11 / 42
11.友達として
しおりを挟む
この前、駅で待ち合わせをするために、北沢と個人的な連絡先を交換してしまった勇大は早くも後悔する。
スマホをポケットに入れたまま仕事をしていると、ガンガン通知がくるのだ。
「あいつ忙しいんじゃねぇのかよ……!」
北沢は、本当にこまめにメッセージを送ってくる。
連絡先を交換したときは、待ち合わせに使用したあと、ほぼ何も連絡はないだろうと思っていたのに。
「オッサンのくせに心はJKか!?」
北沢は三十二歳。ちょいちょいメッセージを送るような年じゃないだろとスマホを見ながら勇大は心の中でツッコミを入れる。
「あ! スピッツの子犬!?」
休憩中にバックヤードで勇大がスマホを見ていたら、新店長になった空がスマホを覗き込んできた。
そうだった。空は無類の犬好きだった。
北沢から送られてきたのは、白い子犬が卵を抱えた雌鶏と戯れているほっこり動画。そのうちヒヨコが生まれて子犬はヒヨコと追いかけっこを始めた。
北沢がこんな動画を見ているとは思わなかった。
ギャップだ。ギャップがありすぎる。しかもこれをわざわざ人に送りつけてくるのなんなんだろう。
そう思いながらも、これがまた意外と癒される。
友達の少ない勇大は、今までスマホにかじりついたりはしていなかった。だが北沢と出会ってから頻繁にスマホを使ってやり取りをするようになり、気がついたら勇大はスマホをチラチラ気にするようになった。
ピロン。
ほらまた、北沢からメッセージが飛んできた。
社長【今日もウチに来るか? 給湯器まだ直ってないだろ?】
というポップアップ表示がスマホ上部に出る。
「エッ! 社長……?」
一緒に動画を観ていた空は、たまたま勇大のスマホのバナーを目にして声を上げた。
勇大は内心やばいやばいと冷や汗だ。
「社長ってのは、うちの親父のこと! 家族なのに社長って呼んでんの、ハハハ……」
すごい苦しい言い訳をして、笑って誤魔化す。
「そうなんだ……自営業?」
「えっ? あ、そうです」
勇大の父親は根っからのサラリーマンだ。まったく自営業じゃないが、とりあえずそういうことにした。
「給湯器ってある日突然壊れるから大変だよね」
「そうなんすよね」
勇大は、実はここのところ毎日、仕事終わりに社長のマンションに通っている。今日で四日目。ガチで風呂だけ借りに行っているのだ。
社長の北沢はしょっちゅう店舗に来て勇大を連れ出すから、別に空に話してもいいかなとも思う。でも、なんとなく北沢のマンションにまで出入りしていることは、秘密にしたほうがいい気がした。
動画を見終わったあと、勇大は北沢に返信する。
『今日も行く。悪いけどシャワー貸して』
すると北沢から即レスが返ってきた。
『わかった。俺は今日これから一日家にいるからいつでも来い』
勇大は『はーい』スタンプを送る。
勇大の返信は軽い。すっかり北沢とは友達感覚だ。
勇大は敬語はあまり好きではないし、年齢差関係なしに、親しくなると言葉を崩したくなるのだ。
それでも北沢は怒ることもないし、勇大も慣れたもの。北沢を社長扱いはしなかった。
勇大は仕事終わりに北沢のマンションへ向かう。目的はもちろんタダ風呂だ。本当に風呂を借りているだけ。北沢はいつだって忙しそうだから。
今日は途中のコンビニで差し入れを買った。缶ビールとチータラとカルパス。全部勇大の好きなもので、北沢が好きかどうかは知らない。要らないと言われたら持って帰ればいいと思って買った。
北沢の住むマンションは新宿区にある。勇大の勤務地から歩いていける距離だ。
雑多な雑居ビル街を抜けていくと、急に異質なエリアに出くわすのだ。北沢のマンションがあるエリアだけが、世界と切り離された場所のように広々としていて、計算された街路樹や遊歩道が整備されている。
緑の小径を抜けた先に、高級レジデンスが現れる。オートロックを抜けた先、その中の右端にあるのが北沢の住むマンション棟だ。
インターフォンを鳴らすと「開いてるから入れ」と言われた。勇大は雑にドアを開け、中に入る。
