21 / 42
21.思いがけない連絡
しおりを挟む北沢と離れてから三日が過ぎた。
今日は仕事が休みだ。いつもだったら朝からダラダラとドラマを見たり、美容院に行って髪を整えたり、休みを満喫しているのに、まったく気分が晴れない。勇大は昼間になっても布団の中でぼんやりしていた。
あれから北沢からの連絡の嵐だ。
あの日の夜は、『無事に帰れたか?』『具合は大丈夫か』と勇大を気遣うメッセージが送られてきた。
それから、毎日のように謝罪の言葉が続く。
『すまない。やっぱりお前を泊めればよかった』
『合鍵の件はごめん。これから寒くなるし、玄関前で待たせて風邪でもひかれたら嫌だなと思っただけだ。決して他意はない』
『今度会うとき、お詫びをするから』
勇大がメッセージを無視しても、北沢は電話をかけてくるし、メッセージを送り続けてくる。
「返信もないのに、よく続くよなぁ……」
勇大だったら既読無視されたら、ムカついて連絡なんてしない。
それなのにしつこく連絡してくるところが、また、好きだ。
「お見合いかぁ」
北沢は三十二歳。仕事にかまけているとばかり思っていたのに、案外、真面目に結婚を考えていたらしい。
アルファに生まれたからには、やっぱりオメガと結婚して番いたいんじゃないんだろうか。
そうなると、勇大は無理だ。
将来を見据えて、好きでもない人と見合いをするほどの男に、「番えないけど俺だけのアルファになって」とは言えない。
「はぁ……」
勇大は大きなため息をつく。朝から何も食べていないのに、起き上がりたくない。なんにもする気力が湧いてこない。
今日だって、『勇大、休みだろ? 水族館に行かないか』と北沢に誘われていたのに返事をしなかった。
会えばまた、胸が苦しくなる。
かと言って適当な言い訳もできなかった。
北沢は、勇大の休みの日を全部把握しているから嘘はつけない。なんならヘルプの社員を入れて、勇大の休みを変更することだってできるくらい、完璧に掌握されている状態だ。
ピロン。
勇大と同じく枕元でウダウダして、朝から活躍していないスマホが鳴った。
まさか北沢じゃないだろうなと思いつつ、勇大はスマホに腕を伸ばす。
「んあぁっ?」
メールを見て思わず変な声が出た。そのくらい衝撃的なメールだった。
知らないアドレスからのメールだ。
『南勇大さま
突然の連絡お許しください。
番解除をする前に、一度顔を合わせて話がしたいと思い、こうして連絡いたしました』
それから日時と会う場所が具体的に書かれていた。
メールの文面は決して勇大を訴えようとするものではない。それに相手は番解除を考えているようだった。
「マジか!」
二度と会わないと思っていた番アルファに会う。そう考えただけで、変な汗が吹き出してきた。
どうしようか。会って話をしたところで、番解除一択だろう。まさか番ってしまったから恋人になろうなどとは言われまい。
それにしても、このアルファは恐ろしい。百歩譲って勇大の名前は酔ったときの自分が打ち明けていたとしてなぜメルアドまで知っているのだろう。
勇大は普段はほとんどこのメールは使わない。普段はSNSやメッセージアプリばかり使っている。だから酔って、番アルファに連絡先を告げるとしてもこのメルアドは教えないと思う。
「アルファって怖ぇ……」
なんらかの手段を用いて、メールを調べたに違いない。アルファはどいつもこいつも想像もできないくらいに賢くて優秀な奴ばかりだ。
会いに行くか。
それとも会わずに逃げるか。
解除の決定権はアルファにあり、オメガからはできない仕組みだ。
アルファ側なら、オメガの意志など関係なしに番解除することができる。だからアルファが最初から番解除するつもりなら、わざわざ勇大に会う必要はない。
それなのにわざわざメルアドを探し出してまで、会って話がしたいとはどういうことなのだろう。
「実はいい奴なのかな!?」
よくよくメールを見ると、文面が丁寧で悪い人ではなさそうだ。
ただ勝手に約束を日時を決めてしまっているのは、なんなんだろう。たまたま勇大が休みの日だからいいが、仕事だったら行きたくても会いに行けなかった。
「やっべぇ……どうすればいいかわかんねぇ……」
会ってどうなるものでもない。
どんな人だったかすら、覚えていないのだ。一生懸命に思い出そうとしても、ぼんやりとしか思い出せない。
途中からヒートを起こしてしまい、相手のアルファにひたすら縋ったことだけは、なんとなく憶えている。
考えれば考えるほど、勇大はあの日、相当な痴態をさらしたんじゃないだろうか。
「やば……」
噛んでほしいと何度もねだった気がする。ラットを起こしたアルファに攻められながら、あのときいったい何をした……?
