番持ちのオメガは恋ができない

雨宮里玖

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38.番外編『素直になる方法』

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「勇大……」

 橙利が勇大の身体を覆うようにして迫ってくる。
 橙利からのキスのモーション。さっきは避けられたのに、今度はできない。橙利とキスしたくてたまらなかった。

「んっ……あ……」

 何度かついばむようなキスをして、自然と深いキスになっていく。さっきのチョコレートケーキのせいで、甘い甘いキスだった。

「勇大を素直にさせるには、この方法が一番手っ取り早いな」

 橙利は意味深な笑みを向けてくる。
 これは橙利の罠だ。
 さっきから随分と日本酒を勧めてくるなと思っていた。しかも飲みやすくグイグイ飲めるものだった。今になってさっきのアルコールが勇大の身体を熱くさせる。

「ねぇ、俺を酔わせてどうするつもりなの……?」

 キスの合間に見つめ合い、橙利の胸元に触れる。逞しい橙利の身体は好きだ。肉体美とでも言えばいいのか、本当に完璧なアルファの身体だと思う。

「そんなの決まってるだろ」

 ソファーの上に押し倒され、追いかけるように橙利がのしかかってきた。

「お前を抱くんだよ」

 橙利の手が勇大の浴衣の胸元に滑り込んできた。

「あ……っ!」

 はだけた浴衣の隙間から露わになった乳首を指で弄ばれる。思わぬ刺激に勇大がビクッと跳ねると、その反応を見て橙利が今度は舌を這わせてくる。

「それ、ダメだって……あぁっ……!」

 理性を保っていたいのに、身体は正直に反応してしまう。勇大が抵抗して足をジタバタするたび、浴衣がはだけていき、その足のあいだを割って橙利が身体をねじ込ませてくる。
 今度は荒々しく唇を奪われながら、愛撫される。下半身の昂りを擦られて、勇大はたまらず熱い吐息を洩らす。

「あ、ちょっと待てって……!」

 浴衣を割ったあいだから見える下着を引っ張られ、勃ち上がったものがぶるりと顔を出す。橙利はそれを容赦なく掴んで、上下に扱き始めた。

「あっ、あっ、こら、やめろって……!」

 勇大が身をよじっても、橙利の勢いは止まらない。股のあいだを指が伝い、後孔に触れた。入り口を確かめるようにして指が這う。勇大はこれからされることへの期待と快感で、オメガのそこから愛液を溢れさせる。

「あっ、や、あぁぁ……」

 ズブズブと橙利の指が侵入してきて、中の粘膜を擦る。その瞬間、下腹の奥から強い快感がぐわーっと襲いかかってくる。

「はぁっ、う……橙利、橙利……」

 勇大はただ感じて、目の前にいる男の名を呼ぶだけ。なんにも考えられなくなっていく。

「橙利っ、そこ、あぁ……っ、う、ん……っ」

 感じるところを指で擦られ、勇大はたまらず身体を何度もピクピク震わせる。

 いい。よすぎる。
 さっきまでの対抗心めいたものもどこかへ飛んでいってしまった。勇大は抵抗できない。橙利の片手の指だけで、達してしまいそうになる。

「橙利、俺やばい。早く……!」

 勇大が両腕を伸ばすと、橙利が身体を倒してきた。勇大は橙利にしがみつきながら、橙利にキスを求める。

「ん、んっ……」

 橙利と熱いキスを交わす。身も心も開かされる、このとろけるような瞬間がたまらなく好きだ。

「ベッドに行こう」

 橙利は前抱きの姿勢で勇大を抱えて、すぐ近くにあるベッドに連れて行く。
 橙利の首筋に鼻を寄せると、アルファのいい匂いがする。勇大が唯一感じることのできる、アルファのフェロモンだ。このフェロモンに包まれると気持ちが高ぶってくる。