天井高の北沢のマンションは、床と天井が温かみのある無垢な木材。空間が広いせいか、廊下も部屋もモデルルームみたいに生活感がない。どこに物をしまっているのかと思うくらいに理路整然としていて、物が溢れてぐっちゃんぐっちゃんな勇大のアパートとまるで真逆だ。
「よぉ! 社長、これ差し入れ」
声をかけてから慌てて後悔する。北沢はオンライン会議中だったようで、勇大は自分の声が会議の場に聞こえてしまったのではないかと焦る。
だが当の北沢は気にもかけていないようで、勇大に「ありがとう」の意で頷いてみせた。
スマホをポケットに入れたまま仕事をしていると、ガンガン通知がくるのだ。
「あいつ忙しいんじゃねぇのかよ……!」
北沢は、本当にこまめにメッセージを送ってくる。
連絡先を交換したときは、待ち合わせに使用したあと、ほぼ何も連絡はないだろうと思っていたのに。
「オッサンのくせに心はJKか!?」
北沢は三十二歳。ちょいちょいメッセージを送るような年じゃないだろとスマホを見ながら勇大は心の中でツッコミを入れる。
「あ! スピッツの子犬!?」
休憩中にバックヤードで勇大がスマホを見ていたら、新店長になった空がスマホを覗き込んできた。
そうだった。空は無類の犬好きだった。
北沢から送られてきたのは、白い子犬が卵を抱えた雌鶏と戯れているほっこり動画。そのうちヒヨコが生まれて子犬はヒヨコと追いかけっこを始めた。
北沢がこんな動画を見ているとは思わなかった。
ギャップだ。ギャップがありすぎる。しかもこれをわざわざ人に送りつけてくるのなんなんだろう。
そう思いながらも、これがまた意外と癒される。
友達の少ない勇大は、今までスマホにかじりついたりはしていなかった。だが北沢と出会ってから頻繁にスマホを使ってやり取りをするようになり、気がついたら勇大はスマホをチラチラ気にするようになった。
ピロン。
ほらまた、北沢からメッセージが飛んできた。
社長【今日もウチに来るか? 給湯器まだ直ってないだろ?】
というポップアップ表示がスマホ上部に出る。
「エッ! 社長……?」
一緒に動画を観ていた空は、たまたま勇大のスマホのバナーを目にして声を上げた。
勇大は内心やばいやばいと冷や汗だ。
「社長ってのは、うちの親父のこと! 家族なのに社長って呼んでんの、ハハハ……」
すごい苦しい言い訳をして、笑って誤魔化す。
「そうなんだ……自営業?」
「えっ? あ、そうです」
勇大の父親は根っからのサラリーマンだ。まったく自営業じゃないが、とりあえずそういうことにした。
「給湯器ってある日突然壊れるから大変だよね」
「そうなんすよね」
勇大は、実はここのところ毎日、仕事終わりに社長のマンションに通っている。今日で四日目。ガチで風呂だけ借りに行っているのだ。
社長の北沢はしょっちゅう店舗に来て勇大を連れ出すから、別に空に話してもいいかなとも思う。でも、なんとなく北沢のマンションにまで出入りしていることは、秘密にしたほうがいい気がした。
動画を見終わったあと、勇大は北沢に返信する。
『今日も行く。悪いけどシャワー貸して』
すると北沢から即レスが返ってきた。
『わかった。俺は今日これから一日家にいるからいつでも来い』
勇大は『はーい』スタンプを送る。
勇大の返信は軽い。すっかり北沢とは友達感覚だ。
勇大は敬語はあまり好きではないし、年齢差関係なしに、親しくなると言葉を崩したくなるのだ。
それでも北沢は怒ることもないし、勇大も慣れたもの。北沢を社長扱いはしなかった。
勇大は仕事終わりに北沢のマンションへ向かう。目的はもちろんタダ風呂だ。本当に風呂を借りているだけ。北沢はいつだって忙しそうだから。
今日は途中のコンビニで差し入れを買った。缶ビールとチータラとカルパス。全部勇大の好きなもので、北沢が好きかどうかは知らない。要らないと言われたら持って帰ればいいと思って買った。
北沢の住むマンションは新宿区にある。勇大の勤務地から歩いていける距離だ。
雑多な雑居ビル街を抜けていくと、急に異質なエリアに出くわすのだ。北沢のマンションがあるエリアだけが、世界と切り離された場所のように広々としていて、計算された街路樹や遊歩道が整備されている。
