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31.最強の恋人
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勇大はビジネスシューズの踵をカンと打ち鳴らしたあと、本社ビルの受付にゆっくりと近づいていく。
チャコールグレーのスーツを身につけ、アクセサリーはなし。イエローブラウンの髪色はそのままだが、こればっかりは変えられない。
「南です。十八時から北沢社長と会う約束をしているのですが」
敬語は正直よくわからない。それでも最近は、勇大なりに、言葉に気をつけるようになった。
「南さまですね。承っております」
相手はいつかの黒髪美人の受付嬢だ。以前のようなふてぶてしい態度はない。勇大ににっこりと微笑みかけてきた。
受付嬢はどこかへ連絡を取ったあと、「社長はすぐに参ります。あちらの椅子でお待ちください」と丁寧に勇大に案内した。
ソファーに座って待つこと二十分。北沢が慌てた様子で勇大のもとに駆け寄ってきた。
「待たせてごめん。もっと早く終わって迎えに行きたかったのに」
大の大人がスーツ姿で息を切らしている。そんなに慌てて来たのかと、愛おしく思う。
「いいよ、気にすんな」
勇大は立ち上がり、ぽんと北沢の肩を叩いてやる。
「で? 俺をどこに連れて行きたいの?」
今日勇大が着ているスーツも、全部北沢が揃えたものだ。これを着て来いと指示され、北沢が「迎えに行く時間が取れない。本社に来てくれ」と言うから快く応じたのだ。
「立食パーティーだ。俺の隣にいてほしい」
「えっ?」
「勇大、お前やっぱりビジュアルは最強だよ。スーツも似合う。三回目の恋に落ちそうだ」
「はぁっ?」
さっきから勇大はツッコミたいことばかりなのに、北沢は「行くぞ」とさっさと話を切り上げ、歩き始める。
「おいっ、なんだよ、ビジュアルはって!」
どうしても言い返したくて勇大は北沢を追いかける。
「勇大。本当に惚れ惚れする。俺のそばを離れるなよ。変な男に声をかけられないか心配になってきた……」
「は? 番持ちだけど?」
北沢は過保護すぎるんじゃないだろうか。番持ちのオメガに誘いをかけてくるアルファなんていない。
「警戒するに越したことはない。それと、さっきの答え」
北沢は勇大の耳元に唇を寄せてきた。
「見た目だけじゃない。全部が好きに決まってるだろ。どこか好きか、一から言ってほしいってことか?」
「なっ……!」
今そんなことをされたらたまったものじゃない。社長である北沢と一緒にいるだけで、社員の注目を浴びてしまっているというのに。
「勇大は反応が可愛い」
「おいっ……」
「今も、ベッドの上でもな」
「…………っ!」
そんなことを言われて北沢に微笑まれて、勇大は言葉を失う。
ベッドでのことを話すなんて反則だ。誰に聞かれるともわからないのに、このエロ社長はよくもそんなことを言えたものだ。
「……このクソ野郎」
勇大は北沢を恨めしそうな目で見る。
付き合うようになってからわかったことだ。
北沢は息を吐くように甘い言葉を勇大に囁いてくる。本当に毎日、好きだと言われている。
そんなことを言われても勇大はうまく返せない。恥ずかしくなってしまい、素直な言葉が出てこないのだ。
「わかってる。照れてるんだろ?」
勇大が睨んでも、北沢はものともせずに、にっこり微笑みかけてくる。北沢のメンタルは最強なんだろうか。
勇大のことならなんでもわかるとでも言いたげな得意げな顔は、嫌いじゃない。嫌いじゃないから本当に困るのだ。
チャコールグレーのスーツを身につけ、アクセサリーはなし。イエローブラウンの髪色はそのままだが、こればっかりは変えられない。
「南です。十八時から北沢社長と会う約束をしているのですが」
敬語は正直よくわからない。それでも最近は、勇大なりに、言葉に気をつけるようになった。
「南さまですね。承っております」
相手はいつかの黒髪美人の受付嬢だ。以前のようなふてぶてしい態度はない。勇大ににっこりと微笑みかけてきた。
受付嬢はどこかへ連絡を取ったあと、「社長はすぐに参ります。あちらの椅子でお待ちください」と丁寧に勇大に案内した。
ソファーに座って待つこと二十分。北沢が慌てた様子で勇大のもとに駆け寄ってきた。
「待たせてごめん。もっと早く終わって迎えに行きたかったのに」
大の大人がスーツ姿で息を切らしている。そんなに慌てて来たのかと、愛おしく思う。
「いいよ、気にすんな」
勇大は立ち上がり、ぽんと北沢の肩を叩いてやる。
「で? 俺をどこに連れて行きたいの?」
今日勇大が着ているスーツも、全部北沢が揃えたものだ。これを着て来いと指示され、北沢が「迎えに行く時間が取れない。本社に来てくれ」と言うから快く応じたのだ。
「立食パーティーだ。俺の隣にいてほしい」
「えっ?」
「勇大、お前やっぱりビジュアルは最強だよ。スーツも似合う。三回目の恋に落ちそうだ」
「はぁっ?」
さっきから勇大はツッコミたいことばかりなのに、北沢は「行くぞ」とさっさと話を切り上げ、歩き始める。
「おいっ、なんだよ、ビジュアルはって!」
どうしても言い返したくて勇大は北沢を追いかける。
「勇大。本当に惚れ惚れする。俺のそばを離れるなよ。変な男に声をかけられないか心配になってきた……」
「は? 番持ちだけど?」
北沢は過保護すぎるんじゃないだろうか。番持ちのオメガに誘いをかけてくるアルファなんていない。
「警戒するに越したことはない。それと、さっきの答え」
北沢は勇大の耳元に唇を寄せてきた。
「見た目だけじゃない。全部が好きに決まってるだろ。どこか好きか、一から言ってほしいってことか?」
「なっ……!」
今そんなことをされたらたまったものじゃない。社長である北沢と一緒にいるだけで、社員の注目を浴びてしまっているというのに。
「勇大は反応が可愛い」
「おいっ……」
「今も、ベッドの上でもな」
「…………っ!」
そんなことを言われて北沢に微笑まれて、勇大は言葉を失う。
ベッドでのことを話すなんて反則だ。誰に聞かれるともわからないのに、このエロ社長はよくもそんなことを言えたものだ。
「……このクソ野郎」
勇大は北沢を恨めしそうな目で見る。
付き合うようになってからわかったことだ。
北沢は息を吐くように甘い言葉を勇大に囁いてくる。本当に毎日、好きだと言われている。
そんなことを言われても勇大はうまく返せない。恥ずかしくなってしまい、素直な言葉が出てこないのだ。
「わかってる。照れてるんだろ?」
勇大が睨んでも、北沢はものともせずに、にっこり微笑みかけてくる。北沢のメンタルは最強なんだろうか。
勇大のことならなんでもわかるとでも言いたげな得意げな顔は、嫌いじゃない。嫌いじゃないから本当に困るのだ。
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