勇大を攻めるアルファの顔が、ふと北沢と重なった。
北沢に攻められてよがっている、みっともない自分の姿がパッと一瞬脳裏をかすめた。
「…………っ!」
勇大は息を呑む。
なんて都合のいい想像をしたんだと焦る。
記憶にない記憶を無理矢理引っ張り出そうとしたから、混同したのだろう。
「そういえば今日はあいつから連絡ないな……」
不意に北沢からの連絡が途絶えていることに気がついた。
昨日まで昼夜問わずに連絡がきていたのに、今朝からぱったりこない。
「ついに、嫌われたかなぁ」
あれだけ無視したら、嫌われて当然だろう。
北沢に嫌われた。
そう思った瞬間に、胸がズキズキ苦しくなる。
北沢と一緒にはいられない。そばにいるだけで、何もできない自分が歯痒くて、苦しくて、おかしくなりそうだ。
どうにもならない恋ならさっさと忘れてしまいたい。
そのためには北沢と距離を置いたほうがいい。
北沢から嫌われて、この気持ちは早く忘れてしまったほうが、お互い幸せになれるはずだ。
勇大は起き上がり、クローゼットのドアをあけ、パジャマ代わりのTシャツを脱ぎ捨てる。
「きっちりケジメつけてやる」
元来ウジウジしているのは嫌いだ。
どう足掻いても、番った時点でオメガの運命は決まっている。
番ったアルファと結ばれるか、最低な日々を過ごしていくかだ。
1,030
お気に入りに追加
1,719
あなたにおすすめの小説
【完結】でも、だって運命はいちばんじゃない
ちかこ
BL
アルファばかりのエリート一家に生まれ、当然自分もアルファだと思っていた。
オメガをだいじにして、しあわせにすることを夢見ていた、自分がオメガだとわかるまでは。
自分の望む普通の生活の為に、都合の良い相手と番になるけれど、どうも甘く考えてたようで、発情期を迎える度に後悔をするはめになることになってしまった。彼にはだいじなオメガがいるのだから。
番から始まる、自業自得なオメガのおはなし
※執着α×抑制剤の効かないΩ
※R18部分には*がつきます、普段より多目になるかと思いますので苦手な方はご注意下さい
運命のアルファ
猫丸
BL
俺、高木颯人は、幼い頃から亮太が好きだった。亮太はずっと俺のヒーローだ。
亮太がアルファだと知った時、自分の第二の性が不明でも、自分はオメガだから将来は大好きな亮太と番婚するのだと信じて疑わなかった。
だが、検査の結果を見て俺の世界が一変した。
まさか自分もアルファだとは……。
二人で交わした番婚の約束など、とっくに破綻しているというのに亮太を手放せない颯人。
オメガじゃなかったから、颯人は自分を必要としていないのだ、と荒れる亮太。
オメガバース/アルファ同士の恋愛。
CP:相手の前でだけヒーローになるクズアルファ ✕ 甘ったれアルファ
※颯人視点は2024/1/30 21:00完結、亮太視点は1/31 21:00完結です。
※話の都合上、途中女性やオメガ男性を貶めるような発言が出てきます(特に亮太視点)。地雷がある方、苦手な方は自衛してください。
※表紙画像は、亮太をイメージして作成したAI画像です。
嫌われ者の僕はひっそりと暮らしたい
りまり
BL
僕のいる世界は男性でも妊娠することのできる世界で、僕の婚約者は公爵家の嫡男です。
この世界は魔法の使えるファンタジーのようなところでもちろん魔物もいれば妖精や精霊もいるんだ。
僕の婚約者はそれはそれは見目麗しい青年、それだけじゃなくすごく頭も良いし剣術に魔法になんでもそつなくこなせる凄い人でだからと言って平民を見下すことなくわからないところは教えてあげられる優しさを持っている。
本当に僕にはもったいない人なんだ。
どんなに努力しても成果が伴わない僕に呆れてしまったのか、最近は平民の中でも特に優秀な人と一緒にいる所を見るようになって、周りからもお似合いの夫婦だと言われるようになっていった。その一方で僕の評価はかなり厳しく彼が可哀そうだと言う声が聞こえてくるようにもなった。
彼から言われたわけでもないが、あの二人を見ていれば恋愛関係にあるのぐらいわかる。彼に迷惑をかけたくないので、卒業したら結婚する予定だったけど両親に今の状況を話て婚約を白紙にしてもらえるように頼んだ。
答えは聞かなくてもわかる婚約が解消され、僕は学校を卒業したら辺境伯にいる叔父の元に旅立つことになっている。
後少しだけあなたを……あなたの姿を目に焼き付けて辺境伯領に行きたい。
婚約者は愛を見つけたらしいので、不要になった僕は君にあげる
カシナシ
BL
「アシリス、すまない。婚約を解消してくれ」
そう告げられて、僕は固まった。5歳から13年もの間、婚約者であるキール殿下に尽くしてきた努力は一体何だったのか?