緑の小径を抜けた先に、高級レジデンスが現れる。オートロックを抜けた先、その中の右端にあるのが北沢の住むマンション棟だ。
インターフォンを鳴らすと「開いてるから入れ」と言われた。勇大は雑にドアを開け、中に入る。
天井高の北沢のマンションは、床と天井が温かみのある無垢な木材。空間が広いせいか、廊下も部屋もモデルルームみたいに生活感がない。どこに物をしまっているのかと思うくらいに理路整然としていて、物が溢れてぐっちゃんぐっちゃんな勇大のアパートとまるで真逆だ。
「よぉ! 社長、これ差し入れ」
声をかけてから慌てて後悔する。北沢はオンライン会議中だったようで、勇大は自分の声が会議の場に聞こえてしまったのではないかと焦る。
だが当の北沢は気にもかけていないようで、勇大に「ありがとう」の意で頷いてみせた。
940
お気に入りに追加
1,719
あなたにおすすめの小説
【完結】でも、だって運命はいちばんじゃない
ちかこ
BL
アルファばかりのエリート一家に生まれ、当然自分もアルファだと思っていた。
オメガをだいじにして、しあわせにすることを夢見ていた、自分がオメガだとわかるまでは。
自分の望む普通の生活の為に、都合の良い相手と番になるけれど、どうも甘く考えてたようで、発情期を迎える度に後悔をするはめになることになってしまった。彼にはだいじなオメガがいるのだから。
番から始まる、自業自得なオメガのおはなし
※執着α×抑制剤の効かないΩ
※R18部分には*がつきます、普段より多目になるかと思いますので苦手な方はご注意下さい
運命のアルファ
猫丸
BL
俺、高木颯人は、幼い頃から亮太が好きだった。亮太はずっと俺のヒーローだ。
亮太がアルファだと知った時、自分の第二の性が不明でも、自分はオメガだから将来は大好きな亮太と番婚するのだと信じて疑わなかった。
だが、検査の結果を見て俺の世界が一変した。
まさか自分もアルファだとは……。
二人で交わした番婚の約束など、とっくに破綻しているというのに亮太を手放せない颯人。
オメガじゃなかったから、颯人は自分を必要としていないのだ、と荒れる亮太。
オメガバース/アルファ同士の恋愛。
CP:相手の前でだけヒーローになるクズアルファ ✕ 甘ったれアルファ
※颯人視点は2024/1/30 21:00完結、亮太視点は1/31 21:00完結です。
※話の都合上、途中女性やオメガ男性を貶めるような発言が出てきます(特に亮太視点)。地雷がある方、苦手な方は自衛してください。
※表紙画像は、亮太をイメージして作成したAI画像です。
嫌われ者の僕はひっそりと暮らしたい
りまり
BL
僕のいる世界は男性でも妊娠することのできる世界で、僕の婚約者は公爵家の嫡男です。
この世界は魔法の使えるファンタジーのようなところでもちろん魔物もいれば妖精や精霊もいるんだ。
僕の婚約者はそれはそれは見目麗しい青年、それだけじゃなくすごく頭も良いし剣術に魔法になんでもそつなくこなせる凄い人でだからと言って平民を見下すことなくわからないところは教えてあげられる優しさを持っている。
本当に僕にはもったいない人なんだ。
どんなに努力しても成果が伴わない僕に呆れてしまったのか、最近は平民の中でも特に優秀な人と一緒にいる所を見るようになって、周りからもお似合いの夫婦だと言われるようになっていった。その一方で僕の評価はかなり厳しく彼が可哀そうだと言う声が聞こえてくるようにもなった。
彼から言われたわけでもないが、あの二人を見ていれば恋愛関係にあるのぐらいわかる。彼に迷惑をかけたくないので、卒業したら結婚する予定だったけど両親に今の状況を話て婚約を白紙にしてもらえるように頼んだ。
答えは聞かなくてもわかる婚約が解消され、僕は学校を卒業したら辺境伯にいる叔父の元に旅立つことになっている。
後少しだけあなたを……あなたの姿を目に焼き付けて辺境伯領に行きたい。
婚約者は愛を見つけたらしいので、不要になった僕は君にあげる
カシナシ
BL
「アシリス、すまない。婚約を解消してくれ」
そう告げられて、僕は固まった。5歳から13年もの間、婚約者であるキール殿下に尽くしてきた努力は一体何だったのか?
