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11.友達として

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 この前、駅で待ち合わせをするために、北沢と個人的な連絡先を交換してしまった勇大は早くも後悔する。
 スマホをポケットに入れたまま仕事をしていると、ガンガン通知がくるのだ。

「あいつ忙しいんじゃねぇのかよ……!」

 北沢は、本当にこまめにメッセージを送ってくる。
 連絡先を交換したときは、待ち合わせに使用したあと、ほぼ何も連絡はないだろうと思っていたのに。

「オッサンのくせに心はJKか!?」

 北沢は三十二歳。ちょいちょいメッセージを送るような年じゃないだろとスマホを見ながら勇大は心の中でツッコミを入れる。

「あ! スピッツの子犬!?」

 休憩中にバックヤードで勇大がスマホを見ていたら、新店長になった空がスマホを覗き込んできた。
 そうだった。空は無類の犬好きだった。
 北沢から送られてきたのは、白い子犬が卵を抱えた雌鶏めんどりと戯れているほっこり動画。そのうちヒヨコが生まれて子犬はヒヨコと追いかけっこを始めた。
 北沢がこんな動画を見ているとは思わなかった。
 ギャップだ。ギャップがありすぎる。しかもこれをわざわざ人に送りつけてくるのなんなんだろう。
 そう思いながらも、これがまた意外と癒される。

 友達の少ない勇大は、今までスマホにかじりついたりはしていなかった。だが北沢と出会ってから頻繁にスマホを使ってやり取りをするようになり、気がついたら勇大はスマホをチラチラ気にするようになった。

 ピロン。
 ほらまた、北沢からメッセージが飛んできた。

社長【今日もウチに来るか? 給湯器まだ直ってないだろ?】

 というポップアップ表示がスマホ上部に出る。

「エッ! 社長……?」

 一緒に動画を観ていた空は、たまたま勇大のスマホのバナーを目にして声を上げた。
 勇大は内心やばいやばいと冷や汗だ。

「社長ってのは、うちの親父のこと! 家族なのに社長って呼んでんの、ハハハ……」

 すごい苦しい言い訳をして、笑って誤魔化す。

「そうなんだ……自営業?」
「えっ? あ、そうです」

 勇大の父親は根っからのサラリーマンだ。まったく自営業じゃないが、とりあえずそういうことにした。

「給湯器ってある日突然壊れるから大変だよね」
「そうなんすよね」

 勇大は、実はここのところ毎日、仕事終わりに社長のマンションに通っている。今日で四日目。ガチで風呂だけ借りに行っているのだ。
 社長の北沢はしょっちゅう店舗に来て勇大を連れ出すから、別に空に話してもいいかなとも思う。でも、なんとなく北沢のマンションにまで出入りしていることは、秘密にしたほうがいい気がした。
 動画を見終わったあと、勇大は北沢に返信する。

『今日も行く。悪いけどシャワー貸して』

 すると北沢から即レスが返ってきた。

『わかった。俺は今日これから一日家にいるからいつでも来い』

 勇大は『はーい』スタンプを送る。
 勇大の返信は軽い。すっかり北沢とは友達感覚だ。
 勇大は敬語はあまり好きではないし、年齢差関係なしに、親しくなると言葉を崩したくなるのだ。
 それでも北沢は怒ることもないし、勇大も慣れたもの。北沢を社長扱いはしなかった。




 勇大は仕事終わりに北沢のマンションへ向かう。目的はもちろんタダ風呂だ。本当に風呂を借りているだけ。北沢はいつだって忙しそうだから。

 今日は途中のコンビニで差し入れを買った。缶ビールとチータラとカルパス。全部勇大の好きなもので、北沢が好きかどうかは知らない。要らないと言われたら持って帰ればいいと思って買った。

 北沢の住むマンションは新宿区にある。勇大の勤務地から歩いていける距離だ。
 雑多な雑居ビル街を抜けていくと、急に異質なエリアに出くわすのだ。北沢のマンションがあるエリアだけが、世界と切り離された場所のように広々としていて、計算された街路樹や遊歩道が整備されている。
 緑の小径を抜けた先に、高級レジデンスが現れる。オートロックを抜けた先、その中の右端にあるのが北沢の住むマンション棟だ。
 インターフォンを鳴らすと「開いてるから入れ」と言われた。勇大は雑にドアを開け、中に入る。

 天井高の北沢のマンションは、床と天井が温かみのある無垢な木材。空間が広いせいか、廊下も部屋もモデルルームみたいに生活感がない。どこに物をしまっているのかと思うくらいに理路整然としていて、物が溢れてぐっちゃんぐっちゃんな勇大のアパートとまるで真逆だ。

「よぉ! 社長、これ差し入れ」

 声をかけてから慌てて後悔する。北沢はオンライン会議中だったようで、勇大は自分の声が会議の場に聞こえてしまったのではないかと焦る。
 だが当の北沢は気にもかけていないようで、勇大に「ありがとう」の意で頷いてみせた。
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