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21.思いがけない連絡

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 北沢と離れてから三日が過ぎた。

 今日は仕事が休みだ。いつもだったら朝からダラダラとドラマを見たり、美容院に行って髪を整えたり、休みを満喫しているのに、まったく気分が晴れない。勇大は昼間になっても布団の中でぼんやりしていた。

 あれから北沢からの連絡の嵐だ。
 あの日の夜は、『無事に帰れたか?』『具合は大丈夫か』と勇大を気遣うメッセージが送られてきた。

 それから、毎日のように謝罪の言葉が続く。

『すまない。やっぱりお前を泊めればよかった』
『合鍵の件はごめん。これから寒くなるし、玄関前で待たせて風邪でもひかれたら嫌だなと思っただけだ。決して他意はない』
『今度会うとき、お詫びをするから』

 勇大がメッセージを無視しても、北沢は電話をかけてくるし、メッセージを送り続けてくる。

「返信もないのに、よく続くよなぁ……」

 勇大だったら既読無視されたら、ムカついて連絡なんてしない。
 それなのにしつこく連絡してくるところが、また、好きだ。

「お見合いかぁ」

 北沢は三十二歳。仕事にかまけているとばかり思っていたのに、案外、真面目に結婚を考えていたらしい。

 アルファに生まれたからには、やっぱりオメガと結婚して番いたいんじゃないんだろうか。
 そうなると、勇大は無理だ。
 将来を見据えて、好きでもない人と見合いをするほどの男に、「番えないけど俺だけのアルファになって」とは言えない。

「はぁ……」 

 勇大は大きなため息をつく。朝から何も食べていないのに、起き上がりたくない。なんにもする気力が湧いてこない。

 今日だって、『勇大、休みだろ? 水族館に行かないか』と北沢に誘われていたのに返事をしなかった。

 会えばまた、胸が苦しくなる。
 かと言って適当な言い訳もできなかった。
 北沢は、勇大の休みの日を全部把握しているから嘘はつけない。なんならヘルプの社員を入れて、勇大の休みを変更することだってできるくらい、完璧に掌握されている状態だ。

 ピロン。

 勇大と同じく枕元でウダウダして、朝から活躍していないスマホが鳴った。
 まさか北沢じゃないだろうなと思いつつ、勇大はスマホに腕を伸ばす。

「んあぁっ?」

 メールを見て思わず変な声が出た。そのくらい衝撃的なメールだった。
 知らないアドレスからのメールだ。

『南勇大さま
 突然の連絡お許しください。
 番解除をする前に、一度顔を合わせて話がしたいと思い、こうして連絡いたしました』

 それから日時と会う場所が具体的に書かれていた。
 メールの文面は決して勇大を訴えようとするものではない。それに相手は番解除を考えているようだった。

「マジか!」

 二度と会わないと思っていた番アルファに会う。そう考えただけで、変な汗が吹き出してきた。
 どうしようか。会って話をしたところで、番解除一択だろう。まさか番ってしまったから恋人になろうなどとは言われまい。

 それにしても、このアルファは恐ろしい。百歩譲って勇大の名前は酔ったときの自分が打ち明けていたとしてなぜメルアドまで知っているのだろう。
 勇大は普段はほとんどこのメールは使わない。普段はSNSやメッセージアプリばかり使っている。だから酔って、番アルファに連絡先を告げるとしてもこのメルアドは教えないと思う。

「アルファって怖ぇ……」

 なんらかの手段を用いて、メールを調べたに違いない。アルファはどいつもこいつも想像もできないくらいに賢くて優秀な奴ばかりだ。

 会いに行くか。
 それとも会わずに逃げるか。
 解除の決定権はアルファにあり、オメガからはできない仕組みだ。

 アルファ側なら、オメガの意志など関係なしに番解除することができる。だからアルファが最初から番解除するつもりなら、わざわざ勇大に会う必要はない。
 それなのにわざわざメルアドを探し出してまで、会って話がしたいとはどういうことなのだろう。

「実はいい奴なのかな!?」

 よくよくメールを見ると、文面が丁寧で悪い人ではなさそうだ。
 ただ勝手に約束を日時を決めてしまっているのは、なんなんだろう。たまたま勇大が休みの日だからいいが、仕事だったら行きたくても会いに行けなかった。

「やっべぇ……どうすればいいかわかんねぇ……」

 会ってどうなるものでもない。
 どんな人だったかすら、覚えていないのだ。一生懸命に思い出そうとしても、ぼんやりとしか思い出せない。
 途中からヒートを起こしてしまい、相手のアルファにひたすら縋ったことだけは、なんとなく憶えている。
 考えれば考えるほど、勇大はあの日、相当な痴態をさらしたんじゃないだろうか。

「やば……」

 噛んでほしいと何度もねだった気がする。ラットを起こしたアルファに攻められながら、あのときいったい何をした……?

 勇大を攻めるアルファの顔が、ふと北沢と重なった。
 北沢に攻められてよがっている、みっともない自分の姿がパッと一瞬脳裏をかすめた。

「…………っ!」

 勇大は息を呑む。
 なんて都合のいい想像をしたんだと焦る。
 記憶にない記憶を無理矢理引っ張り出そうとしたから、混同したのだろう。

「そういえば今日はあいつから連絡ないな……」

 不意に北沢からの連絡が途絶えていることに気がついた。
 昨日まで昼夜問わずに連絡がきていたのに、今朝からぱったりこない。

「ついに、嫌われたかなぁ」

 あれだけ無視したら、嫌われて当然だろう。

 北沢に嫌われた。
 そう思った瞬間に、胸がズキズキ苦しくなる。
 北沢と一緒にはいられない。そばにいるだけで、何もできない自分が歯痒くて、苦しくて、おかしくなりそうだ。

 どうにもならない恋ならさっさと忘れてしまいたい。
 そのためには北沢と距離を置いたほうがいい。
 北沢から嫌われて、この気持ちは早く忘れてしまったほうが、お互い幸せになれるはずだ。

 勇大は起き上がり、クローゼットのドアをあけ、パジャマ代わりのTシャツを脱ぎ捨てる。

「きっちりケジメつけてやる」

 元来ウジウジしているのは嫌いだ。
 どう足掻あがいても、番った時点でオメガの運命は決まっている。

 番ったアルファと結ばれるか、最低な日々を過ごしていくかだ。
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