殿下の隣には、可愛らしいオメガの男爵令息がいて……。
サクッとエロ&軽めざまぁ。
全10話+番外編(別視点)数話
本編約二万文字、完結しました。
※HOTランキング最高位6位、頂きました。たくさんの閲覧、ありがとうございます!
※本作の数年後のココルとキールを描いた、
『訳ありオメガは罪の証を愛している』
も公開始めました。読む際は注意書きを良く読んで下さると幸いです!
王と正妃~アルファの夫に恋がしてみたいと言われたので、初恋をやり直してみることにした~
仁茂田もに
BL
「恋がしてみたいんだが」
アルファの夫から突然そう告げられたオメガのアレクシスはただひたすら困惑していた。
政略結婚して三十年近く――夫夫として関係を持って二十年以上が経つ。
その間、自分たちは国王と正妃として正しく義務を果たしてきた。
しかし、そこに必要以上の感情は含まれなかったはずだ。
何も期待せず、ただ妃としての役割を全うしようと思っていたアレクシスだったが、国王エドワードはその発言以来急激に距離を詰めてきて――。
一度、決定的にすれ違ってしまったふたりが二十年以上経って初恋をやり直そうとする話です。
昔若気の至りでやらかした王様×王様の昔のやらかしを別に怒ってない正妃(男)
βのくせに巣作りしてみたら
ぽぽ
BL
αの婚約者がいるβの瑛太。Ωでないことを気にしているが、婚約者は毎日愛を囁いてくれるため満足していた。
しかし、ある日ふと婚約者が「巣作りって可愛いよね」と話しているのを聞き、巣作りをしてみた。けれども結局恥ずかしくなり婚約者が来る前に片付けようとしたが、婚約者が帰ってきてしまった。
━━━━━━━━
執着美形α×平凡β
表紙はくま様からお借りしました。
https://www.pixiv.net/artworks/86767276
R18には☆を付けてます。
自分のことを疎んでいる年下の婚約者にやっとの思いで別れを告げたが、なんだか様子がおかしい。
槿 資紀
BL
年下×年上
横書きでのご鑑賞をおすすめします。
イニテウム王国ルーベルンゲン辺境伯、ユリウスは、幼馴染で5歳年下の婚約者である、イニテウム王国の王位継承権第一位のテオドール王子に長年想いを寄せていたが、テオドールからは冷遇されていた。
自身の故郷の危機に立ち向かうため、やむを得ず2年の別離を経たのち、すっかりテオドールとの未来を諦めるに至ったユリウスは、遂に自身の想いを断ち切り、最愛の婚約者に別れを告げる。
しかし、待っていたのは、全く想像だにしない展開で――――――。
展開に無理やり要素が含まれます。苦手な方はご注意ください。
内容のうち8割はやや過激なR-18の話です。
後天性オメガの近衛騎士は辞職したい
栄円ろく
BL
ガーテリア王国の第三王子に仕える近衛騎士のイアン・エバンズは、二年前に突如ベータからオメガに性転換した。その影響で筋力が低下したのもあり、主人であるロイ・ガーテリアに「運命の番を探して身を固めたい」と辞職を申し出た。
ロイは王族でありながら魔花と呼ばれる植物の研究にしか興味がない。ゆえに、イアンの辞職もすぐに受け入れられると思ったが、意外にもロイは猛烈に反対してきて……
「運命の番を探すために辞めるなら、俺がそれより楽しいことを教えてやる!」
その日からイアンは、なぜかロイと一緒にお茶をしたり、魔花の研究に付き合うことになり……??
植物学者でツンデレな王子様(23歳)×元ベータで現オメガの真面目な近衛騎士(24歳)のお話です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる