攻められない攻めと、受けたい受けの話

雨宮里玖

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2.早く終わってくれ

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 息詰まるランチが終わり、やっとこの二人から解放されて、自由になれると思ったのに、店を出てすぐ智江に腕を引っ張られ、耳うちされる。

「ねぇ、高月って今、彼女いるの? インスタ見てる限りはいないっぽいんだけど……」

 ああそうか。智江は唯香の味方だ。今の高月に関することについて宮咲に探りを入れてきたのだろう。

「んー。彼女はいないんじゃないかな、俺もよく知らないけど」

 一瞬なんと言えばいいのか戸惑ったが、彼女がいると言えば「どこの誰?」となってしまうし、まさかのここで「俺は高月の恋人」宣言は絶対にできない。

「ほんとに?! 唯香喜ぶなぁ。ね、ちなみに宮咲君は?」
「え、俺?!」
「うん。宮咲君、優しいから彼女さんに尽くしちゃうタイプ?」

 ちょっと待てと思考が真っ白になる。宮咲は男子校出身でそのまま理系大に進学したため、女子に対する免疫力がまるでない。

「あ、か、彼女いたことないからわからないな……」

 まぁ、高月になら尽くしてしまうかもしれないが。

「えー、可愛い!」

 ヤバいぞ。何が可愛いのか意味がわからない。

 なんだかはしゃいでいる智江との会話もそこそこに、再び高月達の会話に加わった。

「ねぇ高月っ。そういえば私、去年からボード始めたんだよ。今度一緒にスノーボードやろうよっ!」

 唯香はずっとテンションが高い。疲れる女だ。

「あー、予定合えば。俺最近忙しくてさ」
「うちら、今日はウェアとか板とか買いに来たんだよ。高月詳しいよね? 一緒に来て色々教えてよっ、お願い!」

 え……? 唯香はまだ高月から離れる気がないのか?! しつこいな。

「店員に聞けよ」
「だって、騙されそうだもん。お店の人の売りたいやつ買わされちゃうよ。高月っ、助けて! 友達でしょ?」


 高月が宮咲を見た。それを宮咲は「行ってもいいか」の許可がほしいという視線だととらえた。

「高月。買い物、付き合ってやれば」

 宮咲は高月を信じている。だからこそ、高月には宮咲に遠慮なしに友人付き合いをしてくれても構わないと思っている。

「わかった。宮咲がそう言うなら。決まったならさっさと行くぞっ」

 高月は宣言通りにひとり足早に歩いていく。高月の後をついて行こうとしたその時に、唯香は宮咲に近づいてきた。

「ねぇ、あんたと一緒にいるせいで、高月まで暗くなっちゃうよ。昔の高月はもっと元気でいつも笑ってて、クラスの中心って感じだったんだけど」

 高校時代の高月がどんなだったかは、宮咲は知らない。まだ知り合っていなかったから。

「気づいてる? あんた高月に相応しくないよ。私だったら高月をもっと楽しくしてあげるのになぁ」

 正直ムカつくが、宮咲には反撃の言葉はない。

 今日だって、せっかく高月と二人きりでいたのに沈黙ばかりだった。宮咲の頭の中は「高月となんか話さなくちゃ、話題話題話題」とそればかり。そしてやっと思いついた会話の内容もはっきりいってつまらないものだった。

 高月はなんで宮咲と一緒にいてくれるのだろう。今頃、宮咲に告白したことを後悔しているのかもしれない。

「高月ーっ! 待ってーっ!」

 唯香は高月のもとへと走っていき、高月の腕に飛びついた。そこから唯香はキャッキャと楽しそうだ。

 はぁ。辛い……。
 早く終わってくれ……。


 ◆◆◆


「もしかしてダブルデートですか? 彼氏さん、かっこいいっスね!」
「ヤダ! 友達です!」

 超絶笑顔で答える唯香。

「あー、そうなんスか? でも二人お似合いですよ」

 おい、店員! 高月は俺の彼氏なんですけど。

 スポーツ用品店の店員は、高月と唯香をすっかりカップルだと勘違いしたようだ。それを聞いてやたら嬉しそうな唯香に腹が立つ。

「私たちお似合いだって。高月どうしよう!」

 また高月の腕に唯香がくっついた。

「やめろって。ほら、早く買い物しろよ」
「はーいっ」

 唯香は凄い。男に甘えるのが上手い。

 宮咲だってせっかく高月と恋人になれたのだから、イチャコラ買い物デートをしてみたいと思うが、男の宮咲が買い物中に高月の腕に飛びついたり、手繋ぎデートをする日は一生訪れないのだろう。

 なんとか女子二人の買い物が終わり、「インスタ用に写真撮りたい」とスノーボードを持った試着ウェア姿の二人の撮影をし、やっと店から出ることができた。



「次、私ロフトに行きたいんだけど」

 スポーツ用品店を出てすぐに唯香は高月にねだるように言う。

 まだこいつらと一緒なのか?!
 もう帰りたい……。

 なんか悲しくなってきた。
 高月が傷つかないよう上手い嘘をついて、この場からいなくなりたい。あとは同窓の三人で楽しく過ごしてくれればいいじゃないかと思う。

 落ち込んで下を向いていたら、唯香が「あんた帰れば? さっきから黙ってついてくるだけで陰みたい」と蔑んだ目で見てきた。

 もうこいつ、嫌だ……。



「いい加減にしろ!!」

 と高月の突然の怒号。
 びっくりして思わずハッと顔を上げた。

「唯香、お前が帰れ! さっきからずっとウザいのはお前だよ!」

 高月に睨まれ、唯香の笑顔がサーっと消えた。信じられないといった表情で高月を見ている。

「これ以上邪魔するのはやめてくれ。俺は宮咲と二人でメシ食ったり買い物したりしたいんだよ!」
「え……でも私と昔の話するの楽しいでしょ?」
「それやりたいの今じゃない。同窓会でやることだろ。空気読めよ。宮咲だってわざわざ今日俺の地元まで来てくれたんだ。これ以上こいつとの時間を無駄にしたくねぇ」
「待って! せっかく高月に会えたのに……。ね、ねぇ、次はいつ会える?」

 唯香はかなり焦っている。まさか高月に拒絶されるとは思いもよらなかったのだろう。

「ごめん、俺、友達やめたいくらいに唯香にムカついてるから」
「嘘でしょ?! なんで?!」
「わかんねぇの? お前は酷いこと言って宮咲を散々傷つけた。俺、宮咲を傷つける奴は絶対許せねぇ」
「なにそれ……」
「よくそんな真似ができるよな。これ以上お前と話してるとイライラするから俺らもう行くわ。宮咲っ、行こうぜっ」

 高月は宮咲の服を引っ張り、歩いていく。
 高月は唯香の方など振り返らない。



「ごめんな。本当にごめん。お前に嫌な思いをさせた。俺が最初から断ればよかったんだよな……」

 高月は宮咲の服の袖を悔しそうにギュッと掴んでいる。

「俺は大丈夫だよ。高月は悪くないし」

 唯香にはムカついたが、こうして高月と無事にまた二人きりになれたのだから、もういいのにと思う。

「俺、お前に告白した時に『お前を幸せにする』とか言ったのに、早速できてねぇじゃん。マジでかっこ悪……」
「そんなことないよ。俺、高月と一緒にいるだけで幸せだから……」

 何もなくてもいい。高月の傍にいられるだけでいい。

 それに高月はきっぱりと唯香を拒絶してくれた。唯香よりも宮咲を選んでくれた。そんな高月の態度が嬉しかった。

 やっぱり高月は最高の恋人だ。
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