殿下の隣には、可愛らしいオメガの男爵令息がいて……。
サクッとエロ&軽めざまぁ。
全10話+番外編(別視点)数話
本編約二万文字、完結しました。
※HOTランキング最高位6位、頂きました。たくさんの閲覧、ありがとうございます!
※本作の数年後のココルとキールを描いた、
『訳ありオメガは罪の証を愛している』
も公開始めました。読む際は注意書きを良く読んで下さると幸いです!
【完結】イヴは悪役に向いてない
ちかこ
BL
「いい加減解放してあげて下さい!」
頬を叩かれた瞬間に、自分のこと、ここが以前に遊んだことのあるBLゲームの世界だと気が付いた。
次の瞬間には大勢の前で婚約破棄を言い渡され、棄てられると知っている。どうにか出来るタイミングではなかった。
この国を守っていたのは自分なのに、という思いも、誰も助けてくれない惨めさもあった。
けれど、婚約破棄や周囲の視線なんてどうでもいいんです、誰かに愛されることが出来るなら。
※執着×溺愛×家族に愛されなかった受
※攻同士でのキス有
※R18部分には*がつきます
※登場人物が多いため表を作りましたが読む必要は特にないです。ネタバレにならないよう人物追加時にメモ程度に追記します
第11回BL小説大賞奨励賞頂きました、投票閲覧ご感想ありがとうございました!
王と正妃~アルファの夫に恋がしてみたいと言われたので、初恋をやり直してみることにした~
仁茂田もに
BL
「恋がしてみたいんだが」
アルファの夫から突然そう告げられたオメガのアレクシスはただひたすら困惑していた。
政略結婚して三十年近く――夫夫として関係を持って二十年以上が経つ。
その間、自分たちは国王と正妃として正しく義務を果たしてきた。
しかし、そこに必要以上の感情は含まれなかったはずだ。
何も期待せず、ただ妃としての役割を全うしようと思っていたアレクシスだったが、国王エドワードはその発言以来急激に距離を詰めてきて――。
一度、決定的にすれ違ってしまったふたりが二十年以上経って初恋をやり直そうとする話です。
昔若気の至りでやらかした王様×王様の昔のやらかしを別に怒ってない正妃(男)
βのくせに巣作りしてみたら
ぽぽ
BL
αの婚約者がいるβの瑛太。Ωでないことを気にしているが、婚約者は毎日愛を囁いてくれるため満足していた。
しかし、ある日ふと婚約者が「巣作りって可愛いよね」と話しているのを聞き、巣作りをしてみた。けれども結局恥ずかしくなり婚約者が来る前に片付けようとしたが、婚約者が帰ってきてしまった。
━━━━━━━━
執着美形α×平凡β
表紙はくま様からお借りしました。
https://www.pixiv.net/artworks/86767276
R18には☆を付けてます。
自分のことを疎んでいる年下の婚約者にやっとの思いで別れを告げたが、なんだか様子がおかしい。
槿 資紀
BL
年下×年上
横書きでのご鑑賞をおすすめします。
イニテウム王国ルーベルンゲン辺境伯、ユリウスは、幼馴染で5歳年下の婚約者である、イニテウム王国の王位継承権第一位のテオドール王子に長年想いを寄せていたが、テオドールからは冷遇されていた。
自身の故郷の危機に立ち向かうため、やむを得ず2年の別離を経たのち、すっかりテオドールとの未来を諦めるに至ったユリウスは、遂に自身の想いを断ち切り、最愛の婚約者に別れを告げる。
しかし、待っていたのは、全く想像だにしない展開で――――――。
展開に無理やり要素が含まれます。苦手な方はご注意ください。
内容のうち8割はやや過激なR-18の話です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる