーズはどうするのか決めてある。絶対にイエスと言わせてみせるからな」
「もう決まってんの……」
やばすぎる。プロポーズの予告を受けてしまった。今から楽しみで仕方がない。
「勇大。愛してる」
橙利からのキスを避けることなんてできなくて、勇大は橙利の首に腕を絡め、頭を引き寄せて、最愛の人とキスを交わす。
「俺も好き。好きだよ橙利」
勇大が素直な気持ちを伝えると橙利が笑顔になった。その子どもみたいな笑顔が愛おしくて、勇大は橙利の唇にもう一度キスをした。
——番外編『素直になる方法』完。
番になるとフェロモンのせいで行為まで相性が良くなるのだろうか。それともこれは元々橙利とのエッチの相性が良かったのだろうか。
いずれにしても、勇大は我に返ったあと、さっきまでの羞恥を思い出して、居た堪れない気分になる。
「勇大、可愛かったよ。すごくよかった」
「ひぁ……!」
橙利に背中を向けて布団に顔を隠していたのに、うなじにキスをされて、勇大はゾワゾワと感じてしまう。
さっきまでの身体の熱が収まらないせいかもしれない。
「勇大」
「うわっ」
橙利に引っ張られ、無理矢理身体を反転させられる。勇大が目も合わせられずにいると、「こうしたら恥ずかしくないんじゃないのか」と橙利は勇大を自分の腕の中に閉じ込めた。
たしかにこうすると顔は見られないで済む。
「俺、さっきまでうちの親父と話をしてたんだ」
「親父……?」
そういえば橙利は部屋で誰かと話をしていた。さっきの通話の相手は、橙利の父親だったということなのだろうか。
「俺に散々見合い話を持ってきて、結婚しろ結婚しろとうるさい親父だよ。この前、俺が断った見合いについてあれこれ文句を言ってきた」
「あ、そう、なんだ……」
橙利も認めるほどの良い縁談のようだったから、それを仲人した父親にしてみればどうしてダメだったのかひと言息子を問いただしたくもなるだろう。
「それで、番ったオメガがいると話したんだ」
「えっ? 俺のこと?」
勇大は思わず橙利の顔を見上げた。
「そうしたら、あの……」
珍しく橙利が言葉を詰まらせる。普段酔ってもまったく顔に現れない橙利が、なぜか赤い顔をして、勇大から視線を逸らした。
「さっさと籍を入れろと言われた。結婚式は後になってもいいから、形だけはしっかりしろって」
番ったまま、結婚という形をとらないアルファとオメガもいる。その場合、家族とは認められないし、はっきり言って他人同然の関係だ。
大概は結婚してから番になる。最近は番ってから結婚する番婚も珍しくなくなってきたが、オメガと番ったのに一切の責任を持たないアルファを批判する声もある。橙利の父親からすれば不安定な関係に思うのかもしれない。
「元はと言えば、俺が悪いとわかっている。でも運命かと思うくらいに勇大に惹かれたんだ。それでお前のうなじを噛んだ。あのときの気持ちは中途半端なものじゃない。お前はどこかフラフラと生きているような雰囲気があって、今を逃したら俺のものにならないと思い込んだんだ」
橙利の顔は真剣そのものだ。そこまでして、勇大を欲しいと思っていたとは知らなかった。
「ワンナイトじゃなくて?」
「そんなことはしない。お前がヒートを起こさずに番えなかったとしても、俺は勇大を口説き落とそうとしただろうな」
「そうなの!?」
本当にあの日のことを覚えていないことが悔やまれる。そこまで勇大に夢中になっていた橙利の顔を記憶にとどめておきたかった。
「勇大は? 俺を見ても何も感じなかったか?」
「俺!? 俺はホント、覚えてないんだ……。ただ、男を誘ったのは初めてだ。お前は軽いオメガだと思ったかもしれないけど、マジで男を引っ掛けたことはない。なんか、お前ならいいかなって……」
自分でもよくわからない。普段他人に頼ったことなんてなかったのに、どうしてあのとき橙利をホテルに誘うようなことをしたのだろう。
「運命の番、なのかもしれないな」
橙利は勇大の身体を両手で抱き寄せた。
「その原理はまだ科学的に解明されてない。でも、アルファとオメガには運命の番がいるんだ。そいつに出会うと理由もなく惹かれたり、突然ラットやヒートを起こしたりすることがあるらしい」
「運命の番!?」
希少種とはいえ、世界中を見渡してみるとアルファもオメガも星の数ほどいる。その中のたったひとり『運命の番』という特別な相手が存在するらしいのだが、それについては曖昧なことが多すぎて、半ば伝説みたいなものになっている。
「勇大は俺に会ったから突然ヒートを起こしたんじゃないのか?」
「どうなんだろ……俺、薬もよく飲み忘れるし、周期も乱れてるから……」
「じゃあなんで俺はこんなに勇大に惹かれるんだ? 好きで好きで仕方がないんだぞ?」
「えっ? いや、それ俺に聞くんか……」
話の流れでさりげなくめちゃくちゃ好きだと言われてちょっとニヤけてしまう。
橙利の気持ちは少しわかりづらい面がある。勇大が何をしても笑顔で受け止めてくれるのはいいが、そのせいで何を嫌だと思い、何を嬉しいと思っているのか気持ちを慮りかねるときがある。
だからふとしたとき、橙利の素直な気持ちが聞けると嬉しい。
「勇大。プレッシャーに思わないでほしいんだが、俺は近いうちに入籍したいと思ってる」
「入籍っ……!?」
「あの、付き合ったばかりだし、まずはデートを重ねないとな。プ、プロポーズもまだだ。お互いの両親にも会わなきゃいけない。番届けは先に出すか。その間に式場をリサーチする。指輪も贈るべきか……」
いきなり番っておいて、今さら橙利は何をぶつぶつ言っているのだろう。オメガの一番大切なものを衝動的に奪ったくせに、急に順序立てて、勇大との関係を丁寧に構築しようとする。
勇大としては、今ここでプロポーズされてもノーとは言わない。できることならずっと一緒にいたいと思っているから。
でも、橙利は本気で勇大を自分のそばに置くつもりみたいだ。それを知ることができただけでも安堵する。
アルファに捨てられるのだけは怖い。泰輝と橙利じゃ雲泥の差だということはわかっている。理解しているのに、付き合って一度抱いたら態度を豹変させた泰輝のことが、あのときのショックが頭をかすめる。
橙利はそんなことはしないと信じている。橙利は社長だ。きっと、橙利なりのタイミングみたいなものがあるのだろう。信じて待っていれば、いつか未来は開けるかもしれない。
「勇大。明日、俺の実家に来てくれないか?」
「えっ? 明日!?」
「それから、勇大のご両親にも会いたい。俺はいくらでも予定を合わせられるから、ご両親の都合を確認してくれないか?」
「うちの親に会うの!? いきなり!?」
やばい。これは想像以上の早さで事を進める気だ。
「ごめん。でも、一日でも早く結婚したい……」
「はぁぁっ?」
「プロポーズはどうするのか決めてある。絶対にイエスと言わせてみせるからな」
「もう決まってんの……」
やばすぎる。プロポーズの予告を受けてしまった。今から楽しみで仕方がない。
「勇大。愛してる」
橙利からのキスを避けることなんてできなくて、勇大は橙利の首に腕を絡め、頭を引き寄せて、最愛の人とキスを交わす。
「俺も好き。好きだよ橙利」
勇大が素直な気持ちを伝えると橙利が笑顔になった。その子どもみたいな笑顔が愛おしくて、勇大は橙利の唇にもう一度キスをした。
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