 丁寧にシーツの上におろされる。枕の位置まで調節され、身体には布団をかけられた。そのまま抱かれると思ったのに、橙利はベッドから離れていく。

「えっ、どこ行くのっ!?」

 慌てて橙利の手をガッと掴む。さっきまで身体を合わせていたのに、急にひとりきりにされるのは嫌だ。寂しすぎる。

「勇大。ちょっと待っててくれ。お前の身体を守るためだから」

 橙利は微笑み、勇大の額に口づけした。

「ゴムを取ってくる」
「あ……」

 言われて気がついた。行為を止められるのかと勘違いしてしまったが、そんなつもりはなかったらしい。

 すぐにベッドに戻ってきた橙利は、勇大のいる布団に潜り込んできた。布団の中で抱きしめられて、それだけで身体が熱くなっていく。

「ねぇ橙利」

 勇大は橙利の浴衣の袖をきゅっと掴んだ。

「俺のこと嫌いにならないで……」

 橙利を失いたくない。片時だってそばにいたい。
 ずっと不安だった。
 勇大は愛情を表現するのが苦手だ。特に可愛がられるのが苦手で、うまく甘えることができない。差し伸べられた手を、つい意固地になって突っぱねてしまう。
 そうやってアルファにも怖気づくことなく、真っ向勝負を仕掛けて生きてきた。そのなけなしのプライドの殻を打ち破れないでいる。
 そのせいで「可愛げがない」と橙利に飽きられたら?
 付き合ったばかりなのに、今から橙利が離れていくその日が来るのが怖くてたまらない。勇大には引き止める力も資格もなにもない。

「嫌いにならないよ」

 橙利は微笑む。その優しい瞳は、無理をしているようには見えなかった。

「これでも俺は、勇大のことをちゃんと理解しているつもりだ。俺を避けるのも、どこか恥ずかしさのようなものがあるからだろう? そういうものは、少しずつ慣れていけばいい」

 橙利に抱きしめられ、何度も背中をさすられる。素直じゃなくても、意固地でも、それでも橙利は勇大を受け入れてくれる。
 そうだった。誤解されやすい勇大のことを、橙利だけは理解してくれる。そんなところに心を強く奪われたことを思い出した。

「ツンツンしているお前が、こうやって時々俺に見せる可愛らしさもたまらないんだ」

 橙利は勇大の唇に軽いキスをする。
 こんなふうに、さりげなく奪われるキスも嫌いじゃない。本当は、橙利が相手なら、好きなときにこの身体に触れてもらってもいいと思っている。

「素直になれないのも、うまく気持ちを吐き出せないのも、ときには不便だろう? だから俺がお前の本音を引き出させてやる」
「あっ……」

 橙利は勇大の身体を反転させ、背後から抱きしめてきた。そして勇大の浴衣を捲り上げ、下着に手を入れ、後孔に指を侵入させてくる。
 さっきまでの熱を帯びている内壁はするりと橙利の指を呑み込んでいく。橙利の淫らな指が勇大の感じやすいところを執拗に攻めてくる。

「あっ、あっ……ん、ふぅ……っ」

 中を苛められるだけでもビクッ、ビクッと身体が反応してしまうのに、橙利はさらに勇大のうなじに舌を這わせてくる。勇大は強すぎる刺激に喘ぎ声を上げて、快感を逃そうとする。

「う、あ……っ」

 指が引き抜かれ、その感覚だけで勇大は身悶える。

「勇大、力抜けよ」

 下着を奪われたあと、腰を引っ張られ、尻を突き出させられる。そこに大きなものが当てがわれた。

「あぁ……っ、くっ、あぁぁー……っ!」

 アルファの屹立が勇大の後孔をこじ開けていく。先端を呑み込み、さらに奥へとねじ込まれ、擦れる肉壁から腰が砕けるような快感に苛まれる。

「あ、あ、あぁ……っ!」

 突かれるたびに襲いかかる快感を逃したくて身をよじるのに、橙利がそれを許さない。背中から身体を抱きしめられ、身体を押さえつけられているせいで自由が効かない。

「勇大が好きなのはここだろ?」
「うぁっ……、そこ、だ、だめっ……あぁっ!」

 達しそうになって逃れようとしても無理だった。アルファの精を搾り取るように下腹がきゅうっと締まる。それと同時に勇大は足の先までピクピクと全身を震わせる。

「あぁ……勇大っ」

 橙利の甘い吐息が耳をくすぐる。橙利の低くセクシーな声はやっぱり好きだ。

「あっ、あっ、んんっ」

 身体をガクガクと揺さぶられる。休みない律動に勇大は耐えきれず、震える亀頭から蜜を零した。

「勇大、好きだ。好きだっ」
「橙利……っ、あぁぁーっ!」

 全身を駆けるような快楽の電流が勇大の身体を揺らす。前も後ろも何もかもを解き放って、橙利とともに絶頂を迎えた。
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